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プリちゃんが必ずやり遂げてくれる

 その日は一日中、プリ様はリリスにベッタリだった。


 昴はプリ様成分の補給が出来ず、酸欠ならぬ、プリ様欠乏症で死にかけていたが、事情が事情なので、血の涙を流しながら我慢をしていた。


 昴とて、リリスの身を案じているのだ。


「私の所為でリリスさんが危ない目に会うなんて……。」


 舞姫も止めようとしたが「貴女の為だけじゃないの。」と言われ、黙るしかなかった。


 そして、愈々辺りが暗くなり、世界は夜の帳に包まれた。


「じゃあ、そろそろ行って来るわ。」


 夕食後、皆が食堂でたむろっていると、身支度を済ませたリリスが軽く言った。


「コンビニに行くんじゃないんだから……。」


 和臣が言うと、リリスは微笑んだ。


「それなら、重々しく言うわね。和臣ちゃん、私にもしもの事があったら、紅葉ちゃんをお嫁に貰って、幸せにして上げて。」

「とんでもない遺言残すな。というか、それが遺言なら、お前絶対に生きて帰れよ。」

「あらあら、大変。死ねなくなっちゃったわ。」


 リリスはクスクスと笑った。


「もしもなんて あっちゃ だめなの!」

「プリちゃん……。」

「だめなのぉ……。」


 泣いて縋り付くプリ様を宥めて、リリスは外に出た。ついて来た皆をちょっと振り返り、そのまま真っ暗な夜空へと飛んで行った。


『りりす、ぶじに かえってくゆの……。』


 プリ様は胸が張り裂けそうな思いで、彼女の姿を見送った。




 不気味なくらい順調に、クラウドフォートレスには辿り着いた。舞姫が逃げて来たというハッチに行ってみたら、外部からも手動で開けられるようになっていた。


 内部構造も話に聞いた通りだった。魔物に出逢わないよう、慎重に歩を進め、ついにベトールの寝室にまで辿り着いた。


『さて、ここからが正念場ね……。』


 少しドアを開けて、中が暗くなっているのを確かめると、そのままスゥ〜と身体を中に滑り込ませた。


「はい。いらっしゃーい、りりすちゃん。まってたわよ。」


 突然、オクの声がして、部屋が明るくなった。咄嗟に窓を壊して逃走しようとダッシュしたが、其処にはベトールが待ち構えていた。


 戦うしかない。


 七大天使二人相手では分が悪いが、二進も三進も(にっちもさっちも)行かなくなったら、あの爆発する札を使って……、リリスは覚悟を決めた。


「そんなに こわい かおしないで。すこし おはなし しましょう?」

「ハッチを開けると警報が鳴るのか……。考えて見れば当たり前よね。」


 リリスがそう言うと、オクはニッコリと微笑んだ。


「ちがうわ。あなたを ここに おびきよせるために まいきちゃんを にがしたのよ。」

「まいきを にがした? なにを いっている、おく。」


 舞姫なら此処に……、とベトールがベッドの布団を捲ると、其処には眠っている舞姫が居た。


「舞姫ちゃん? じゃあ、さっきまで一緒に居たのは……。」


 偽物なのか? それにしては本物そっくりだった。どんな検査にも引っかからなかったし……。




 リリスを送り出した後、皆は寝る気にもなれなくて、そのまま食堂に居た。だが、プリ様がウツラウツラとしだしたのを機に、身体だけでも休めとくかと、自室に戻る為に立ち上がった。


 その時、科学解析班の主任とオババ様が、同時に食堂に駆け込んで来た。


「スクール水着とパレオに感じていた違和感がわかった。汗や体液が全く付着してないんだ。」

「こにゃあだも、あんだけ暑い部屋で、汗かいてにゃあかったも。」

「君は一体何者だ。」


 そう言われて、舞姫は当惑した。何者も何も、自分は自分だ。中山舞姫だ。


「まいきしゃん……?」

「プ、プリちゃん……、私、私……。」


 近付くプリ様を避けるみたいに、舞姫は後退りした。


「こういう時は、まず攻撃してみろって、キリヤマさんも言ってたわ。」


 キリヤマさんって誰だよ。

 紅葉の言葉に和臣が思った。


「待って下さい。私……。」

「問答無用!」


 紅葉が放った鋭い蹴りは、攻撃対象を失って空回りした。舞姫の姿が消えたのだ。昴の貸したメイド服だけが、その場に崩れ落ちた。


 リリス!


