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プリプリキューティの生き字引

 雲隠島の宿泊施設内にある大浴場は、贅沢にも温泉なのだ。御三家が、その有り余る資産にものを言わせ、ほとんど訪れる者もいない絶海の孤島に、温泉を湧き立たせていた。


「あ〜、女湯に入りてぇ〜。」


 湯船に浸かる乱橋が、本当に心からの願望を口にしていた。


「そう思わね? 和臣君。」

「いや、俺は別に……。」


 そう言った和臣の頭をヘッドロックし、思いっ切りお湯に浸けた。


「嘘付け、この野郎。あの壁の向こうにはよ、桃源郷があるんだぜ?!」

「何すんだ。止めろ。」


 和臣が抵抗すると、乱橋は腕を解いた。


「で? 和臣君は誰の裸が見てえのよ?」


 興味ないって言ってるだろ。


「俺あなぁ……。まあ、お嬢は論外だし……。」


 何か語り始めたよ……。というか、六連星は論外なのか。

 スタイルだけなら、そんなに悪くないのにな……。と和臣は思った。


「君の彼女もな……、もうちっと色気が欲しいっつうか……。」


 余計なお世話だ。彼女じゃないし。


「やっぱ、リリスちゃんだな。滅茶滅茶色っぽいぜ、あの子。」

「はあ? 六連星や紅葉を置いといてリリスかよ? あんた、ロリコンか?」


 無視を決め込むつもりだったのに、思わず反論してしまう和臣。


「おいおい、あのメンツでって話だぞ。よく考えてみろよ。」


 何で考えなきゃいけないんだよ、と思いつつ、昨日のリリスの拘束具を纏った姿が浮かんで来て……。


「おま、鼻血出てんぞ。興奮し過ぎだろ。」

「いや、これは違う。」

「どっちがロリコンだよ。変態! 変態!」

「ガキか、お前は。」


 和臣は、囃し立てる乱橋を怒鳴ったが、鼻血を垂らしながらでは、いまいち説得力に欠けるのであった。




「うるさいわね、隣は。」


 六連星と隣合って身体を洗っていた紅葉が呟いた。


「…………。」

「ちょっと、返事くらいしなさいよ。」

「おっーほほほ。庶民ときく口なんてないのよ。そもそも敬語を使いなさいな、愚民。」

「そう……。」


 あれ? 六連星は肩透かしをくらっていた。今迄の紅葉の態度からすると、猛反撃が始まると思っていたからだ。

 そんなやり方でしか他人(ひと)とコミュニケーションが取れない悲しい女、それが光極天六連星であった。


「友達になりたかったんだけどな……。所詮、身分が違うか……。」

「と、友達? 私と……。」


 垂涎の的である「友達」というワードをぶら下げられて、六連星は理性を失くしていた。

 しかし、紅葉の狙いは彼女の肉体なのであった。


『さすが姉妹ね。エロイーズ化した時の昴に、負けず劣らずの堪らないボディだわ。十五歳って言ってたけど、もう大人の身体よね。』


 自分の欲望を満たす為であれば、どんな猫でも被る恐ろしい女、紅葉。

 危うし、六連星。どうなる? 六連星。


 そんな欲望渦巻く二人のフィールドから離れて、プリ様と昴、リリスの三人は和やかに湯船に浸かっていた。


「できれば、あすには かえりたいの。あさっての『まじょっこ ぷりぷりきゅーてぃ』ろくがよやく してないの。」

「そうですね。次回は、いよいよ三人目のプリプリキューティが登場する、大事なお話ですもんね。」


 自身も楽しみにしているのか、昴も熱のこもった話し方だ。


「あらあら、大変。じゃあ、明日帰りましょうね。」

「でぃすくに とっておくの。こんど、りりすも いっしょに みるの。」

「カガミーちゃんが変身して、プリプリミラリンになるんですよね。とっても楽しみ。」


 カガミーちゃん? って、掌サイズの鏡の精じゃなかったかしら? 前に見せてもらったディスクではそうだったわ。

 リリスは首を捻った。


「そのこが せいちょうして にんげんに なるの。」

「そんなに急成長するの? ちょっと怖いわね。」

「怖くないですよー。すごく可愛いんです。」


 そのペースで成長したら、最終回には地球と同じくらいの大きさになるんじゃないかしら、とリリスは思ったが、二人の夢を壊しそうなので黙っていた。


 一方、紅葉は言葉巧みに六連星を籠絡しようとしていたが、彼女はプリ様達の話に耳を傾けていて、気もそぞろな様子だった。


「どうしたの? 六連星。」

「いや、その……。」


 三人目の魔女っこプリプリキューティの話をしている……。

 楽しそう、混ざりたい!!


