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いそふらふーらぼんぼん

 待ちに待った花火大会の日がやって来た。

 例によって芝公園で待ち合わせだが、今日は大人数だった。プリ様、昴コンビに、曽我兄妹&紅葉。それに笠間親子と、宮路さんがプラスされていた。


「ぷりちゃん、おまじない。」

「おまじないー。」


 プリ様と晶は、二人で何やらコショコショやっていた。


「あの子達、何してんの?」

「何か、二人の間でお呪いが流行っているらしくて……。」


 紅葉の質問に、昴が微笑みながら答えた。お呪いを言い合っているプリ様を、トロける様な視線で見ている。


「お呪いか……。」


 一度は通る道だな、と紅葉は遠い目をしていた。


 一方、曽我兄妹と宮路さんの間には、緊迫した空気が漂っていた。和臣と宮路さんが良い雰囲気を作ろうとすると、必ず妹の渚ちゃんが介入して来て、ぶち壊しにするのだ。

 しまいには、兄の腕にピッタリくっ付いて、離れなくなった。


『此奴、どういうつもりだ。』


 和臣の苛立ちは半端なかった。

 宮路さんはというと、元々大人しい性質なので、敵意を剥き出しにしている渚ちゃんの態度にオロオロしていた。


「い、妹さんも私達と同じ学校なんだ?」

「そうそう、今年から中等部に……。」

「私『妹さん』って名前じゃないんですけどぉ……。」


 何だ、この憎たらしい生き物は。

 和臣は、生まれて初めて、自分の妹に殺意を覚えていた。


「あ、あれ、ほっといて良いんですか?」


 和臣達の様子を見ていた昴は紅葉に言った。


「くっくっくっ。渚ちゃんがああいう行動に出るのは計算通りよ。ちょっと事前に吹き込んでおいたの。和臣にちょっかいを出している泥棒猫がいるって……。」


 恐るべし紅葉。自分は手を汚さずに、和臣と宮路さんの邪魔をしているのだ。


『紅葉さんって、悪知恵だけは働くんだなあ。』


 と、昴は妙なところで感心していた。


「ところで、何で朝から集合なの?」


 紅葉が昴に聞いた。花火は夜からの筈だ。


「リリス様の作ったシオリ、読んでないんですか? 始まるまで、東京湾内をクルーズするって書いてましたよ。プールや、スパなどが色々あって、一日中好きに楽しんでくれって。」


