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最終決戦②

 おかあたまが、つれさられてしまった。


 呆然とするプリ様三歳。幼子には、辛過ぎる出来事であった。それでも、プリ様は、拳を握り締め、身体を震わせながらも、耐えていた。


『プリ様ぁ。健気過ぎですぅ。』


 いつもの様な、過剰な愛撫はせず、そっと背中を抱き締める昴。


「だいじょぶなの、すばゆ。」


 プリ様は振り向いて、ニコッと笑った。


たすけ(助け)に いけば いいだけなの。」

「でも、プリちゃん。AT THE BACK OF THE NORTH WINDに行くには、六花の一葉を、六つ揃えないといけないのよ。」


 そう言いながら、チラッと、リリスはオフィエルを見た。つられて、全員の視線がオフィエルへと向く……。ちょっと後ずさるオフィエル。


「みんな、だめなの。おふぃえゆ(オフィエル)は まだ、りっかのいちよう(六花一葉)ちょうせん(挑戦)を して ないの。だめなの。」


 いや、事ここに及んでは、東京異世界化チャレンジは、チャラなのでは……。元々、プリ様をシシクに打ち上げる為の試練だし……。


 皆、そう考えたが、終始一貫して、オフィエルの意思を尊重していたプリ様の姿勢を知っているので、何も言えなかった。


「ぷり、うけとる(受け取る)じゃん。」


 沈黙を破ったのは、オフィエルの譲渡の言葉だった。


「だ、だめなの、おふぃえゆ(オフィエル)。」

「いいって、えんりょむよう(遠慮無用)。わたし、うれしかった、って おもうのよ。」


 嬉しい……?!


「じぶんの おかあさまの みがら(身柄)と、わたしの ゆめ()どうとう(同等)おもんばかって(慮って) くれる。おまえは ほんとうの しんゆう じゃん。」


 胡蝶蘭()を連れ去られた時にすら、堪えていた涙が、今、プリ様の頬を濡らしていた。


「わたち、しあわせもの(幸せ者) なの。れい()あきら()ちゃん、みさお()、そして、おふぃえゆ(オフィエル)こまったとき(困った時)つらいとき(辛い時)、たすけて くれゆ ともだち(友達)が こんなに いゆの(居るの)。」


