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リンカーン大統領に言い付けちゃうから

 緊迫した空気の中、睨み合いが続いていた。だが、やがて、意を決した舞姫が一歩踏み出した。


「負けない!」


 彼女は果敢に上段蹴りを放った。足の伸びといい、振り切り方といい、現段階で望み得る最高の蹴りだった。だが……。


 幼女は避ける事もせず、軽く右手で払って、舞姫を転ばせた。


「おまえ、じぶんが よわくて みじめな そんざいなんて おもったことも ないのだろう?」


 幼女は薄く笑いながら、近付いた。

 彼女は学校でも人気者で、頭の良いクラス委員長。皆に頼られ、自身も優れた人間だという自負が確かにあった。


「おしえてやるよ。ほんとうの ちからの まえで、どれだけ じぶんが わいしょうな いきもの なのか。」


 うるさい! と立ち上がって、正拳突きをする舞姫。それはキレイに幼女の額に当たった。やった、と心に上がる歓喜の声。九歳といえど、彼女の突きを食らっては、大人でも立ってはいられない筈、なのに……。


 幼女は薄ら笑いを浮かべたままだった。


「はえ でも とまったのか?」


 更に侮蔑する言葉を吐いたが、動揺する舞姫の耳には届いていなかった。会心の一撃が、何の効果もなかったのだ。動けないでいると、幼女に胸を人差し指で突かれた。それだけで彼女は二メートルくらい吹き飛ばされた。


 わざと力の差を見せ付けているんだ。

 それがわかっても、心に湧き上がるのは、悔しさではなく、恐怖だった。


「しょうぶ あったな。」


 うつ伏せになって震えている舞姫の髪を掴んで、顔を上げさせた。


「おれが かった。とうぜんの けんりとして おまえを しはいする。」

「あのぉ、支配と言いますと?」

「きょうから、おまえは かちくだ。」


 嫌過ぎる宣言に、舞姫の身体が固まった。


「家畜とか言っても、基本的人権の尊重が……。」

「もう おまえに じんけんは ない。」

「日本国憲法が……。」

「あんしんしろ。そんなの かんけいない ところに つれていく。」


 全然、安心出来ないんですけど……。

 リンカーン大統領に言い付けちゃうからー、と言いながら、舞姫は連れられて行った。




 強化合宿の打ち合わせも終わり、皆でオヤツを食べていると、和臣のスマホが鳴った。


「あっ、渚だ。」


 呟くと、ピッと「今は出ないボタン」を押した。

 暫くすると、今度は紅葉のスマホが鳴った。それが渚ちゃんからだとわかると、物凄く悩んでいたが、断腸の思いで「只今出れませんボタン」を押した。

 次はリリスだったが、彼女は何の感情も表さず、機械的に切った。ドライ過ぎるだろ、と親族である和臣は思った。


 それで暫く静かだったが、コンコンと扉がノックされ、子機を持ったペネローペさんが入って来た。


「お嬢様に曽我渚様とおっしゃる方からお電話です。」


 長居させたらペネローペさんが何を思い付くかわからないので、プリ様は大人しく子機を受け取った。

 彼女が部屋を出て行くと、プリ様はボタンを押して……。


「もちもち。」


 出るんかい! と全員が心中で突っ込んだ。


「かずおみと もみじと りりす? みんな ここに いゆの。」


 しかも、バラすんかい!