 それで持ち物の中に水着とかあったのか……。

 紅葉は面倒臭がって、集合場所と持って来る物しか確認してなかった。


「もみじ、もみじ〜。」


 そこに、プリ様と晶が、はしゃぎながら、やって来た。そして、二人で紅葉の胸に向かって両手をかざし、奇妙な呪文を唱えた。


「いそふらふーらぼんぼん。いそいそふーらぼんぼぼーん。おおきく、おおきく、おおきく なあれ。」


 それを聞いた晶の母、尚子に「こぉら。」と窘められた二人は「きゃー。」と歓声を上げて、逃げて行った。


「尚子さん。今のは何?」


 紅葉が尋ねると、彼女は苦笑しながら答えた。


「昨日、晶に教えて上げたお呪いなの。その……、貧乳の子の胸を大きくする……。」


 尚子の返事を聞くや否や、紅葉は猛ダッシュで二人を追いかけた。


「かずおみ〜。たすけてなのぉ。」


 プリ様と晶は、和臣の後ろに隠れた。


「和臣、その悪い子ちゃん達を渡して。」


 宮路さんがいるので、若干猫を被り気味の紅葉。


「わたしたち、わるいこ じゃないよ。」

「そうなの。しんせつなの。」


 ねえ、と顔を見合わせて二人は笑った。

 あくまで二人を捕まえようとしている紅葉を、和臣が止めていると、今度は宮路さんと渚ちゃんに向かって「いそふらふーらぼんぼん……。」と呪文を唱え始めた。


「ほら、貴女達も貧乳扱いされてるわよ。」

「何ですって?! プリちゃーん。」

「えっ? えっ? えっ?」


 紅葉の指摘に、渚ちゃんは頰を膨らませ、宮路さんは狼狽えていた。


 待ち合わせ場所が、幼女二人に引っ掻き回され、混乱の坩堝と化していると、クラクションを鳴らして、大型の観光バスが近付いて来た。


「お待たせ、皆さん。あまり止めていられないので、すぐに乗って下さーい。」


 旗を持って、ガイドさんの制服を来たリリスが、皆に号令をかけた。


『またコスプレか……。はっちゃけ過ぎでしょ、あの女。』

『リリス可愛い〜。成り切っているんだ。』


 紅葉はネガティヴな、渚ちゃんはポジティブな評価をしながら、それぞれバスに乗り込んだ。


「りりすぅ〜。」


 プリ様も会えて嬉しいのか、両手を伸ばして抱き付きに行った。最近はリリスが忙しくて、ろくに話もしてないのだ。


 二人が頰ずりをし合っていると、昴が人類史上最弱の女とは思えない力で、プリ様を奪った。


「さ、さあ、プリ様。昴の膝の上に座って下さいね。」


 奪っておきながら、申し訳なさそうに、チラリと自分を見て来る昴に、リリスは「やれやれ。」と肩を竦めた。


「リリス! 一緒に座ろう!」


 渚ちゃんはリリスに会えた嬉しさで、もう彼女しか眼中に入ってない。


「お客様。添乗員席のお隣でよろしければ、どうぞ。」


 ニッコリと微笑むリリスに、渚ちゃんは悶死寸前の状態になっていた。


『可愛い〜。可愛い過ぎるわ。こんなリリスのレアな姿、クラスの誰も知らないよね。』


 自然とスマホでリリスを撮り始める渚ちゃんに「あっ、およしになって下さい。困ります、お客様。」とリリスは恥じらっていた。


「なんていうか、物凄く色気のある子ね。」


 尚子は晶を膝に乗せ、同じくプリ様を膝に乗せている昴の隣に座った。


「りりすは ぷりの いとこなの。」


 プリ様が自慢気に言った。


「そうなの。プリちゃんは従姉妹もお姉さんも綺麗だから、きっと美人になるわね。」


 自分の方を見ながら「お姉さん」という尚子に、訂正しようと、昴は口を開いた。


「違いますぅ。私はプリ様の奥さん……。」


 奥さんという言葉は、リリスがダッシュで飛んで来て、口を塞いだので、尚子には聞こえなかった。


「こ、この子は神王院家の……養女でして、まあ、お姉さんみたいなものですわ。おほほほ。」

「ちがうの。すばゆは ぷりの どれい……。」

「和臣ちゃん!」


 リリスの指示で、和臣が素早くプリ様の口を塞ぎ「奴隷」という単語は、尚子の耳には届かなかった。


「二人とも、不穏な発言は控えてね。」


 微笑みながらも凄んで来るリリスに、プリ様達は居住まいを正した。


『こわいの。りりすが こわいの〜。』

『リリス様の笑顔、恐怖ですぅ。』


 すっかり大人しくなったプリ様と、その隣にいる晶を、紅葉が不満そうに見た。


「貴女達、リリスには『イソフラフーラボンボン』って、やらないの?」

「りりすは ひつようないの。おおきいから。」

「そうよ。それに しつれい だもん。」


 私には失礼じゃないのか。っていうか、こいつ、やっぱりアラトロンね。

 紅葉は晶のホッペタを、思っ切り引っ張ってやりたい衝動に駆られた。


「まあ、良いわ。」


 理性を総動員させ、紅葉は自分の席に座った。


「おい。何で、お前は当然の様に、真ん中に座るんだ?」


 三人がけの席に、通路から、宮路さん、紅葉、和臣の順で座っていた。


「ああ、ごめんね。気がきかなくて。替わるわよ、和臣。」


 文句を言う和臣に、紅葉は大人しく応じた。


「和臣さんったら、両手に花ねえ。ねえ、宮路さん。」

「そ、そうだね、絵島さん。」


 話し掛ける紅葉に、答える宮路さん。

 その宮路さんは、先程から気になっている事があった。和臣の左腕と、紅葉の右腕に、まるでペアの様なブレスレットが嵌っているのだ。和臣は半袖、紅葉にいたってはタンクトップを着ているので、非常に目立った。


 一方、三人の前の席に座っている昴は、ついに直接対決が始まったか、と胃がキリキリ痛む思いをしていた。


「大丈夫? 昴ちゃん。何だか顔色が良くないわよ。」

「だ、大丈夫です。ちょっと緊張しているだけで……。」


 そう? と言いながら、何に緊張しているのだろうと、尚子は疑問に思った。


『でも、いつ見ても綺麗な子ねえ……。』


 隣に座る昴の顔を、感心しながら見た。

 今日の昴はいつものメイド服ではなく、白と黒のゴスロリ服を着ている。一つ間違えば、救いようもなく浮いてしまう格好だが、昴が着ると悪趣味さは色を潜め、清楚な佇まいすら感じさせるのが不思議だった。


「それじゃあ出発しまーす。ご案内は美柱庵天莉凜翠が勤めさせていただきまーす。」


 ガイドさんであるリリスが挨拶し、バスは走り出した。

 その愛らしい様に、隣に座る渚ちゃんは悶絶し、手足を痙攣させていた。




小説に出すにあたって、お呪いの事をネットで調べたのですが……。

こればっかりは、男には理解不能の、女の子だけの世界ですね。

男の脳ではお呪いの概念すら掴みきれねえ、とお手上げ状態でした。


因みに、作中のお呪いは、私が適当に考えたものです。

実践しても効果はありませんので、あらかじめ御了承下さい。

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