ぷりぷりきゅーてぃぜぶらさんだー なの
プリ様パーティ五人を乗せたオスプレイは調布飛行場を飛び立った。
元々は配線剥き出しの貨物室が、丁寧に客室に設えられていて、床にも絨毯が敷き詰められていた。さすがに横幅はそんなにないが、左右の壁面に十席ずつしか置かれてないので、さほど狭さは感じられない。その椅子もフカフカで快適だ。
離陸から水平飛行に移る際に、昴がこの世の終わりの如く、怖がって、泣き喚いて、ついでにプリ様に抱き付いたのを除けば、快適な旅だった。
「あんた、半年前にも乗ったんでしょ? 何で、今更、怖がるのよ。」
「お、落ちないってわかってても、こ、怖いものは怖いんです。」
紅葉に言われて、震えながら答えた。まだ、プリ様にしがみ付いている。
「まあ、昴ちゃんったら、過信しちゃって。オスプレイは事故が多いので有名じゃない。」
「ひいぃぃぃ、プリ様〜。怖い、助けてー。」
「昴を怖がらせるなよ。」
和臣に窘められて「大丈夫よ。三十分くらいで着くから。」とリリスはフォローした。
その時、ガクンと機体が大きく揺れた。
「あらあら、冗談だったのに、本当に落ちるのかしら?」
笑えない言葉を残して、コクピットに確認に行くリリス。昴は歯の根も合わないほど震えていた。
「プ、プリ様、何があってもプリ様だけは昴がお守りしますぅ。」
怖がりながらも、プリ様を庇っているのが健気だ。そのプリ様は覗き窓から外を見ていた。
『なにか いゆの。とんでゆの。』
非常事態が起こっているのだと、瞬時に判断した。
「もみじ、すばゆを たのむの。」
プリ様は、自分にしがみ付いている昴の身体を紅葉に預けた。
「プ、プリ様ぁ?」
「だいじょぶなの。ちょっと、りりすの ところに いってくるの。」
コクピットに入ると、正に修羅場の真っ盛りだった。
「メーデー、メーデー。自衛隊機の援護をお願いします。……、ダメです。リリス様、通信がジャミングされてます。」
「機体下の降下兵援護用の機銃はそのまま付けていた筈よ。」
「それもダメです。敵機の動きが早過ぎて追従出来ません。」
自家用航空機がさりげなく武装されているあたり、美柱庵恐るべし。しかし、それも、今襲って来ている敵には通用しないみたいだ。
「りりす、どしたの?」
「プリちゃん! それがね、グレムリンが一匹、ちょっかいをかけて来ているのよ。」
という訳で、本機はとても危険な状況です。
プリ様と一緒に客室に戻ったリリスは、端的に事態の説明をした。
「いやだぁ。落ちるぅ。怖いよー。プリ様ぁ。」
「心配しないで、昴ちゃん。一匹くらい、私が外に出て、やっつけてくるから。」
リリスが微笑んだのと、同時くらいに、コクピットから連絡が入った。
「グレムリンの群が此方に向かってます。その数、およそ千。さっきの奴は斥候だった模様です。」
「……。あらあら……。」
ちょっと手こずるかな? さすがのリリスも少し考え込んだ。
「私が引き付けるから、その間に近くの島に着陸して。」
「しかし、リリス様……。」
むしろ、リリスを守る立場であろうパイロット達には、その提案は承服しかねた。
「りりす、ぷりも いくの。」
「だって、プリちゃんは飛べないわ。」
「だから、おんぶして ほしいの。」
なるほど、プリ様は自重をコントロール出来るので、リリスへの負担を限りなくゼロにしつつ、乗せてもらう事が出来る。しかも、戦闘力は二人分になるのだ。
「私とプリちゃんで五百ずつか。それなら、いけそうね。」
それを聞いて、プリ様がニヤリと笑った。
「ぜんぶ ぷりが やゆの。りりすに えものは わたさないの。」
「あら。言うわね、プリちゃん。」
二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべ合った。
「ダメです。ダメですぅ。プリ様はお小さいのだから、危ない真似しちゃいけません。」
叫ぶ昴の頭を、プリ様は優しく撫でた。
「この ほうほうしか ないの。いま、みんなを まもれゆのは。」
「プリ様ぁ……。」
泣きじゃくる昴の肩を紅葉が抱いてやった。
その後、リリスの背中に、プリ様がしっかり括り付けられた。
「準備オッケーよ。開けてちょうだい。」
リリスの合図でペイロードベイハッチが開かれた。
残りの三人はシートにベルトで身体を固定し、吹き込んで来る風に耐えた。
「美柱庵天莉凜翠、神王院符璃叢、出るわ。」
