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ひとつ もんだいが あゆの

「ぷり、うけとれ。おまえの ものだ。」


 仰向けに寝転がったまま、ベトールは右手を突き出した。


「まいきは ほめて くれるかな……。」

「ほめてくれゆの。べとーゆは つよかったの。」


 話しながら、二人は手の甲を合わせた。

 アラトロンの時と同じだ。


「ぷり……、まいきを……たのむ……。かならず たすけて……。」


 六花の一葉がプリ様の手の甲に移ると、ベトールは気を失った。


 プリ様は右の拳を握り締め、オクの方に向き直った。彼女を睨みながら、見せ付ける様に右腕を上げた。


 その瞬間、海の色が鮮やかな青に変わった。夏の正午近くの眩しい太陽光に甲板が照らされ、抜ける様な空には入道雲が湧き立っていた。世界が元に戻ったのだ。


「ところで、みなさん。はやく おにげに なったほうが よろしくてよ。あと ごふんで じばくそうちが さどうしますわ。」


 オクに甲斐甲斐しくイカロスの翼を付けてやりながら、オフィエルが言った。


「おふぃえる?」


 誰よりも小さなオフィエルは、今迄オクやベトールの陰になって、プリ様には見えてなかった。


「だれですの、あなた? その おんなと いい、おまえら ちょっと なれなれしいじゃーん。」


 言ってしまってから、オフィエルは自分の口を手で押さえた。


「あ、あれ? わたくし、いま……。」

「さ、さあ、にげるわよ、おふぃえるちゃん。あなたたちも しにたくなければ はやく おにげなさい。」


 プリちゃんやリリスちゃんに会ったせいで、洗脳が弱まって来ている。

 焦ったオクは、慌ててオフィエルの手を引いて、大空に飛び立って行った。




 リリスは最後の根性を振り絞り、気絶している舞姫を背負い、ゴールデンクラフトで地上まで降りた。

 ベトールはプリ様が連れて降り、和臣と紅葉は氷塊を伝った。


「プリ様ぁぁぁ。」


 待望のプリ様のご尊顔を拝み、昴は感無量でプリ様を抱き締めた。


「おお、よしよし、プリ様。昴と離れて心細かったでしょ? 怖かったでしょ? 泣いたんじゃありませんか?」

「ないてないの。」

「良いんです。もう、強がらなくて良いんですよ。ほーら、昴が守って上げますからね。ほーら、ほーら、プリ様……。」


 その時、昴の背後で、クラウドフォートレスが、島中に轟渡る爆音を発して、崩壊した。まだ、結界は張ってあったので、破片が落ちて来る事はなかったが、怖がりの昴のハートを粉々にするには充分だった。


