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盟主オク、恐怖のスカウト!

 ナースセンターで教えられた病室に入ると、中山さんは窓の外の夕日を見ながら、黄昏ていた。

 リリスが声をかけたら、寂しげな表情を浮かべて、此方を向いた。


「美柱庵君か……、やられたよ。」


 身体の傷よりも、心の傷の方が深そうだった。無理もないだろう。一流の格闘家としての誇りを持って生きて来たのに、自分の十分の一も生きてないような幼女に、手も足も出ずやられたのだ。おまけに、目の前で愛娘を拐かされたとあっては立つ瀬がない。


 リリスは師範の心中を慮って、要点だけを聞いた。

 親娘二人で練習中、突然、何処からともなく、幼女があらわれた事。

 その小さな身体では考えられないほどの力で、中山さんと舞姫を蹂躙した事。

 そして、舞姫を連れて、消えるようにいなくなった事……。


「そういえば、炭酸飲料『黄金の林檎味』の空き缶を持っていたな……。」


 最後に中山さんがポツリと呟いた。


「黄金の林檎味?」

「君みたいな若い子は知らないだろうな。所謂、幻のジュースだよ。」


 リリスは病室を出て、車に戻ってから、ネットで「黄金の林檎味」について調べてみた。自分が知らなかっただけで、ネット上では一時期、かなりの論争になっていたらしい。


 不思議な話だが、昔、そのジュースを確かに飲んだと主張する人達が大勢いるにも関わらず、発売元とされている会社の記録には何も記されていないのだ。

 王冠や空き缶も出て来ないので、同じ時期に発売されていた「黄金の葡萄味」というジュースと混同したのだろうと、結論付けられていた。


 ふうっ。一つ溜息を吐いて、ブラウザを閉じた。

 今度の事件とは直接関係ないだろうが、幼女神聖同盟の本拠地を知る手掛かりにはなるかもしれない。


 リリスは七大天使達が行動を起こすのを、のんびり待っているつもりはなかった。居処がわかれば、すぐにでも此方から攻め込んでやる気でいた。


 例え、どんな犠牲を払っても……。


 その時、身体に激しい振動を感じた。急ブレーキが踏まれたのだ。幸い、ほとんど車の通らない、住宅街の道だったので、追突されたりはしなかった。


「どうしたの?」

「お嬢様……。あ、あれを。」


 運転手に尋ねると、彼は前方を指差した。そこには、夕陽を浴びて深い陰影を身に纏っている幼女が一人、道の真ん中に立っていた。防空頭巾の様な物を被り、仮面まで付けているので、顔は口元しか見えない。

 リリスは車を降りて、用心深く近寄って行った。


「そんなに おびえなくて いいわ、りりすちゃん。」


 やたらフレンドリーだな、とリリスは思った。


「七大天使の一人かしら?」

「そうよ。わたしは おく。」


 こいつが盟主オクか!

