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修羅場、修羅場。あちこちで修羅場。

 乗船した後、船長や航海長らのスタッフ達と打ち合わせをしていたリリスは、今やっと着替えを終えてプールにやって来た。

 そこでは、プールサイドに正座をし、舞姫からお説教を受けている、プリ様、昴、操の姿があった。


「まいきおねえちゃん……、おれを きらわないで……。」


 暫く説教をしていたら、操が目をウルウルとさせて呟いたので、舞姫の舌鋒も幾分怯んだ。


「そうなの。みさおを きらわないで ほしいの。」

「そ、そうですよ、舞姫さん。罪を憎んで人を憎まずです。」


 尻馬に乗ったプリ様と昴の頭頂部に、舞姫は両方の拳をグリグリと押し付けた。


「あんたらが言うな。本当に反省しているの?」

「し、してゆの。はんせい してまちゅの。」

「私もですぅ。もう二度とプリ様をたきつけたりしません。」


 プリ様と昴も涙目で謝った。


「よし。なら、許して上げる。操ちゃんも、嫌ったりしないから、プリちゃんと遊んでおいで。」


 舞姫にキュッと抱き締められると、再び操の目に生気が宿った。


「ようし、ぷり! ばれー するぞ。」

「おまえが しきるな なの。」


 操がボールを持って駆け出し、プリ様が後を追い、そのプリ様に昴もついて行った。


「あらあら、お母さん役も大変ね。」

「リリスさん!」


 後ろから、いきなり声をかけられて、舞姫は心臓が飛び上がりそうな程驚いた。

 更に、振り向いて目に入ったリリスの水着姿の妖艶さに、その心臓が弾け飛ぶかと思うくらい鼓動が早まった。


 どちらかと言うとおとなし目なデザインの競泳用水着なのだが、クッキリと浮き出た身体の線に、スラリと伸びた剥き出しの足だけで、衆目を集めるには充分だった。


「どうしたの?」


 惚けた様に自分を見つめる舞姫を、リリスは訝しんだ。


「ご、ごめんなさい。あんまりリリスさんが綺麗だから……。」

「まあ、ありがとう。舞姫ちゃんに言われると素直に嬉しいわ。」

「えっ、他にも誰かに言われたんですか?」

「ええっ……、ちょっとね……。」


 実はミーティングの時も大変だったのだ。男女問わずスタッフ達が自分に群がって来て、我先にと話したがり、厚かましい奴だと手を握ってこようとしたりして、あしらうのに一苦労だった。


『何か最近変だわ。』


 昴ちゃんでもあるまいし。と、リリスは考えていた。


『どうも、雲隠島から帰った辺りからなのよね……。』


 やたらと人が寄って来るのだ。それも日に日にエスカレートして来ている気がする。


「でも、リリスさん前にも増して綺麗になりましたね。吃驚です。」


 舞姫の言葉を聞いて『私が美しくなり過ぎてしまったのかしら?』と、リリスは溜息を吐いた。

 その仕草さえ好ましくて、もう舞姫は辛抱堪らん状態だった。


「リ、リリスさん……、私……。」

「ど、どうしたの? 舞姫ちゃん……。」

「舞姫ちゃんは止めて。舞姫って呼び捨てて下さい。ああっ、リリスさん……。」


 無茶苦茶にして。とは、さすがに言えず、熱い思いに顔を火照らせながら、リリスに縋り付く舞姫。リリスは訳がわからないながらも、そっと彼女を抱いて上げた。


「はいはい。何やってるの。プールサイドで不純な行為はダメよ。」


 そんな二人を、突然現れた渚ちゃんが引き離した。


『良いところだったのに。何なの? この女。』


 舞姫は少しムッとした表情で渚ちゃんを見た。


 その渚ちゃんも険しい表情で舞姫を見ていた。

 漸く姿を現したリリスに駆け寄ろうとしたら、彼女は自分には一瞥もくれず、この女に話し掛けたのだ。バスの中では独り占めにしていたリリスを、突然出現した舞姫に攫われた形になって、心中穏やかではなかった。


