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プリ様記念館設立予定です

 プリ様は小ちゃなお口をアーンと開けて、昴に歯を磨いてもらっていた。


「うふふ、プリ様の乳歯、とっても可愛い。抜けたら昴に下さいね。」

「ぷりのは もらって どうすゆの?」

「実はですね、昴はプリ様記念館を設立しようと目論んでいるんですよ。」


 目がマジだ。

 笑えん、とプリ様は思った。


「ぜったい だめなの。」

「そこにはプリ様の乳歯や、臍の緒、産衣なんかも展示されるんですよ。」

「すばゆ、ぜったいに や・め・ゆ・の。」

「もう、照れちゃって。かわゆい。プリ様、かわゆ〜い。」


 人の話を聞けー。

 こいつにだけは乳歯は渡せん。下の歯は屋根、上の歯は軒下に投げ入れる。

 プリ様は日本の美しい伝統を大切にしようと決意した。


 歯磨きが終わり、寝室に入ると、プリ様は万歳をした。そうすると昴が着替えさせてくれるのだ。


「さあ、もう寝るだけですよ。おトイレは大丈夫ですか? オネショはダメですよ。」

「おねしょ なんか しないよ。」

「本当ですか? オネショしたらお尻ペンペンですよ。」


 昴はプリ様の柔らかいお鼻を軽く摘んだ。


「ぷり しないよ。すばゆ こそ だいじょぶ?」

「まあ、生意気。生意気プリ様です。」


 あまりの愛らしさに我慢出来なくなったのか、昴はプリ様をギュッと抱いて……、以下略。


 激しい昴の愛情表現が終わり、フラフラとプリ様はお床に着いた。お金持ちだが、天蓋の付いたベッドなどではない。神王院家は和風なのだ。部屋は全室畳敷き。寝る時もお布団を敷く。


 一つの布団に枕が二つ。誤解を招きそうだが、三歳児と十歳児の添い寝なら、寝具は一組で充分だ。


「きょうは なんの おはなし?」

「何にしましょうか。おむすびコロリンでもお話ししましょうか。」

「それは ちょっと……。」


 ネズミさん達を思い出したのか、プリ様は悲しげに俯いた。


「ごめんなさい。昴が無神経でした。」

「いいの。すばゆは わゆくないの。」


 プリ様は昴の胸元に潜り込んだ。


「あらとよん、だいじょぶかな。」

「プリ様はアラトロンちゃんが憎くはないのですか?」

「あらとよんは まちがってたの。みんなに ひどいこと したの。でも、それは……。」


 プリ様はスンとお鼻を啜った。


「わかって ほしかった からなの。じぶんの いたさを わかって ほしかった からなの。」


 プリ様の目元に光るものがあった。昴はプリ様を包み込むように抱いて上げた。優しく背中を撫でて上げた。


「すばゆ〜。」

「何ですか、プリ様。」

「おむねが かたいの。えよいーずの ときのが いいの。」

「まあ、おませなプリ様。」


 二人は笑い合って、いつの間にか寝てしまった。

 明日も良い日になりますようにと、互いの為に祈った。

 でも、プリ様は知っていた。明日になれば、また昴の、あの姿を見なければいけない事を。




 誘拐された昴は七年間、杳として行方の知れないままだった。


「三年前、いきなり日比谷公園に高い塔が出現したのよ。」


 リリスが語り始めた。


「そんな話知らないわ。いくら何でもニュースになるでしょ。」

「その塔は見える人間にしか見えない。正確に言うと、私にしか見えなかったの。」


 リリスはその時英国留学中、一時帰国の際、車の中から見た日比谷公園に、大きな塔が出来ていた。大きいとは言っても、六階建てのビルくらいだったが、周りに何も無い公園の真ん中に忽然と現れていたので、吃驚したのだ。


「胡蝶蘭叔母様がプリちゃんを出産されたお祝いに戻って来たのだけれど、それどころではなくなったの。」


 車を降り、公園内の塔の真下まで行くと、最頂部近くに開いている窓から、外を見ている少女がいた。


「昴ちゃんが消えた時、私は二歳だったけど、何回も写真を見ていたので知っていた。その少女は昴ちゃんに間違いなかった。」

「ちょっと待て。高い塔から外を見ていたって、それもエロイーズと同じだぞ。」


 和臣に言われて、リリスは頷いた。


「その瞬間、私も思い出したのよ。自分がクレオ・ラ・フィーロであった前世の事を。そしてその塔は、カテリーナの城にあったあの塔と同じだった。」


 昴が前世のエロイーズと同じ状況で監禁されていた。一体どういう意味があるのだ? 和臣と紅葉は顔を見合わせた。


「あらかじめ言っておくけど、これは自慢じゃないのよ。客観的かつ冷静な視点で、私は当時、美柱庵、神王院、光極天、三家の中でも最高峰の実力を持つ天才少女と目されていたの。」


