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ボスは新橋だ

今回、いたいけな昴ちゃんがいぢめられるエピソードがあります。

ソフトな描写を心掛けましたが、読んでいて「もうダメ。」「可哀想過ぎる。」「昴タン、はぁはぁ。」と言う方は、サブタイトルを読めば内容は充分わかるようになっています。

「きゃあああぁぁぁ。プリ様、プリ様、プリ様ぁぁぁ。ご無事ですか? お怪我はありませんか? 蹴られた所痛くありませんか? ああぁぁぁ、お可哀想に。ダメですよ。もう、絶対に私の傍を離れてはいけませんよ。昴は心配で胸が張り裂けそうでした。嘘じゃありませんよ。ほら、見てご覧なさい。ほら、ほら。立派でした。確かにプリ様はご立派でした。使えない下人達に代わって、見事悪を成敗されたのですから。でももう、これ切りにして下さいましね? 約束ですよ。約束しましたよ。はい、指切りげんまん。あら、可愛らしいお指。プリ様ったら可愛らし過ぎです。ああ、プリ様、プリ様ぁぁぁ。」


 ああ、煩い。


 抱き付いて、頰ずりして、自分の胸に顔を押し当てて、指切りげんまんして、更にその手を握り締めて、また抱き付いて、頰ずりして、以下エンドレスループを昴が繰り返している間、プリ様はゲンナリした顔で為すがままになっていた。


