光極天のエース! 六連星登場!!
昴の特訓後、再びプリ様達はノンビリとくつろいでいたが、ヘリポートの辺りから航空機の着陸音が聞こえて来た。
「ベトールを運んだオスプレイが帰って来たのかしら?」
と、紅葉が口にしたが、プリ様と和臣は『なんか、音が違う。』と思っていた。
退屈していたのもあったので、外に出てみると、見慣れない飛行機がヘリポートにあった。
「どうやって はいってきたの?」
プリ様が当然過ぎる疑問を口にした。未だ、結界は張られたままなのだ。
「光極天の姫である私を阻む結界などないのよ。わかった? 神王院のガキ。」
ヘルメットを小脇に抱え、パイロットスーツを着た高校生くらいの少女が、コクピットから降りて来ながら言った。
そして、地面に降り立つと、フンと鼻を鳴らした。
「さあ、平民ども。跪きなさい。高貴なる血筋の私に平伏すが良いわ。」
少女は、後ろにひっくり返るのではないかというくらい、思いっ切り胸を反らした。
「プ、プリ様……、この人怖いぃ。」
臆病な昴は、少女の奇矯な行為に怯えて、プリ様の後ろに隠れた。その姿を見付けた少女は、いきなり駆け寄り「どけ、ガキ。」とプリ様を突き飛ばしてから、昴に抱き付いた。
「お姉様っー。お会いしとうございました。相変わらず、気高いお美しさ。」
「なんですか? なんですか? い、一体何なんですかー。」
抱き付かれ、頬ずりをされた昴は、完全にパニック状態になっていた。
「ちょっとアンタ。好き勝手やってんじゃないわよ。」
少女の驕慢な態度に業を煮やしていた紅葉が、彼女の肩を掴んで、昴から引き剥がした。
自由になった昴は慌ててプリ様にしがみ付いた。
「怖いですぅ。あの人怖過ぎですぅ。プリ様ぁ。」
もう全泣き状態だ。
「お、お姉様、そんなに怯えて、お可哀想に……。こら、ガキ。お姉様をお離しなさい! 泣いてるじゃないの。」
いや、しがみ付いてるのは昴だし、お前に怯えて泣いているんだし……。
突っ込んだ方が良いのだろうか? と和臣は懊悩した。
「なんか、こいつ、メチャクチャ腹立つわ。死なない程度に殺しても良いよね、和臣。」
「殺すのか、殺さないのか、どっちなんだよ。というか、俺に聞くな。」
紅葉の言葉を聞いて、少女はまたフンと鼻を鳴らした。
「脆弱な一般ピープルが、誉れ高き光極天の私を殺すですって?」
そこまで言って、堪え切れなくなったのか、腹を抱えて笑い出した。
「おっーほほほ。身の程知らずにも程があるわ。底辺で生きる惨めな愚民が? 私を殺す? 大丈夫? あなたの頭は正常に動いてますかぁ?」
こいつ……殺す!
腹を決めた紅葉の行動は早い。「我が守護神アルテミス様。我にお力をお貸し下さい。月の力を、その地表を凍土となす絶対の冷気を。ゼータドイレ・メーゲン……。」と詠唱を始めた。
「いや、待て。落ち着け紅葉。本当に殺すな。」
「くっくっく、大丈夫よ、和臣。死ぬ寸前で止めて、ヒーリングをかけるから……。」
ヒーリングをかける? なんて恐ろしい事を……。
「ああ、もう良いわ。貴方達の相手は飽きたわ。天莉凜翠の所に案内して。」
紅葉を上回る自分勝手さだ!
強敵現る。プリ様達は慄然とした。
「りりすの おともだち? おみまいに きたの?」
「友達? お見舞いですって?」
少女は近付くと、プリ様の柔らかいホッペを、両手で引っ張った。
「ふざけんな、このガキ。誰が、あのクソ生意気な美柱庵の女狐の友達なのよ。」
「きゃあああ。プ、プリ様ぁぁ。」
怖くて仕方ない筈なのに、昴は健気にも少女からプリ様を奪い返した。
「プリ様、プリ様。大丈夫ですか? ああっ、なんて酷い……。」
昴は「だいじょぶなの。」と平気な顔をしているプリ様に抱き付いて、泣き崩れた。
「だ・か・ら、ガキ! お姉様から離れろ。お姉様を泣かすな。」
駄目だ。此奴だけ別次元で生きている……。
周囲の状況や人間の心の機微を全く解せず、主観のみでものを言う少女に、和臣と紅葉は呆れ果てていた。
「私はねぇ、あの女狐を笑いに来てやったのよ。敵の捕虜になった上に、ひっくり返って寝込んでいる間抜けぶりを笑いにね。」
こいつ、こよすの。
今度はプリ様が決意していた。自分に対する非礼には鷹揚に接するプリ様だが、仲間を馬鹿にされては黙っていられない。
「ダメよ、プリちゃん。そんな碌でなしでも、私達の主家筋、光極天の馬の骨なんだから。」
パジャマにガウンを羽織ったリリスが、医務局のある管理センターの建物から出て来た。
「良い度胸というか『愚か者は天使の踏まぬ所を踏む。』というか……。和臣ちゃんと私が止めてなければ、アンタ二回死んでたわよ、六連星。」
リリス!