 溢れるにまかせて、涙を流すプリ様に、オフィエルは、そっと近付いて、ハンカチで、その頬を拭った。


つばさ()。わたしの なまえは つばさ()、って うぃんぐ(ウィング)。」

「つばさ……。」

つばさ()は、へんじん(変人)ひとみしり(人見知り) じゃん。でも、がんばって ともだち(友達)に なれ。って めいれい(命令)……こんがん(懇願)?」

「わかったの。わかったのぉ。」


 翼は、泣き噦るプリ様の腕を持ち上げ、自分の手の甲を、プリ様のそれに押し当てた。


「つばさ、ありがとう……。」


 親友の謝辞に、ニッと、満足気に微笑むと、オフィエルだった幼女は、本江田翼に戻り、床の上に崩れ落ちた。


「お嬢様。オフィエルさんは、私が責任を持って、お預かりします。後顧の憂いなく、出陣して下さい。」


 何時の間に駆け付けたのか、ペネローペさんが、翼を抱き上げながら、そう言った。


「うむ。たのむの。」


 もう、プリ様は泣いてなかった。戦士の顔になっていた。


「じゃあ、みんな。しゅつじん……。」


 出陣なの〜。と、言おうとした時「プリちゃま、プリちゃま、プ〜リ〜ちゃ〜まぁぁぁ。」と、けたたましい声を発しながら、藤裏葉がやって来た。


「大変です。大変です。大変ですー!」

「落ち着いて、裏葉さん。どうしたんだよ?」


 和臣に窘められた藤裏葉は、一回深呼吸をした。


「お、大田区に。蒲田駅の近くの空中に、巨大な門が現れたんです。」

「もん?」

「試練の門だよ。」


 プリ様が問うと、突然、昴の両手が水平に上がり、掌から、プリ様と同じ姿をした幼女が二人、光と共に出現した。


「ゲキリン。トラノオ。」


 驚くイシュタルを尻目に、二人はプリ様へと向き直った。


「試練の門……。なんか知ってるの? あんた達。」


 問い質すモミンちゃんを、チラッと見て、再びプリ様を見る二人。


「アンラ・マンユは、あの門の奥に居る。だが、門を潜れば、後はシシクへと成る一本道だ。」


 ゲキリンは、プリ様の真意を、確かめるが如くに告げた。


「いくの。いくけど、ししく(シシク)には ならないの。」

「そんな、ご都合主義は、通用しないと思うよ。」


 腕を頭の後ろで組み、トラノオが、茶化す様に言った。


「お前達も助けてやるのだろう?」


 イシュタルが訊ね、トラノオが口を開きかけた、その時……。


「あのぉ……。聞きたいんですけどぉ……。アンラ・マンユって誰ですかぁ?」


 凄く聞き辛そうに、口を挟む昴。だが、リリス、和臣、藤裏葉、モミンちゃんも、我が意を得たりとばかりに頷いた。


「トキ、ノキ、オク。この三柱の神が一体となった本来の姿。それがアンラ・マンユじゃ。」


 イシュタルは、簡潔に答えると、再び、ゲキリンとトラノオを見詰めた。


「私達は、アンラ・マンユの側さ。プリに、シシクに成ってもらいたいんだよ。」

「何故じゃ? お前達も聞いたであろう? そもそも、トキが野望を持ったから……。」

「関係無いな。神々が、我等の鞘を殺した。その事実だけは、変えようがない。今現在だって、アンラ・マンユ討伐の為に、全人類を滅ぼそうとしている。それが、神達のやり口なのだ。」


 吐き捨てるみたいに言った、ゲキリンのセリフに、その場に居る全員が、言葉を失った。


「では、我等はアンラ・マンユの元に行く。」

「じゃあね、プリ。AT THE BACK OF THE NORTH WINDで会おう。」


 言い終わると同時に、二人の姿は、虚空に消えた。


「もしかして、アイツ等も敵になるのか……。」


 なんだか事態は、ドンドン最悪の一途を辿っていた。百万のウルリクムミも、刻一刻と、地球に迫って来ているのだ。和臣の呟きは、その場に、重苦しい沈黙をもたらした。


「どうしたんですか? お通夜みたいですよ。」


 そこに、お気楽な声が響いた。


「おとうたま!」

「はーい、プリちゃん。お父様だよ。」


 フラッと現れた照彦は、プリ様を抱き上げ、頭をクシャクシャに撫で回した。


「おとうたま、たいへん なの。おかあたまが きえて、うゆりくむみ(ウルリクムミ) が……。」

「大丈夫。ウルリクムミの方は、お父様に任せなさい。」

「おとうたま……。」


 照彦は、プリ様を下ろすと、空蝉山で拾った結晶を取り出した。


「長髄彦が、僕の本来の肉体を、この世界に送り込んでくれて、助かった。」

「お、おとうたま……。」

「デュワー!」


 結晶を掲げて、叫び照彦。身体が光に包まれ、それが治ると、そこには筋肉隆々とした大男の姿が……。


「おおお、おとうたま。ほんとうに とーゆしん(トール神) だったの?!」

「おおう! この肉体となったからには、無敵だ、俺は。」


 喋り方まで変わっている……。と、リリス達は思った。


「おい、イシュタル。お前も来い。二人で、くそウルリクムミ供を打ちかますぞ。」

「妾に命令するな。最初から、そのつもりじゃい。」


 二柱の神は、言い争いしながら、天高く飛び去って行った。


「本当に、あの人、トール神だったのね……。」


 呆けた口調で言うリリス。プリ様は、何故か、大笑いを始めた。


「プリ様ぁ。どうしたんですぅ?」

ぜんせ(前世) から かわらないの。とーゆしん(トール神)の あの ばかっぽさ。しんぱいごと(心配事)が ふきとぶの。」


 迷いの吹っ切れた良い顔に、プリ様はなっていた。


「よし! こんどこそ しゅつじん(出陣)なの。」


 小ちゃな右拳を、天へと突き上げた。プリ様パーティは、今まさに、最後の戦いへと、赴こうとしていた。




 その頃、大田区蒲田駅近辺。区民達は、突然天空に現れた大きな門と、それを守るみたいにトグロを巻く、巨大な白蛇に恐怖していた。そして、門から漏れ出る異次元の「太田区」のウェーブにあてられて、次々と怪人になっていく人々。怪人にならなかった人達は、狩られる様に、怪人達の餌食とされていく始末……。