「あんた、今、ツラっと私達を『使えない下人。』って言ったわね。」

「えっ、いや、そんな事言ってない……と思いますよ。」


 紅葉はフンと鼻を鳴らした。


「あんたさあ、ちょっとプリに依存し過ぎじゃないの?」

「プリ様に依存って……、何言っているんですか? プリ様はお小さいんだから、私がお世話を申し上げているんです。」


 そう言っている間にも、昴はプリ様をギューッと抱き締めていて、胸の谷間に埋もれたプリ様は窒息しそうになっていた。


「そういえば、エロイーズもそうだったわ。にっくき敵、とか、必ず殺してやる、とか言いながら、べったりトールに依存していたものね。」


 嘆息しながら言う紅葉をキョトンとした目で昴は見ていた。


「随分複雑そうな人だったんですね。その……エロイーズさんって。」

「……、あんたの事だから。」


 その時、外を見回っていた和臣が戻って来た。


「完全に前世の世界のダンジョンだな。少なくとも、銀座線の軌道敷設内は異世界になっていると見るべきだろうな。」


 窓から見えるトンネルも、鐘乳石が垂れ下がる洞窟になっていた。


「となると、駅や他の列車内にいる人達も何らかの魔物と化している可能性が高いな。」


「はーい。」と昴が手を上げた。


「どうして私達は魔物に成っていないんですか?」

「俺達は前世で全員がそれぞれの神に祝福と加護を受けているからだろうな。」

「なら、私は……。」

「あんたは成っているから。エロイーズという魔族に姿が変わっているから。忘れているんなら、何度でも鏡を見せて上げるから。」

「いやー。見たくないぃぃ。見せないでー。」


 現在の自分のあられもない姿を再確認させられ、昴は啜り泣いた。


「そもそも、どうしてエロイーズさんはこんなエッチな格好をしているんですか? 魔族って、皆露出狂なんですか?」


「いや、それは……。」と説明しかけた和臣を紅葉が遮った。


「と、とにかく、何処かの駅にボスがいる筈よ。私達の経験上、そいつを倒せば元に戻るわ。」

「何処かの駅って、何処ですか?」

「やっぱり終点か? 浅草か、渋谷。」


 ちなみに、現在地は京橋から銀座に向かっている途中である。


「ちょうど真ん中辺りなんだよな。」

「間違ったら、反対側の終点まで戻らなければいけないわよ。」


 それも徒歩である。考えただけで、うんざりした。


「しんばしなの。」


 突然、プリ様の声が響いた。手に羊皮紙らしき物を持っている。


「プリ様、何処に行っていたんです? もう昴の傍を離れないと約束しましたよね?」

「しんばし、行くの。」

「プリ様、腹切り最中大好きですものね。心配しなくても、ちゃあんと新橋には寄りますよ。」

「ちがうの。しんばし、しんばしなの。」


 プリ様は癇癪を起こして羊皮紙を振り回した。


「待って。プリ、その羊皮紙は何処で見つけたの?」

「でんしゃのいーだーたおしたの。たかやばこあゆの。」

「この列車のリーダーであるホブゴブリンを倒した。彼の居た部屋には宝箱があるのではないかと思い、捜索したらあった。と仰せです。」

「でかした。見せてみな、プリ。」


 受け取った羊皮紙を紅葉が開いてみたら、そこにはこう書かれていた。


ダンジョンボス(だんじょんぼす)は、しんばしにいるよ。』


 信じて良いのか? これ。覗き込んだ和臣も首を捻っている。


「プイね、ひやがななやよめゆの。」

「プリね、ひらがななら読めるの。」


 昴が「私がプリ様の代弁者です。」とばかりに、すかさず通訳したが、紅葉は「もう、解るから。」と冷たく手を振った。


「プリは舌が回らなくて、ラ行がヤ行になるのよね。でも、ひらがなが読めるなんて偉いぞ。」


 紅葉から頭を撫でられて、プリ様は嬉しげにはしゃいだ。


「もみじ、もみじ。こえはね、ぷいぷいきゅーてぃ。」


 プリ様はポシェットに書かれている、プリプリキューティの文字を見せて言った。


「カタカナも読めるんだ?」

「ぷいぷいきゅーてぃはね。よめゆ!」

「やっけるぞ、悪の手先! 癒してあげます、皆の心! 私達はプリプリキューティ!」

「きゃああ。しょだい、しょだい。」


 紅葉が初代プリプリキューティの真似を振り付きでやってやると、プリ様は狂喜乱舞した。すっかり懐いて「もみじ、もみじ。」とまとわりついている。


「プリ様……、私も出来ますよ。私なんて今やってる魔女っこプリプリキューティですよ。」


 遠慮がちに昴が声を掛けた。


「すばゆはてえがあるの。へたくそなの。」

「昴は照れがあるから駄目だって。下手くそは引っ込んでろって。」


 昴は恨めしげに紅葉を見て、フイと横を向いて呟いた。


「初代なんて、オバさんしか知らないもん。」

「あんた何か言った?」

「い、言ってませんよ。オバ……紅葉さん。」

「今からでも魔物として始末してやっても良いのよ。私達がボスを倒すまで死体になって此処に転がっておく?」


 紅葉が拳を上げた。昴はビクッと身体を竦め、涙目で首をフルフル振った。


「ごめんなさいは?」

「ご、ごめんなさい……。」

「じゃあ、今からあんたは私達の奴隷ね。」

「な、何でですか……?」

「エロイーズは私達の奴隷だったのよ。その生まれ変わりのあんたも当然の権利として奴隷に出来るの。」

「そ、そんなの無茶苦茶ですぅ。」

「は? 逆らうの? なら死ぬ?」


 プリ様〜、と助けを求めようとしたが、プリ様は和臣にも褒めて貰おうと、彼の持っている羊皮紙の字を読んでいる最中で、全く此方を見てなかった。


「ほら、どうするの? 身体を三分割して上げようか?」

「ひいいぃぃぃ。ゆ、許して下さいぃぃぃ。」

「じゃあ、貴女は私の何?」

「ど、奴隷……で……す。」

「プリ様の歓心を奪った憎い女よ? その女に服従するの?」

「ううぅぅっ。えぐっ。えーん。」

「泣いても無駄よ。ちゃんと返事をなさい。」

「ううっ、私は……オバ、紅葉様に服従……しますぅぅ。」


 昴(=エロイーズ)の泣きっ面を見ながら、紅葉はゾクゾクする快感を背中に感じていた。


『そうそう、これよ。この女を屈従させるのが、前世から大好きだったのよ。くーっ、この屈辱に震える細い肩。堪らないわ。』


 変態であった。








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