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胸締め付ける後悔

 前回までのあらすじ

 舞姫ちゃんの着ていた水着は、旧型スクール水着II型。水抜きの分割線が前面にしかなく、マニア心をくすぐる、プリンセスラインと呼ばれる二本の縫製線が特徴。




「それで、パレオの方は。」

「ああ、あれは現在売られている物でしょうな。素材もありふれた化学繊維です。」


 解析主任は、パレオには全く興味を示してなかった。


「ただその……、水着もパレオも、何かが引っかかるんですな。」

「何かって……。何?」

「何かが足りないというか……。」


 それ以上は答えられず、ううむと唸るばかりだった。


「まあ、良いわ。気になるのなら、更に調べてちょうだい。」


 そう言った後、リリスは今度は百歳くらいではないかと思われる程のお婆さんに向き合った。


「オババ様、呪術的な側面からは何かわかりました?」


 聞かれて老婆は首を振った。


「まっ〜たく、何にもにゃあわい。」

「全く何にも無かったのですね?」

「そぉぉうだともぉ。」


 考え過ぎだったか。

 あのオクの事だから、えげつない呪詛をいっぱい仕込んでいると思っていたのだ。リリスは一先ず胸を撫で下ろした。


 だが、その横で科学解析班の主任は、しきりに首を捻っていた。




「プリ様。はい、あーんして。」


 プリ様達は、食堂の小母さんからデザートを振舞われていた。そのプリンを、今、昴が食べさせて上げようとしているのだ。


「いいの。あかちゃん じゃないの。」

「ええっ? でもぉ、いつも昴の手からお食べになっているじゃありませんか。」


 昴の言葉に、プリ様は顔を赤らめて、チラッと舞姫を見た。


「うそなの。ぷりは じぶんで できゆの。」

「えええっ。どうして? 反抗期なんですか? プリ様ぁ。」


 抱き付かれて、頬ずりをされても、プリ様はソッポを向いていた。


「まあまあ、昴さん。プリちゃんの好きにさせてあげましょうよ。」


 舞姫が言うと、プリ様は「うむ。」とばかりに頷いた。


「プリ様が、プリ様が昴の手を離れて……。」


 自分でプリンを食べるプリ様を見て涙する昴。


「大丈夫ですよ。私が居るから照れているんでしょ。あのくらいの子って、お体裁屋さんだから。」

「本当ですかぁ?」

「うん。プリちゃんって、お姉ちゃんっ子でしょ。見てればわかりますよ。しょっちゅう、昴さんのスカートにくっ付いているじゃないですか。」


 なんて良い人。

 昴には、微笑む舞姫の後ろに、後光が射して見えた。


「ちがうの、まいきしゃん。すばゆが ぷりに ひっついてゆの。すばゆが あまえんぼう なの。」


 お口の周りにプリンとカラメルソースをいっぱい付けて、プリ様が抗議した。


「まあ、プリ様ったら。お口をそんなに汚しちゃって。やっぱり昴が居ないとダメですね。」


 昴はいそいそとナプキンで口周りを拭き始めた。


「やめゆの。ひとりで できゆのー。」

「はいはい。大人しくしてて下さいね〜。」


 昴は腰掛けたまま、抗うプリ様を膝に乗っけて、作業を続けた。その様子を見て、舞姫は深い溜息を吐いた。


『ベトール……、操ちゃんは、やっぱりに私に甘えてたんだな。』


 自分の膝の上に座って、一生懸命に話し掛けて来ていたベトールを思い出して、彼女は静かに落涙した。


『ごめんね。もっと優しくしてあげれば良かったね。』


 後悔が胸を締め付け、涙が止め処もなく零れた。


「まいきしゃん、だいじょぶ?」


 気が付くと、プリ様と昴が心配そうに顔を覗き込んでいた。


「な、何でもないの。それよりプリちゃん、ベトールの事教えてくれる? あの子、どんな子なの?」

「べとーゆ? べとーゆはねぇ……。」


 考え込むプリ様の周りに、漆黒のオーラが立ち込めた。


「べとーゆは ばかなの。せんすが くるっていゆの。」


 えらい言われようだな、と舞姫は苦笑いした。


「そうりょぷりぷりきゅーてぃが おもしろくないって いうの。へんなの。おかしいの。」

「僧侶……プリプリキューティ……って何?」

「アニメですよ。もしかしてプリプリキューティシリーズ知らないんですか?」


 昴がおどろきの声を上げた。


「ごめんなさい。テレビ自体あまり見なくて……。」


 プリプリキューティを見ない子供がいるなんて……。

 カルチャーショックを受けるプリ様達だった。


