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ベトールの嘘

 夕食後、管理センターにあるミーティングルームに、プリ様パーティの一堂は顔を揃えていた。


「きょうは みんな おつかれさまなの。ぷりも おねむなの。でも、こんごのことを はなしあうの。」


 昴の膝に乗っけられているプリ様より、皆に労いの言葉と議題が告げられた。


『そういえば、リーダーだったな……。』


 何でプリの挨拶から始まるんだ? と、考えていた紅葉と和臣は、今更ながらに思い出していた。


「なつこおばちゃんは ななちゃんの おかあさんなの。だけど とおくが みえゆの。てきの いちを さぐったの。」


 なるほど。全く、わからん。

 和臣と紅葉は頭の中が「??????」だらけになっていた。只でさえ、舌の良く回っていないプリ様が、半分寝かかった状態で説明しているので、ほとんど解読不能になっていた。


「スタッフの一人、日村奈津子さんは遠隔視能力を持っているの。彼女に()て貰ったところ、敵の要塞は御蔵島の上空に停泊中である事が判明したわ。」

「うむ、そうなの。」


 リリスが補足し、プリ様が重々しく首肯した。


 お前、本当に理解しているのか?


 紅葉はプリ様に突っ込んでやりたくて、ウズウズしていた。


「クルーザーなら一時間くらいの距離だけど……。」

「いやいや、無理だろう。魔界の海だぞ。」


 その恐ろしさは、前世で嫌という程味わっていた。

 首長竜などは可愛い方で、クラーケンだのヒュドラだの、大型の魔物の巣窟なのだ。


 和臣に否定されて、リリスも深く頷いた。


「此方から攻めて行くのはリスクが大き過ぎる。やって来る敵を迎撃するしかない。」

「それは、つまり、プリの雷撃でダメージを負った敵要塞の修復が終わり次第という事ね?」


 リリスと紅葉の会話に「うむ、そうなの。」とプリ様も口を挟んだ。


「プリ……。あんた、マジでわかってんの?」

「わかってゆの。こんどの たたかいは そうりょくせん なの。」


 あれ? 三歳児にしては大した洞察力だな。

 と思い掛けた紅葉は、後ろに居る昴が耳打ちをしているのに気が付いた。


「その昴も、誰かの書いた脚本(ほん)を読んでいるんだからな。」


 和臣に示唆されて、昴の手元にあるノートに気が付いた。


『誰かって、リリスよね。』


 御三家恐るべし。神輿に、補佐に、実行係を見事に使い分けていた。


「きょうは ゆっくり……やすむの。かんしは しまの……すたっふが してくれゆの。」


 お前(リリス)が直接言えば良いだろ。

 昴の言う通りに、辿々しく語るプリ様を見て、紅葉は思った。


「元々、美柱庵家っていうのは事務方なのよ。」


 澄ましてお茶を啜っていたリリスは、紅葉の考えを読み取ったかの如く、ニッコリ笑って言った。


「では、かいさん……のまえに、りりす。」


 プリ様に名指しされて、リリスはピクッと(まなこ)を上げた。


「とべゆからって、ひとりで ていさつに いったりしては だめなの。くゆ(来る)ときは くゆ(来る)の。どんと かまえていゆの。」


 いきなり、ぶっとい釘を刺されて、呆気に取られた顔をしていたが、やがて、プッと吹き出した。


「ちょっと『行こうかな。』と思ってた。あらあら、プリちゃんにはお見通しなのね。」

「おみとおしなの。」


 プリ様は威張って、胸を張った。




 クラウドフォートレスの子供達も、おネムの時間を迎えていた。

 艦橋で話をしていたオク、ベトール、オフィエルは、眠る為に其処を出た。


「おふぃえる、おまえは てつやで とっかんこうじを しろよ。」


 オクと一緒に寝所に行こうとするオフィエルに、ベトールが突っ込んだ。


「まああ、てつやなんて ひこうりつてきな。これだから のうきん(脳筋)は いやなのですわ。」

「おまえ、なんか すげえ やな せいかくに なっているな。」


 前のオフィエルなら、むしろ率先してやっていた筈だ。


「なんと いわれようと、おくさまとの おたのしみの ほうが、だいじなのですわ。おほほほ。」

「おく、こいつ ぶんなぐっても いいか?」


 ベトールが拳を上げると、オフィエルは慌ててオクの後ろに隠れた。


「だめよ。おふぃえるちゃんを いじめないで。」


 オフィエルは、わざとらしい上目遣いでベトールを睨みながら「おくさま、べとーるが ひどいのぉ。」と甘えた声を出していた。オクも、そんなオフィエルの頭を「よしよし。」と、撫でてやっていた。


