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幼女三日会わざれば刮目して見よ

 物語は少し遡る。


 ベトールはAT THE BACK OF THE NORTH WINDからの出立を前に、昂ぶる気持ちを抑えられないでいた。何かせずにはいられず、今迄根城にしていた道場に火を放ち、その燃え上がる炎に己が身を照らしていた。


「ふたいてんの かくごを しめしたのですね。ごりっぱ でしてよ。」


 後ろから声をかけられ、振り返った。


「もっとも、いちど しゅつじん したら、もう ここには もどって こられないの ですけど。」


 そこには茶髪をツインテールにした小柄な幼女が立っていた。


「ええと、どちらさま?」

「いやですわ。わたくし でしてよ。おふぃえる ですわ。」


 ふたりは暫し見つめ合った。沈黙が辺りを支配していた。


「おふぃえる……? いわれてみれば そうか……。」


 ベトールは穴の開く程、オフィエルの顔を見詰めた。確かにオフィエルだ。でも、何か違う気もする。


「それよりも、あなたの きかん(旗艦) くらうどふぉーとれすの ちょうせいが おわりましたの。わたしの さいこうけっさく ですわ。ごぞんぶんに おたたかい ください。きっぽうを おまちして ますわ。おっーほほほほほ。」

「いや、おまえ だれだよ。」


 オフィエルはもっとこう、イラっと来る喋り方だっただろ。今の喋り方も、別の意味でイラっと来るが……。


「……おふぃえる ですわ。」


 小さなオフィエルは拗ねた表情で、背の高いベトールを見上げた。そんな顔も絶対にしなかっただろ、とベトールは思った。


「ようじょ みっかあわざれば(三日会わざれば) かつもくしてみよ(刮目して見よ) よ。」


 オフィエルの後ろからオクが近付いて来た。


「せいちょうきの ようじょは すこし みないあいだにも かわるのよ。」


 オクを見付けたオフィエルは、目を輝かせて抱き付いた。


「おくさま〜。かわいがってくださいませ〜。」

「はいはい。あとでね。たっぷり かわいがってあげるわ。」

「やぁだ。おくさまの えっち。」

「……おまえら どんな かんけいに なったんだよ。」


 ベトールはべったりオクにしがみ付くオフィエルを見て、呆れた声を出した。


「まあ、いい。これから しゅつじんする おれには かんけいない ことだ。」

いずしょとう(伊豆諸島)せいふく。がんばってね。」


 ベトールが支配すると決めたのは伊豆諸島だった。確かに、この島々も東京都だ。大島を起点として、航路の様に細長く海を含みながら、異世界にするのだ。


 それから三人はテレポートをした。このAT THE BACK OF THE NORTH WIND内では、七大天使は念ずるだけで、瞬間に移動出来る。ただ一つ、オクの居城内でだけは、二本の足で歩かなければならなかった。


