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「私、赤ちゃんいっぱい生むから。」

 話し合いは平行線を辿っていた。

 お母様は「決着が着いたら呼んでね。」と昴に言い残し、お父様の帰宅後の用事を使用人達に申し付ける為に出て行った。

 昴は一人、四人の言い分を、客観的かつ、冷静に分析していた。


 まず、プリ様。

 プリ様は単純明解、自分が一番強いから。何を以って、そう断言出来るのかわからないが、確信を持っているらしかった。


 次に、紅葉。

 これも単純明解。最年長だから。それ以外の要素は全く無し。論理的に穴だらけなのに、持ち前の強引さで強弁していて、一歩も引かなかった。


 和臣は……。

 実はリーダーなんか別にやりたくもないのだな、というのは見て取れた。しかし、万が一にも、紅葉がそうなるのだけは避けたいので、邪魔をしているのだ。


 最後にリリス。

 彼女の主張が一番理に適っていた。神王院家や美柱庵家と繋がりが有り、今回の事件についても、色々情報を持っているらしい。


 プリ様には悪いけど、やっぱりリリスさんがリーダーをやるのが順当なのかな。などと思っていたら、全員が自分の方を見ているのに気付いた。


「一人だけ涼しい顔してる奴がいるな。」

「あらぁ、感心しないわ。昴ちゃん。」

「あんた、一番歳下のプリが頑張っているんだから、少しはやる気を見せなさい。」

「すばゆー。りーだー やりたくないの?」


 えっ、何言われているの、私?

 そこで昴は思い出した。


 前世では、パーティ内で口論になったら、必ず参加して持論を展開する事。それが掟だった。トールと同じ、などと言おうものなら酷く怒られた。

 今の場合、誰がリーダーに相応しいかを協議している。チームのリーダーを決めるのは、そこに所属している自分の明暗を決めるのと同じだ。知らぬ顔は出来ない。


「じゃあ、最初に。私は自分でリーダーをするつもりは有りません。戦闘が出来ないし、戦いについて知らないからです。」


 うむ、もっともだ。

 皆は頷いた。


「だから、素人判断になりますけど、敢えて言わせていただけば、リーダーはプリ様が一番向いていると思います。」

「あんたね、プリ贔屓で目が曇ってんじゃない?」


 紅葉に言われて、一瞬怯んだが、言葉を続けた。


「リーダーは歳でも知識でも性別でもない。困難にぶつかっても、それを踏み越えて行ける精神力の持ち主がなるべきだと思います。プリ様のように……。」


 その昴の言葉に「そうだな……。」と和臣が呟いた。紅葉は何か言おうとしたが、言葉が見つからずに黙ってしまった。


「あらあら。じゃあ、リーダーはプリちゃんね。私は補佐役をやるわ。」

「結局、前世と同じじゃん。」

「そういう運命なのよ。」


 紅葉の文句に、リリスが笑って答えた。


「昴ちゃんが意見を言っている……。」


 いつの間に戻っていたのか、お母様が驚いた表情で佇んでいた。


「あなた達、本当に前世の仲間なのね。」


 何故だか、お母様は溜息を吐いた。


「もう遅いし、もし良かったら、今夜は泊まって下さらない? 明日、また話し合いましょう。」

「いや、俺と紅葉は帰りますよ。明日、また来ます。」


 和臣の返事に賛同して、そうね、と言って立ち上がろうとした紅葉に「ちょっと、待って。」と、なおも食いさがった。


「昴ちゃん。悪いんだけど、プリちゃんを寝かし付けて来てくれるかな?」


 はい!

 勇んで、昴が返事をした。食事が始まってからこっち、全くプリ様に触れられなくて禁断症状が出始めていたのか、椅子から下ろしてあげると、即座に一回ギュッと抱き締めて、頬擦りをして、顔中にキスをして、また抱き締めて……。


「昴ちゃん。キリがないから、続きは寝室でやって貰って良い?」


 三回り目が終わった辺りで、お母様が声を掛けた。昴は照れた顔で皆を見回し「お休みなさい。」と言って、プリ様を連れて行った。


「あ、私の名前は胡蝶蘭よ。コチョちゃんって呼んでね。」


 プリ様と昴が出て行った後、お母様が言った。

 呼べるわけないだろ、と和臣は心で突っ込んでいた。


「で、コチョちゃん。私は泊まっても構わないんだけど、このシスコン男は、一晩だって妹と離れて眠るのは嫌なのよ。このシスコンと妹を引き離すには、それなりの理由が必要よ。」