「おしえて あげゆの。ぷりぷりきゅーてぃのれきし。しょだいから まじょっこぷりぷりきゅーてぃまでの すとーりー。ぷりに まかせゆの。」


 長くなりそうだな。と、舞姫は思った。




 リリスが分析室から食堂に戻ると、昴の膝の上で、プリ様が身振り手振りを交えながら、プリプリキューティシリーズの説明をしているところだった。


「うん、大体わかった。同じプリプリキューティでも色々なお話があるんだね。」

「そうなの。そのなかでも しこう(至高)なのが そうりょなの。」


 成る程ね。プリちゃんが大好きな僧侶を、ベトールは貶しているのか。それで二人は仲が悪いんだ。


 やっている事は幼稚園児の喧嘩と一緒だな、と舞姫は思った。


「それで、ベトールはその中で何が好きなのかな?」

「うーん。あいつ、かみなりわざ すきだから……。しょだい……いや『のんのん ぷりぷりきゅーてぃ ふぃふてぃ』かな?」


 ノンノンプリプリキューティフィフティ、略してノンプリは、シリーズ中興の祖として、マニアの評価が高い作品である。僧侶でジリ貧になった視聴率を、次回作のノンプリが一気に巻き返したのだ。


 レギュラー五人を核として、毎回違ったゲストのプリプリキューティが出演し、最終的にその数が総勢五十人になるという、大胆なコンセプトが受けたのである。


「じゃあ、その、ノンノンプリプリキューティフィフティをもっと詳しく教えてくれる?」

「まにあ はねぇ『のんぷり』っていうの。」

「オッケー、ノンプリね。」


 リリスは少し離れた位置で、カフェオレを飲みながら、プリ様達の遣り取りを聞いていたが、一段落着いた頃、近付いて行った。


「あっ、天莉凜翠さん。」


 リリスを見付けた舞姫が、弾んだ声を出した。


「リリスで良いのよ。皆そう呼ぶわ。」

「えっ……、じゃあ、リリスさん……。」


 恥ずかしげに言う舞姫に「んっ。」と短く返事をした。


「疲れているでしょうけど、舞姫ちゃんの身体検査もしたいのよ。悪いけど、ちょっと一緒に来てくれる?」

「全然、大丈夫ですよ。どこでも行きます。」


 憧れのリリスの頼みに、舞姫は張り切った。


 二人が出て行くと、昼下がりの食堂には、プリ様と昴の二人だけになった。


「二人きりですね。」

「そうなの。」

「甘えて良いんですよ、プリ様ぁ。」

「あまえないの。」

「またまた、無理しちゃって。ほぉら、昴お姉ちゃんにたんと甘えて下さい、プリ様。」


 返事も聞かずに抱き付く昴。「あまえないって いってゆのー。」と叫ぶプリ様のお顔に胸を擦り付け、頭頂部に頬ずりし、全身で愛撫を繰り返す昴であった。




「プリちゃんから、プリキューの話なんて聞いてどうするの?」

「あっ、リリスさんもご存知でしたか? プリプリキューティ。」


 慣れた感じでプリキューと言うリリスに、舞姫が聞いた。


「いや、私もプリちゃんに啓蒙されて……。」


 神王院家に遊びに行くと、必ず、本やディスクを見せられていた。


「操ちゃんの好きな事とか知っておきたくて……。」


 そう言う舞姫の顔をジッと見詰めた。


「気持ちはわかるけど、今のあの子は栗生操じゃない。ベトールという、いわば化物よ。心を許せば、舞姫ちゃんが傷付くわ。」

「化物って、そんな言い方。」


 舞姫の脳裏には、自分の膝の上で震えていたベトールの姿が、よぎっていた。


「普通なんです。生意気言って、負けず嫌いで……。」


 舞姫の頰をまた涙が濡らした。


「あの子には頼る人が居ないの。どんなに力が強くても、頭が良くなってても、いつも一人で怯えているの……。」


 泣きじゃくる舞姫を、リリスは抱いてやった。優しく背中を摩ってやった。


「ごめんなさい。言い過ぎたわ。私にとってベトールは敵で、貴女を守るのが最優先事項だったから……。」

「良いんです。私こそ、すみません。リリスさんは心配して言ってくれたのに……。」


 誰も通らない静かな廊下に、舞姫が啜り泣く声だけが響いていた。








舞姫ちゃん、最初はもっとキツイ性格の子を考えていたのですが、どんどん母性溢れる良い子になってきてますね。

「これはきっと作者である私の性格を反映しているんだよ。」と友達に言ったら「あんた紅葉だから。オジさんが小学生女児と一緒とかないから。」と冷たく言われました。

紅葉さんだって女子高生なのに……。

オジさんと同列に扱われる不遇な紅葉さんが、少し可哀想になって来た今日この頃です。

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