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からくり儀右衛門製作です

 今、オフィエルはもろ泣き状態だった。


 警察だ。消防だ。と、騒ぎまくる人々を、宥めたりすかしたりしながら降りると、安心した大人達から今度は猛烈な御説教を食らった。中でも、町内会一厳しいと評判の玄さん(五十六歳)の怒り方は凄まじく、大人でも涙目になるのは必至だった。


「まあまあ、本人も反省してますし、今回は私に免じて……。」

「そうかい? まあ、リリスさんがそう言うなら……。」


 泣きながらプリ様達の元に逃げて来て、リリスのスカートの後ろに隠れたので、さすがに可哀想に思ったのか、彼女が大人達に取りなしてやった。

「二度とやるなよ。」という玄さんの最後の一括を受けたオフィエルは、ビクッと身体を震わせて、泣きながら頷いていた。


「凄いね。リリスちゃん、大人にも顔が効くんだ。」

「帰国してから、色々厄介事を引き受けて上げたのよ〜。」


 渚ちゃんの称賛の言葉に、涼しい声で答えていたが、まだ帰国して一カ月も経っていないのである。末恐ろしい十二歳であった。


「ぐすっ、ぐすん。お、おまえのせいじゃん、おにんぎょう。」


 オフィエルは涙声で言いながら、昴の足を軽く蹴った。「ええっ?」と抗議の声を出したら「もんくあるなら なかすぞって きょうはく。」と凄まれたので、昴はスゴスゴとプリ様の後ろに隠れた。プリ様は昴を庇って、オフィエルを睨みつけた。


「あらあら、窮鳥懐に入らば猟師も殺さず、の精神で助けたのに、そんな八つ当たりをするんなら、見捨てた方が良かったかしら?」

「だって、だって、おにんぎょうが すなおに はだかに ならないからじゃ〜ん。ぐずっ。こいつが ないぶこうぞうを すなおに みせていれば、わたしも おこられなかった とおもうのよ。ぐすっ、ぐっすん。」

「おまえ ばかなの。なんど いわせゆの。すばゆは にんげんなの。ごはんを たべゆの。それで うごくの。」


 プリ様が苛立ちを隠さずに怒鳴った。


「でも、オフィエルちゃんの言う事もわかるわ。昴ちゃんの顔って整い過ぎているし、身体の線も折れそうな程細いのに、それがまた美しさを作り出しているっていう奇跡のバランスだもん。作り物って言われた方がしっくりくるわ。」


 渚ちゃんの言葉にオフィエルは目を輝かせた。


「おまえ よくわかっているって どうい(同意)。まさに わたしも そう おもったじゃ〜ん。」

「着ている服も込みで作られたお人形って、昴ちゃんみたいだよね。」

「そうそう、おーだーめいどの いっぴんもの ってかんじ?」


 何だか二人で盛り上がっていた。


「ほら、おにんぎょう! みんな そう おもっている じゃ〜ん。もう だまされないって おもうのよ。おまえが おにんぎょうなのは かくじつ。」


『私……、お人形なのかしら?』


 昴は段々自信がなくなって来た。そう言われてみれば、自分が外を出歩く度に、何かしら騒動が起こっている気がする。


『お人形がうろついているから皆が吃驚するのかな。』


 自分が知らないだけで、周りの人は知っているのかもしれない。そして、人間だと思って、人間みたいに振る舞っている私を笑っているのかも。


「昴ちゃん、しっかりなさい。何で、そんなに不安そうな顔をしているの。お人形じゃないって事は、自分が一番良く知っているでしょ。」


 リリスは昴の両肩を掴んで、揺さぶりながら話した。


「でもぉ、私がそう思い込んでいるだけかもしれないし……。」


 あらあら、なんて自我の弱い子なのかしら。気が小さいにも程があるわ。というより、気力というものが皆無なのね。前世は魔族最弱の称号を恣にしていたけど、今世では人類最弱かもしれないわ。

