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私はオモチャじゃないの

 今、クラウドフォートレスは、かつて御蔵島であった場所の上空に止まっていた。

 島の形こそ変わってないが、その土地の上には不気味な草木が生い茂り、醜悪な魔獣達が闊歩していた。


「ええい、いまいましい。」


 舞姫を連れ、一旦自室に戻ったベトールは、部屋中の調度品を蹴飛ばし回った。舞姫はベッドに腰掛けて、その様子を冷ややかに見ていた。


『何だか知らないけど、負けたみたいね。』


 舞姫には船外での雷攻撃の応酬など知る由もなかったが、ベトールが悔しがっているのはわかった。


『いい気味。』


 そう思っていたのが表情にも出ていたのだろう。ベトールがキッと彼女を睨んだ。


「たのしそうだな、まいき。」


 そう言われ、舞姫は唇を噛んだ。呼び捨てにされるのは未だに慣れない。自分が見下されているみたいで頭に来た。


 ベトールは黙って舞姫に近付くと、腰に巻いていたバスタオルを剥ぎ取った。


「あっ。か、返して……。」


 舞姫の訴えを無視して、ベトールはそれで汗を拭くと、ご丁寧に雷を浴びせて、燃やしてしまった。


「ひ、酷い。何で、そんな意地悪するの。」

「うるさい!」


 何こいつ、完全に八つ当たりじゃない。

 舞姫の胸中に溜まっていた、今迄の不満や反発心が爆発した。


「負けたんでしょ。それで無様に八つ当たりしているんだ。みっともない。」

「なんだとぉ。」


 ベトールが舞姫に躍りかかり、彼女はベッドに押し倒された。


「これも ぼっしゅうだ。かちくの ぶんざいで なまいきだ。」

「ちょっと……、止めてよ。変態。」


 ベトールは馬乗りになって舞姫の旧型スクール水着を脱がせにかかった。


「止めろー。あんたなんか、さっき……。」


 震えていたくせに。と言い掛けて、口を噤んだ。

 それを言えばベトールをペシャンコにする事は出来る。しかし、彼女の心を深く傷付けてしまうのは確実だ。


 そこまで言ってはいけない。


 抵抗する舞姫の腕から、力が抜けた。


「お願いよ。もう、許して……。」


 弱々しく懇願する舞姫の言葉に、それを降参の合図だと受け取ったベトールは、フンと鼻を鳴らした。勝ち誇った顔で彼女を見下ろし、その心中を推し量ろうともしなかった。


 舞姫は切ない溜息を一つ洩らした。




 一方、雲隠島。

 ひとまず敵は去ったが、まだ油断出来ないと、プリ様達は考えていた。


「ななちゃん、なきやんだの。」

「ありがとう。符璃叢様のおかげよ。」


 スヤスヤと眠る奈々を見ながら、プリ様は今更ながら冷汗をかいていた。

 雷撃勝負、もし自分が負けていたら、どうなっていただろう。いや、それ以前に、この島に着いた時の異世界化の波を止められていなかったら……。


 これが世界を守るという事なんだ。


「すばゆ……。」


 プリ様は知らずに、昴のメイド服のスカートを掴んでいた。


「あれあれ、どうしたんですか? プリ様。もしかして、奈々ちゃんみたいに甘やかして欲しくなったんですか。」

「ちがうの。ばくぜんとした ふあんを かんじたの。いつまでも、あかちゃん あつかいしないで……。」


 言い終わるより先に、昴が抱き付いていた。


 まあ、いっか。

 プリ様は思い、昴に身を任せた。


『こんどこそ、ぷりぷりきゅーてぃぜぶらさんだーまっくすで、けりを つけるの。』


 頬ずりしてくる昴のホッペの柔らかさを感じながら、そう思っていた。

 ……、どこまで本気だ? プリ様。


 その後、プリ様、昴、リリスの三人は管理センターに移動した。


 周り全部が異世界になっているので、レーダーも効かない状態だ。島の一番高い所で、敵襲に備えて、目視警戒するしかない。


 その監視小屋からの情報が来た時に、すぐ対応出来るよう、指令室近くの休憩所に籠る事にしたのだ。


 プリ様はテーブルの上にニール君をのせて、お手やお座りをさせていた。


「あらあら、ニール君はお利口ね。プリちゃんが躾けたの?」

「ちがうの。にーゆくんは ぷりが うまれたときから いっしょなの。」

「何でも、胡蝶蘭様がプリ様を連れて、産院から家に帰る途中、いつの間にか、ついて来たそうなんです。」


 リリスの質問に、プリ様と昴の二人が答えた。


『そういえば、ニール君……だけじゃなくて、銀魚もグレイさんのケージも、異世界化の影響を受けない。まるで神の祝福を受けているみたいに……。』


 この武器は、神トールの名を頂いた時に貰ったんだ。


