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保護責任者遺棄罪なの

「そのふく どうやって ぬがすか ぎもん?」


 オフィエルは、プリ様にしがみついて泣いている、昴に迫った。


「プリ様を返してー。」

「しんでるわけ ないって かんじ。」

「えっ、生きてるの?」

「いき してるじゃな〜い。きづけ まぬけって おもうのよ?」


 そう言われると、スヤスヤと眠っているだけみたいだ。


「この けーりゅけいおんは やすらかな ねむりを おとどけするじゃーん。」


 良かった。と、胸をなで下ろすのも束の間、オフィエルはプリ様の傍らに座り込んでいる昴の背後に回って、メイド服のボタンを外そうとし始めた。


「ななな、何をしているんですかー。」

「ないぶこうぞうが みたいのよ。どうやって うごいているか しりたい こうきしん。」

「だから、人形でも、ロボでもありません。メンテナンスハッチなんかないんです。」

「かんせつを まるまる ぜんぶ かくしている ふくそうが あやしすぎるってかんじ? きっと きゅうたいかんせつに なっている しょうたい。」


 昴は長袖のメイド服に、白いタイツまではいていたので、確かに肌の露出はほとんどなかった。


「人間なんですぅ。どうして誰も信じてくれないの? どこからみても人間ですぅ。」

「だまされるもんかって ようちゅうい? せいけい したって こんなに きれいに ならないのは せけんの じょうしき。」

「だから、天然物なんですぅ。生物(なまもの)なんです……、って嫌あああ。服を脱がそうとしないでー。」

「ていこう するな! ちょっと いらいら。なんて ぬがしにくい ふく。」


 昴が立ち上がって、壁を背にしてしまったので、オフィエルはボタンが外せなくなった。


「プリ様ー、起きて! この子、変態ですぅ。」

「いくら さけんでも むだじゃな〜い? けーりゅけいおんの ちからでなければ めざめないのよ〜。」


 えっ、するとプリ様は永遠に眠ったままになるの?