飛び出して行く二人を見ながら、和臣と紅葉は口惜しさに身を震わせていた。結局、彼女達に守ってもらっている。これではトールとクレオに頼っていた前世と変わりがない。
力を取り戻したい。
彼等は切に願った。前世の力さえあれば、グレムリンの千や二千に手こずったりはしないのだ。この機体の中からでも、火炎や氷気を飛ばして攻撃出来る。
生き残れたら、命を懸けてでも修行する。紅葉と和臣は拳を握り締めながら誓った。
「寒くない? プリちゃん。」
「そのへんは まほうで だいじょぶなの。」
三歳で魔法を使いこなしている。リリスは自分の時と思い比べていた。三歳など、まだ修行の入り口だった筈だ。
「魔法はいつから使えるようになったの?」
「ぜんせを おもいだして からなの。」
お転婆ではあったけど、普通の子と変わりはなかった。前に胡蝶蘭もそう言っていた。神王院家の娘として、そろそろ修行を始めようとしていた矢先に、今回の事件に巻き込まれたのだ。
「りりす、むれのまんなかに いってほしいの。」
「何をするの?」
「いかづちを つかってみゆの。」
そういえば銀座線内では使ってなかったな、とリリスは思った。
「かずおみたちと おなじなの。せいぎょ できないの。」
なるほど、密閉された空間では、味方にまで損害が出る恐れがあったのだろう。そんな、リリスの考えを読んだかの如く、プリ様も頷いた。
「ぐれむりんたちが しゃへいして くれゆの。むれの ただなか なら。」
倒すだけではなく、その敵を利用して、己の能力の弊害を抑えようというのか。策士を自認するリリスも舌を巻いた。幼女とは思えない戦略眼だ。
「りりすは だいじょぶ?」
「すでに、賢者の石の力で、全身を絶縁体でコーティング済みよ。」
透明なので気付かなかったが、確かに薄い膜でリリスの身体が包まれていた。
「なら、えんりょなく いくの!」
プリ様が叫ぶと同時に、リリスはゴールデンランスを発生させた。もう群の前衛に接触する距離だった。リリスは、ランスをプロペラみたいに回転させ、押し寄せて来るグレムリン達を弾き飛ばしていった。
「ごーゆでんうぉーゆ なの。」
プリ様がはしゃいだ声で言った。身長が五十センチくらいしかない、ウェイトの軽い敵であれば、今のリリスの体躯でも、前世のゴールデンウォールが可能だ。
「昔を思い出すわね、プリちゃん。」
「おう! なの。」
周りは敵だらけ。
飛び込んで来た間抜けを痛ぶり殺してやろうと、グレムリン達はグルリと囲んで来た。しかし、これこそが、プリ様の狙っていた瞬間だった。
「ぷりぷりきゅーてぃぜぶらさんだー!」
解説しよう。プリプリキューティゼブラサンダーとは、初代である「ふたりでプリプリキューティ」の使っていた必殺技だ。指を天高く突き上げ、雷を召喚する大技である。
『遊んでいるわ、この子。』
リリスは苦笑いをした。
『やっぱり、貴女はトールなのね。』
敵が強ければ強い程、戦況が不利になればなる程、戦いは面白くなる。
トールはいつもそう言って、どんな絶望的な状況も覆して来た。前世で自分が背中を預けられた只一人の戦士……。
グレムリンの群は全滅した。
ホッと一息吐いたリリスが後ろを振り返ると、自棄になったのか、斥候をしていたさっきのグレムリンがオスプレイに特攻をしようと、突っ込んで行くのが見えた。
間に合わない!
この距離からではどんな攻撃も届かない、プリ様の雷以外は……。
プリ様はギュッと拳を握った。
過剰な雷撃を放てば、オスプレイも落としてしまう。細く、針の穴を穿つように、グレムリンだけを攻撃せねば。
出来るだろうか? 自分に出来るだろうか? でも、やらなければ昴が……。昴が……。
「すばゆ〜!!」
絶叫し、右手の人差し指をピッとグレムリンに向けた。
衝突寸前だった彼は、背中に稲妻の直撃を受け、ビクンと身体を逸らすと、墜落した。
「やったの。こんとよーゆ できたの。」
「凄いわ、プリちゃん。」
もう、プリちゃんは合宿必要ないかも。リリスは深い溜息を吐いた。
二対千でも勝つ、プリ様強い〜! をやってみました。
次はもっと強いところを見せなければ……。
こうやって強さがインフレを起こしていくのですね。
プリプリキューティゼブラサンダーは二人のプリプリキューティが、それぞれの召喚する、白と黒の雷を合体させて放つ必殺技です。
後期にはもっと多彩な色の雷を放つ、プリプリキューティオール天然色サンダーにパワーアップします。
どこかで聞いた話だ、などと思ってはいけません。




