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豊かな乳房がたわわと揺れて……。

今回、真の主人公のプリ様、裏の主人公の昴ちゃん、影の主人公のリリスは登場しません。

脇役の和臣、脇役でも特に評判の良くない紅葉さんのお話です。

読了後「騙された……。」と思われては申し訳ないので、あらかじめ、申告しておきます。

 テナとアシナは、正直、舌を巻いていた。

 倒れている紅葉を背にした和臣が、驚異的な防御能力を発揮していたからだ。


 彼等は、人間の訓練用に、神の霊力から作られた。なので、火を放ったりだとか、対象を凍りつかせるなどといった能力はない。


 その代わりに、目にも止まらぬ素早さを活かした、格闘能力が特化されていた。それは、人間が鍛えて辿り着ける範疇の「強さ」など、歯牙にも掛けない高みなのだ。


 だからこそ、彼等と相対した者は、魔法や霊能といった特殊な力を駆使せざるを得ない。

 それなのに、和臣は体術のみで、拳や蹴りを寄せ付けずにいた。


「何なのよ。あんた化け物なの?」


 テナが呆れた声を出した。

 一人だけでも手に余る攻撃を、二人分捌いているのだ。


「普通ならば、受けただけで、骨が砕けるのだがな。」


 蹴りを裏拳で受け流されたアシナも呟いた。


 和臣は拳に熱気を纏い、空気の膜をはっていた。攻撃を直接受けるのを避けるのはもちろん、彼等にダメージを与えて、紅葉の身体に影響を及ぼすのを防ぐ為でもあった。


「健気だな。恋人を必死に守るその姿、悪くはないぞ。」

「恋人なんかじゃねえ!」

「またまた、照れなくても良いのよ。」


 喋りながらも、アシナとテナの攻撃が威力を上げた。


 頬がパックリと切れ、血が流れ、骨まで響く衝撃を防御する腕に感じた。それでも和臣は一歩も引かず、むしろ二人を押し返した。


「大したものね。ここまで攻めを返された覚えはないわ。」

「魔法の力を身体の動きにリンクさせているのだろうな。だが、いつ迄もつ?」


 彼等はニヤリと笑った。


「残念ね。一対一なら勝てたかもしれないけど……。」

「そうだな。不甲斐ないパートナーを恨むんだな。」


 確かに、攻撃を防いでいるだけでは、いずれジリ貧だ。状況は絶望的と言えた。

 しかし、和臣は臆する様子も無く、二人を見返した。


「はぁ? 紅葉舐めんな。彼奴がこのままリタイヤする玉かよ。」

「信じてるのねぇ、彼女を。可愛い。」

「フッ、お前に寄っ掛かって生きてる女なのにか?」


 アシナの嘲笑に目を剥く和臣。


「寄っ掛かってる? 上等だよ。寄り掛かろうが何だろうが、彼奴は必ず立ち上がる。良い加減で我儘だけど、仲間を見捨てて眼前の戦いを放棄する奴じゃないんだ。」


 その叫びに揺り動かされたかの様に、紅葉が立ち上がった。

 和臣の「信じる心」が奇跡をおこしたのか?