 リリスは深い溜息を吐いた。


「取り敢えず、曽我さんは話をややこしくするのを止めて下さらない?」


 まずい。また「曽我さん」になっている。調子に乗り過ぎたか……。

 渚ちゃんは、慌てて口を噤んだ。


「昴ちゃん、お饅頭屋さん行きは中断ね。」


 そう言った後、リリスはスマホを取り出して、何処かに連絡を始めた。


「高級ホテルのスィートを抑えて頂戴。なるべく、お風呂の大きい所。子供五人が楽々入れるくらいのね。」


 その他にも、二、三ヶ所にテキパキと連絡や指示をしていた。


「曽我さん、その子(オフィエル)を連れて家には行けないから、今日はホテルに泊まるわよ。」


 まだ曽我さんだ〜。

 もう半泣きだった。


「あのぉ、でも、ママが何と言うか……。」

「ご自宅には連絡しました。問題ありません。」

「そうですか……。」


 最後は消え入るような小声になっていた。


「貴女も、お風呂に入って昴ちゃんの身体を見たら、大人しく帰るのよ。」

「みせてくれるって だいかんげき! おさわりは おっけー?」


 いつもなら、そんな事を言われれば「ダメです。ダメですぅ。」と大騒ぎなのだが、今は心配そうに青ざめているだけだ。


「お風呂って……。リリス様、私、防水仕様じゃないかも。」

「だから、しっかりなさい、昴ちゃん。貴女はお人形じゃないの。大体、お風呂は毎日入っているでしょ。」

「あのぉ、曽我様もオフィエル様も、乱暴は止めて下さいね? 壊れちゃうと大変。私、多分、保証期間過ぎていると思いますので……。」


 全員に「様」付けだ。自分はお人形だから、人間より一段下の存在だと思い込んでしまっているみたいである。


「曽・我・さ・ん!」

「そがしゃん!」

「えっー、私が悪いのぉ。」


 プリ様とリリスから睨まれて、立つ瀬の無い曽我さ……渚ちゃん。


「ふつうの にんげんなら、なにいわれても、じぶんを おにんぎょうと おもったりは しない へいじょうしん。なにか おもいあたるふしが あるんじゃ〜ん。」


 だから、気にするな。

 と、渚ちゃんの背中を叩いた。その様子に、プリ様とリリスは益々怒りを募らせた。


「すばゆー。ぱっーと ぬいでやゆの。あの ふたりに はだか みせてやゆの。」

「そうよ、昴ちゃん。グゥの音も出ないくらい見せ付けておやんなさい。」


 もしかして、私、悪者チームに分類されている?

 渚ちゃんは、自分の置かれている立場に気付き、焦った。


「あっ、はい。かしこまりました、ご主人様。シームレス加工になっているので、関節は目立たないと思います。」


 などと、昴が返事をするので、更に立場は悪化していった。


「や、やだなぁ。冗談だよ。マジで昴ちゃんをお人形だなんて、思ってやしないよぉ。」


 渚ちゃんが言い繕おうとした、ちょうどその時「ご不要になった物をお引き取りします。」と、廃品回収業の車が通り過ぎた。それを聞いて昴は「ひいいぃぃぃ。」と身を竦めて、プリ様に抱き付いた。


「プ、プリ様ぁ、昴は、昴は不要ではありませんよね? 廃品回収されないですよね?」

「すばゆ〜。おびえなくて いいの。だいじょぶなの。すばゆが いないと こまゆの。みんな こまゆの。」

「プリ様〜。今まで、ごめんなさい。お世話係とか、奴隷とか、昴は思い上がってました。それ以下だったんですね? 『物』だったんですね。生意気に人間面して、ごめんなさい。」


 涙を零し、ブルブル震えながら、必死にプリ様にしがみつく昴の様子は、地獄の鬼でも同情する程の憐れさである。


 ヤッバ、物凄くヤッバ。昴ちゃんが、ここまで気の弱い子だったなんて想定外だよ。このままじゃ、マジで悪者にされちゃうよ。

 渚ちゃんの焦りは半端なかった。


「だ、だからね、冗談だってば……。」


 再度言い繕おうとした渚ちゃんの肩を、リリスが叩いた。


「もう、良いのよ、曽我さん。シナリオは動き始めているの。貴女とオフィエルが、全裸でお風呂場の床に這いつくばって、タイルに額を擦り付けながら昴ちゃんに土下座するラストまでは止まらないのよ。」


 怖い〜! 怖過ぎ。リリスちゃんが怖い。混ぜないで。私を悪者チームに混ぜないで〜。


 恐怖に慄く渚ちゃんの前に、白いストレッチリムジンが停まった。


「じゃあ、行きましょうか、人でなしの曽我さん。可哀想な昴ちゃんを裸にひん剥きに……。」

「そがしゃんの ひとで!」


 どうすれば良いの〜。

 渚ちゃんの背中を、滝のように汗が流れ落ちていった。





次回は怒濤のお風呂回だー。

と言いたいところですが、一回、紅葉&和臣回を挟みます。

暫く登場がないので、紅葉ちゃんの悪辣さを忘れそうなのです。

ということで次回は紅葉ファンに捧げる一遍です。

紅葉ファン……、居るのかな?

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