高確率で、あれはヅラだと睨んでいた。
対プリ用強化スーツは「えっ、何処にしまってあったの?」と質問したくなる、翼長十メートルにも及ぶ翼を広げ、大空に舞い上がった。
恐ろしい事に、この強化スーツは、羽ばたいて飛ぶのだ。
リニアモーターによる走行ユニット、翼による飛行ユニット、これらは「賢者の石」によって作り出し、使い捨てにする事で装備可能となっている。
オフィエルの技術者としての卓越した発想が為せる技であった。
「こうぎょうせいひん みたいな ふくざつな ものを、よく『けんじゃのいし』で、つくり だせるわね。」
操縦席に居るオフィエルの耳に装着されたレシーバーから、オクの声が響いた。
「せいたいのうこんぴゅーた による せいぎょで、ふたつまでは こうぎょうせいひんを つくれるように しているんですのよ。」
生体脳コンピュータ? オクの背筋を冷たい物が流れた。そういえば、可愛いがっている魔界野良猫、ピッケちゃんの姿を、ここ二、三日見ていない。
「あのぉ、まさか、もしかして、その せいたいのうって……。」
「そうですわ。ぴっけちゃんを いきたまま ぶひんと しているのですわ。」
「やめてぇぇぇ! いくら なんでも ざんこく すぎるわ。」
「だいじょうぶです。ぴっけちゃんは ねむらせたうえ、ふわふわの もうふに くるんで、てんてきで えいようを あたえてます。かいてき そのものです。」
違うわ。違うでしょ、オフィエルちゃん。生物はただ生きていれば良いのではないわ。自由な意思とか、生命の尊厳とか……。
オクは自分の事を棚に上げて、心の中でオフィエルに訴えていた。
「ところで おくさま。れーざーほうの ためしうちを したいの ですが……。」
「いや、やめて。もう、くちを ひらかないでぇ。」
「ちょうど ましたにある、おちんおちんまるだしの へんな ちょうこくを……。」
「ひぃぃぃ。それは あかでみあびじゅつかん から、ひそかに だみーと いれかえて もってきた、みけらんじぇろの だびでぞうよぉぉぉ。」
オクの叫びと同時くらいに、強化スーツの左肩に付いているレーザー砲が光を放った。
その瞬間、それまで二人の遣り取りを笑いながら聞いていたファレグが、ダッシュでダビデ像に駆け寄り、右手を空に翳した。
やべえ、ファレグ殺っちまった?
焦ったオフィエルが、慌ててレーザー照射を止めると、そこには涼しい顔で立っているファレグがいた。
ホッとした後、段々腹が立って来たオフィエルは、着陸すると、スーツから飛び出て、ファレグに抗議した。
「じゃますんな、ですわ。ふぁれぐ!」
「これいじょうは かわいそうだよ。おくが ないてるよ。」
「いいのですわ。おくさまは わたしを さしおいて、ほかの おんなと べっどで いちゃいちゃ してたのですから。」
あっー。クラウドフォートレスで、リリスちゃんと浮気していたのを忘れてなかったのね……。
上手く誤魔化したつもりだったオクは、誤魔化し方が足りなかったか、と反省した。
「……? ほかの おんなと いちゃいちゃ? さっするところ、おふぃえるは やきもちを やいてるのかい? あれえ? きみたち そんな かんけい だったっけ?」
「こ、こいは とつぜん はじまるのよ、ふぁれぐちゃん。」
「そう? おふぃえるの しゃべりかたも なんだか まえと ちがうし……。おくぅ、きみ なにか したんじゃないの?」
「こ、こいは おんなのこを かえるのよ。おほ、おほほほほほ。」
不審な目で自分を見るファレグと、膨れっ面のオフィエルを「さあ、さあ、おちゃに しましょ。」と、半ば強引に、オクは自分の城に連れ帰った。
プリ様達を乗せたバスは、横浜の大桟橋の辺りで止まった。
「此処って、外国船の発着所でしょ? 東京湾内のクルーズじゃないの?」
目を丸くする渚ちゃんに、プリ様が自慢気に胸を張った。
「ごさんけごうどうの はなびかんしょう なの。えらいひとも くるの。おおきくないと だめなの。」
偉い人……。町内会長さんでも来るのかしら? それとも、もっと偉くて、市長さんとか……?