「ななな、何事ですか。怖い、怖いよ〜。プリ様助けて〜。」

「ほらほら、なかないの。ぷりが ついて まちゅよ。」


 泣きながら自分にしがみ付いて来る昴の頭を「よしよし。」と、プリ様は撫でて上げていた。




「お、終わったわね。」


 力を使い果たしたリリスは、地面に手をついて、へたり込んでいた。


「守ってくれて、ありがとう。和臣ちゃん、紅葉ちゃん。」


 傍に立つ二人を見上げて言うと、紅葉は「貸し一つね。」とニッと笑い、和臣は慌てて目を逸らした。


「和臣ちゃんは、どうして目を合わせてくれないの?」

「い、いや、お前、その格好。」


 乙女の柔肌に食い込む鎖。おまけに手枷、足枷、首輪まで付いていて、確かに純情少年には直視出来ない程、扇情的に見えた。


「あらあら。和臣ちゃんには刺激が強過ぎたかしら。なら、紅葉ちゃんに肩を貸してもらうわ。」

「何処に行くのよ?」

「医務室に決まっているでしょ。流石の私も、痛みで気が遠くなりそうだわ。」


 すると、紅葉はしゃがんで、リリスの肩を抱いた。


「何を水臭い。何の為に私が居るのよ。プリーステスである私が。」

「や、止めて。何をする気なの……。」

「何って、ヒーリングよ。それしかないでしょ。」

「止めて、止めて。お願い。それだけは許して。」

「何言ってるの。けっこう重傷よ。全治三ヶ月はかかるわ。でも安心して。私なら一瞬で治せるから。」

「良いから。入院するから。止めて、お願い。何でもするからぁ。」


 あああぁぁぁぁぁ。

 と、和臣が鼻血を垂らすくらい、艶っぽい悲鳴をリリスが上げた。

 次の瞬間、傷は全快していたが、リリスは気を失っていた。


『敵の只中で、鎖で拘束されて、晒し者にされて、鞭で打たれて。それでも屈服もしなければ、気絶もしない。声一つ上げなかった気丈な奴が、ここまで怯えるとは……。』


 こいつのヒーリングの酷さは、並みの拷問の比ではないな。


 もう大袈裟なんだから〜、と言ってリリスの頰を突いている紅葉を見ながら、和臣は思った。




「みんな、きょうは おつかれだったの。じょうきょうは しゅうりょう したの。」


 夜、食堂に集まると、プリ様が労いの言葉を掛けた。


『昴の膝の上に乗っかって、リーダーヅラされてもね……。』


 紅葉は多少の理不尽さを感じながら、プリ様の話を聞いていた。


「俺達も合宿の目的は果たしたし、プリも前世の力を完全に取り戻した。もう、明日帰っても良いんじゃないか?」

「そうしましょ。風光明媚な良い所だけど、コンビニも無いんじゃ、不便でしょうがないわ。」


 和臣の言葉に、紅葉も同調した。


「とこよが、ひとつ もんだいが あゆの。」

「何よ? 敵はもう居ないんでしょ。」

「りりすが きを うしなって いゆの。けっかいが とけないの。」

「あの……、リリス様がお目覚めにならないと、サイクロン魔法陣の結界が解けないそうなんです。」


 プリ様の説明を、昴が補足した。


「だああ、ふざけんな、紅葉。リリスはいつ目覚めんだよ。」

「そ、そんなの、私だって知らないわよ。傷は治ってるんだし?」


 和臣と紅葉が醜い内ゲバを始めた。


「ぷりと すばゆは のこゆの。ふたりは さきに かえっても いいよ?」

「何言ってんの。」

「リリスを置いて帰れるかよ。」


 プリ様のお言葉に、二人は即答した。

 何故だか、それが嬉しくて、プリ様は満面の笑みを浮かべた。




 ☆☆☆☆☆☆☆昴ちゃんの特訓




 翌日になっても、リリスは目を覚まさなかった。

 ベトールは一足先にオスプレイで本土の病院に搬送され、舞姫もそれに付き添って行ってしまった。


「暇だから、昴の特訓でもしよっか?」


 お昼を食べ終わり、プリ様達の部屋でまったりしていると、唐突に紅葉が口にした。


「何を言い出すんですか、紅葉さん。」

「だって昴だけじゃん。全く、進歩が見られないのは。聞いたわよ。私達がクラウドフォートレスに乗り込んでいる間の体たらく。」


 奈津子さんのお喋り。

 昴は口を尖らせた。


「だ、大丈夫です。進歩してます。プリ様が飛んで行ってから、五十二分三十四秒、禁断症状が出る事もなく、耐えられましたから。」


 普通は出ないんだよ。

 と、和臣は心中で突っ込んでいた。


「なつこおばちゃんが いってたの。すばゆ、きょどうふしん だったって。ないたり、うろうろしたり してたの。ななちゃんに じんせいそうだん したりもしてたって。」


 えっ……。全然、覚えてない……。私、奈々ちゃんに何の相談をしたのかしら?

 首を捻る昴を見て、皆は溜息を吐いた。


「はい、決定。これから一時間、プリと隔離するから。耐えてみせな。」

「嫌です。嫌ですぅ。進歩なんかしなくて良いんですぅ。昴はプリ様と一緒が良いんですぅ。」


 紅葉に言われて、昴はプリ様にヒシと抱き付いた切り、離れなくなった。


「すばゆ〜。すこし なれといた ほうが いいの。ぷりも らいねん ようちえんなの。ようちえん いっているあいだ どうすゆの?」


 プリ様のお言葉を聞いて、昴は考え込んだ。その間も、頬ずりをしたり、愛撫をする手は休めなかった。


「そうだ。昴も幼稚園からやり直します。一緒に通いましょう、プリ様。」


 うん、ダメだな。こいつ、やっぱり鍛え直さないと。

 和臣と紅葉は黙って立ち上がると、昴からプリ様を引き離した。


「嫌ですぅ〜。プリ様を連れて行かないでぇ。プーリーさーまー。昴を置いて行かないでぇぇぇ。嫌だ、嫌だぁぁぁ。プリ様が居ないと嫌あああぁぁぁ。あああぁぁぁんん、プリ様あああぁぁぁ。イヤイヤ〜。プリ様プリ様プリ様プリ様プリ様ぁぁぁ。」


 どんな地獄絵図だよ。


 三人は昴を残して、取り敢えず廊下に出たのだが、あまりの取り乱し様に、立ち去れないでいた。


「これ、アンタが幼稚園に通い始めたら、毎朝こうなるんじゃないの?」

「そうかもしれないの……。」


 結局、根負けして部屋に戻るプリ様達であった。




「えへへへぇ。ぷりさまだ。ぷりさま、ぷりさま。」


 さっきまで泣き喚いていたのに、今はプリ様を膝に乗せて幸せそうな昴。まだ少し涙で瞳が潤んでいるのが、痛々しいと言えなくもない。


「ようちえん までには なれようね、すばゆ。」

「はぁぁい。ぷりさまぁ。」


 そう言いながらも、後ろからギュッーと抱き締めて来た。


『ほんとに わかって いゆのかな……。』


 プリ様は小さく溜息を吐いた。




 合宿の成果。


 プリ様→雷を自在に操り、パーフェクトモードの装備可となる。


 リリス→オクによる心理攻撃に耐え、精神面が鍛えられた模様。


 和臣&紅葉→前世の力のコントロールが可となる。テナ、アシナブレスレットの装備。


 昴→特訓のショックで少し幼児退行。





「プリ様が幼稚園に行っている間、昴ちゃんは耐えられるの問題」は、最後まで読んでいただければ、驚天動地の解決方法が提示されます。

問題は、この執筆のペースだと、完結が何年後になるかわからないという事です。

未完のまま投げ出したりはしませんが、寿命が来たらどうしよう、という心配もあります。

いや、弱気はダメですね。生まれ変わっても書き続ける覚悟で頑張ります。

あっ、でも来世は美少女に飼われている猫になる予定だし。うーむ。

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