「リリスさん、誰ですか? この失礼な女は。」

「私はリリスの『親友』の曽我渚よ。」

「貴女には聞いてませーん。」

「生意気、歳下のクセに。アンタこそ何処の馬の骨よ。」

「私はリリスさんの空手の妹弟子で、リリスさんから猫の様に可愛がってもらっている中山舞姫です。」

「ちょっと舞姫ちゃん。その表現は……。」


 慌てるリリス。だが、二人はリリスの言葉など聞いていなかった。


「私はねえ、リリスと全裸でお風呂に入って、一緒に寝た仲なのよ。」

「ちょっと渚。全裸で一緒に寝た様な言い方は止めて。」


 渚ちゃんの発言に更に慌てるリリス。


「わ、私は……、リリスさんから下着だけになるよう促され、ベッドに寝かされました。」

「だから、その後何かしたみたいな言い方しないで。」


 舞姫に突っ込むも、二人ともヒートアップしていて全く聞いてない。互いに顔がくっつかんばかりに睨み合っていた。


「曽我さん、中山さん。いがみ合っている様な人達は、私嫌いよ。」


 突然、リリスから苗字で呼ばれ、二人は泣きそうな顔で振り返った。


「リ、リリスさぁん。ごめんなさい。舞姫って呼んで下さぁい。」

「リリスぅ。もう『曽我さん』は止めてぇ。心が痛くなるのぉ。」

「はいはい。それなら、仲良くしましょうね。」


 リリスに諭され、二人は不承不承矛を収めた。


「じゃあ、リリスさん、私と泳ぎましょう。」


 さり気無く、舞姫が手を組んだ。


「何勝手言ってるのよ。リリスは私と泳ぐのよ。」


 負けじと、渚ちゃんは反対側の腕を取った。


「貴女達ねえ……。」


 二人の間に挟まれて、頭を抱えるリリスであった。




 その頃、AT THE BACK OF THE NORTH WINDでは、オク、オフィエル、ファレグが、静かにお茶を啜っていた。


「もう、おふぃえるちゃん。いつまでも むくれてないで。あれは じんもん。あのとき なっとく してくれたじゃない。」

「だって、よく かんがえたら やっぱり へんですわ。なんで べっどの なかで じんもん するのですか?」


 小柄なオフィエルが頰を膨らませていると、餌袋をいっぱいにした栗鼠を想像させた。

 オクのみならず、ファレグも「可愛いなあ。」と、その様子を眺めていた。


「おふぃえる、それは うわきだよ。おくも、もう、あやまったほうが いいよ。」


 実に爽やかにファレグが言ってのけ、いよいよオクは進退極まった。


「ご、ごめんなさい……。」

「はっ? あやまると いうことは うわきを みとめるんですのね?」

「は、はい……。」


 殊勝に頭を下げるオクを見詰めて、オフィエルはボロボロと涙を零した。


「くやしいぃぃぃ。あんな おんなに うつつを ぬかして……。」

「まが さしました。ゆるして ください。」

「だ、だいたん(抱いたん)でしょ。あの おんなを。」

「それは ちがうわ。そこまでは いってないわよ。」


 リリスが拒んだからだが、あくまで自分の意思の様に語るオク。


「うそうそ。もう、なにも しんじられ ませんわ。ぜんぶ きかせて ください。」

「うそじゃないのよ。かっちゅう(甲冑)を ぬがせて あそんだだけで、ゆびいっぽん りりすちゃんには ふれてないわ。」


 楽しかったあ。女騎士陵辱ごっこ。また、やりたいな。

 言葉とは裏腹に、オクは再度のチャンスを狙っていた。


「いま『また やりたい。』とか おもった でしょ。」

「おおお、おもってない。おもってない。」

「うそばっかり。あの おんな との ひめごとを おもいだして いたのでしょう? いいなさいよ。どんなふうに あの おんなを だいたのか。」

「お、おふぃえるちゃん。それは ようじょの せりふ じゃないわ。」


 二人の会話を聞きながら、とんだ修羅場に巻き込まれたなあ、とファレグは思っていた。


「いいかげんに ゆるして あげなよ、おふぃえる。おくも にどと やらないと ちかいな。」

「に、にどと やりません。」


 今度はバレない様にやろう、とオクは思っていた。実は、リリスに言う事をきかせる仕込みは、すでに済ませているのだ。

 危うし、リリス。


「いま『こんどは ばれない ように やろう。』と おもって いたでしょ。」

「おおお、おもってません。おもってません。」

「…………。」


 ファレグが溜息を吐いた。

 修羅場は暫く続きそうであった。




「そういえば、捕まった時の夜、リリスさんがオクちゃんに陵辱された、とか聞いたんですけど……。」


 船上のプールに並んで浮かんでいたら、舞姫がポツンと呟いた。

 いきなりの質問にリリスは沈みそうになった。


「さ、されてないから。」

「本当ですか?」


 不安そうに聞いてくる舞姫。


「ほ、本当よ。私が嘘を吐いた事があったかしら?」


 嘘を吐いた事があった? そう聞いてくる人間は、大抵嘘吐きである。


 それでも、舞姫はまんまと騙されて、安心した表情を見せた。


 嘘吐きで良かった。

 と、リリスは胸を撫で下ろした。






うわーい。すごーい。たーのしー。

最近、毎日が楽しいです。あんなに嫌だったお仕事も「うわーい。たーのしー。」と言っている間に終わってしまいます。


嫌いだった人も「君は嫌味を言うのが得意なフレンズなんだね。」などと思っていれば、そんなに腹も立ちません。


疲れ果てて満員電車にすし詰めにされても「すごーい。たーのしー。」と呟いているうちに、お家に帰り着いてしまいます。


あははははは、たーのしー。人生たーのしー。

何か、脳が溶けて来ている気もするけど……、気にしなーい。

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