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最終決戦③

 リリスの頭の中を、走馬灯の如く駆け巡る、生まれてから今までの記憶……。


『幼少期は辛かったけれど、家族とも和解出来て、前世の仲間とも再会出来て、それなりに幸せな生涯だったな……。』


 八岐大蛇と化したフルの猛攻は凄まじく、リリスのみならず、藤裏葉も、和臣も、あまり深くモノを考えないモミンちゃんですら、脳裏に「死」の一文字を思い浮かべていた。


「くふふふ。楽しかった。楽しかったぞぉ、美柱庵の小娘。では、まず、お前から、トドメを刺してやろう。」


 ああっ、コイツ、好物は真っ先に食べるタイプか……。

 美味しいものは最後まで取っておく派のリリスは、トコトン、フルとは気が合わないなと、薄れゆく意識の中で思っていた。


「サラバだ。小娘。」


 仰向けに倒れるリリスに迫る、牙を剥いた大蛇の頭。


「さぁせぇぇるぅぅぅかぁぁぁ!」


 そこに間一髪、飛んで来た旧スクII型エンジェル・アルティメットが、大蛇の牙を、拳で叩き割った。


「おのれ!」


 激昂し、鱗を発射する八岐大蛇(フル)。旧スクII型エンジェル絶体絶命と思われたが、背中に貼り付いている黒い翼が、得意気に一言「ぴっけー!」と鳴くと、大きくなり、彼女の身体を包み込んだ。


『舞姫ちゃん……。ピッケちゃん……。』


 リリスは、自分を助けに来た者達を、ボンヤリと見ていたが、藤裏葉は、その機を逃さなかった。


『八岐大蛇が怯んでいる……。』


 乱入して来た旧スクII型エンジェルに、自分の攻撃が通じず、八岐大蛇(フル)は、一瞬、たじろいだのだ。その隙は、藤裏葉が、自身の最強結界を張るのに、充分な時間だった。


「次元断層障壁〜!」


 次元断層障壁は、通常空間の連続性を断裂し、擬似的な別世界を作る技であり、その壁面は頑丈強固なので、外側からは破れない筈、なのだが……。


「ななな、何? あの蛇さん、次元断層障壁を押し破ろうとしているぅぅぅ。」


 必死に意識を集中させる藤裏葉。与えられた時間は、あまり長くない様子である。


「無事……ではないか、リリス。」

「リリスさん。リリスさぁぁぁん。」


 駆け寄って来た和臣とモミンちゃんは、腕が千切れ、身体中穴だらけにされているリリスの惨状に、思わず、目を逸らした。そんなリリスに縋り付いて、呼び続けている、旧スクII型エンジェル。


「だ、大丈夫よ。少し休めば……。」


 弱々しく答えるリリスだが、確かに、そう言っている間にも、新しい腕が生え、傷口も塞がっていっていた。


「でも、治っても、アイツの攻撃を防げない事には……。」


 重傷が治癒していくリリスを見て、安堵しながらも、珍しくモミンちゃんは弱音を吐いた。


「逆転の方法はあります。」


 起き上がろうとするリリスを介助しつつ、旧スクII型エンジェルが、口を開いた。


「あの大蛇は、元々、人間大の蛇女だったんです。浄化しようと交戦中、私の変身アイテム『想い人のかけら』を強奪して、その力で、あの巨大な身体に成ったんです。」

「貴女の変身アイテムには、そんな能力が有るの?」


 リリスに質問され、旧スクII型エンジェルは、ちょっと、言い淀んだ。


「『想い人のかけら』は、コンパクトなんですけど、その中には、元々リリスさんの体内に有った『賢者の石』の破片が、収められているんです。」


 そう言われ、リリスは、暫し、絶句した。空蝉山でオクに襲われた時、怒りで砕いてしまった「賢者の石」。その欠片が、旧スクII型エンジェルの変身コンパクトの、原動力になっていたというのだ。


「でも、どこにその変身コンパクトが、あるのかしら?」


 次元断層障壁に阻まれて、怒り狂う八岐大蛇(フル)を見上げて、リリスは呟いた。


「尻尾に吸収されるのを見ました。」


 人間大の時と違って、大蛇の尻尾は、八本になってしまっている。


「近付ければ、私なら分かると思います。変身している間は、繋がっているんです……。」


 物凄く嫌ですけど。と、言い掛けて、旧スクII型エンジェルは口籠った。変身コンパクト「想い人のかけら」は、油断をすると、すぐにセクハラ行為をかまして来る変態なので、心と心が繋がっている、とは思いたくなかった。