目で疑問を投げ掛けると、リリスがちょっと微笑んだ。
「首相とか、大臣とか……。あとは、各国の大使とかかな。」
それを聞いた和臣兄妹、紅葉、宮路さん、尚子の、庶民グループの頰が引き攣った。
「そそそ、そんな集まりに御呼ばれして、よよよ、良かったのかしら?」
「まま、どうしたの? おもしろい しゃべりかたに なってるよ。」
母親の動揺など理解出来ない晶が、無邪気に笑った。
「あらあら。そんな偉い人達は夜にしか来ないから、安心して。」
「そうなの。それに しゅしょうさん やさしいの。おかし くれゆの。」
「おかし!」
プリ様の言葉に、晶が反応した。
「あきらも もらえるかな?」
「もらえゆの。ぷり、まえも もらったの。」
「じゃあ、もらえたら、おまじない してあげようよ。かみのけ はえる おまじない。」
現首相、阿倍野伸次郎さんはフサフサの髪の毛だが、尚子は高確率で、あれはヅラだと睨んでいた。そしてそれを常々、娘である晶にも語っていた。「あれはヅラだよ。」と。
「もう、かつら いらないね。そう、いってあげよう。」
「止めて。絶対に止めて、晶。」
下手をしたら、親娘共々、戸籍ごと抹消されてしまう。国家権力の恐ろしさに、尚子は慄いた。
「あらあら。大丈夫よ、尚子さん。政治家の人達って、フサフサの人が多いでしょ? オジ様達、ほとんど皆、カツラですから。」
止めてー。そんなトップシークレットを私の耳に入れないでぇ。
サラッと言うリリスに、尚子は耳を塞いだ。
「リリスさぁーん。」
その時、大桟橋の方に近付いて来る少女が、リリスに向かって手を振った。もう片方の手で、プリ様や晶より、一回りくらい大きな幼女の手を引いていた。
「舞姫ちゃん。いらっしゃい。」
「お家の花火鑑賞会なんですよね? 私達も参加させてもらっちゃって良いんですか?」
「良いのよ。舞姫ちゃんの他にも、いっぱいご招待してるんだから。」
舞姫はリリスの後ろに居る皆の顔を見た。見て、ちょっとガッカリした表情になった。渚ちゃんはその表情の変化を見逃してはなかった。
「な、なあんだ。てっきり、リリスさんのご家族の集まりに呼ばれたのかと……。その……、紹介とか……。」
「えっ? なあに?」
「い、いや。何でもないんです。これ、つまらない物ですが。」
御呼ばれのお礼に菓子折りを差し出した。
「ほら、操ちゃん。挨拶は? 花火鑑賞会に招待してくれたリリスさんだよ。」
舞姫は自分が連れて来た幼女、操に挨拶を促した。
「よろしく!」
「あらあら。随分、簡潔かつ、元気の良い挨拶ね。」
リリスは、自分を見上げて来る操に、微笑みかけた。
「べと……、みしゃおー。」
そこにプリ様達も歩み寄って来た。
「だれだ、おまえ。」
操はプリ様を睨み付けた。言外に馴れ馴れしいぞ、と言っていた。
「操ちゃんのお見舞いに『ノンプリ』のディスクをくれた子よ。」
舞姫にそう言われて、操の口元がちょっと緩んだ。
「おまえも『のんぷり』すきなのか?」
「ううん。ちがうの。ぷりは『そうりょ』が すきなの。」
「プ、プリちゃん?!」
挑発している。
舞姫はそう思った。
案の定、操は怪訝な顔になった。
「しちょうりつ さいていの『そうりょ』が すき?」
「おもちゃの うりあげは れきだいさんい なの。」
操は見下ろし、プリ様は下から睨め付けた。
「おまえとは、きが あいそうに ないな。」
「どうかんなの。ぷりも そう おもったの。」
一触即発。「ふふふ。」「ははは。」と、睨み合う二人の間に火花が散った。
「しょうぶだ! ぷり!!」
「のぞむところなの!」
バッと身構えた操の頭を、舞姫が軽く叩いた。
「はいはい。だめよ、操ちゃん。格闘技を喧嘩に使っちゃ。」
それからプリ様の頭も同様に叩いた。
「プリちゃんも。私は他所の子だって、悪さをする子は容赦しないから。どうして仲良く出来ないの、貴女達は。」
互いに頭を叩かれて、半泣きで舞姫を見上げるプリ様と操。その後は強制的に握手までさせられた。
それを見ていた昴は『舞姫さん、強い。』と、尊敬の眼差しになっていた。
今回、作中で日本政治の闇の部分に触れてしまいました。
消されるかもしれません。生きていた痕跡すら残さぬよう、完全に抹消されてしまうかもしれません。
この小説が突然更新されなくなる。もしくは、私のアカウントが無くなってしまう。
そういう事態になったら、真っ先に政府の関与を疑って下さい。
では、また次回……。おや、誰か来たみたい……。