 三人が来たのは大きなサッカーグラウンドだ。その上空にはグラウンド全体を覆う程の巨大な雲がかかっていた。


「くもに しか みえませんでしょ?」


 オフィエルが自慢気に言った。


「あいぬの しんよう(神謡) にある、かみさまの のりものを ひんとに しましたの。」


 根拠地を出れば、通常空間を移動せねばならない。ベトールのように、島嶼部に行くのなら、動ける要塞があった方が良いだろうと、オクが用意させたのだ。


「さすがね、おふぃえるちゃん。わたしが ちょっと さずけた ちしきで ここまでの ものを つくるなんて。」


 オクに褒められたオフィエルは、目をウルウルとさせて、彼女に抱き付いた。


「おほめに あずかり こうえいで ございます。ごほうびは……?」

「はいはい。じゃあ あとで うなじを すりすりして あげるわ。」


 どんなご褒美だよ、とベトールは思ったが、それを想像するだけで快感らしく、オフィエルは身体をくねらせて悶絶していた。


「まあ、おまえら かってに やってろ。おれは いくぜ。」


 クラウドフォートレスの搭乗口に向かったベトールを、オクが呼び止めた。


「つみにの なかに まいきちゃんが いるみたいだけど、やっぱり かえさなかったのね。」


 言われたベトールは、バツの悪そうな表情でオクを見た。


「あいつを てもとに おいているのは べんりだからだ。おまえの いうような りゆう ではない。」

「まあ、ずいぶん こきつかって いるみたいだしね……。」

「そうだ。」


 真っ赤になった顔を見られないよう、ベトールは顔を背けると、そのままクラウドフォートレスに乗り込んだ。

 オクはそんな彼女の様子を、オフィエルを抱きながら見ていた。


『わたしは おにんぎょうを だく むなしさを しっているわ……。』


 クラウドフォートレスは、その威容を見せ付けながら、上昇して行く。


『それに きづいたとき、あなたは どうなるのかしら。』


 雲の要塞が消えた。ベトール出陣であった。




 リリスは途方に暮れていた。

 ひとまず雲隠島の宿泊施設に落ち着いたのは良いが、警戒心を剥き出しにした昴が、ぴったりプリ様に貼り付いたまま、離れなくなってしまったのだ。


「昴ちゃん? 特訓を始める時は、始めますって、ちゃんと言うわよ。」

「…………。」

「すばゆ〜、だいじょぶだから。ぷり、いなくならないから。」


 プリ様がお言葉をかけても、怯えた様子で抱き付くだけだった。


『仕方ないか……。予想外にハードな展開が続いたものね。和臣ちゃん達はともかく、もう、昴ちゃんの特訓をやっている場合でもないし……。』


 溜息を吐くリリス。


「わかったわ。プリちゃんから隔離したりしないから安心して、昴ちゃん。」

「ほ、本当ですか?」

「本当よ。私が嘘を吐いた事があるかしら?」

「よく嘘吐いてますよね……?」


 昴は益々怯えて、プリ様にしがみ付いた。

 信用ないな〜、とリリスは軽く自己嫌悪。


「じゃあ、いいわ。絶景の露天風呂に誘おうと思ったけど、プリちゃんと二人で行って来るから。昴ちゃんはお留守番よ。」

「行きます、行きますぅ。って言うか、それ隔離じゃないですかぁ。」


 昴はプリ様から引き離されないよう、慌ててついて行った。


 その露天風呂は海岸にあった。建物などはなく、辺り一帯に湧き出しているお湯が、岩の窪みに溜まっている所に入るのだ。


「み、見晴らし良過ぎません?」

「誰も見てやしないわよ。」


 一応、脱いだ服や、バスタオルを置いておく小屋はある。だが、そこを出ると、屋外に裸でいるのとかわらない。

 昴は赤面しながら、手拭いや自分の腕で、必死に身体を隠していた。


「プリ様〜、そんなにはしゃいで走り回ると、転びますよ〜。」


 全裸のプリ様は開放感満点で走り出していた。小さなお身体を弾ませながら、ピョンピョンと跳ね回っている。

 そんなプリ様を追いかけようとするが、足場が不安定な岩場である。運動神経のない昴の方がかえって危ない。そう思ったのか、プリ様は大人しく昴の傍に戻った。


「あらあら、どっちが保護者かわからないわね。」


 リリスにからかわれても、昴は平気の平左だった。


「いいんです。だって、私とプリ様は夫婦なんですから。お互い、助け合って生きるのが夫婦なんです。」


 さすがのリリスも、この台詞には愕然とした。プリ様と目が合うと、彼女も困ったように肩を竦めた。


 病気がまた一段進行したのか。


 リリスは頭を抱えた。


「そ、そうかもしれないわね。きっとそうなのね。」

「そ、そうなの。そうかもしれないなの。」


 二人が当たり障りの無い返事をして温泉に浸かろうとしたら、それに不満を持ったのか、昴がふくれた。


「プリ様ぁ〜、私達、夫婦ですよねぇ?」


 いや、そんな事言われても……。


「す、昴ちゃんは、プリちゃんの奴隷じゃなかったの?」


 この際、奴隷の方が、まだ世間体は良いかもしれない。


「奴隷ですよ。」

「じ、じゃあ、ふうふは おかしいじゃ〜ん。」


 動揺のあまり、口調がオフィエルになるプリ様。


「昴はプリ様の、所有物で、奴隷で、奥さんなのです。」


 昴さん、岩の上に立って、そんなに誇らしげに胸を張らないで下さい。腰に手まで当てちゃって。あんなに恥ずかしがっていたじゃないですか。

 二人は心中で突っ込みを入れていた。












…………。またバカなサブタイトルを付けてしまいました。

しかも、自分では何となく気に入っているのが大問題です。

2chとかで、諺の一部を○○にしてみる、とかやっているのに影響されたのかもしれません。

幼女も木から落ちる。(危ないです。)

幼女も筆の誤り。(なんか普通です。)

幼女怖い。(諺じゃありません。)

結構、楽しいですね。これからはサブタイトルを暫く諺シリーズにしてみようかな。

ごめんなさい。嘘です。

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