完成! パーフェクト プリ様!!
運命の朝が来た。
オクの部屋にホブゴブリンと思しき魔物が迎えに来た。彼は、ベッドに寝ていたリリスに、立つように命じた。
リリスの肢体に鎖が巻かれた。拘束されていく彼女を、オクはジッと眺めていたが、目が合うと、寂しげに微笑んだ。
「そんな いたいたしい よそおいでも、りりすちゃんだと、けだかく みえるから ふしぎだわ。」
「ありがとう。って言いたいけど、私、貴女の事絶対に許さない。昨日、味わった屈辱、死ぬまで忘れないから。」
最後に、後ろ手に縛られた彼女に鋼鉄製の首輪が嵌められた。首輪に付いている鎖を引かれ、リリスは部屋を出て行った。
『なかよく なれたらと おもったんだけどな……。』
リリスの後姿を見ながら、オクは考えていた。
『わたしも べとーるちゃんと おなじか……。』
自嘲気味な笑いが、口の端に浮かんだ。
リリスの連れて行かれた先、そこはクラウドフォートレスの甲板だった。
「るーるは しっているな。」
傍に舞姫を従えたベトールが、得意満面の顔で尋ねた。
「オクちゃんから聞いたわ。十回耐えれば自由の身なんでしょ?」
「そうだ。だが、せんげん しておく。おまえは さんかいも たえられない。ごかい もてば、いいほうだろう。」
それを聞きながら、舞姫は絶望に沈んでいた。たとえリリスであろうと、ベトールの言う通り、五回も耐えられるとは思えなかった。
あの誇り高いリリスが家畜にされるなんて、考えただけでも辛かった。
「あらあら、ご高説は結構よ。早く始めなさいな。」
「そうせくな。せっかくの しょーだ。けんぶつにんは おおいほうが いいだろう?」
ベトールが手を上げると、クラウドフォートレスが動き始めた。
「ぷりや、おまえの なかまたちにも みせてやろう。にどと はんこうするきが おきないようにな。」
その威容を見せ付けるみたいに、クラウドフォートレスは雲隠島の真上、結界ギリギリの所に停泊した。
「きたの。」
すでに、着ているピンクのワンピースに銀魚を巻いてもらい、手にニール君の籠を持っていたプリ様が、静かに呟いた。
「何が来たんですか? プリ様。」
昴が疑問を口にしたのと同時くらいに、監視小屋から、クラウドフォートレス接近の報告が入った。
急いで外に出ると、紅葉と和臣も上を見上げていた。
「あの帆みたいなのは何だ?」
「前は無かったわよね?」
二人の指差す方を見ると、確かに帆の様な物が、大きな雲にしか見えないクラウドフォートレスの真下に下がっていた。
「よく みておけ、くもがくれとうの しょくん。おまえたちの なかま、びちゅうあんあまりりすが、これから われわれの かちくに なるさまを。」
勝ち誇ったベトールの声が辺り一帯に響き渡り、帆にリリスの姿が映し出された。
どうやら甲板に居るらしいリリスは、正座をしたまま、頭を床に付けていた。首輪が短い鎖で床に繋がれていて、顔が上げられないのだ。足も甲板に括り付けられていて、姿勢が崩せないみたいだった。
「なんて酷い……。」
昴は言いながら涙を流していた。
プリ様は歯を食いしばり、黙って上を見上げていた。
「じゃあ、おのぞみどおり、はじめてやろう。」
ベトールが鞭を構えた。
「止めてー。操ちゃん!」
舞姫の叫びと同時に、背中を叩くビシッと凄まじい音が鳴った。リリスは反射的に頭を跳ね上げたが、拘束されているので、すぐに床に引き戻された。
「そおれ、それ。」
続けて二回、鞭が振り下ろされた。骨身を削る痛みに、リリスは髪を振り乱しながら耐えた。
「どうだ? もう、たえられないだろう? みなのまえで『かちくに なります。』といえ。」
リリスは下からベトールを睨み付けた。
「あと七回。」
「なにぃ?」
「あと七回でしょ。早くしなさい。」
「なまいきなぁ。」
激昂したベトールは、更に二回鞭打った。それでもリリスは一声も上げなかった。
「も、もう五回よ。貴女の宣言とやらも、当てにならないわねぇ。」
小馬鹿にする口調で言われ、ベトールの身体がワナワナと震えた。
「もう、止めて! 充分でしょ。」
「そうだ。此処に降りて来て勝負しろ。」
紅葉と和臣の怒声に、固唾を飲んで見守っていた島中の人達が同調した。「卑怯だぞ。」「降りて来い。」と、一斉に叫び始めた。
昴はあまりにも残酷な光景に耐えられず、その場にへたり込んでいた。その隣で、プリ様は何も言わず、ただスクリーンに映し出されるリリスの姿を見ていた。
