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プリ様初陣

 神王院プリ様(三歳)は、今、大変御不満でした。

 筋肉、筋肉と、まるで人を筋肉しか能の無い筋肉バカみたいに……。イサキオスもアイラも、前世では幼馴染で、ほぼ生まれた時からの付き合いなのに、本気で自分を筋肉だけの人間だと思っているのが非常に腹立たしかった。

 加えて、現在進行形で背中から抱き締めて来る昴が鬱陶しかった。


「プリ様、聞き分けてくれたんですね。ウフフ、お利口です。その尖らせているお口もキュートですよ。摘んじゃおう、えい。きゃあああ。プニプニです。プニプニですよ、プリ様。プニプニ、プニプニ。柔らかい、柔らかいですぅ。」


 何が悲しくて自分の唇の柔らかさを実況中継して貰わねばならないのか。口を尖らせているというのは「私は現状に不満があります。」という意思表示だろうが。お前は十年も生きて来て、それを誰からも教わらなかったのか。


 トールという男は基本、他人から触られたりするのには無頓着で、酒に酔ったアイラからホッペタを伸ばされようが、怖がりのエロイーズが夜道で腕にピッタリと身体を寄せて来ようが、不快に思ったりはしなかった。それはプリ様となってからも同様で、スイッチの入った狂騒状態の昴が、身体の何処を撫で回しても放置していた。


 だが、この戦いに逸る気持ちを押さえ付けている状況で「もう膨らませているホッペも可愛らしいです。あっ、やっぱり柔らかい。もぉぉぉ、プリ様は何でそんなに愛らしくて、柔らかいのぉ。」などと言われても、そんなもん知るか! となるのは必定だった。人の怒りの表現をことごとく可愛い、愛らしい言いやがって、さしものプリ様も苛々していた。


 更に大口を叩いて突っ込んでいった和臣が、五秒でサブミッションを決められて、骨や関節をバキバキに折られて放り出されたのが怒りに拍車をかけた。


「感謝しなさい。私が前世の記憶に目覚めていなかったら致命傷だよ。」


 前世でプリーステスだった紅葉(=アイラ)はヒーリングが使える。


「ウギャアアアァァァ。痛い。死ぬ。もっと優しくしろぉぉ。」

「我慢しなさい。死にゃしないわよ。」


 使えるだけで上手くない。無痛治療を心掛ければ、すぐに傷付いた仲間が戦列復帰出来るのに。彼女に治して貰った人間は暫くリタイアだ。


「大丈夫、私一人で充分だって。」


 さっきの和臣の惨状を見て、何でそう思えるのだろう? 敵はかなりの手練れだ。格闘技術に関しては隙がない。


「現世のチマチマした超能力を使ったのが間違いだったわ。昔を思い出したんだから、大魔法で一撃にしてやる。」


 何か、凄えやな予感する。一発逆転で全財産ノワールのゼロに賭けるギャンブラーと変わんねえよ。そう思ったプリ様の額に冷や汗が流れた。


「我が守護神アルテミス様。我にお力をお貸し下さい。月の力を、そのあるがままの姿を。シンク・メーゲン。」


 次の瞬間、車両内の空気が一切無くなった。その場に居る全員が、浜辺に打ち上げられた魚よろしく、口をパクパクと開けてのたうち回った。


「解除。」


 と、多分紅葉は言ったのだろう。真空中なので、誰の耳にも伝わらなかった。再び、一瞬にして空気が流れ込んで来た。皆んな(ホブゴブリンも)床に手を付いて、ゼイゼイ息をしていた。


「あれぇ。おっかしいな。敵の周りの空気だけを奪う技なのに。」

「のうとかやだ。くんえんしてないの。ちがうの。」

「脳と身体が前世とは違う上に、訓練もしていないので、強大な魔法力を制御出来ないのだ、と仰せです。」

「ええと、じゃあどうすれば良いの?」


 役に立たない。全く立たない。もう自分がやるしかないな。いくら昴が泣き喚こうが、そうしなければ全滅だ。


 プリ様は腹を括った。


「すばゆ……。」

「何ですか? プリ様。」


 プリ様がその愛らしいお口で自分の名を呼んだので、危機的状況にも関わらず、昴は蕩けるくらいの笑顔になった。


「ごめんなの。」


 プリ様はグンと背伸びをして頭の真上にあった昴の鳩尾を強打した。「うごぉっ。」と昴が呻いて、力を緩めたと同時に、プリ様は一直線にホブゴブリンに向かって行った。


「わたちがあいてでちゅー。」


 やって来るちっこい生き物を見ながら、ホブゴブリンもまた怒りを滾らせていた。最初の男は何の手応えもなかった。何しに来たの? お前。と言いたいぐらいだった。二番目の女の攻撃には少し焦ったが、結局は自爆技で使い物にはならなかった。そして、今度は雄叫びを上げて幼女が突っ込んで来ている。