 不意に前世のトールの言葉がリリスの脳裏をよぎった。


 ニール君=ミョルニル

 銀魚=メギンギョルズ

 グレイ=ヤールングレイプル


「繋がったぁ!」


 突然、リリスが叫び、プリ様とニール君は吃驚して彼女を見た。昴は怯えて、プリ様にしがみ付いていた。

 気分が高揚していたリリスは、さっそく自説を披露した。


「話はわかりましたけどぉ……。」


 聞き終えた昴が、遠慮がちに口を開いた。


「もしそうだとして、どうすればニール君がミョルニルになるんですか?」


 言われて、リリスもハタと困った。


 確かにどうすればいいの? お湯かけて三分待つのかしら?


『繋がったと思ったんだけどな……。』


 リリスはニール君を抱っこして上げているプリ様を見ながら、また頭を抱えていた。




 再び、クラウドフォートレス。


 何なの? この状態。


 舞姫は困惑していた。

 旧型スクール水着の没収は免れたものの、自分に馬乗りになっていたベトールが、そのままピッタリと抱き付いて来たのだ。


 眠ってしまったのかと思ったが、そうでもないらしい。

 ベトールの小さなお手手が舞姫の身体の表面をなぞるように動いた。「うひゃぁぁ……。」と心の中で声を上げ、ビクンと身体を反らす舞姫。


 くすぐったいから止めて……。

 と思ったが、また機嫌を損ねて「没収。」とか言い出すと面倒なので、されるがままになっていた。


 その後、胸に頬ずりもされた。舞姫は身動きも出来ず、ベッドに仰向けになったまま、ベトールの体重を感じていた。


『これって……。こいつ、私に甘えているの?』


 そう思い至ったら、涙が出て来た。


『止めてよね。私はあんたの感情の捌け口なんかじゃない。オモチャじゃないの。都合良く私を利用しないで。』


 何故だか悔しくて、涙が止まらなかった。


「あらぁ、おじゃま だったかしら?」


 その時、突然部屋のドアが開いて、オクが入って来た。


「おく!?」


 ベトールは吃驚して跳ね起き、急いでベッドからおりた。

 舞姫は泣いている顔を見られたくなくて、寝返りを打って、オクに背を向けた。


「おまえ、どうやって ここに?」

「おふぃえるちゃんの こがたひこうきに のせてもらって きたの。」

「なんで……。」

「くらうどふぉーとれす、ひどく やられたんでしょ? しゅうりに きてあげたの。あと、おみやげも。」

「おみやげ?」


 その頃、オフィエルは艦内のゴブリンやオークを一列に並ばせ、お土産である「イカロスの翼」を彼等に付けていた。

 これはどんな魔物でも飛行タイプにしてしまう、オフィエル手製の逸品であった。


「くらうどふぉーとれすに かんさいき(艦載機)が できたようなものね。こんどは かずで せめられるわよ。」


 そう言いながら、オクは面白そうに舞姫を見た。


「まいきちゃん、まだ にんげんの ままなのね。」


 まだ人間のまま?

 それを聞いた舞姫は、振り返って、オクを見た。


「どういう事? 人間のままって……。」

「ここはね、いせかい なのよ。ふつうなら あなたの そんざいは まものに おきかえられて しまうの。」

「お、置き換えられたら、私はどうなるの?」

「じくうの はざまで、ふかくていな そんざいとして ただよい つづけるの。」


 背筋に冷たいものが走り、舞姫は思わず自分の身体を抱いた。


「りっかのいちようの ちから、まいきちゃんの おきかわりを ふせぐのに つかっているんでしょ?」

「わずかな ちからだ。もんだいない。」


 オクの問いに、ベトールはムキになって答えた。


「ぜんりょくで いかないと ぷりちゃんには かてないと おもうけど……。」


 オクは微笑みながら言った。


「まあ、いいわ。せっかく おみやげを もってきたのだもの。つぎは じんかいせんじゅつで やってみたら?」


 言われるまでもない。

 と、ベトールは右手の甲にある六花の一葉を掲げた。


 クラウドフォートレス艦底のハッチが開き、翼を付けた魔物達が一斉に飛び出した。

 目指すは雲隠島。第二ラウンドの始まりであった。





オフィエルといい、ベトールといい、七大天使は何故すぐに人の着ている物を脱がそうとするのでしょう?

これでは幼女神聖同盟ではなく、幼女変態同盟です。

困ったものです。

私がエッチな人間だと思われてしまうので、そういう行為は慎んで欲しいものです。

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