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四天王の中でも奴は最弱

カルメンさんは長身で、健康的に日焼けをした美人です。

五人兄妹の真ん中で、女は彼女一人。

フラッと海外に出て、いつの間にか、傭兵をやっていたという珍しい経歴の持ち主です。

絶対に掘り下げられない設定ですが、一応作ったので晒してみました。

 車は日比谷通りを芝公園方面に進み、途中、大きな病院の辺りで右折した。少し走るとトンネルが有り、その中程で停まった。

 こんな所で停まっては、他の車の通行の妨げになるのではないか。和臣が心配した途端、車の下の地面が回転し壁の中へと吸い込まれてしまった。


「何、この仕掛け!」


 ギミック大好き、紅葉が歓声を上げた。和臣とて嫌いではない。小さい頃に見ていた、特撮ヒーローの基地みたいだ。

 壁に入ってからは、カルメンさんは運転していなかったが、車は地下に潜り、九十度回転して、また前に進んだりと、勝手に動いている。床そのものが可動していた。


「どう? もみじ、かずおみ。すごいでちょ。」


 プリ様が自慢気に言った。フン、という鼻息が聞こえてきそうな程のドヤ顔だ。


「凄いんだけど、何でこんな無駄に大掛かりな設備を作っているの?」

「かっこいいからでちゅ。」


 いや、違うだろ。

 紅葉と和臣はリリスの方を見た。


「格好良いからよ。」


 彼女もニッコリ笑って、そう言った。


「秘密主義も大概にしなさいよ。」

「あらあら、まだ味方になるか敵に回るかわからない狂犬に、ベラベラと機密は話せないわ。」

「あははは、そりゃ良いや。狂犬か。お嬢ちゃんにピッタリだな。」

「あんた、車降りたら決着つけるわよ。」


 紅葉とカルメンさんの間で火花が散った。

 だから狂犬って言われるんだよ、和臣は溜息を吐いた。


「なかよくすゆの。かゆめんさん、もみじ、すばゆ かしたげないよ。」


 プリ様にそう言われると、二人とも押し黙った。それから、仕方なく感を醸し出しつつ、握手をした。

 こいつら、どんだけ昴(で遊ぶの)が好きなんだよ。と、和臣は呆れた。


「すばゆ〜、よかったの。なかよく なったの。」

「え、ええ。そ、そうですね、プリ様。」


 昴は飢えたハイエナの目で自分を見ている二人の視線に怯えていた。


 そうこうしている内に車が停まった。そこは剥き出しのコンクリに囲まれた場所で、ストレッチリムジンが悠々と停まれるくらいの広さがあった。


「おかあたま!」


 カルメンさんにドアを開けてもらったプリ様は、外で待っていた女性に駆け寄って行った。女性はプリ様を抱き上げると、思っ切り頬擦りをした。


「ああ、プリちゃん。無事で良かった。お母様、心配で気が狂いそうだったのよ。」

「ごめんなさいでちゅ。」

「何で謝るの? プリちゃんの方が辛い目にあったっていうのに。」


 プリ様は、ここだ、と思った。ここでプリプリキューティのポシェットをおねだりすれば、無条件で買ってくれるに違いない。プリ様の目が光った。


「おかあたまー、ぷりね、ぷり こわかったんでちゅ。」


 お母様の表情は過酷な状況を生き抜いて来た、我が子への憐憫の情で涙腺決壊三秒前になっていた。いける! プリ様は勝利を確信した。


「プリー、何言ってんのよ。お前、嬉々として敵と戦ってたじゃん。」

「そうだな、終始一貫、徹頭徹尾。お前、怖がっている素振りなんか見せなかったよな。」


 続いて車を降りた紅葉と和臣がチャチャを入れた。それを聞いたお母様の顔色が変わった。


「本当ですか、プリちゃん? 危険な事しちゃダメって、いつも言っているでしょ。」


 ヤバい。丁寧語になっている。お母様が怒り始めている兆候だ。何で、あいつ等はこう無神経なんだ。人の感情の機微に、もっと敏感になれ。


「デリカシーの無い発言は止めて下さい。」


 リリスの次に降車した昴が大声を上げた。


「プリ様が怖くなかった筈がありません。あんなにお小さいんですよ。気丈に振舞っていただけです。私だって、今思い出しても震えが来るのに……。」


 そう言いながら震え始めた。


「えーん。プリ様ぁ、怖いよぉ。」


 昴はお母様に抱えられているプリ様に抱き付いた。プリ様は、よしよし、と頭を撫でて上げている。


「どうですか。大人の私がこんなに怖い思いをしているんです。ましてやプリ様はもっとです。」

『大人って十歳だろ?』

『あらー、昴ちゃんったら。自分が度外れて怖がりなのがわかってないのかしら。』

『あの子の怯える姿は滅茶苦茶そそるわぁ。でも、まだ十歳だしな。さすがに手を出すのはマズイかな。ああ、エロイーズのままだったら、大人のお付き合い(一方的なセクハラ)が出来たのにな。』