 勘弁してくれよ。どうせなら、後ろのエロい格好のお姉ちゃんと戦いたいよ。あのお姉ちゃんなら、身体を密着させて戦うのも、さぞ楽しかろうに……。よし決めた。俺はあのお姉ちゃんと戦うぞ。相手が嫌がろうが何だろうが、もう決めたんだい。


 ホブゴブリンもまた腹を括り、駆け出した。あのチビはすれ違い様に蹴っ飛ばしてやる。壁に叩き付けられて、ザクロの様に散りやがれ。


「きゃあああああ。プリ様ぁぁぁぁ。」


 ホブゴブリンの蹴りがプリ様にヒットした瞬間、昴の悲鳴が上がった。


 次は君の番だよ、エッチなお姉ちゃん。その乳や太腿にたっぷり技を掛けて上げるよー。うっかりバストにタッチしちゃったりなんかして。でも戦闘中の事故だから仕方ないよねー。


 ホブゴブリンの口元はいやらしく歪んだ。


「グギャアアァアアァァァ!」


 性的な妄想は足首を走る激痛に吹き飛んだ。

『足がぁ、変な方向に、曲がっているぅぅぅ。』声も出せない痛みに、彼はひっくり返り、転がり回った。綿毛程もない軽そうな身体が、インパクトの瞬間、鉄球よりも硬く重くなったのだ。

 プリ様はその場でフワリと飛び上がった。その跳躍力も尋常ではない。自身の身長の三倍は飛んでいる。あの細い足の筋力では絶対に有り得ない高さだ。

 飛び上がったプリ様はホブゴブリンへと急降下して来た。普通ならば幼女にプレスされたってものの数ではない。だが、こいつは普通ではない。まともに受けるのは危険過ぎる。ホブゴブリンは必死で床を転がり、直撃を避けた。案の定、着地した足元に大きな亀裂が刻まれた。


「よわい……。」


 プリ様がポツリと呟いた。


「こいつ、よわすぎゆの。かたなやしにもなやないの。」


 何か頭に来る台詞を言われているような気がしたが、プリ様語が理解出来ず困惑していた。困っている人を放っておけない昴が通訳をかって出た。


「プ、プリ様は『こいつ弱過ぎー。雑魚過ぎて相手なんねー。』とおっしゃってます。」


 何でギャル言葉? しかも意訳し過ぎ。

 和臣と紅葉は心の中で突っ込んだ。


 舐めやがってぇぇぇ。

 ホブゴブリンは激怒した。痛みを我慢し、立ち上がる。それを見たプリ様は右手で来い来いと手招きした。彼は素早く近付き、その手を取った。手を取れば此方のものだ。さっきの男みたいに身体中の関節をバキバキにしてやる。ホブゴブリンは勝利を確信した。が……。


 あれ、どうしたら良いの? これ。


 プリ様の身体は小さ過ぎて、技が掛けられなかった。途方に暮れた彼は、とりあえず両手で脇の下の辺りを掴み、持ち上げた。目が合った瞬間、プリ様がニヤリと笑った。


 罠か?! わざと身体を掴ませたのか!


 気付いた時は遅かった。身体が急激に重くなり、バランスを崩したホブゴブリンは前のめりに転んだ。その頭にプリ様の13.5センチの御御足がチョコンと置かれた。やはり幼女のものとは思えない程重く、彼は立ち上がる事が出来なかった。


「おでんー。」


 プリ様が何を言いたいのか、ホブゴブリンには全くわからなかった。チラリと昴の方を見たら「アデュー、です。プリ様。」と訂正していた。


「あでぅー。」


 それが彼の聞いた最後の言葉であり、昴の豊満な胸の谷間が彼の見た最後の光景だった。ああ、あそこに顔を埋めたいだけの人生だったのに……。


 グチャ。


 プリ様の足の重みがホブゴブリンの頭蓋骨の耐久性を越え、頭が潰された。プリ様の完全勝利であった。





ホブゴブリン(=牧原祐三さん)の人物像についてですが、特に他意はありません。

マッチョでモテる奴は、いつも女性をいやらしい目で見ているのだろうとか、そんな奴は頭を潰されてしまえば良いんだとか、一ミリも思った事はありません。

あと、全国の牧原祐三さんごめんなさい。ちゃんと蘇りますから安心して下さい。

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