「うるさいぞ、うじむしども。くやしかったら、ここまで とんでこい。」
その挑発に、和臣がハッとして、プリ様の肩を抑えた。
「プリ、ダメだぞ。下手に反重力を使うと、宇宙に落ちるぞ。」
「わかっていゆの。」
諌める和臣に、静かに返事をした。
「ふん、やせがまん しおって。」
ベトールは今度はリリスの頭を踏み付け、その体制で渾身の力を込めて、三回打った。
全身が痙攣し、力尽きた様に、肩が下がった。
「どうだ。もう こうさんか?」
しゃがみ込んで髪を掴み、頭を上げさせるベトール。
オクとオフィエルは、甲板の一段高い所から、その様子を見ていた。
「あまり、きもちの よいものじゃ ありませんわね。」
「そうね。でもなんだか、べとーるちゃんの ほうが みじめな かんじね。」
舞姫はリリスに駆け寄ろうともがいていたが、二匹のオークに、ガッチリと身体を抑えられていた。
「あと二回。」
息も絶え絶えだが、ハッキリと言った。ベトールは気圧された感じで後ずさった。
『なんだ? こいつは。ばけものか? おとなだって、こんなに たえられは しないぞ。』
「ベトールゥゥ! 早くしなさい!!」
リリスに怒鳴られ、ベトールは「うわぁぁぁ。」と、喚きながら二回鞭打った。
鋭い鞭の音が響き終わると、周囲は静寂に包まれ「ハアハア。」と苦しげなリリスの息遣いだけが聞こえていた。
「じゅ、十回……。」
か細いが、凛とした口調だった。
「う、うそだ……。」
「嘘じゃ……ないのよ……、ベトール……。貴女の負けよ。」
「うわぁぁぁ! ば、ばけものぉぉぉ。」
ベトールが再び鞭を振り上げた。
「べとーゆ!!!」
今まで黙って見ていたプリ様が、大きな怒りの声を上げた。
それに呼応する様に、腰に巻いている銀魚が輝いた。
「めぎんぎょゆず!」
プリ様が叫ぶと、背中でリボン結びにしている輪の部分が蝶の羽状に変化した。
「やーゆんぐれいぷゆ!!」
右手に持っていた籠が、鋼の装甲に変化し、プリ様の右腕を覆っていった。
「みょぉぉぉゆぅにぃぃゆぅぅぅ!!!」
ニール君が待ってましたとばかりに飛び上がり、空中で一回転し、三十センチくらいの柄を持ったスレッジハンマーとなって、プリ様の手に収まった。
『すりー、つぅー……』
プリ様は心中でカウントダウンを始めた。
『わん、ぜろ……。』
「はっしゃー!」
プリ様の小さなお身体が、空高く、勢い良く舞い上がった。グングンとクラウドフォートレス目掛けて飛んで行く。
「プリ様が……、プリ様が空を飛んでいる……。」
昴が呆然とした面持ちで呟いた。
「あっ、プリ様、危ない。」
イカロスの翼を付けたオーク達が、船の周りに滞空で警護をしていたが、プリ様を見付けて攻撃して来たのだ。
その時、メギンギョルズの羽の下にある二本の紐が伸び、自動追尾で片っ端からオーク達を叩き落とし始めた。群がる魔物など歯牙にも掛けず、正に無人の野を行くが如く、プリ様はリリス目指して突き進んだ。
「べとーゆ!」
そして甲板に着くと、狂った様にリリスを打ち据えているベトールに、ミョルニルで殴りかかった。
「ぷり?!」
突然出現したプリ様のお姿を見て、驚いたベトールが後ずさった。その隙に、プリ様は彼女とリリスの間に割って入った。
「りりす、だいじょぶ?」
プリ様はリリスの拘束具を破壊しながら聞いた。
「だ、大丈夫よ……。来てくれると信じてた……、プリちゃん……。」
あの強靭なリリスが、弱々しく話すのを聞いて、プリ様は涙を流し、怒りの炎を燃え上がらせた。
「ゆゆさないの。ぜったいに ゆゆさないの。べとーゆ!!!」
ミョルニルをベトールに向かって突き出し、睨み付けた。
互いの情念がぶつかり合い、宙空で渦を巻く。
今、最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
今回、リリスちゃんが非常に可哀想な目に合ってますが……。
プリ様の初飛行シーン、どうしても「劇場版」の方で、やりたかったのです。
だから、雲の上で鞭打たれている仲間が必要だったのです。
「何言ってやがるんだ、こいつ。」と思われた方は、1973年の東映まんがまつりをご参照下さい。
仲間のピンチに、新しい力を得た主人公が颯爽と駆けつける。これがやりたかったのです!!
すみません、興奮してしまいました。
つまり、何が言いたいかと言うと、私はサディストではない、という事です。