 いきなりの親玉登場にリリスの全身は総毛立った。


「ぷりちゃんが ぎんざせんだんじょんを くりあーしたから、げーむさんかしかく あり、とみなして るーるの せつめいに きたのよ。」

「ゲームの参加資格? ルール説明?」

「あなた、ほんきょちを つぶすほうが てっとりばやい とか おもってなかった?」


 図星だ。しかし、それは誰でも考えるのではないか。


「ふかのうよ。わたしたちの ほんきょち『あっと ざ ばっく おぶ ざ のーすうぃんど』へは げーむの るーるを まもらなければ はいれないわ。」

「あらあら、そのルールとやらを早く教えてくれないかしら? オクちゃん。」


 挑発的な物言いをしても、オクは軽く笑って、受け流すばかりだった。


「かんたんな ものよ。わたし いがいの ななだいてんしが もっている『りっかのいちよう』それを ぜんぶ ぷりちゃんの みぎてのこうに あつめるの。」

「集めると、どうなるの?」

「それは あつめてからの おたのしみ。」


 集めるしかないのか。

 逡巡するリリスの顔を、オクは楽しげに見詰めていた。


「どうして、それを私に告げるの?」

「あなたが いちばん ものわかりが よさそうなのと……。」


 そこまで言って、ニヤリと笑った。


「だめもとで すかうとに きたの。」

「スカウト?」

「わたしの ぶかに ならない? あなた みたいな こが すきなの。」


 ふと違和感を感じた。オクは、まるで、自分達を良く知っているみたいに話している。


 初対面なのに。


「もくてきの ためなら どこまでも れいてつに なれる。おともだちには したくないけど、ぶかとしてなら さいこうよ。」

「私の何を知っているのかしら?」

「あらとろんちゃんを ちゅうちょなく ころそうとしたじゃない。」


 リリスは、静かに、仮面の中に有るであろうオクの目を睨んだ。


「つよく なりたいのじゃないの?」


 オクはリリスの手を取った。


「わたしなら あげられる。ほんものの つよさを……。」


 自分の心が、オクの仮面の下にある深淵に、吸い込まれていく錯覚……。

 リリスは慌てて、オクの手を振り払った。


「かんがえて おいて。」


 オクは口元に薄く笑いを浮かべて言った。そのまま背を向けて帰りかけたが、ふと振り向いて、再び口を開いた。


「りりすって なのっているの じちょう(自嘲) なのかな?」

「何故?」

「ぜんせの とーると えろいーずが こいなか(恋仲)なら、あなた(クレオ)は りりす でしょ。」

「私の名前は天莉凜翠、縮めただけよ。」

「ぐうぜんか……。ひにくね。」


 オクはチェシャ猫の様に、笑いだけを残して、空間に消えた。

 緊張の糸が切れ、その場に崩れ落ちるリリス。全身が嫌な汗でビッショリになっていた。


『前世の事まで知っている。当事者しか知らないであろう事情まで……。』


 オクとは何者なのか。リリスの身体は細かく震えていた。




「プリ様ぁ、お口よごれてますよ。」


 プリ様との夕飯、昴は幸せな一時を過ごしていた。

 和臣兄妹と紅葉も帰り、やっと二人きりになれたのだ。


「拭いて上げますね。あっ、ホッペにお弁当付けて、プリ様ったら。いただきまーす。……、おいしっ。プリ様の味がしますぅ。」


 頰に付いたお米を、指で摘むのではなく、直接舌でこそぎ取っていた。


「あ〜ん、ホッペが柔らかい。プリ様柔らか過ぎですぅ。もう、何度頬ずりしても、飽きないよぉ。中毒ですぅ。昴はプリ様中毒ですぅ。」


 中毒はわかったから、早く残りのメシを食わせろや。

 昴に抱き付かれて、身動きのとれないプリ様はささくれ立っていた。


 そこに、病院から戻ったリリスが入って来た。


「あれ、リリス様ぁ。お帰りになったんじゃなかったんですか。」


 問い掛ける昴に、返事もせずに近寄って、いきなりプリ様を奪い取った。


「ああ、プリちゃん、良い抱き心地だわ。今日はお姉ちゃんに付き合って。一緒にお風呂入って、おネムしましょうね〜。」

「ダメです。ダメですぅ。私がプリ様のお世話係なんですぅ。」

「良いわよ、昴ちゃんが一緒でも。だけど、プリちゃんを抱っこするのは私よ。」

「そんなの嫌ですぅ。プリ様を一晩も触れないなんて。」

「良いでしょ。いつも独占しているんだから。今夜くらい貸してちょうだい。」


 抱き枕みたいに扱われているなぁ、とプリ様は思った。


「りりす、なにか あった? ようすが へんなの。」

「プ、プリちゃん……。」


 鋼鉄の女、リリスの涙腺が、プリ様のお優しい一言で決壊した。


「プリちゃ〜ん、怖かったよぉ。あのオクって子、怖過ぎ〜。」

「おく? めいしゅの? おくに あったの?」


 リリスが泣くのは、単にオクに怯えているわけではない。

 心の奥底にある弱さ、醜さを、不躾に目の前に晒された不快感、自分が酷く汚れてしまったような喪失感を覚えたからだ。


「よしよし、なかないで。りりすは いいこなの。」


 プリ様に頭を撫でてもらったら、力が湧いて来た。


 オクの奴、絶対に許さない!


 リリスの闘争心に再び火が点いた。


「そういう事でしたら、一晩くらい……。いや。やっぱり、だめぇ。五分おきに交替しましょう、リリス様。私、五分くらいしかもたない。それ以上だと禁断症状が。プリ様欠乏症になってしまいますぅ。ああ、プリ様、プリ様ぁぁぁ。」


 とりあえず、うるさい昴を、リリスは無視した。




ついにプリ様を巡る恋の三角関係が勃発しました。

歳上の魅力でグイグイ迫るリリス。

歳上だけれど、プリ様から保護対象にされている昴。

歳上の強みが全然活かされてないぞ。

勝ち目はあるのか? 危うし昴!

さらに、リリスを誘惑するオクの存在で、泥沼の四角関係に!

男が一人も参入していない、嫌過ぎる恋愛模様の行方はどうなる?


……。いい加減な事ばかり言って、すみません。

真面目に続きを書きますので、今後ともよろしくお願いします。

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