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押し寄せる異世界

「プリ様ぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


 無事、戻ったプリ様を待っていたのは、ある意味敵よりも厄介な、昴の愛撫攻撃だった。


「えええぇぇぇぇぇん、プリ様〜。心配しました。心配しました。心配しましたよぉぉぉ。も、もう、昴の側から離れないでぇぇ。プリ様、プリ様ぁ〜。」

「よし、よし、すばゆ。」


 プリ様は昴をあやしながら、和臣と紅葉の方を向いた。


「ごめんなの。かずおみ、もみじ。」


 そう言って、二人に謝罪した。グレムリンが特攻を仕掛けた、あの一瞬、プリ様の頭の中には昴の事しかなかった。それを詫びたのだ。


「別に良いわよ。私達、あんたに守って貰おうなんて思ってないし。」

「そうだぞ。お前が守らなきゃいけないのは昴だけだ。それで良い。」

「もみじ……、かずおみ……。」


 三人は何だか照れてしまって、俯き合った。プリ様にしがみつきながら、その様子を眺めていた昴は、ヒックヒックとしゃくりあげながら思った。


『やっぱり、プリ様にとって、私は保護対象なんだな……。』


 それはお世話係として、どうなんだろうか? と、暫し考えた。


『でも、お世話係というのは、言ってしまえば、奥さんみたいなもので、その奥さんを守るのは旦那さんの務め。という事は、お世話係と保護対象は両立出来るんだ。だって、夫婦なんだもん。』


 ポジティブ思考という名の現実逃避で、見事に立ち直る昴。現状認識を自分に都合良く改変するのが、彼女の得意技になりつつあった。


「プリ様ぁ。偕老同穴、死が互いを分かつまで添い遂げましょうね。愛してますぅ。」

「わけが わからないの、すばゆ。」


 突然、意味不明の台詞を吐きながら、再び強く抱きしめて来た昴に、プリ様は困惑した。


 その頃、リリスはコクピットに駆け込んで、方々と連絡を取り合っていた。

 此処は異世界にはなっていない。にも関わらず、あれだけ大量のグレムリンが発生していた。つまり、この近辺に異世界が形成されつつある徴候なのだ。


 銀座線の時もそうであった。現世と異世界が置き換わっていく過程で、時空に歪みが生じ、向こうの空間の魔物が漏れ出て来るのだ。その後に、置き換わりが完了し、現世の生き物や構造物、自然さえもが、異世界のものとなる。


『間に合ってよ〜。』


 リリスは心の中で祈っていた。とにかく、一刻も早く辿り着かねば。

 目的地は御蔵島の近く、光極天、神王院、美柱庵の三家が、昔から修練の場所として使っている雲隠島という、ちょっと縁起の悪い名前の島であった。


 オスプレイは、なんとか、島のヘリポートに着陸した。

 リリスは飛び出すと、一目散に管理センターに向かった。もう、指示は出してある。島全体を覆う、結界装置を作動させるのだ。


 だが、その時、四方の海が異世界に置き換わり始めた。島を囲むように迫って来る。プリ様達の驚きの声に、後ろを振り返ったリリスは下唇をキュッと噛んだ。此処まで異世界になってしまったら、ちょっとやっかいな事態になる。周り中がいきなり敵だらけになるのだ。


 間に合わない。


 そう思ったが、プリ様が右の拳を天高く突き上げた。


「りっかの いちようの ちからで、しばらくは おさえられゆの。」


 確かに、異世界化は海岸線の辺り、正に水際で食い止められていた。


「ながくは もたない……。はやく すゆの、りりす。」


 苦しそうなプリ様の様子に、昴は取り乱して、そのお身体を揺すった。


「プリ様、大丈夫ですか? ああ、お可哀想に。こんなに汗を流して……。」


 抱き付かれたり、ハンカチで顔を拭かれたりしながら、プリ様は思っていた。

 集中力が途切れるから止めてくれ〜。


 リリスは再び駆け出した。管理センタービルはヘリポートに併設してある。挨拶も無しに入って来たリリスに、職員達も只事でない雰囲気を感じ取っていた。


「サイクロン魔法陣、すぐに作動出来る?」

「リリス様のご命令通り、術者達が気力を注ぎ込み、温めております。」


 サイクロン魔法陣とは、日本古来の呪術に、西洋の魔法の理論も組み込んで、バリアーの様に島を守る、強力な結界を張る装置だ。この建物の地下部分は、護符や注連縄で埋め尽くされており、上から見ると巨大な魔法陣みたいに見えるので、そう呼ばれていた。