「ははは、早く方針を決めて下さーい。もう、保ちませーん。」


 藤裏葉の、悲鳴にも似た声が上がった。


「よし。俺とモミンちゃんで、死ぬ気で時間を稼ぐ。リリスと舞……旧スクII型エンジェルは、飛んで、奴の背後に回ってくれ。それで良いな、モミンちゃん。」

「モミンちゃん言うな。」


 和臣とモミンちゃんは、アシナとテナを、杖とロッドに変えた。


「いやん。だめぇぇぇ。も、もう限界ぃぃぃ。」


 何か誤解を招きそうな台詞を、藤裏葉が叫んだ時、モミンちゃんと和臣は、ロッドと杖を同時に八岐大蛇(フル)に向けた。


「死を与える氷の矢!」

「ヘラクレスの解放、解き放たれる業火!」


 飛び上がったリリスは、二人の言葉を聞いて、驚いた。二人とも、命を削る禁じ手の技を使っているのだ。


「和臣ちゃん! モミンちゃん!」

「俺達に構うな。」

「そうよ。命くらい賭けないと、この勝負は勝てないわ!」


 二人の決死の覚悟を聞き、クッと、唇を噛み締める、リリスと旧スクII型エンジェル。死を賭した猛攻を受ける八岐大蛇(フル)の巨体の上を、なんとか、尻尾の方まで飛び越えた。


「そこ!」


 中の「想い人のかけら」が、見えているかの様に、旧スクII型エンジェルは、左から四番目の尾っぽに、手刀を繰り出した……。


 が、体表を覆う頑強な鱗に、逆に、右の掌の骨が砕けた。


「いったぁぁぁいぃぃぃ!」


 堪らず悲鳴を上げる旧スクII型エンジェル。その声に、八岐大蛇(フル)の頭のうちの一つが振り返った。


「何をしている? 貴様等ぁぁぁ!」


 八本の尾が、ウネウネと動き、二人に迫って来た。一斉に襲撃を受ければ、最早防ぎようがない。


『リリスさんを守らなきゃ。私が……。私が……。』


 折れた右手を、スッと、振り上げる旧スクII型エンジェル。


「私が、リリスさんを、守るんだー!」


 全ての想いと、力を、その一撃に。もう、これで、人生が終わりになっても構わないという、ひたむきさで。


 旧スクII型エンジェルは……、舞姫は、手刀を振り下ろした。


「うっぎぃぃぃやぁぁぁ!!」


 尻尾を切り裂かれる激痛に、八岐大蛇(フル)は絶叫した。力を使い果たし、変身も解け、よろめく舞姫だが、その手には、しっかりと「想い人のかけら」が握られていた。


「ピッケちゃん、舞姫ちゃんを裏葉さんの所へ運んで上げて。」


 意識をも失いかけている舞姫を、戦闘エリア内に残しておくのは危険だ。ピッケちゃんは「ぴっけぇぇぇ!」と、張り切って鳴くと、大きな翼を羽ばたかせ、戦線離脱して行った。


「おのれぇぇぇ。おのれ、おのれ、おのれ。おんのぉぉぉれぇぇぇ!!」


 猛り狂う八岐大蛇(フル)は、渾身の力でグルリと回り、尾で、モミンちゃんと和臣を弾き飛ばすと、百八十度回転し、リリスと向き合った。


 旧スクII型エンジェルは右手を折り、力を使い果たしたタイミングで、尾っぽでブン殴られた、和臣とモミンちゃんは人事不省。この戦場に残っているのは、リリスのみとなっていた。


 真っ赤な目で、爛々と睨んで来る八岐大蛇(フル)。よく見ると、あるいは千切れ、あるいは燃やし尽くされ、残っている首は、四つだけになっていた。


「あらあら、フルさん。随分な有様になっているわよ。」

「ほざけえぇぇぇ。お前を咬み殺す力くらいは、まだ、残っているぞぉぉぉ。」


 和臣、モミンちゃん、旧スクII型エンジェルの攻撃によって、大幅に戦力は削り取られてしまったものの、それでも、リリス単体では、確かに、手に余る相手であろう。そう、今までのリリスなら……。


 リリスは、恐ろしげな咆哮を上げる八岐大蛇(フル)を前に、臆する様子も無く、瞳に澄んだ色を湛えていた。そして、倒れている仲間達を、ゆっくりと、見回した。


「食らってやる。お前を食らってやるぞ。怖いか? こーわーいーかぁぁぁ?」


 四つの首が、素早い動きで、交互にリリスに迫り、牙を肌すれすれに噛み合わせて、去って行く。トドメを刺す前に、彼女を嬲っているのだ。それでも、リリスは、一歩も引く事なく、その場に佇んでいた。


