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舞姫ちゃんはどうしたの?

投稿してから気付いたのですが、今回、プリ様も昴ちゃんも登場してませんね……。

後書きに粗筋を書いてますので、そこだけ読めば今回の内容は把握出来ます。

 朝、魔界となった御蔵島にも太陽は昇る。

 クラウドフォートレスの幼女達は、示し合わせたみたいに、食堂に集まって来ていた。


「あれ、まいきちゃんは どうしたの?」


 すでにテーブルに着いていたオクが、入って来たベトールに尋ねた。ちなみにオフィエルは、そのオクの隣に座って、彼女の右腕にしがみ付いていた。


「しらん。あいつの ごきげんなど とっては いられない。」


 ふーん、とオクは謎めいた微笑みを浮かべた。


「もう、あきちゃった?」

「あきるも くそもあるか。あいつは かちくだ。」

「もらってもいい?」

「ひとの はなしを きけ。あきたとは いってない。」


 まあ、怖い。

 クスクス笑いながら、オクは紅茶を啜った。


 その後、修理箇所の視察に行ったベトールとオフィエルから離れ、ベトールの寝室に向かうオク。


「あら、ひどい。」


 舞姫は、頭だけ出してタオルケットにスッポリ包まれ、その上からシーツでグルグル巻きにされて、ベッドの真ん中に転がされていた。


 入室してきたオクには反応せず、仰向けに寝転がったまま、ひたすら天井を見詰めていた。眼からは止め処もなく涙が零れ落ちている。


 オクはベッドに上がると、小さな身体をいっぱいに使って、舞姫の(いましめ)を解いてやった。


「ありがと……。」


 礼は言うが、オクの方を見ようとはしなかった。オクも黙ってベッドの上にペタリと座り込んでいた。


「にげたい? まいきちゃん。」


 ややあって、オクが口を開いた。それは、今の舞姫にとって、何よりの福音であった。


「逃してくれるの?」

「んっ……。おうちまでは むりだけど、このさきに あなたの しりあいが いるのよ。」


 窓に向かって、真っ直ぐ指を伸ばした。


「りりすちゃん、しっているでしょ?」

「美柱庵天莉凜翠さん?」


 最近、道場に通って来るようになった天莉凜翠は、舞姫の憧れの女性(ひと)であった。

 イギリス留学の経験があり、武術の腕も超一流。何せ、幼年部空手世界チャンピオンの彼女が、手玉に取られるくらいなのだ。


 初めて手合わせした時から、もう天莉凜翠に夢中になっていた。食事中もリリスの話ばかりするので、舞姫の初恋だな、と父親にからかわれる程だった。


 お父さん……。

 父の事を思うと、気持ちが沈んだ。


「りりすちゃんの いる しままでなら おくって あげられるわ。」

「天莉凜翠さん……。」


 本当は今すぐにでも、彼女の居るという島に飛んで行きたかった。だが、家畜にされた自分の姿を晒すのは、抵抗があった。


 特に昨日の夜、仇のベトールに全く歯が立たず、良いように遊ばれた身の上では、憧れの人に合わす顔がなかった。


「まあ、いやなら いいけど……。ここで、かちくらいふを えんじょいする?」

「逃げたい……けど、家畜だったなんて天莉凜翠さんに知られたら……。」

「はい、あと ごびょうで きめて。いーち、にぃ……。」

「逃げます。逃げます。」


 話は決まった。


 良く考えたら、家畜にされていたなんて、言わなければバレないしね。

 舞姫はそう思い、オクに頷いたのだ。


 オクはそんな舞姫の手を取り、雲隠島へと誘った。




 暫しの平穏。紅葉と和臣は連れ立って海岸を散歩していた。


「二人きりで海を眺めているなんて、何だかロマンチックね。」

「紫の波が結界に打ち寄せて、時々沖の方でクラーケンがウネウネと触手を蠢かしているのに目を瞑れば、まあロマンチックかな。」

「そうよねぇ。夏の海っていえば、やっぱり、恋の花咲く場所だものねぇ……。」

「おーい。皮肉を言っているんだ、俺は。無視すんな。」


 紅葉は和臣の全ての言葉を微笑みで受け流し、強行的にロマンチックな雰囲気を盛り上げようとしていた。


 その時、一陣の風が吹き、紅葉は着ていた白いワンピースの裾を押さえた。襟口にも袖口にもフリルがフリフリしている、お嬢様っぽさの押し売りの様な服だ。

 和臣は一目見た瞬間から、似合わねえ、と思っていた。


「まあ、悪戯な風さんね。」


 紅葉が余裕ぶっこいて、カワイコぶっている間に、再び強い風が吹き、被っていた麦わら帽が宙に舞った。