「ちぇっ、かってに しろ。」


 舌打ちをして、歩き出すベトールの背中に、オフィエルがアッカンベーをした。


 ベトールはそのまま自分の寝室に行った。舞姫が居ると思って中に入ったら、部屋は真っ暗だった。灯を点けようとして、スィッチに手を伸ばすベトール。


「点けないで。」


 ベッドの辺りで、鋭い声がした。


「私、裸だから。」

「どうしてだ? みずぎと ぱれおは もくにんしているぞ。」


 目を凝らすと、ベッドの上に、タオルケットに包まった舞姫がいた。


「黙認だからよ。正式に許してくれたのではないのでしょ?」

「それが なにか もんだいなのか?」


 少し苛ついたベトールの語調に怯んだが、声を震わせながら話し続けた。


「負けを認めろ、とかアンタに説教するなら、私も潔く家畜の身分を受け入れなくてはいけない、と思ったの……。」


 言っているうちに、段々涙声になって来た。


「私はアンタに負け、暴力に屈して服従した。そして、今は家畜。惨めで辛いけど、それが私の現状。有るがままの私よ。」

「もういいから、みずぎを きろ。」


 切羽詰まった舞姫の様子に気圧されて、珍しくベトールが妥協した。


「良くない。聞いて。アンタは負けから逃げているのよ。そんなんじゃ、プリちゃんって子には勝てないわ。」

「うるさい。なぜだ? なぜ そんなに せっきょう したいのだ?」

「心配なのよ。このままじゃ、アンタ、駄目な子に……。」

「うるさい。うるさい、うるさい。うるさーい。」


 心配している? 馬鹿な。俺は憎い敵ではないか。

 力で舞姫を支配し、従属させていたつもりだったベトールは酷く混乱していた。


 嘘だ。心配などするわけがない。俺を籠絡しようとしているんだ。くそお、生意気な舞姫め……。


「ベトール、聞いてる? 私は……。」

「さまを つけろ、かちく!」


 怒鳴られて、舞姫はビクッと身体を震わせた。


「お願い、ベトール……様。私の言う事に耳を傾けて……。」

「おまえ なにか わすれて ないか?」

「…………?」

「おまえの ちちおやは おれが ころしたんだ。」


 お父さんが……死んだ?

 全身の血が引き、お腹の中に何か重い物が落ちて来た。


「嘘……。」

「うそ じゃないさ。あのあと どうじょうを たずねたら そうしきを やっていたぜ。」


 舞姫の心が千々に乱れていくのが、手に取るようにわかった。


「ベトール……。」

「なんだ? その はんこうてきな めつきは? かちくの みぶんを うけいれたのでは ないのか? この うそつきめ。」

「ベトール!」


 タオルケットを投げ付け、殴りかかろうとしたが、その姿が一瞬で消えた。


「どこを みている。まぬけめ。」


 頭上から、飛び上がっていたベトールが落ちて来た。そのまま身体に乗っかられて、床に押し倒された。


「どうだ。まだ さからうか?」


 うつ伏せにされて、マウントポジションを取られているので、全く何も出来ない状態だが、それでも身体を反らしたり、手足をバタバタと動かして、逃れようとしていた。

 その舞姫の頭を、幼女とは思えない怪力で、ベトールは床に押し付けた。


「すこし あまやかし すぎたようだな。しゅじんに せっきょうなど ずにのるな。」

「……許さない。絶対、許さない!」


 喚く舞姫を無視して、更に頭をグッと押した。彼女は目だけを動かして、ベトールを睨んでいた。


「その()。それこそが おまえの ほんしんだ。しんぱい している だって? この ぎぜんしゃめ。」

「心配してたのに。本当に心配してたのに。お父さんを殺していたなんて……。」


 父親の仇に、ほんの少しでも同情心を寄せていた自分の馬鹿さ加減に、舞姫はボロボロと涙を零した。

 暗闇の中で憎しみがぶつかり合い、二人の感情が鋭くせめぎ合った。


 長い夜の始まりであった。

前にリリスが、中山昌達さんのお見舞いに行くシーンがあったので、大丈夫だとは思いますが、舞姫のお父さんは生きています。

念の為、お断りしておきます。

サブタイトル「ベトールの嘘」も、この事を指しています。

ただでさえ、鬱傾向の強い舞姫絡みのエピソードで、人死にまで出しては、救いがありません。

明るく、楽しいお話作りを目指しています。

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