私がプリ様を守るんですぅ
パーシュパタアストラの銃口が、プリ様へと向けられる。
『おっと。また、前と同じ過ちを犯すとこ。死体は、死体だけは残るようにしないと……。』
愛しいプリムラちゃんの死体。どんな風に、有効活用しよう。綺麗にミイラ化して、永遠に愛でてあげても良いな。アルフレッド・サラフィアさんに、相談してみようかな。
楽しい妄想に、口元を緩めるレヴィアタン。それを見たプリ様の背筋に、悪寒が走った。
「ききき、きもちわゆいのぉぉぉ。」
堪らず、ミョルニルで、プリ様は殴りかかったが、それは、悪手以外の何物でもなかった。
「パーシュパタアストラ、ライフルモード。シュート!」
貫通力に特化した、ライフルモードで、狙撃するレヴィアタン。ピンチ、プリ様。
『たたた、たまが みえゆの……。』
危機に際して、プリ様の集中力は異常に昂まり、超高速で、自分の額を撃ち抜こうとする弾丸が、スローモーションの様に見えていた。
『しんで たまゆかぁぁぁ。なの。』
収斂されていく意識と、生きるという意志が交錯し、脳内でスパークした。
「びゆすきゆにゆ らど!」
一個飛ばした。と、プリ様の叫びを、聞いていたリリスは思った。段階を踏んでいては、パーシュパタアストラの攻撃は防ぎ切れない。プリ様の野性の本能が、無意識の内に、判断していたのだ。黄金に輝く鎧を身に纏ったプリ様は、凄まじい勢いで回転し、迫り来る弾丸を、レヴィアタンへと、弾き返した。
「およっ。危ない。」
自分の撃った弾で死んでは、洒落にならない。レヴィアタンは、素早く身を躱すと、プリ様を睨み付けた。
「どうして? プリムラちゃん、どうして、私の愛情を受け取ってくれないの?」
うわぁぁぁ、意味不明。レヴィアタンの訴えを聞いた、昴とオフィエルは、理解しがたい思考回路を持つ生き物の存在に、大自然の驚異を感じていた。
「おまえ、わけわからないって、やんでれ。」
言葉を発した事で、オフィエルの存在に気付くレヴィアタン。
「貴女は……七大天使の最後の一人、オフィエル様?」
最後の一人?
「れゔぃあたんは ななだいてんし じゃないの?」
六花の一葉を持っているのに……。純粋な疑問が、プリ様の口を突いて出た。
「私は、幼女神聖同盟の戦闘奴隷。オク様やトキ様、七大天使の奴隷よ。」
「ってことは、わたしの どれい でも あるって かんじ?」
「そうよ。」
オフィエルの確認を、首肯するレヴィアタン。
「なら、いったん ひくじゃん、って めいれい。おまえ、きんりんじゅうみんの みなさまに えらい めいわく かけてるじゃん。」
「嫌。何で、私が、貴女の命令を、聞かなくちゃならないの?」
……………………。
「えっ……。だ、だって、おまえ、わたしの どれい だって……。」
「うん。」
「なら、わたしの めいれいを……。」
「燃え上がるプリムラちゃんへの、愛以上に、私を突き動かせるモノはないのよ。」
言葉が通じない……。同一の言語で話し合っている筈なのに、全く、会話が噛み合わない……。自分が、暗黒星雲の中にでも、突き落とされたかの如き心細さを、オフィエルは感じていた。
「むっ?! そうか、貴様ぁぁぁ。」
突如、パーシュパタアストラを、オフィエルへ向けるレヴィアタン。
「プリムラちゃんを、横取りする気だな。」
えっ〜と、七大天使は、ご主人様なんでしょ? ご主人様に、銃口向けて良いのかな? その場に居た全員の頭に、疑問符が浮かんだ。そんな疑問を他所に、放たれる弾丸。
「へへへ、へるめすの しょーてる。」
咄嗟に、神器を構えるオフィエル。間一髪、絶対防御の能力で、銃撃を防いだ。
「うふふふ。あははは。あっーははは。」
攻撃を妨げられ、レヴィアタンは、大声で笑い出した。
「あははは。あっー、苛々する。どいつも、こいつも……。」
パーシュパタアストラが、二つの拳銃になった。二丁拳銃になったレヴィアタンは、やたらめったら、花火みたいに、拳銃を発砲し始めた。
「あははははは。苛々する。苛々する。ふふふふふ。あははははは。あひぃぃぃ。」
いやもう、コイツ、危な過ぎるだろう。何を、どう突いても発砲する。しかも、過剰な攻撃力。存在するだけで、迷惑な存在。レヴィアタンへの対処を、皆んな、考えあぐねていた。
「りっかのいちようを うばうの。れゔぃあたん、もとの すがたに もどゆの。」
なるほど。六花の一葉が、力を与えているのだから、それを取り上げれば、元の人間に戻るのは、必然だ。元の人間に……。
元の人間って、どんな奴だ?
