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ぷりね しってゆよ

今回、スイートルームの描写がありますが、私はスイートなど泊まった事はなく、ネットで調べた知識のみで書いています、と予防線を張っとくじゃ〜ん。


 美柱庵家のストレッチリムジンで、ほとんど連行されるように、ホテルまで連れて来られた渚ちゃんは、案内された部屋に足を踏み入れた時、再びテンションが上がって来た。


 何しろ部屋が自分の家より広いのだ。しかも、最上階らしく、全面ガラス張りになっている壁から東京が一望出来た。


「凄い。すごーい。高いんじゃないの? この部屋。」

「百万円いってないから、安い方よ。」


 平然と答えるリリス。渚ちゃんは血の気が引くのを感じた。


「もしかして、私とオフィエルちゃんの為にその出費を……。」


 リリスは悠然と微笑んだ。


「ごめんなさい。もう、謝るからぁ。昴ちゃんが、ちょっと信じられない程綺麗って思っただけで、お人形なんて思ってないから。」


 頭を下げる渚ちゃんの肩を、リリスは優しく抱いた。


「こちらこそ、ごめんなさい。少し冗談が過ぎたわ、渚。」


 よ、呼び捨て? 親密度ワンランクアップ! (兄妹なので、和臣と言語感覚が似ています。) 私も呼び捨てにして大丈夫かな……。

 渚ちゃんの気分は舞い上がらんばかりになった。


「許してくれるの? リ、リリス。」

「最初から怒ってなんてないわ、渚。」


 うわああぁぁぁ。何なの、この高揚感。どうしてリリスに名前を呼んで貰えるだけで、こんなに嬉しいの? 何でリリスの名を口にするだけで、心臓がドキドキするの? もしかして、これが恋? んっ? あれ、恋……?

 とんでもない事に思い至ってしまって、渚ちゃんは動揺した。


 いや、まさかね。だって女の子同士だし……。でも、何かモヤモヤする。今度、紅葉ちゃんに相談してみようかな……。

 絶対にしてはいけない人間を、相談相手にえらぶ渚ちゃん。ご愁傷様です。


「でもね、お風呂は一緒に入って上げて。昴ちゃん、すっかり自分が人間である事に自信を無くしてしまって……。」

「うん、任せて。褒めて褒めて褒めちぎって、昴ちゃんに過剰な自信を付けさせてみせるよ。」


 リリスからの依頼に、渚ちゃんは張り切った。「そんなに頑張らなくても良いのよ。」と、リリスはやんわりと牽制した。


 当の昴は、クタッとソファーに座り込んでいる。お人形らしく振る舞わなければいけないと思っているみたいだ。


「とうとう めっきが はがれてきたじゃ〜ん。えねるぎーえんぷてぃ っておもうのよ。」

「うるさいの。ばかは だまっているの。」


 それにしても……、と昴の隣に庇うように座って、オフィエルに言い返しているプリ様を見て、リリスは思った。


 プリちゃん、いつになく辛辣だわぁ。


 プリ様は割と鷹揚な性格だが、今は余裕が無いように見える。昴が弱っていくにつれて、その迫害者への攻撃性が強まっていっているように思えた。


 トールはいつも泰然自若としていて、剥き出しの感情を他者にぶつけるのを見た覚えはなかった。ただ、クレオの知っている彼は青年期に入ってからのものであって、プリ様くらいの歳にどうであったかは知らない。イサキオスやアイラの話では、自分達が虐められた時に、大暴れをした事があったというので、小さい頃はプリ様みたいな反応をしていたのかもしれなかった。


 でも、何だか、酷く焦っているみたいなのよね。


 何か腑に落ちないものを、リリスは感じていた。


「ハイハイ、決着を着けましょう。渚とオフィエルは先にお風呂に入っていて、私達は後から行くわ。」


 リリスが手を叩くと、渚ちゃんはオフィエルを誘って、風呂場へと連れて行ってくれた。昴はソファーに座ったまま、二人をボウっと見ていた。


「すばゆ、いこ。はだか みせたげゆの。ふたりも なっとくすゆの。」

「プリ様〜、私怖い。怖いです。だって、私、自分の事を人間だとは思えない。」

「どうして そう おもうの?」

「何となく……。怖いんです。」


 監禁されていた塔から解放された時、それこそ昴はお人形みたいな状態だった。誰が話し掛けても反応が無く、プリ様にしか興味を示さなかったので、神王院家に引き取られたのだ。


 胡蝶蘭は少しずつ、少しずつ、粘り強く、昴に記憶を植え付けてやった。混乱をきたすような情報は遮断し、現在の肉体年齢に相応しい生年月日を与えた。社会復帰する過程で、昴が自分で作り出した変な設定もあったが、矛盾無く今の立場を受け入れられるようにしたのだ。


 だから、昴には誘拐されて監禁されていた記憶が無い。だが、十年間時が止まったままだという事実は、影のように彼女の深層意識に染み付き、自覚は無いけれど、自らをして異形の存在だと思わしめているのだろう。