「ああっ、お帽子が飛んで行ったわ。和臣さん、追いかけてぇ。」

「良い加減にしろよ。何で、俺が行かなきゃならないんだ。」

「ええっ。だって、恋人の帽子を拾いに行くのは、彼氏の役目でしょ?」

「おい、ここで決着つけるか? そろそろ、その猿芝居にも、我慢の限界だ。」


 二人の間に火花が散った。


「そうね……。まどろっこしい真似は止めて、力でねじ伏せて、婚約を承諾させた方が良いかな。と、私も思い始めていたとこ……。」

「その思考回路が、そもそも、恋愛体質ではない証拠なんだよ。この戦闘狂め。」


 バキンッ、と二人のパンチがクロスし、ブレスレットが音を立てた。紅葉は大胆に足を上げ、踵下ろしを決めたが、和臣は両手を十字に組んで、それを止めた。


「あら。私のパンツに見とれて、マトモに喰らうかと思ったのに……。」

「パンツとか言っている色気のない奴の蹴りなんか喰らうかよ。」


 和臣が紅葉の脚を弾き飛ばし、彼女はクルッと後ろに一回転した。


「お前は俺には絶対に勝てねえ。何故なら、お前は俺に死なれたら困ると思っているが、俺は何の遠慮も無しに攻撃出来るからだ。」

「ハッ。あんた前世含めて、何年私と連んでいるのよ。どんな利害関係よりも、勝利の二文字が優先される女よ、私は。」

「なら、遠慮はいらないな。ふっふっふっ。」

「そうね、死体と結婚式っていうのもロマンチックかもね。くっくっくっ。」


 一触即発。正に、互いが最後の大技を繰り出そうとした瞬間、パチパチパチと、誰かが盛大に拍手をした。


「凄い。今の組手、凄いです。何処の流派ですか。」


 旧型スクール水着を着て、腰に花柄のパレオを巻いた、小学校中学年くらいの女の子が、海の方から此方に向かって来ていた。


「誰?」


 和臣と紅葉は思わず顔を見合わせた。


「私、中山舞姫っていいます。天莉凜翠さんの所に連れて行って下さい。」


 舞姫はイカロスの翼を付けたオクに此処まで運ばれて来たのだ。




「やっかいな けっかいだけど……。」


 オクは結界の外で呟いた。


「まいきちゃん ひとりを とおすくらいなら……。」


 七大天使なら、それぐらいの隙間をこじ開けるのは可能だ。実際、昨日ベトールも結界内に侵入していた。ただし、隙間を維持出来ないので、魔物の軍団までは入れられない。


 舞姫が中に入ると、オクは外からにこやかに手を振っていた。


「ありがとう。」


 上空に飛び上がって去って行くオクに、舞姫も手を振り続けた。


『おれいなんて いいのよ、まいきちゃん。』


 飛びながら、ニヤリと笑みを浮かべた。


『せいぜい、わたしの おもうとおりに うごいてね。』


 底の見えない、不気味な笑いだった。




「ええーと、アマリリス……さん?」

「知らないんですか? 此処に居るって聞いて来たんです。」


 何処かで聞いた覚えのある名前だ、と紅葉は首を捻った。


「和臣、知ってる?」

「待て、待て。俺も、もうちょっとで、思い出しそうなんだ。」

「あの……、あの、美柱庵さんっていう……。」


 美柱庵?


「ああ、リリスが確か天莉凜翠とかいう渾名じゃなかったかしら。」

「あっ、そうだよ。美柱庵といえば、リリスだよ。」


 リリスの方が渾名だと思うんですけど……。

 舞姫は二人の遣り取りを聞いていて確信した。


 馬鹿だ。この人達……。


 やばい。どうしよう。せっかく逃げて来たのに……。無事に天莉凜翠さんの所に辿り着けるのかしら。


 いいしれぬ不安に、舞姫は自分の身体を抱いた。


「なかやままいき……、貴女の名前も聞き覚えがあるわ。」

「七大天使のベトールに誘拐されたって子じゃないか?」


 私の事知っている?!

 舞姫は身を乗り出した。


「そ、そうです。その舞姫です。」

「ベトールの家畜にされた舞姫ちゃん。」

「毎日虐められて、ブーブー泣いている舞姫ちゃんね。」


 はいぃ? 二人の反応に舞姫は戸惑った。


 何で、家畜にされたのが、バレてるの?


「大変だったわね。裸で暮らしてたんでしょ?」

「豚小屋で飼っていると、ベトールは言っていたらしいが……。無事で良かった。」


 ベトール……。何言ったんだ、あいつ。


 怒りと羞恥で、舞姫の全身が紅く染まった。



舞姫ちゃんが逃げた。


…………。すみません。次回は頑張ります。

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