「人聞きの悪い事を言うな。そしてコチョちゃん言うな。何で、目上の人に、そんなに馴れ馴れしく出来るんだ。図太過ぎるだろ。」


 和臣は思わず口に出して言ってしまった。

 そんな二人を、胡蝶蘭は微笑みながら見ていたが、やがて再び座るように促した。


「さて、今回の事件について語る前に、神王院家、美柱庵家、そして光極天家、この三つの家が、日本を様々な闇の勢力から守護する為に存在している、というのを知っておいて欲しいのよ。」

「光極天家って、昴の実家でしょ? でも、そこは没落したって聞いたわよ。」

「あらあら。光極天はむしろ神王院と美柱庵の主家筋。光極天が沈めば日本も滅びるわよ。」


 何? どういう事だ。紅葉と和臣は混乱した。


「だって光極天家が左前になったから、昴はオークションに出されて、饂飩屋でプリと会ったんでしょ?」


 胡蝶蘭とリリスは顔を見合わせた。


「そもそも、現代日本で借金のカタに娘を競売にかけるなんて、あり得るかしら?」


 リリスの言葉に、今度は紅葉と和臣が顔を見合わせた。


「いや、確かに最初はそう思ったけれど、昴があんまり真面目な顔で話すから……。」

「何? あいつ、真顔で嘘を吐くの?」


 なんて、タチの悪い奴だ。紅葉は戦慄した。


「そうじゃないの。昴ちゃん自身はその話を心から信じているわ。でも実際には光極天家は傾くどころか、切れ者の当主、昴ちゃんのお父様の代になって益々栄えているのよ。」


 それはつまり、どういう事なんだぜ?


「あなた達が昴ちゃんやプリちゃんと前世から仲間だというなら、聞いて欲しいの、昴ちゃんの過去を。そして見て欲しいの、現在の彼女の姿を……。」


 ゴクリ。紅葉&和臣は唾を飲み込んだ。胡蝶蘭は静かに語り出した。


 今から十年前、当時十歳だった昴は、何者かの手によって誘拐された。厳重に警護された屋敷内の寝室から、忽然と姿を消すという、不可解極まる事件だった。


「ちょっと待て。十年前に十歳だとすると、昴は今年二十歳だぞ。」


 とてもそうは見えない。美しい顔立ちだが、十歳よりも幼く見えるくらいだ。


「あらあら、結論を急ぎ過ぎじゃない? 順を追って話すけど、年齢の事だけ言えば、昴ちゃんは歳を取らないの。」

「それってエロイーズと同じじゃない!」


 リリスの答えに、紅葉が声を上げた。



 ☆☆☆☆☆☆☆



 前世でエロイーズの十七歳の誕生日を祝った時の事だ。嬉しげにはしゃいだ後に、ふっと彼女は寂しげな顔をした。


「あらあら、どうしたの? おめでたい日に、そんな顔しちゃダメよ。」

「わかっちゃったの。私はもうこれ以上は歳を重ねないって。魔族はそうなの。」


 話し掛けるクレオにエロイーズは答えた。それは人間達にも良く知られていた。魔族達は大抵二十歳になる前に成長が止まる。だから、幼い容姿の者でも油断は出来ない。歳経た老獪な魔物である可能性もあるのだ。


「何よ、贅沢。クレオ姐さんなんか、夜毎鏡の前で『もう、歳は取りたくない〜。』って、泣いてるわよ。」

「……。アイラちゃん、飲み過ぎよ。そもそも、まだ私そんな歳じゃないわよ。」


 二人が話している間に、エロイーズはトールの太い腕にピタリと抱き付いていた。


「こら、皆の前では甘えないって、この間約束しただろ。」


 トールにおでこを突かれても、彼女はギュッと抱き付いたままだった。


「寂しいの。寂しくて怖いの。皆が死んだ後も、自分だけこの姿のまま生き続けているかと思ったら、不安でしょうがなくなったの……。」

「エロイーズ、家族を作れば良いんだよ。子供を生むんだ。そうしたら、その子はお前より長生きしてくれるかもしれない。ほら、もう一人じゃないだろ。」


 トールに言われて、エロイーズは目を輝かせた。


「いっぱい子供作ろうね、トール。」

「えっ、俺?」

「あらあら、妬けちゃうわね。トールさんったら、プロポーズ?」

「ああ、ほら、イサキオス。エロイーズ取られちゃうわよ。」

「いや、別に狙ってねえし。」


 例えばの話だー。と怒鳴るトールに、皆は聞こえない振りをした。エロイーズは益々しがみ付き、クレオとアイラは囃し立て、イサキオスは「ご愁傷様です。」と手を合わせた。

 お誕生会という名目の飲み会は、そうやって夜遅くまで続いていった。








一緒に歳を重ねられない。

これは結構キツイかもしれませんね。

昴の失われた十年はもう戻って来ません。

でも、これから先、昴が時間をとりもどせるかは、プリ様の頑張り次第なのです。

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