「ああっ。もう、終わりだ。」

「誰か。誰か、助けて……。」


 天を仰ぎ、祈るしか出来ない無力な民衆。それを、嘲笑う様子で、暴れ回る怪人達。正に、地上に浮かび上がった地獄の映し絵。


「そこまでよ!」


 絶望に沈む人達の耳に、凛と響き渡る正義の雄叫び。


「あっ、あれは。」

「生きていたのか?!」

「旧スクII型エンジェル!!」


 旧スクII型エンジェル。怪人達の組織、大田区地下帝国に敗れ、強い者におもねる大衆心理で、アッサリ掌を返され、大田区の守護神の座から、最底辺の奴隷に堕とされながらも、たった一人で抵抗を続け、遂に大田区地下帝国を崩壊させた不屈のヒロイン。その首領と共に死んだと思われていた旧スクII型エンジェルが、再び、大田区の危機に、駆け付けてくれたのだ。


「ごめんなさい。ごめんなさい。旧スクII型エンジェル。馬鹿にした事、ごめんなさい。」

「石を投げた事、ごめんなさい。」

「指をさして笑った事、本当にごめんなさい。」


 結構、色々やられている旧スクII型エンジェル。だが、そんな区民の懺悔の言葉を、ニコッと受け入れて、爽やかな笑顔を見せた。


「アルティメット!」


 旧スクII型エンジェルが叫ぶと、小学生高学年くらいだった身体は、グングン成長し、十七歳くらいの姿になった。旧スクII型エンジェルの最強フォーム、アルティメットだ。


「ブレスト・ラブラブ・フレーム!」


 旧スクII型エンジェルの胸部から発せられる、愛情の炎に包まれると、寂しい心の隙を突かれて怪人となった者達は、次々に満たされて、浄化されていった。


「光子りょ……、もとい、目からピカッと光線。」


 目からピカッと光線は、旧スクII型エンジェルの輝く気高い心から溢れる希望の光なのだ。片っ端から薙ぎ倒されていく怪人軍団。


「煩い小娘め……。」


 白蛇は、五メートルはあろうかという鎌首を持ち上げ、驚く旧スクII型エンジェルを睥睨した。


「噛み殺してくれる。」

「むっ……うっ。」


 迫って来る牙を、何とか躱す旧スクII型エンジェル。しかし、続いて繰り出された、尻尾の攻撃をモロに喰らって、派手に弾き飛ばされた。


「さあ、死ね。」

「うっ……。」


 駄目だ。今度は避け切れない。旧スクII型エンジェルが、死を覚悟した、その時……。


「まいきちゃーん! たすけに きたのぉぉぉ!!」


 プリ様のお言葉と共に、リリス、和臣、モミンちゃんの合わせ技が、白蛇を仰け反らせた。


「あ、ありがとうございます。リリスさん。」


 ドサクサ紛れに、リリスに抱き付く旧スクII型エンジェル。私達も助けたのに……。と、モミンちゃんと和臣は、その様子をジトッと見ていた。


「ふん。来たか、美柱庵の小娘。」

「美柱庵の小娘……? 貴女、もしかして……。」


 喋る大蛇に、リリスは、驚愕の視線を向けた。


「もしかして……。ねえ?」


 考え込むリリス。


 あいつ、誰だか、見当付いてないんじゃないの?