その姿を見て、プリ様はトテトテと駆け寄り、ヒシと抱き付いた。
「もう、いいの? いたくないの?」
「あらあら。熱烈ね、プリちゃん。嬉しいけど、昴ちゃんが嫉妬の炎を燃やしているわよ。」
「も、燃やしてないもん。」
「そう? なら、今日は一日中こうしてようかな。」
ソッと、プリ様を抱き締めるリリス。
「ダメです。ダメですぅ。そんなのプリ様の生活プランナーである私が許可しないんですぅ。」
昴が抗議すると、六連星と呼ばれた少女が怒りの声を上げた。
「こら、美柱庵! お姉様を虐めるな。」
「虐めてないわ。貴女の妹の昴ちゃんと私は、とっても仲が良いの。」
「妹……? 何言って……、お姉様でしょ。」
「ボケてるの? 六連星。妹でしょ。妹。」
リリスは六連星に近寄ると、さっき彼女がプリ様にした様に、両頬を引っ張った。
「胡蝶蘭叔母様に死ぬ程言い含められても、まだわからないの? 昴ちゃんは貴女の妹なの。どう見ても歳下でしょ。」
二人の会話を聞いていて、プリ様、和臣、紅葉は大体の事情を察した。要するに、六連星は光極天家の娘、昴の妹なのだ。
「ああ、思い出しました。六連星、私のお姉様ですね。奥様に聞いてます。小学校三年生までオネショをしていた……。」
悪意の有る伝達がされているな……。胡蝶蘭も此奴が嫌いなのか。
和臣と紅葉は頷き合った。
「ごめんなさい、お姉様。私、何だか数年前から記憶が曖昧で……。」
そう言って無邪気に微笑む昴を見て、六連星は再び泣きながら彼女を抱き締めた。
「なんですか? なんですか? 何なんですかー。」
パニクる昴。リリスは笑顔のまま、六連星の頭を叩いて、昴を奪い返した。
「ほらほら、昴ちゃんが怖がっているから。」
なんか、りりすって むつらぼしに ようしゃないの……。
幼いプリ様でも、六連星に対するリリスの態度から、彼女がどういう人であるかを感じ取っていた。
「なあ、これ、もしかしてF35じゃないのか?」
手荒い扱いに、リリスへ文句を言おうとしていた六連星は、彼女の乗って来た飛行機を見ていた和臣の台詞に、目を輝かせた。
「よくわかったわね、愚民。そうよ、私の新しい自家用ジェットよ。」
そう言った途端、またリリスから頭を叩かれた。
「いくらしたのよ? これ。」
「痛いわねぇ。ほんの三百億よ。」
三百億!!
和臣&紅葉の庶民コンビの目が飛び出した。
「いくらF35でも三百億円もする訳ないでしょ。」
「ああ、流石の私でも飛行機の操縦は出来ないでしょ? でもF35って単座しかないのよ。複座にしてくれって言ったら、コクピットブロックの設計からやり直さなくちゃいけないって言われて……。」
それを聞いたリリスは溜息を吐いて、F35を見上げた。最新のステルス性能を台無しにする、真っ赤な塗装が施されていた。
「まだ自衛隊にも配備されていない最新鋭機が、バカお嬢様の足代わりなんて……。乱橋さん、貴方がついていながら……。」
リリスは操縦席に居る若い男性に語り掛けた。
「ゴメンねー、リリスちゃん。お嬢が知らない間に向こうと交渉しててさ。俺も新型運転してみたかったから、まっ良いかー、って。」
軽い。なんだ、このホストみたいな奴は……。
「お黙り、リチャード。執事の分際で生意気よ。」
「お嬢ー。俺はリチャードじゃねえって、何回言ったらわかるのかなぁ? オツム足りないのか?」
「ななな、なんて生意気な。リチャードが嫌なら、もっとベタにセバスチャンにするわよ。それでも良いの?」
「勝手にしろよ。馬鹿には付き合いきれねぇ。」
使用人にまで馬鹿扱い。あまりの不憫さに涙が出そうになるプリ様達。
「とにかく、この件は御三家査問委員会に報告しますからね。」
「えっ、嘘でしょ。防衛費のたった0.5パーセントじゃない。ねえ、アマリちゃん。嘘だと言って。」
「報告すると言ったらします。あと、私をアマリと呼ぶな。」
ついていけない。
濃すぎるリリスと六連星の会話に、プリ様達は完全に置いて行かれていた。
皆さん、六連星を嫌わないで上げて下さい。
六連星さんは容姿端麗、頭脳明晰、黙っていれば男子憧れの高嶺の花なのです。
ただその、性格がアレで、それを隠す才覚がないというか、隠すつもりもないというか……。
リリスも当たりはきついのですが、嫌っているわけではないのです。
ただ、影響力が大きいだけに、野放しには出来ないのです。
これから、六連星さんの可愛い側面が描ければ良いなと思っています。
可愛い側面があれば、の話ですが……。




