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ぷりぷりきゅーてぃおーるてんねんしよくさんだー なの

「どう見ても、雨雲や雷雲ではないわよね。」


 指令室の大スクリーンに映し出された映像を見て、リリスは呟いた。

 普通の白い雲が、不自然に雷を放出して、結界に包まれたこの島を揺らしているのだ。


「物凄いエネルギーですが、地脈の力も利用して張られた結界です。そう簡単には破られませんよ。」


 サイクロン魔法陣の開発主任が威張って言った。

 とは言っても、このままでは何時までもつか……。


『私が出て行って攻撃するしかないか……。』


 しかし、自分一人では火力が足りない気がする。


『やっぱり、プリちゃんに頼るしかないのか。』


 忸怩たる思いで、唇を噛むリリス。


 前世、クレオはトールを伴って死地に向かうのに、何の躊躇いもなかった。彼は彼女が認めた唯一の戦士であり、二人なら、どんなピンチも乗り越える自信があった。


 今、リリスがプリ様に寄せる信頼感も、前世と何ら変わらないが、立ち位置が微妙に違っていた。現世では血の繋がりがあり、一族内の年少者なのだ。庇護を施すのが当然の相手に頼るのは、人間の自然な本能として抵抗があった。


『私がもっと強ければ……。』


 力は有るに越した事はない。全てを凌駕する、絶対的な力が有れば……。


『……、こういう思考回路が危険というわけね。』


 リリスは頭を振った。


『プリちゃんに助けてもらおう。情け無いけど、私は等身大の私として、出来る事をやらねば。』


 この切り換えの早さが、リリスという女の恐ろしさである。感情やプライドに、状況判断が左右されないのだ。




 そのプリ様は、昴に銀魚をつけてもらい、ニール君の籠を掴むと、急ぎ管理センターに向かっていた。


 だが、玄関を出た所で、激しく泣き喚く赤ん坊の声を聞いて、立ち止まった。そこでは、奈津子が困り果てた様子で奈々をあやしていた。


「あらあ、赤ちゃん。」


 昴も彼女達を見付けて、声を発した。


「ななちゃん、ないてゆの?」

「ああ、符璃叢様と……。」


 奈津子は昴を見て、微妙な表情になった。


「す、昴様……?」

「すばゆ、なつこおばちゃんと、ななちゃんなの。」


 言いながら、プリ様も奈々のご機嫌を取っているが、一向に泣き止む気配がない。

 そうこうしているうちに、また大きな振動を感じ、奈々はさらに大声を上げて泣き始めた。


「ほらあ、怖くない。怖くない。」


 ひきつけを起こすのではないかと、奈津子は必死で奈々を静めようとしていた。


「もとから たたなきゃ だめなの。」


 プリ様は島を覆う様に上空に留まっている、大きな白い雲を見上げた。もはや、スクリーンで見るまでもなく、頭の上にまで接近していたのだ。


「プリちゃん、ちょうど良かったわ。」


 管理センターを出て、プリ様の所に向かっていたリリスが、そのお姿を見付けて、駆け寄って来た。


「もう一度、私と飛んで……。」


 リリスの言葉は、地上から立ち昇った凄まじい雷の轟音で、かき消された。プリ様が白い雲を指して右手の人差し指を突き出し、その先端から目も眩む閃光が放たれたのだ。


 稲妻は結界を突き破り、白い雲、クラウドフォートレスを直撃した。


 驚いたのは、艦橋でケラウノスを振るって、雷を起こしていたベトールだ。一瞬、ケラウノスが暴発したのかと疑った。

 だが、報告に来たゴブリンによって、地上から攻撃を受けた事を知ると、やっと前にオクから聞かされていた話を思い出した。


『ぷりと いうやつか。あらとろんを たおした。』


 アラトロンと割合仲の良かったオフィエルは彼女に同情的だったが、ベトールは内心軽蔑していた。六花の一葉も持たぬ、ただの幼女に破られ去るなど、七大天使の恥晒しだとさえ思っていた。


 しかし、この攻撃は何だ? 正直、このクラウドフォートレスに一撃与えられる奴など存在しないと思っていた。多少の抵抗勢力など、無人の野を行くが如く、蹴散らせてやれると信じていたのだ。


『したから うえに かみなりを はなつだと? ひじょうしきな やつめ。』


 ここで、プリ様の名誉の為に言っておくが、下から上への放電現象は、自然界でもないわけではない。


 艦長席に座っていたベトールは立ち上がった。艦長席と言っても、この艦橋にそれ以外の席は無い。クラウドフォートレスは、ベトールの思念によって全ての管理運営が出来るので、他にスタッフなどは要らなかった。ゴブリンやオークは戦闘員として乗せているに過ぎない。