 皆の胸中に言い知れない不安が宿った。




「わたしの まほうで まいきちゃんの こぴーを つくったのよ。」


 オクは涼しい顔で言っているが、どれだけの力が必要なのか見当もつかない魔法だ。


かがくけんさ(科学検査)じゅじゅつてき(呪術的)けんさ(検査)たいおうずみ(対応済み)の すぐれものよ。」


 リリスは足元が震えるのを感じた。完全に自分の出方を読んでいたのだ。


「その こぴーに けーりゅけーおんの ちからで、まいきちゃんの たましいを うつしたの。」


 オクが持っていたケーリュケーオンで舞姫の身体に触れると、彼女は目を覚ました。


「あ、あれ、リリスさん。それにオクちゃん……? 私、さっきまで雲隠島に居たのに……。」


 舞姫は驚愕した表情で、辺りを見回していた。


「貴女の掌の上で踊っていたという訳ね……。」

「そうね、わたしが こうめい(孔明)なら、あなたは もうかく(孟獲)ね。」


 七縦七擒。孔明が敵の将、孟獲を七回逃して、七回捕まえた故事に由来した言葉である。


「難しい言葉を知っているのね。オクちゃん。」

「そんな かるくち たたいても、あなたの どうようは すけてみえているわ。りりすちゃん。」


 オクはあくまでもニコヤカに話し続けた。


「さぁて、どうするの? その ばくはつする ふだを つかう? それでも いいけど、まいきちゃんも しぬわよ。」


 リリスは着ていた服に縫い込んでいた札に手を当てていたが、ギクリとして離した。


「どうして札の事まで?!」

「わたしは あなたを とらえるため あらゆる ぱたーんを しゅみれーしょん したの。てのうちは すべて おみとおしよ。」


 握った手が汗ばむのを、リリスは感じた。


「さあ、えらびなさい。まいきちゃんを ぎせいに わたしたちを ぜんめつ させるか。まいきちゃんを たすけて わたしに くっするか。」


 笑いながらも凄みの効いた声でオクが迫った。リリスは暫くオクを睨んでいたが、やがて、目を伏せた。


「私の負けよ。好きにしなさい。」

「止めてー、リリスさん。私はどうなっても良いの。島の人達を助けて。」


 リリスの宣言に舞姫が悲痛な叫びを上げた。


「まけを みとめたのなら、その ぶっそうな ふくを ぜんぶぬいで。」


 オクは勝ち誇るでもない、平坦な口調で言った。

 脱ぎ終わると、リリスに近付き、着ていた服を検分した。


「すごいわ。したぎに まで ぬいこんである。けっしの かくご だったのね。」


 からかうように言った後「ひざまずいて。」と柔らかく命令した。リリスは腰を下ろした。


「そっきんが ほしかったのだけど、あなたは ふごうかくだわ。まいきちゃん ひとり ぎせいに できないのではね……。」


 リリスの顎を掴み、顔を上げさせながら彼女の目を見て、失望の色露わに溜息を吐いた。


「貴女何か勘違いしていない?」

「かんちがい?」

「確かに私は目的の為には手段を選ばない。でも、今は舞姫ちゃんも島民も、全てを助けるのが目的なの。」

「もう、ぜったいぜつめいよ。どうやって みんなを たすけるの?」

「助けるのは私じゃない。私が倒れてもプリちゃんが必ずやり遂げてくれる。だから、今は舞姫ちゃんの命を救うのが、私の使命なの。」


 リリスさん……。

 リリスとオクの会話を聞きながら、舞姫は涙を流していた。

 なんて高邁な理想。なんて崇高な意志。前に自分の事を尊敬すると言ってくれたが、リリスこそ尊敬するに値する人物。


 舞姫はそう思い、ほとんど崇拝の眼差しを向けていた。横に立っていたベトールは、そんな舞姫の様子を、苦々しい思いで見ていた。


「なるほどね。それほど ぷりちゃんを しんらい しているんだ。」

「そうよ、さあ殺しなさい。」

「ころす? そんな ぶっそうなこと しないわ。」


 オクはニヤリと口角を上げた。


「くらうどふぉーとれすは あすには きのうを かいふくする。あなたの いる このふねを ぷりちゃんたちは こうげきできるかしら。」

「私がオメオメと人質になると思う?」


 リリスは賢者の石に意識を集中させた。身体の中で黄金のナイフを生成し、自決しようとしたのだ。


「おいたは だめよ、りりすちゃん。」


 不意にケーリュケーオンで肩を叩かれた。二匹の蛇に噛まれたリリスは、急激な眠りの中に落ちていった。

キリヤマさんが誰かというのは、本編には全く関係ないので、作中明かされる事はありません。

ただ、紅葉さんが決断をする時に、行動指標の一つにしている人物、とだけ御認識下さい。

キリヤマさんは訳のわからない物は、取り敢えず銃撃してから考えます。

得体のしれない人物も、まず撃ってみます。

それで死ねば良い人。起き上がって反撃して来たら悪い人なのです。

どちらに大義名分が有るか判断出来ない泥沼の戦いも、敵を全滅させてしまえば、此方が正義なのです。

この様に、紅葉さんの思考パターンに、非常に似通った考え方をする人なので、参考にし易いのです。

勿論、紅葉さんのモデルと言われている私自身も、人生の重要な岐路では、必ずキリヤマさんの行動則を参照し、取り入れて、失敗して来たのです。

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