 自慢じゃねえか。

 紅葉が「ケッ。」という表情を見せた。リリスは「あらあら、ごめんなさい。」と微笑んだ。


「その私の力を以ってしても、塔の壁に傷一つ付けられなかった。扉が無いので、どうやっても入れない。行方不明の昴ちゃんがすぐ近くに居るというのに。」


 リリスはその時の悔しさを思い出したのか、顔を顰めた。


「リリスちゃんからの連絡で、すぐに三つの家から最高の能力を持つ者達が集められたの。自慢じゃないけど、私は当時、リリスちゃん以上の天才少女として……。」

「自慢はいらないから。」


 胡蝶蘭の話を、紅葉はズバッと切って捨てた。


「そもそも、もうプリを生んだ後で『少女』って無理があるでしょ。」

「でもだって、まだ十六歳よ。少女でいいじゃない……。」


 更にダメ出しをされて、拗ねた口調で反論した。


「えっ、十六歳?!」

「そうよ。今の紅葉ちゃんの歳に生んだの。」


 誇らしげに言い切った。


 いや、まだ私、十五歳だし。っていうか、その十五歳で彼氏がいて、十六になって、すぐに結婚したっていうの? 何、そのリア充。私なんて、生まれてこの方、一度も恋人なんて存在はいなかったのに。

 紅葉の胸中に黒い靄が立ち込めた。


「紅葉ちゃんも和臣君とラブラブなんでしょ。初々しくて良いなぁ。私も照彦さん(プリ様のお父様です)と恋人同士だった頃が懐かしいなぁ。」


 おい、ふざけんな。誰がこのシスコン男と付き合っているって。

 紅葉が隣の和臣を見たら「俺はシスコンじゃない。」と言って、頭を軽く叩かれた。何で心の声がわかるんだ。


「はいはい。話を進めるわよ。とにかく叔母様を含め、トップクラスの者達が集められたんだけど、皆、触るどころか、塔を見る事さえ出来なかったの。」

「その状況で、良くあんたの話を信じてもらえたわね。」

「実はリリスちゃんが帰国する一ヶ月前から、日比谷公園周辺に異常な妖力の集中が起こっているのは察知されていたの。そう、ちょうどプリちゃんが生まれた日ぐらいから。」


 それに……、と胡蝶蘭は続けた。


「プリちゃんが異常に私にしがみついて離れなくなっていたので、仕方なく現場に連れて来ていたの。そして、プリちゃんを抱っこしている時は私にも塔が見えたの。今思えば、プリちゃんの見ている物が、私の感覚にも反映されていたのね。」


 抱いたまま塔の近くまで寄った時、プリ様がダアダアと手を伸ばした。その可愛いお手手が壁に触れた途端、一部が崩れ落ち、塔の上へと通じる階段が出現した。どんなに強力な破壊技を繰り出しても、ビクともしなかったのに。


「それでプリちゃんは今、三つの家で一番の資質を持つ、天才幼女と言われているの。別名を『破壊のプリンセス』と言って……。」

「だから、そういうの良いから、話を続けなさい。」


 またもや、自慢話を紅葉に邪魔された胡蝶蘭は、恨めしそうに上目遣いをした。


 プリ様を背負った胡蝶蘭は、リリスを伴って階段を昇った。階段は塔中央部の柱を中心に、螺旋状に上に向かっている。日光が一切入って来ない程、密閉された空間だったが、壁自体が淡い光を発していた。その光を頼りに、石造りの階段を踏みしめ、踏みしめ、昇り詰めた先は壁。だが、その壁もプリ様が触れると崩れた。もうもうとした土煙がおさまると、窓から外を見ている昴の姿があった。


「昴ちゃん?」


 と話し掛けたら、彼女は胡蝶蘭達の方を向いた。その目には全く精気が無く、動きも操り人形のようであった。

 リリスはふと彼女の着ているドレスに目を留めた。それは、サイズこそ小さくなっているものの、前世でエロイーズがトールの奴隷になった時に着ていた衣装と、全く同じデザインだった。


 突然、昴が両手を横に伸ばした。


「トラノオ! ゲキリン!」


 その叫びに呼応して、昴の両手に一振りずつ刀が現れた。

 それは、胡蝶蘭とリリスに死を思わせるほど、禍々しくも、強大な力を感じさせる器物だった。




プリ様記念館には、初めてのオムツや、お食い初めで使った食器なども展示されます。

プリ様が成長する度に展示品が増えていく、発展型の施設です。

プリ様は将来大物になるので、お客さんもいっぱい来る筈、と昴ちゃんは思っているのです。

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