その場に居る全員が、想像しようとして、首を振った。レヴィアタンの振る舞いが、あんまり、あんまりなので、想像するのが、憚られたのだ。
今までの七大天使は、性格の一部分がディフォルメされていたとはいえ、ある程度は、元の人間の性質を反映した人格になっていた。レヴィアタンも、そうだとすると……。
「精神病院から、引っ張り出して来たんじゃないの?」
「し、失礼よ、モミンちゃん。精々、分裂症で、投薬治療中って、ところじゃないかしら。」
コソコソ話し合う、モミンちゃんとリリス。
「私から、六花の一葉を奪う?」
一方、レヴィアタンは、プリ様の言葉を聞いて、不敵に微笑んでいた。
「奪ってぇぇぇ、プリムラちゃん。私から、何もかも奪って良いんだよ? プリムラちゃんが望むなら、私、何だって上げちゃうよ。」
…………良いのか? 得も言われぬ虚脱感が、その場を支配していた。
「じゃ……じゃあ。おことばに あまえゆの。」
恐る恐る、プリ様は、レヴィアタンに近付いた。
「りっかのいちよう、くれゆ? れゔぃあたん。」
「良いよ。その代わり……、プリムラちゃんの愛と、引き換えだよ。」
「…………。ごめんなさい なの。れゔぃあたん。」
回れ右をする事もなく、そのまま、後ろ足で、レヴィアタンから遠ざかって行く、プリ様。
「何で? どうして? 私の何が気に入らないの? プリムラちゃん。」
何もかもなの。とは、さすがに言えず、愛想笑いをしながら、プリ様は、離れて行った。
「結局……。」
二丁拳銃を、クルクル回すレヴィアタン。
「死体にするしか、私達の愛し合う術はないのね。」
また、乱射が始まるぅぅぅ。プリ様達の背筋を、緊張感が走った。それなのに、一人、昴だけは「うむむむ。」「もう、ちょっとで、何か……。」などと言って、唸っていた。
「す、すばゆ。らんしゃが くゆの。あぶないの。はやく、あいぎすを だして、かくれゆの。」
「それです、プリ様。その、アイギスで、レヴィアたんの攻撃を、こう……、何とか……。」
戦闘センスというモノが皆無の昴は、レヴィアタンに対する有効打が、何か思い付きそうで、中々、イメージが固まらずにいた。
「と、とにかく、あいぎすを だすの。」
「はい。プリ様ぁ。」
可愛らしく微笑んで、アイギスを出した途端、爆竹でも鳴らす気楽さで、パーシュパタアストラの大乱射が始まった。
「はわわわ。プ、プリ様ぁ。」
「すばゆ、かくれてゆの。」
プリ様は、鎧の防御力を借りて、何とかレヴィアタンに近付こうとしていたが、あまりの激しい銃撃に、一歩踏み出すのも困難な状況だ。オフィエルも、ヘルメスのショーテルの能力で、自分やリリス達を守るのに、精一杯の有様だ。
『わ、私が、何とかしなくちゃ。アイギスなら、出来る筈。プリ様を、お助けするんですぅ。』
まもる。守る。護る。その一事のみを考え、精神を統一する昴。
『守るんですぅ。私がプリ様を守るんですぅ。レヴィアたんの攻撃を、全部アイギスで引き受けられたら……。』
そう、昴が思った時、急に、パーシュパタアストラから発射される銃弾が、全てアイギスの方に向かって行った。
「な、何? どうなったの?」
レヴィアタンも慌てた。昴に、傷でも付ければ、また、トキから折檻を受けてしまう。実は、それが怖くて、狂乱状態にありながらも、昴の方向にだけは、発砲していなかったのだ。なのに……。
勝手に弾が、昴の元に集まってしまった。
だが、レヴィアタンの心配は、杞憂であった。むしろ、レヴィアタンは、自分の身を案ずるべきだったのだ。アイギスに当たった弾は、全部、レヴィアタンに跳ね返って行ったのだから。パーシュパタアストラが、鞭状に姿を変え、自ら放った弾丸を叩き落とさなければ、蜂の巣になっていただろう。
「くっ。今日の処は、この辺で、勘弁してやるわ。」
ありきたりな負け惜しみを残して、去って行くレヴィアタン。プリ様パーティ最大の危機は、何とか脱せられたのであった。
随分、投稿期間が空いてしまって、すみません。実は、この小説の内容がR-18のガイドラインに抵触すると、運営様からご指摘がありまして、訂正や削除をしていました。(一部、まだ修正中です。)
とりあえず、途中ではありますが、後書き小説は止めました。未完でごめんなさい。
期限を過ぎても、削除されなかったので、多分、大丈夫だと判断し、続きを投稿しました。もし、削除されてしまったら、全て、私の不徳と致すところです。楽しみに読んで下さっていた皆様、申し訳ありません。
最後に、今回の件では、運営様にも、ご迷惑をおかけしました。誠に、申し訳ありませんでした。