 リリスが地下に行き、結界を張ろうとしていた間、異世界化を邪魔するプリ様目掛けて、海や空から魔物と化した動物達が襲いかかろうとしていた。


「海に向けて放つぶんには、力の加減なんか必要ないわね。」

「空もそうだな。」


 紅葉と和臣は背中合わせになり、紅葉は海を、和臣は空を見上げた。


「我が守護神アルテミス様。我にお力をお貸し下さい。月の力を、その地表を凍土となす絶対の冷気を。ゼータドイレ・メーゲン」

「我が守護神プロメテウスよ。我に力を与え給え。原初の炎を、敵を薙ぎ払う火炎へと変えて。ゴーフォ・ク・オーノ。」


 迫り来る敵を前にしても、二人は慌てる様子もなく、詠唱を終えた。


凍える月の地表フリージング・ルナ・サーフェイス。」

地獄の火炎フレーム・オブ・インフェルノ。」


 海は遥か彼方、水平線まで凍りつき、空は雲さえも焼き尽くす程の火炎に包まれた。

 雲霞の如く押し寄せていた敵の姿は一瞬で消滅したが、二人の消耗も半端ではなく、その場に崩れ落ちたきり、指一本も動かせない有様だった。


「サイクロン・プロテクト!」


 その機を逃さず、リリスは結界を作動させた。

 自分の体内で生成出来る全ての魔法子を賢者の石に集中させ、増幅させた魔法力をサイクロン魔法陣に叩き込んだのだ。それは魔法陣の中で更に増幅され、サイクロンの様に渦を巻きながら、島全体に広がって行った。そして、島内の至る所に設置された装置に反応し、強固な結界を形成していった。


「いきなり はーど すぎゆの。」


 とりあえず、安全地帯が確保されたのを見て、プリ様もその場にへたり込んだ。汗びっしょりだ。さすがに顔にも疲労の色が見えた。


「プリ様ぁ。無茶ばっかりして。昴は心配し過ぎて、胸が張り裂けちゃいますよぉ。」


 泣きながら、お顔を拭いて、抱き付いて来た。プリ様は例によって為すがままになっていたが、そのうち身体中の疲労感が解消されていくのを感じた。


『あれ? ふしぎなの。げんきに なゆの。すばゆに だかれゆと。』


 だるさからの解放感に恍惚として身を任せるプリ様。五感に鋭利な感覚が戻って来ると、背後に異様な気配を感じた。


「おや。一番小ちゃい子が一番鋭いみたいだぞ、テナ。」

「そうね、アシナちゃん。転がっている二人はダメダメね。」


 いつの間に現れたのか、プリ様達から五メートルくらいの距離に、長身で細身の女性と、ゴリラを思わせる体型の、手の長い男が立っていた。女は男を「テナ」と呼び、男は女を「アシナ」と呼んだ。


「我々が手を下すまでもないみたいだが、一応トドメをさしておくか?」

「そうね。今回も簡単に終わっちゃうわね。」


 ちなみに、女言葉の方が「テナ」である。非常にややこしい。


『敵か……。討ち漏らしたのね……。』

『くそ、またオカマの敵かよ。』


 紅葉と和臣は必死に立とうとしていたが、いかんせん、もう身体に力が入らない。そんな二人を庇うように、近付いて来るテナとアシナの前に、プリ様が立ちはだかった。


「どきな、お嬢ちゃん。我等の相手は君ではない。」

「そうよ。私達はあいつらの相手を頼まれているのよ。」


 二人は紅葉と和臣を指差した。

 どういう事だ? 和臣達は困惑した。


「待ちなさい、貴方達。何をしているの?」


 一触即発の緊張感の中、戻って来たリリスの声が響いた。


「おいおい、リリスお嬢さん。我々はあんたに頼まれた仕事をしようとしているだけだぜ?」

「そうそう、あいつ等殺せば任務完了なのよ。」

「そんな事は頼んでないわ。稽古をつけてやってくれと言ったのよ。」

「同じ事だ。どうせ、耐え切れずに死ぬのだから。」


 リリスと二人は睨み合った。凄まじい闘気がぶつかり合っている。昴などは、その空気に当てられただけで、腰を抜かしてしゃがみ込んだ。


「ふにゃああ。プリ様ぁ、怖いよう。」


 彼女が呟いたのを切っ掛けに、フッとアシナとテナが引いた。


「オッソロしい。リリス様には逆らえないな。」

「そうね。そうね。そうなのね。」


 二人はその場を立ち去った。


「何なんだよ、あいつ等は。」


 よろめきながらも、漸く立ち上がった和臣が言った。

 リリスは溜息を吐きながら答えた。


「貴方達の先生よ。これから彼等の訓練を受けるの。」


 嘘だろ……。和臣と紅葉の顔が蒼ざめた。


前にも言いましたが、今、激繁忙期中なのです。

仕事を終え、疲れ切った頭で執筆していると「頭の中には昴の事しか頭になかった。」とか書いていて「いくつ頭があるんじゃ。ケルベロスか?!」などと、一人で突っ込んでます。


こんな状況でも書き続けていられるのは、ブクマをしてくれた皆さん、アクセスして下さる方々がいるからです。


普段、後書きでふざけた事ばかり書いてますが、今日は真面目に御礼が言いたいです。


いつも読んでくださって、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



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