「見えぬだろう。私の首の動き。怖がれ。恐ろ。お前の恐怖が頂点に達した時、頭からバキバキと食ろうてやるぅぅぅ。」


 得意満面に、八岐大蛇(フル)が、そう言った瞬間、リリスの右手が、スッと、上がった。


 突然、残っていた首の一つに、激しい衝撃を感じて、八岐大蛇(フル)は吹き飛んだ。何が起こったのか、全然分からなかった。


「フルさん。実を言うと、私、貴女を、そんなに嫌いではないの。」


 リリスは、八岐大蛇(フル)を殴った拳を、左右に振りながら言った。


「一途で、オクの為なら、身体を投げ打つのも辞さない。方向性は間違っているけれど、女性としては、愛すべき性質だと思う。」


 静かに語り出したリリスを、八岐大蛇(フル)は警戒して、近付かずにいた。


「私には分かる。愛する者の為に戦う貴女の想いが。だからこそ、全力で叩き潰す。」

「叩き潰すだとぉ? ほざくなぁぁぁ!」


 一思いに呑み込んでやろうと、四つの鎌首が、クワッと、口を開いた時、リリスに、天沼矛の切っ先を向けられた。


「天沼矛で龍体を作り、賢者の石で大きくする。天沼矛で作り出した生体は、私に触れている限り消滅しないから、合体すれば……。」

「おおっ。おおお。」


 地球上で考え得る限り、最強の生物と成った筈の八岐大蛇(フル)は、眼前に現れた神にも等しい存在に、恐れおののき、後ずさった。


 力尽き、地面に転がっているモミンちゃんと和臣も、朦朧とする意識の中で、それを見ていた。空蝉山に現れた荒ぶる龍。だが、その身体は、土塊で成した紛い物ではなく、神々しく輝く、龍神のそれであった。


『あれが完成形……。龍神リリスの本当の姿か……。』


 龍を見る和臣とモミンちゃんの口に、薄く笑いが浮かんでいた。


 一方、龍の頭、眉間の辺りに、上半身だけとなって生えているリリスは、八岐大蛇(フル)を黙って見詰めていた。それは、嫌悪でも怒りでもなく、ひたすら、慈愛に満ちた眼差しだった。


「フルさん。次の一撃で貴女を倒す。愛という名の妄執から、貴女を自由にして上げる。」

「ほぉぉぉざぁぁぁけぇぇぇ!」


 目にも止まらぬスピードで、八岐大蛇(フル)の四つの首が、リリスに向かって行き、バクリと食い付いた。


 確かに食い付いた。と、思ったのに、リリス龍の姿は、忽然と消えていた。そして、振り向くと後ろに居る……。


「い、いつの間に……。」

「時間を止めたのよ。もう、貴女に勝ち目はない。」

「うっ……。うっ……。」


 唸るしか出来ない八岐大蛇(フル)に、天沼矛の刃先が突っ込んで来た。矛は四つの首を切断し、薪を割る様に、胴体を縦に切り抜いた。


『私は、私は、オク……雛菊様を守りたくて……。』


 もう、声を出す事も不可能な、フルの思念波が、リリスの頭の中に、入り込んで来た。


『ただ、雛菊様のお側に居たくて……。』


「そうだね。神々の争いも、前世からの因縁も関係無い。貴女は、ただ、光極天雛菊という女性(ひと)に、恋をしただけなんだものね……。」


 金色の光となって消えていく、フルの命の煌めきに包まれて、リリスは涙を流した。


『雛菊様……。ひなぎ……く……。』


 フルの声が消えた。リリスは、十三歳の中学生の女の子の身体に戻り、瓦礫と化した蒲田駅の前に降り立った。


「プリ……ちゃん……。」


 リリスは、未だ天空にある大きな門を見上げ、そのまま崩れ落ちた。勝ったとはいえ、八岐大蛇(フル)との戦いは、立ち上がれない程のダメージを、彼女に与えていたのだ。


『プリちゃん……。負けないで……。』


 リリスには、もう、仰向けに倒れたまま、門を見守る事しか出来なかった。神々の尖兵であるリリスを、オクの元へと近付けさせないというフル……月読の最後の願いは、果たされたのであった。



評価が付いてました。ありがとうございます。モチベーションが上がりました。


ブックマークしてくれている方達も、改めて、ありがとうございます。書き始めた時は、正直、ここまでの人達に、読んでもらえるとは思っていませんでした。


投稿期間が延び延びで、すみません。次回も、一ヶ月後くらいに投稿予定です。次回完結させたいのですが、うーん、終わるかな? 終わらなかったら、あともう一回、お付き合い下さい。


新型肺炎、怖いですね。心臓弱いオジさんなので、罹ったらヤバイと思いつつ、会社休めないので、満員電車で通勤しています。皆さんもお気を付け下さい。

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