「あんた。まさか、その歳でプリキュー見てんじゃないわよね?」

「えっ? ままま、まさかぁ。私はもう中三よ。アマリよりも歳上なんだから。」


 実は見ていた。

 初代「二人でプリプリキューティ」から、現在の「魔女っこプリプリキューティ」まで、毎年欠かさず見て来た、いわば、プリプリキューティシリーズの生き証人なのだ。


「カガミーちゃんは『テンツユタブホン』で変身するんですよね、プリ様。」

「そうなの。おもちゃ かってもらうの。やくそくしてゆの、おかあたまと。」

「あらあら。それじゃあ、ピーマン食べられるようにならないと。」

「もう、りりすは。かんけいないの。てんつゆたぶほんと ぴーまんは。」


 微笑ましいプリ様達の会話を聞きながら、六連星はイライラしていた。


『違います、お姉様。ガキの滑舌の悪さに引っ張られてます。『テンツユタブホン』ではなくて『テンテルタブホン』ですぅぅぅ。』


「それでね、みりんみらみらすてっきで たたかうの。」

「そうそう。ミリンミラミラステッキ格好良いですよねぇ。」


 あっー、もう我慢出来ない。


「一々言い間違えるな、ガキ。ミラリンミラミラステッキでしょ。お姉さ……昴ちゃんも。さっき、ちゃんと自分でプリプリミラリンって言ってたじゃない。」


 血相を変えて湯船に飛び込んで来た六連星に、昴は怯えてプリ様の後ろに隠れた。そのプリ様は、お顔を輝かせて六連星を見ていた。


「何よ、ガキ。文句あるの? あんたが言い間違えるから……。」

「むつらぼし、まじょっこ みてゆの?」


 ししし、しまった。

 六連星、痛恨のミス。つい、夢中になって……。


「六連星……、あなた……。」

「ななな、何よ。私はガキに話を合わせてやろうと思って……。」


 呆れ顔で自分を見ているリリスに、六連星は慌てて言い繕った。


「むつらぼしー、よにんめの まじょっこの うわさ しってゆ?」

「ああ、それはね、マスコットのキラルンが秋の映画限定でプリプリキラルンに変身して……。」

「くわしいの。むつらぼし、すごく くわしいの。」

「六連星……。」


 ややや、やばい。アマリの奴、完全に疑惑の目で見ているー。

 六連星の焦りは頂点に達していた。


「ねえねえ、すばゆ。むつらぼし、なんでも しってゆよ。」

「そうですねえ。お姉様、プリプリキューティお好きなんですか?」


 プリ様と昴に、尊敬の眼差しを向けられて、否定しようとした六連星は躊躇した。リリスと紅葉は探るような視線を向けている。

 どうしよう。どっちを取ろう。プリ様&昴組の尊敬か、リリス&紅葉組の軽蔑か……。


「す、好きよ……。」


 ほとんど消え入るような声で言った。


「うわぁ。むつらぼしも すきなの。うれしいの。しりーずで どれが すき?」

「うっ……。そうね、僧侶かな……。」


 それを聞いたプリ様は、嬉しさを爆発させた。


「きいた? すばゆぅ。そうりょ だって。」

「ええ。やっぱり、私と姉妹なんですねぇ。」


 久しく会ってなかった姉が、自分と同じ趣味だと知って、昴も嬉しげに顔を綻ばせていた。


 それを見た六連星は調子に乗った。


「何でも聞きなさい、ガキ。私はプリプリキューティの生き字引と言われているんだから。」

「すごい。いきじびきなの? むつらぼし。」

「そうよ。尊敬しなさい。」


 わざわざ言うまでもなく、プリ様の六連星を見る目は、尊敬の極みに達していた。


「要するに、精神年齢がプリと一緒なのね……。」


 いつの間にか湯船に浸かっていた紅葉が、リリスにボソッと言った。言われたリリスは深い溜息を吐いていた。




 その頃の男湯。


「お嬢に付き合って毎週見てんだけど、プリプリキューティ結構おもしれえんだわ。」

「はあ? それ、プリが見てるやつだろ?」


 女湯談義が終わった男達は、テレビの話に移っていた。


「いやぁ。何かな、盛り上がんだよ。ヒーローっぽくてな。宿命の対決みてぇのもあったりして。」

「というか、六連星はプリプリキューティ好きなのか?」

「あいつ、手足は伸び切っているくせに、お子ちゃまでな。だから全然そそらねえんだ。」


 いや、その前に、仕えているお嬢様を邪な目で見たらダメだろう。


「プリプリキューティのティシャツ買うのだけは、何とか阻止したけどなあ……。」


 乱橋がポツリと呟いた。

 このオッサンも苦労しているのだな、と目頭が熱くなる和臣だった。








今回から題名が変わりました。

多くの方に読んで頂けるよう、題名だけでなく、内容も充実させていきたいです。

今後とも、よろしくお願いいたします。



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