「おもしろい! ぷり、しょうぶだ。」


 彼女は目を瞑り、神経を集中させた。七大天使の超能力で、自分への攻撃を探っているのだ。


 下で誰かの意識が弾けた。

 来る! ベトールはケラウノスを振った。

 結界の屋根の上と、クラウドフォートレス船底の間で、激しく雷がぶつかり合い、散る火花。

 だが、下からの雷は僅かに押し負け、結界の外壁にピリピリと電気が流れた。


「みたか、ぷりめ! おれの かみなりの ほうが つよい。」


 一方地上では、自分の攻撃を邪魔されたのを知ったプリ様が、頭上の雲を睨み付けていた。


「ど、どうしましょう、プリ様ぁ。」


 動揺する昴に、プリ様はニッと笑いかけた。


「だいじょぶなの。いままでのは ぷりぷりきゅーてぃぜぶらさんだー なの。こんどは ぷりぷりきゅーてぃおーるてんねんしょくさんだー をつかうの。」


 それって名前が変わっただけなんじゃ……、リリスと奈津子が突っ込みそうになった時、プリ様は今度は右の掌を開いて、天高く突き出した。


「ぷりぷりきゅーてぃおーるてんねんしょくさんだー!!」


 来る! と予測出来ていたのに、怒涛の如く昇り上がって来る雷を抑えきれず、クラウドフォートレスは再び打撃を受けた。

 艦が大きく揺れ、沈むのではないかという心配に、館内中の魔物達がどよめいた。


「ばかな、ばかな、ばかなっー!」


 ベトールは怒り狂い、ケラウノスを滅茶苦茶に振り回した。そこから放出された幾つもの雷も、ことごとくプリ様の雷に迎撃された。


「うそだ……。」


 呆然とした面持ちで、立ち尽くすベトール。


「しんじぬ。しんじぬぞぉ。おれは むてきだ。さいきょう なのだー。」


 その叫びに呼応するように、再び下からの突き上げを受け、船体が傾いた。


「まいきを、まいきを つれてこい。」


 伝令管に向かって怒鳴ると、程なくして、オークが肩に舞姫を担いで来た。


「な、何? ベトール……様。」


 乱暴に投げ出され、打ったお尻を摩りながら、舞姫は聞いた。


「その いすに すわれ。」


 ベトールは最前まで、自分の座っていた椅子を指差した。舞姫は疑問に思いながらも、恐る恐る腰掛けた。

 その様子を満足気に見ていたベトールは、おもむろに舞姫の太腿の上に腰を下ろした。


「ひっ……。」

「なんだ。いやなのか。」


 悲鳴を上げた舞姫を、不満そうにベトールが見た。


「い、いや。突然だったから……。」


 まさか、そんな行為に出るとは思ってなかったのだ。

 ベトールはフンと鼻を鳴らし、もう舞姫の方は振り返らなかった。


『さて、どうする。どうすれば いいのだ?』


 ベトールは親指の爪を噛みながら考えていた。


『このまま、ぷりの こうげきを うけつづければ、しずんで しまうかもしれぬ。」


 オフィエル自慢の装甲だが、それにも限度があるだろう。


 舞姫は沈思黙考中のベトールを、黙って膝に抱えていたが、おやっと気が付いた。


『もしかして、この子震えている……?』


 微かに身体が振動していると感じたのだ。


『やむをえん。にげるのは しゅみでは ないが、いったん ひこう。らいげきの とどかない じょうくうまで。』


 舞姫の温かくて柔らかい身体に身を預けていると、思考も柔軟になって来たのか、ベトールは一時撤退を決意した。

 その彼女の思考波を受けて、クラウドフォートレスは上昇を始めた。


『みえないほど たかくのぼれば さすがの ぷりでも。』


 それは甘い考えだった。成層圏を越え、中間圏にまで達していたクラウドフォートレスに、地上からプリプリキューティオール天然色サンダーが直撃したのだ。


「ばけものかっ!」


 ベトールは叫び、クラウドフォートレスは雲隠島上空からの撤退までも余儀無くされた。


 そのクラウドフォートレスを見ていたプリ様は「しとめられなかったの。」と悔しがっていたが、彼女の凄まじい攻撃力を目の当たりにしたリリスと奈津子は『いや、充分だから。』と思っていた。


「でも、だいじょぶなの。つぎこそは ぷりぷりきゅーてぃぜぶらさんだーまっくすで やっつけてやるの。」


 それを聞いた昴は「凄い、凄い。プリ様凄ーい。」と飛び跳ねたが、「それって名前が変わっただけなんじゃ……。」と、迂闊な奈津子はとうとう口に出して言ってしまっていた。









物凄く私事なのですが、とうとう地獄の七日間連続勤務が始まりました。

ありのままに今起こっている事を話しますと、一週間に七日働くのです。

身体がどうにかなりそうです。

何を言っているかわからないと思いますが、私も何をされているのかわかりません。

超過勤務だとか、労働基準法違反だとか、そんなチャチなものでは断じてない、もっと恐ろしいブラック企業の片鱗を味わってます。



…………、死ぬかもしれません。いや、死ぬでしょう。

今度生まれて来る時は、地中海沿いにある、小さな街に住む猫に生まれたいです。

石造りの街をノンビリ散歩し、美少女の飼主の胸に抱かれて眠るのです。

もしかしたら、岩合さんが来て写真を撮ってくれるかもしれません。

そんな生活を送りたいです。

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