 皆が昴の発言に思いを巡らせている中、プリ様はしめたと思っていた。お母様が「やっぱり、そうよねぇ。プリちゃん、怖かった?」と自分の頭を撫で始めたのだ。


「えーん、おかあたま。ぷりも こわかったの。おようふくも こんなになって……。」


 さりげなく衣服に注意を向けた。お母様からポシェットについて言及してくれれば、なお良い。


「お前、服破けたの全く気にしてなかったよな。」

「そうそう、スカートにスリットが入ってセクシーになったとか言ってたじゃん。」


 ふざけんな、紅葉。セクシーとか、お前が勝手に言ってただけだろ。

 プリ様が見上げると、娘を信じるべきか、紅葉達の客観的な視点を信じるべきか、お母様は逡巡していた。


「お、おかあたま。それでね、ぽしぇっとが……。」


 焦ったプリ様は一気に勝負に出る事にした。


「お嬢様、昴さん、御無事でしたか。」


 その時、外に通じる扉が開いて、ペネローペさん(目覚まし時計は一個しか持っていません。)が入って来た。


「まあまあ、昴さん。よくぞ、お嬢様を守り通して下さいました。お礼を言いますよ。」


 ペネローペさん(学生時代はポリー伯母さんと呼ばれていました。)は昴の頭を撫でた。


『お嬢様が昴を守っていたんだけどな。』


 と紅葉&和臣は思っていたが、特に言及はしなかった。


「ところで、お嬢様。今、聞こえましたよ。ポシェット、失くしてしまわれたのですか?」


 しまった。一番聞かれてはいけない人に聞かれている。プリ様の頬を冷や汗が伝った。


「ぷ、ぷり つかれたの。もう、おねむなの。」

「プ、プリ様ー。昴も今気が付きました。プリプリキューティのポシェットが失くなっているじゃないですか。」

「も、もう いいの。ぷりは きにしてないの。」

「なんて、おいたわしい。プリ様ぁぁぁ。」


 良いって言ってんだろ。もう、この話題から離れろー。

 プリ様は寝た振りを決め込んだ。


「お嬢様、どうして寝た振りをなさるんですか? ポシェットが無ければ、これからお困りでしょ?」


 ペネローペさん(ミンチン先生と一緒にしないで下さい。)はプリ様の可愛らしいお耳をちょっと引っ張った。小さなお背中がビクンッと震えた。


「い、いらないの。ぽしぇっと なくても へいきなの。」

「ハンカチやチリ紙は何処におしまいになるんですか?」

「ぽけっとに……。」

「ポケットの無いお召し物もございますよ。」

「じゃあ、プリちゃん。明日、お母様と買いに行きましょうか?」


 お母様が提案すると、ここぞとばかりにペネローペさん(怖い人だと思われるのは心外です。)は言った。


「奥様。この間、私とお嬢様はお約束をしました。今度ポシェットを買われる時は、ピーマンを一週間お食べになると……。」


 誰もそんな約束してねえ!

 プリ様の顔が恐怖に強張った。プリ様的には、あの大嫌いだったニンジンでさえ、ピーマンに比べれば「奴は四天王の中でも最弱。」といった存在だ。


「まあ、そうなの? 偉いわぁ、プリちゃん。」

「プリ様ご立派です。」


 マズイ。なんかドンドン追い込まれている。もう、誰でも良いから助けてくれ。これ以上、大人の階段は昇りたくない。

 プリ様が藁にも縋る思いで周りを見回すと、ニヤニヤと笑いを浮かべている紅葉と目が合った。


「プリ〜。女の子は身嗜みが大切だぞぉ。ピーマン食って、ポシェット買ってもらわなくちゃ。」


 こいつ、全部わかって言ってやがるな。なんて悪質な奴なんだ。


「何でガキはピーマンが苦手なんだ?」

「あらあら、美味しいのにー。」


 四面楚歌だった。紅葉の一言で完全に流れが変わった。ポシェット云々より、プリ様のピーマン嫌いの話になっている。

 くそぉ、あいつ絶対に許さん。

 プリ様は紅葉への復讐を誓った。


「かゆめんさん、やっちゃっていいの。」

「イエッサー、その言葉を待ってました。」


 ? と頭に疑問符を浮かべている紅葉の腕を、カルメンさんが素早く取った。


「ぐぎゃああああ。」


 コブラツイストをかけられた紅葉の悲鳴が木霊した。


 溜飲は下がった。しかし、厳然として、ピーマン一週間の刑はやって来る。プリ様は深い溜息を吐いた。

 復讐からは何も生まれなかった。







夏休み等を利用して、ほぼ毎日更新をしていましたが、書き溜めた分もなくなり、そろそろ難しくなって来ました。

暇な時と忙しい時の落差が激しい仕事をしていますので、どうなるかはわかりませんが、なるべく週に二回くらいの更新を目指します。

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