 皆は、疑いの目を、リリスに向けていた。


「私だ。フルだ。」

「フ、フル? なんて変わり果てた姿に……。」

「お前を倒す為に、全てを捨てたのだ!」


 挨拶代りとばかりに、白い大蛇は、鋭く尖った自分の鱗を、無数に飛ばした。咄嗟に、藤裏葉が、防御結界を展開して守ったが、そうでなければ、真っ二つにされた区民の屍が、累々と転がっていた筈である。


「旧スクII型エンジェル。区民達を避難させて。和臣ちゃん、モミンちゃん、裏葉さんは、プリちゃんと一緒に行きなさい。」

「りりす、ひとり(一人)じゃ あぶないの。」

こいつ(フル)は、私に用が有るのよ。」


 躊躇している場合ではない。プリ様達は、後ろ髪引かれながらも、上空の門へ向かってジャンプをした。(昴は、プリ様が、短い腕を精一杯伸ばして、お姫様抱っこしています。)それを、虚ろな目で見ているフル。


『行かせるものか。オク様の邪魔はさせない。何人たりとも……。』


 突然、真っ黒な瘴気が漂い、その中心にいた、大蛇の身体が膨れ上がった。


「あの門を潜って良いのは、プリちゃんと、昴ちゃんだけよ。他の奴等は……。」


 蛇頭が八つに分裂した。その内、三つの頭が、藤裏葉、モミンちゃん、和臣に襲い掛かった。


「うおっ。危ねえ。」


 何とか、その牙を躱したが、三人は地面に転がり落ちた。プリ様は、そのまま、門に向かって行き、招き入れる様に開いた、その門内に、飛び込んでしまった。


「八つの頭に八つの尻尾。まるで八岐大蛇ね……。」

「そうだ。そうだ! 神の尖兵であるお前から、オク様を守る為、トキがくれたのだ。最強の身体を。お前を倒せる力を。」


 狂気に満ちたフルの叫びを聞きながら、リリスは天沼矛を構えた。


「今更、神器などぉぉぉ!」


 八つの尻尾の先が、ドリル状に尖り、リリスに向かって、雨霰と降りかかった。


「リリスー!」


 和臣達が助けようとしても、先程の鱗のカッターを、四方八方に無尽蔵に放出され、近寄る事すら出来ない有様だ。


「死ね。死ね。死ね。死ぃぃぃねぇぇぇ!!」


 凄まじい憎悪の篭った、激しい攻撃に、とうとう、リリスは防御を支え切れなくなり、身体に穴を開けられ、脚を抉り取られて、仰向けに地面に倒れた。


 聞こえてくるのは「こひゅー。こひゅー。」という、自分の細い息。見えるのは、爛々と睨め付けて来る、十六個の赤く爛れた瞳。


「まだ、まだ生きているぅぅぅ。嬉しいぞ。嬉しいぞ、小娘。お前が、死に難い身体で、嬉しいぞ。簡単に死なれたら、楽しみが減るからなぁぁぁ。」


 八本の尻尾は、細く鋭く、針を思わせる形状に変化し、滅多矢鱈に、リリスの肉体を突き刺しまくった。


「あぎっ……。うぎゃああああああ。」

「うははは。もっと鳴け。もっとだ。命尽きるまで鳴いて、私を楽しませろぉぉぉ。」


 絶体絶命。


 リリスのみならず、モミンちゃん達三人も、尽きる事なく飛んで来る鱗を防ぐのが、そろそろ、出来なくなって来ていた。プリ様パーティ六分の四の命運は、今、此処で尽きようとしているのだ。


 そして、門の内側、AT THE BACK OF THE NORTH WIND、オクの居城の庭に降り立ったプリ様達の眼前には……。


「よく来た、シシク。仕上げは、私自ら、やってやろう。」


 ゲキリンとトラノオを構えたアンラ・マンユが立ち塞がっていた。


「ににに、逃げましょう。プリ様。」

「なに いってゆの、すばゆ。にげないの。」

「だだだ、だって、ただでさえ強い餡子饅頭さんが、ゲキリンちゃんと、トラノオちゃんを装備しているんですよ。強過ぎですぅ。鬼金ですぅ。」


 餡子饅頭って誰だよ。アンラ・マンユだろ。そして、鬼に金棒を、変な風に略すなよ。山程突っ込みたいプリ様だったが、ここは、グッと我慢した。


「あんら・まんゆ! しょうぶ なのぉぉぉ!!」


 決戦の火蓋は、切って落とされた。




ボチボチ書いている最終決戦ですが、三回くらいに、まとめるつもりだったのですが、次で終わらせるのは、難しそうです。あと、二回くらいですかね。


次回投稿も、一月後くらいになりそうです。遅筆ですみません。基本的にハッピーエンドを心掛けています。

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