「すばゆ。ぷりね、ぷり、えよいーずに なったときも わかったよ。すばゆだって ちゃあんと わかったよ。」


 プリ様はソファーの上にちょこんと座り、少し腰を浮かせて、昴の頭を撫でながら、話し掛けていた。


「すばゆはねぇ、いいにおい なの。やわらかいし、あたたかいの。いつも いっしょに いてくれゆの。いつも いっしょなの すばゆだけなの。」


 あっ、とリリスは気が付いた。プリ様のお母様もお父様も、プリ様を可愛がってはいるが、多忙ゆえ、常に傍に居られるわけではない。東京を狙っているのは、幼女神聖同盟だけではないのだ。


 プリ様は物分りの良い子で、駄々をこねたりはしないが、寂しくないわけではない。そんな状況で、もし昴が居なくなったらと考えると、幼いプリ様には耐えられないストレスだろう。


 プリ様の孤独を癒してくれるのは、昴しか居ないのだ。


「すばゆ〜。ぷり しってゆよ。すばゆは やさしいの。ほかの どんなひとより やさしいの。その すばゆが おにんぎょうのわけ ないの。」


 プリ様はニコニコと昴に笑いかけていた。そのプリ様を昴はそっと抱き締めた。


「ごめんなさい、プリ様。昴が馬鹿でした。こんな、お小さいプリ様に心配かけて……。」


 昴の両目から涙が溢れた。


「ごめんね。ごめんね。ずっと一緒に居るからね。前世からの約束だもんね。プリ様ぁぁ……。」


 感情が昂ぶって、もう何も言えなかった。昴は静かに泣き続け、プリ様は大人しく抱かれていた。




「さあ、行くわよ、昴ちゃん! もう、大丈夫でしょ?」


 昴が泣き止むのを待って、リリスが声を掛けた。


「はい、リリス様。私、わかったんです。」

「何が?」

「例え、本当にお人形の身体になったとしても、プリ様が居てくれれば、昴は昴なんです。」


 そう……、とリリスは微笑んだ。


「素敵ね。」


 心から、そう思った。




 一方、渚ちゃんとオフィエルは待ち過ぎて逆上せていた。オフィエルは湯舟から出て、浴室の床に大の字で寝転がっていた。


「オフィエルちゃん、女の子がはしたないよ。」

「でもだって ゆかが つめたくて きもちよい かいかん。」


 そこに、扉が開いて、プリ様とリリスが入って来た。全裸のリリスを見た渚ちゃんは、心臓がひっくり返る程動揺した。


 な、ななななな、何? 何で、こんなにドキドキするの? 女の子の裸なんて見慣れているのに。私、変態? 変態なの?


 渚ちゃんの動揺は、二人の後ろから恥ずかしげに入って来た昴を見て、頂点に達した。


 こんな美しいもの、見た事ない!


 それは、オフィエルも同様だった。だらしなく寝ていたのを恥じ入るように居住まいを正し、正座をしてマジマジと昴を見上げていた。


 奇跡という言葉を軽々しく口にすべきではないが、昴の美しさについて語る際には、奇跡でも生温いと思われるほど、選ぶ言葉の無い状態なのだ。


 子供の昴には、もちろん、成人女性のような魅惑的な凹凸は無い。しかし、少女らしい華奢な身体つきが、真っ白な肌の色と相まって、絶妙な美しさを醸し出し、性的な魅力が皆無である事によって、むしろ清らかな一輪の花の如き印象を見る者に与えていた。


 そのくせ、その静かな有り様に反して、眺めていると激しく心を揺さぶられるのだ。それは遥か彼方、他所の銀河からの旅を終えた宇宙飛行士が、光無き空間に青く輝く地球を視認した時の感動に等しいものだった。


「どう、おふぃえる。これでも おにんぎょうに みえゆの。すばゆの こと。」


 プリ様が超ドヤ顔で言った。


「ふ、ふん。その はだのしたに きんぞくの ほねぐみが あるかもって おもうのよ。」

「あらあら、七大天使ともあろう者が、裸を見ても、人間の身体特有の筋肉の動きや、関節の曲がり具合がわからないの? 能無しなのかしら。」


 うわっ、幼女相手でも容赦無いな。

 渚ちゃんはリリスだけは敵に回さないようにしよう、と心に決めた。


 オフィエルはリリスに言われてから、進退窮まった様子で唸っていたが、やがて、観念したのか、両手をついて昴に頭を下げた。


「わるかったじゃ〜ん。しょうじき、うつくしすぎ かんぷく。じんたいの ふしぎって かんじ? せかい ひろすぎ っておもうのよ。」


 率直なオフィエルの謝罪を聞きながら「勝った。」とプリ様とリリスは思っていた。

 昴はひたすら恥ずかしがっていた。




オフィエルのしゃべり方、段々癖になるって感じ?

初登場時は面倒臭い奴出しちゃったなって、後悔。

でも最近、考え事をしていると、頭の中がこの喋り方になっているじゃ〜ん。

やばいじゃ〜ん。社会生活が営なめないじゃ〜ん。

もっと真面目に生きなければ、と思うのよ。

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