「いま? いまねえ、がっしゅくの おはなし してゆの。」


 ああ、言わなくても良い事というか、言っちゃいけない事をペラペラ話している〜。

 皆、ハラハラしながら聞いていたが、リリスがパッと子機を取り上げた。


「あらあら、渚? どうしたの? プリちゃんに電話なんかして。」

「リリス! 電話したんだよ。どうして出ないの?」

「ごめんなさい。電波が悪いみたいね。また今度……。」

「待って。今、阿多護神社の境内にいるの。皆、中に居るんでしょ? 仲間に入れてよ。」


 そう言われると、断る理由がない。むしろ、断ったら不自然だ。


「此処ね、離れなの。私達、母屋に移るから、渚は玄関で待ってて。」


 そう言って通信を終えると、全員を促して、急いで地上に上がるエレベーターに乗った。


「なぎさしゃん!」


 地上に出て、渚ちゃんを見付けると、プリ様はトコトコと駆け寄って行った。


「プリちゃーん、久しぶりだねぇ。」


 久しぶりと言っているが、お泊まりは三日前の出来事である。


「お兄ちゃんも、紅葉ちゃんも、リリスも酷いよぉ。何で、私だけおいていくの?」

「お前はパーティメンバーじゃないからな。」

「私も混ぜてよ。そのゲームやりたい。」


 そう来たか。和臣は返事に詰まった。


「ごめんなさい、渚。実は貴女に嘘を吐いていたの。」


 リリスが神妙な面持ちで話し始めた。


「私達、ゲームで繋がった仲間ではないの。」

「じゃあ、どんな関係なの?」


 騙されないぞ! と渚ちゃんは鼻息を荒くした。


「男は和臣ちゃんだけで、あとは女の子だけ。このメンツを見て、気が付かない?」

「えっ! それってまさか……。」

「そうよ、私達は和臣ちゃんのハーレムなのよ。」


 おい、何を言い出すんだ! 慌てる和臣。渚ちゃんの方はパニック状態に陥っていた。


「紅葉ちゃんだけで満足出来ずに、私のリリスや、昴ちゃん、プリちゃんにまで手を出すなんて! お兄ちゃんの変態! ロリコン!」

「そうよ、貴女のお兄ちゃんはケダモノなのよ。」

「不潔! 不潔よ、お兄ちゃん。」


 何で、こんなリアリティのない話を五秒で信じるんだよ。

 泣きながら自分の胸を叩いて来る妹に、和臣はウンザリしていた。


「冗談よ、渚。ごめんなさい。」

「じ、冗談……?」

「そうよ、冗談。」


 目を潤ませたまま、今度はリリスに抱き付いた。


「ばかぁ、リリスのばか。何で、そんなに意地悪なのぉ?」

「渚があんまり可愛いから、つい、いぢめたくなっちゃうのよ。」

「……私、可愛い?」

「可愛いわぁ。食べちゃいたいくらい。」


 顔を真っ赤にして「えへへへっ。」と頭を掻く渚ちゃん。


『転がされてる。同い年のリリスに、良いように転がされてる。』


 和臣は妹の他愛なさに頭を痛めた。

 一方、紅葉は先程の「私のリリス」という渚ちゃんの発言を聞き逃してはいなかった。


「もぉ、リリス、あんまりイジメないで。」

「あらあら、それは本音かしら? 本当はもっとイジメて欲しいのではなくて?」

「バカ、バカァ。もう、知らないんだからぁ。」


 何だ、この甘ったるこしい雰囲気は。

 もしかして、ずっ〜と狙っていた油揚げである渚ちゃんを、リリス鳶にさらわれようとしているのではないか?

 今、紅葉の中で、リリスが敵認定されようとしていた。


「すばゆ〜、もみじが こわいかお していゆよ。」

「しっ、プリ様。見ちゃダメです。」


 現時点で唯一、この場の状況を正しく理解しているのは昴だ。自分には何の関係もないのに、胃が痛くなる思いをしていた。損な役回りであった。


『もう、なぎさしゃん げーむのはなし わすれていゆの。』


 単純だなぁ、とプリ様は思っていた。

 その時、リリスのスマホが鳴った。


「はい、私よ。……、何ですって? わかったわ。すぐに、病院に向かうわ。」


 電話を切ったリリスの表情が険しくなっていた。


「七大天使と思われる幼女が、大田区の空手道場に出現したらしいわ。」


 渚ちゃん以外の全員の顔色が変わった。


「おふぃえる?」

「容姿を聞いた限りだと別人みたい。」


 そこでリリスはチラッと昴を見た。アッと、気付いた彼女は、渚ちゃんの方に向き直った。渚ちゃんは正に「七大天使って何?」と聞こうとして口を開きかけていた。


「な、渚さん、そのヘアピン可愛い。」

「あっ、そう? 実はこれお気に入りなんだ。」


 渚ちゃんが昴と、ヘアピンや髪留めの話に夢中になっている隙に、リリスは他の皆を手招きし、小声で話始めた。


「その道場、私も時々稽古をつけてもらっているの。」

「しりあい なの?」

「ええ、娘さんが一人いるのだけれど、彼女が拐われてしまったらしいわ。」


 銀座線の時は、アラトロンを倒したら、全て元に戻った。だが、今回はそんなに単純な話ではない。一般民間人に個別被害が出ているのだ。幼女神聖同盟の魔の手が現実社会に侵食して来ている。そんな、嫌な感触があった。


「とにかく、私は師範の入院先に行ってくるわ。意識はしっかりしているみたいだから、何か話が聞けるかも。」


 リリスはそう言って、自分の家の車に乗った。

 プリ様達の胸中に新たな戦いの予感が芽吹いていた。







久しぶりに登場したペネローペさん。本名を忘れてました。

初登場時を読み返してみたら、白井菊乃さんとなってました。

この話から読み始めた人は、完全に外国の人だと思ってしまいますね。

最初はプリ様のナニーを目指す昴ちゃんの、大先輩ナニーという設定だったのです。

でも、そんな人が居たら、プリ様に激甘の昴ちゃんみたいな存在は、排斥されてしまうだろうと考え直しました。

結局、メイド頭というポジションに落ち着きましたが、仇名のペネローペさんに、その設定の名残りがあるのです。


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