「何でよ……。」


 起き上がりざま、紅葉は叫んだ。


「何で、そんなに私を信用しているのよ。死んだ振りして、やり過ごそうとしていたのに、出来なくなっちゃったじゃない!」


 …………、辺りを静寂が包み込んだ。


 見れば、さほどダメージを受けている様子も無い。恐らく、先程のアシナの攻撃も、辛うじて躱していたのだろう。


「サイテ〜……。」


 ポツリとテナが呟いた。アシナは額に手を当てて溜息を吐いていた。


「あまりにも和臣が哀れだな……。」

「三百年生きて来たけど、こんな碌でなし初めてよ。」

「ちょっ、ちょっと待ってよ。本物の碌でなしなら、最後まで寝た振りしているでしょ?」


 アシナとテナの非難に、慌てて弁解する紅葉。


「あんた、こんな女とは別れなさい。」

「そうだな。此奴だけは駄目だ。」


 衷心から同情する表情で言われたが、和臣は微笑んだだけだった。


「これくらいで凹んでいたら、此奴の側にはいられないよ。」

「ああっ、やめて。優しくしないで。いっそ蔑んでよ〜。」


 紅葉は羞恥に身体を捩った。


「起き上がったからには、ちゃんと働け。俺が攻撃を防いでいる間に、テナの勾玉を砕け!」

「命令すんな。これで私の上に立ったとか感違いするなよ。」


 言い返しながら、紅葉は呪文を詠唱していた。器用な奴である。


「ちょっとぉ。何で、私なのよ。」


 標的にされたテナが膨れた。


「そのゴッツイ顔に女言葉が気持ちわるいから!」


 紅葉と和臣の声がハモり「月面を穿つ隕石メテオ・ストライク・ルナ・サーフェス」が放たれた。小さな石コロくらいの念の塊だ。


「何よ、こんなショボい技。弾き返して……。」


 弾き返してやろうとしたが出来なかった。途中からテナの認識を超越した速度と動きをし、自分の身体を庇うテナの両の腕を潜って、勾玉に直撃した。


「ウッソー。」


 信じられない、という声が上がった。

 玉は砕け散り、テナは消え去った。


「何故だ? さっきまで全く能力(ちから)のコントロールなど出来ていなかったのに。」

「はぁ、はぁ。こ、ここで外したら、格好悪過ぎるでしょ。」


 アシナの疑問に答えながら、全精力を使い果たした紅葉が、その場にへたり込んだ。


「も、もう私動けないから。ホントだから。あんた、あのクソ女にキッチリトドメさしなさい。可愛い婚約者の私を侮蔑した憎い敵よ。」

「可愛くもないし、婚約者でもないけどな。ってか、お前こそ俺に命令するな。」


 和臣はアシナに向き直った。


「認めてやろう。お前達の強さは本物だ。あの女の性根は腐っているが、実力は実力だ。」

「い、一々、私の悪口を言うな。はぁ、はぁ。」


 そんな息も絶え絶えの状態で言い返すなよ。呆れた負けず嫌いだな。

 と和臣は思った。


「おい、アシナ。もう、わかっているだろ? 俺は完璧にお前の攻撃をブロック出来る。勝ち目はないぞ。」

「だから、命乞いでもしろと言うのか?」


 薄く笑うアシナ。


「気にするな。私達は本来人間に倒されるのが役目なのだ。早く倒されたいぐらいなのだ。この三百年は本当に不本意だった。」


 アシナの頭には、今迄の修行者達が走馬灯の様に浮かんだ。


「皆、高邁な理想を持った高潔な者達だったがな。それでは駄目だったのだな。人間のクズみたいな、あんな女こそが、戦場では役に立つという事か……。」


 最早、クズ扱い。

 何とか言い返してやろうと思ったが、声を出せず、紅葉はゼイゼイと胸を波打たせた。


「それでは行くぞ、和臣。」


 アシナは思いっ切り胸を張り「うおおおおおおぉぉぉ!!」と大音量の雄叫びを上げた。可視出来る程のオーラが迸り、辺りの空気も歪んで見えた。明らかに今迄と違う。


「手加減してくれていたと言う訳か。それが本気か。」

「油断していたテナと一緒にするなよ。」


 更にグッと力を入れると、上半身の服が弾け飛び、サラシに巻かれても、なお豊かな乳房がたわわと揺れて……。


「お、お前。それは卑怯だろ。」


 和臣が鼻血を抑えながら言った。


「何が卑怯だ。全力で行く。このアシナ、容赦せん。」


 天然か。わかってないのか。

 クソ、まともに見られない。集中だ。集中するんだ。逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。

 これは戦いなんだ。俺はスケベじゃないんだ。ちゃんと見ないといけないんだ。あのオッパイを。見るんだオッパイを。凝視するんだ。


 いや、オッパイばかり見ててもマズイ。


 突然、視界に飛び込んで来た、顔面を砕く勢いの蹴りを何とか避けた。


「どうした? 和臣。お前が死ねば、次は紅葉を()るぞ。それでも良いのか?」


 俺が倒れれば紅葉も死ぬ!?


「最高の力を見せてみろ!」


 アシナはオッパイをブルンと震わせ、超スピードで右ストレートを繰り出した。間違いなく音速は越えていた。


 和臣は、体内の魔法子の力で身体能力を極限まで高めつつ、空間中に存在する魔法子を取り込み、右の拳を炎の塊としていた。


 狙うは一つ、あの胸の谷間にある勾玉だ。


 バキッと、二人の右腕が交差した。


「あっちぃ。」


 一瞬、紅葉の胸に灼けるような痛みが走ったが、本当に一瞬だった。

 勾玉が溶け落ち、アシナが散ると、その痛みは消えていた。


「か、勝ったぁ。」


 和臣も精神力を使い果たし、膝を折って、その場に仰向けに倒れた。


『柔らかかった……。』


 ちょっと触れた豊満な乳房の感触がまだ右の拳に残っていた。その余韻に浸っていたら……。


「ちょっと和臣、熱かったじゃない。」


 這って近付いた紅葉が、その右拳を掴んだ。


『止めろ。余韻が消える。余韻が……。』


 和臣の願い虚しく、残っていた感触は、紅葉の掌のそれに置き換わってしまった。


「ほら見てよ。胸元火傷したみたいよ。」


 紅葉はチューブタンクトップを引っ張った。


 って、止めろ。中身が見える。


 見ちゃいけないと思いながらも視線がそちらに泳いで行く。その様子に紅葉はニッコリと笑いを浮かべた。


「見たいなら見せて上げるよ。」


 妖艶な微笑みに魅せられて、ゴクリと唾を飲み込む和臣。


「ただし、婚約してくれるなら、だよ。」


 罠だー。やっぱり罠だー。

 和臣は慌て目を逸らした。











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