 昴は焦った。


「プ、プリ様を起こして……。」

「それは おまえの こころがけ しだいって かんじ?」

「ど……、どうすれば……?」

「ここで ふくを ぜんぶ ぬぐじゃ〜ん。こころゆくまで しらべさせろって これ めいれい。」

「こんな白昼の往来で全裸なんて嫌ー。」


 オフィエルの創った擬似空間なので、他の人間は居ないのだが、それ以外は全く普通の街中なのだ。

 そんな所で裸になったら、もうプリ様のお嫁さんになれない。でも、言う通りにしないとプリ様は目覚めない。

 昴は煩悶した。




 その頃、プリ様は夢の世界で遊んでいた。

 お菓子食べ放題。遊園地で遊び放題。プリプリキューティ見放題なのだ。笑いが止まらなかった。

 でも、食べていても、遊んでいても、何故か心の隙間に冷たい風が吹いていた。

 何かが決定的に足りないのだ。


『なんだろう?』と思っていたら、『昴じゃないの?』と誰かが答えた。


 すばゆ……。なんで わすれて いたんだろう……。あかちゃんの ときから ずっと いっしょ。きれいで やさしい すばゆ……。




「どうするか きめるじゃん。っていうか、おにんぎょうの くせに はずかしがるな じゃん。」


 昴は覚悟を決めて、背中のボタンに手を掛けた。指先が震えている。涙が零れて止まらなかった。ついに、堪え切れずに叫んだ。


「プリ様あああぁぁぁー。」

「ないても、わめいても、むだじゃな〜い。」


 だが、その叫びに呼応するように、プリ様がムクリと起きた。


「うわっ、びっくりした ってかんじ?」


 寝起きのプリ様は、暫く周りを見ていたが、泣いている昴が視界に入ると、顔色が変わった。


「すばゆを いぢめたな。」

「お、お、おまえ、なんで おきれるかな〜? ひじょうに ひじょうしき。」

「すばゆが よんだの! ぷりは いつだって おきあがるの!!」


 オフィエルは驚愕に目を見開きっ放しだった。神器であるケーリュケイオンから与えられる眠りは、言わば神の眠り。人の呼び声などで破られるものではないのだ。


「わ、わかったじゃ〜ん。つまり、あの おにんぎょうも しんき ってかんじ?」

「おまえ ばかなのー!」


 起き上がったプリ様は、反重力(アンチグラビティ)ダッシュで、一気に間合いを詰めた。


「け、けーりゅけいおん!」


 オフィエルが杖を振り上げた。蛇が二匹とも牙を剥いている。


「にども くらうか なの。」


 ボコッと、オフィエルの足元に穴が開いた。彼女の小さな身体はその中に引き摺り込まれた。道路が陥没して、首まで埋まっている状態だ。


「う、うごけない ふしぎ。やばい じょうたい にげたい。」

「すばゆは おにんぎょう でもないし、もの でも ないの!」


 お前、所有物って言ってたじゃ〜ん。

 と思ったが、プリ様の怒り方の凄まじさに、発言を控えた。


「そ、そうです。私の叫びでプリ様が目覚めるのは、二人が愛し合っているからです。」


 便乗して昴が言った。

 プリ様とオフィエルは彼女の方を向いた。「そうなの?」という感じで、オフィエルはプリ様に目で問い掛けたが、プリ様は小さくお手を振った。


「なんで、否定するんですかー。プリ様ぁ。あっ、わかっちゃった。照れてるんですね。もう、かわゆいんだからぁ。プリ様。」


 再度、オフィエルが「そうなの?」と首を傾げたが、プリ様は俯き加減で、再び手を振った。


「でも、しんき でもなく、あいしあっても いないなら、めざめるのは へんじゃん。おかしいじゃ〜ん?」

「ぷりは すばゆの ほごしゃなの。ないていたら、めんどうみゆの!」


 ええっ? プリ様、いつもそんなふうに思っていたの?

 昴は衝撃を受けた。


「そうしないと、ほごせきにんしゃいきざい(保護責任者遺棄罪)に なっちゃうの!」


 もはや義務。


「ぷりの せきにんかんが つよかったの。だから、めざめたの。」


 あれ? おかしいな。私は十歳で……。もう、大人で、しっかりしていて……。三歳のプリ様のお世話係で……。あれ? あれれぇ?

 昴の自我は崩壊しそうな程の揺さぶりをかけられていた。


「なんだか しらないけど さんじゅうろっけい にげるにしかず っておもうのよ。」


 たらりあ ぜんかい!

 オフィエルが叫ぶと、足元の黄金のサンダルが眩い光を放った。彼女の履いているサンダル「タラリア」は、プリ様の起こした超重力を振り切り、その身体を中空へと運んだ。


「ここまで きたら あんぜんじゃ〜……、ああ? あーっ」


 反重力(アンチグラビティ)パーンチ!


 下を見たオフィエルは驚愕した。プリ様がミサイルのように、自分に向けて落ちてくるのだ。慌てて魔法で障壁を張ったが、プリ様の拳が当たった瞬間、障壁を作っていた魔法子は対消滅を起こし、その衝撃波で、彼女の小さな身体は更に上空へと吹き飛ばされた。


 しかし、プリ様も無事では済まなかった。爆発が起きた時点で反重力をオフにしたが、その段階で、もう飛び上がり過ぎていた。しかも、爆発のせいで加速がついていて、ヤバイと思う間もなく、地面が近付いていた。


 万事休す。プリ様は目を瞑った。


 だが、地面まで後二メートルという所で、身体が再びフワリと浮き上がる感触を覚えた。


「あらあら、無茶するわね、プリちゃん。」


 リリスだった。対消滅発生時に擬似空間は破れ、落ちてくるプリ様を見付けた彼女は、ゴールデンクラフトで飛んで、プリ様を受け止めたのだ。


「皆がもっと上を向いててくれて良かったわ。」


 着陸しながら、リリスは言った。大きな破裂音に驚いて、その場にいた人達は、全員空を見上げていた。


「プ、プリ様〜。よくぞご無事で……。」


 先程のショックで、少し言葉遣いが変になっている昴が抱き付いて来た。しかし、やっている事は同じで、頬ずりしたり、キスをしたりは、いつも通りだ。恐らく本能的行動なのだろう。


 そんな昴の愛撫を受けながら、プリ様は考えていた。


『あらとろんの ときも そうだったの。そらを とべないのは ふべんなの。』


 そうだ。空飛ぶ機械じ……、もとい、空飛ぶ敵に対抗するには、自分も空を飛ぶしかない。


 プリ様は空を飛べなければならない!

 プリ様は空を飛べなければならない!!


 大切な事なので二回言いました。




昴ちゃん、大ショックです。

ある意味、白昼の往来で全裸より、精神的ダメージは大きいかもしれません。

何しろ、自分の存在意義が根底から覆ったのです。

しかし、誰でもいつかは突き当るのです。

幼児的万能感を脱却し、自分が周りから、どう見られているかという客観的事実に……。

頑張れ、昴ちゃん。

今こそ、本当に大人の階段を昇る時なのだ。

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