変態みたいな女の子が、拳銃を発砲して、暴れ回っているらしいの。
八つに分かれた銃弾に、割れたスイカみたいに、モミンちゃんの頭部が潰されようとした時、突如、彼女の頭の周りに、分厚い炎の渦が巻き起こり、銃弾を消滅させた。
「炎? 和臣ちゃんとか、いう奴ね。」
察したレヴィアタンが、辺りを見回したら、モミンちゃんの元へ、和臣と、もう一人女の子が、駆け寄って来るところだった。
「かかか、和臣ぃ。助かったぁ。」
ちょっと、死を覚悟していたモミンちゃんは、半泣きで、和臣に抱き付いた。
「貴女が、プリちゃんの言っていた、レヴィアたん(アにアクセント)ね?」
もう一人の女の子、リリスが、天沼矛を構えながら、問い掛けた。
「そ、そう。私、レヴィアタン(レにアクセント)。プリムラちゃん、なんて噂してたの?」
「…………。貴女、レヴィアたん(アにアクセント)でしょ?」
「レヴィアタン(レにアクセント)よ。」
本人が、レヴィアタンって、言っている!
やっぱり、自分が正しくて、プリ様、昴、藤裏葉が間違っていたのだと、確信するリリス。
『プリちゃんが間違えるのは、可愛いから良いとして、昴ちゃんと裏葉さんは、糾弾してやる。』
リリスが、暗い決心を固めていると、レヴィアタンは、焦れた様に、身体を捻った。
「ねえ、ねえ。早く教えて。プリムラちゃん、私の事、何て言ってた?」
「えっーと……。」
良く考えたら、名前しか聞いてない。
「私の印象を、舌足らずに、一生懸命語っていたでしょ? 『おっぱいが ふかふかで きもちいいの。』とか。」
その台詞を聞いたリリスの眉が、ピクッと、上がった。
「貴女、もしかして、プリちゃんを胸に埋めたりしたの?」
「そうだよぉ。プリムラちゃんは、私のオッパイが大好きなの♡」
あっ、ヤバイ。と、和臣とモミンちゃんが思う間も無く、天沼矛を構えたリリスが、レヴィアタンに突進していた。
「お前は、敵だぁぁぁ!」
「あ〜ら、ムキになっちゃって。貴女も、プリムラちゃんに、お熱なのね。」
貴女も、という事は、このレヴィアタンも、プリに恋しているのか……。悟った和臣は、頭を抱えながらも『プリの奴、モテ過ぎだろう。』と、美少女達を独り占めするプリ様に、男の本能の部分で、嫉妬の炎を燃やしていた。
「貴女の神器。このパーシュパタアストラに、敵うかしら?」
レヴィアタンは、パーシュパタアストラを二つに分け、二丁拳銃で、攻撃した。リリスは、天沼矛で、弾を弾いたが、すぐに柄と刃がボロボロになり、後退を余儀なくされた。
「あっははは。どうしたの? もっと、攻め込んで来なよ。」
その時、凄まじい炎が起こり、レヴィアタンを包み込んだ。
「地獄の火炎!」
和臣の攻撃だ。しかし、炎がおさまると、レヴィアタンは、平気な顔をして、立っていた。
「効かないよ。私を傷付けられるのは、今のところ、神器だけかなあ?」
だが、唯一の神器持ち、リリスは、銃弾の嵐の前に、近寄る事すら出来なかった。
こいつ、強い。
レヴィアタンの、変態みたいな服装と言動に、気を取られていた三人は、ここに至って、漸く彼女の度外れた実力に気が付いた。
「じゃあ、皆殺しにして上げるね。三人も、仲間を殺されたプリムラちゃんが、私を、どんなに、憎むかと想像すると、もう……。」
レヴィアタンは、二丁の銃をクルクルと回しながら、ウットリと、空を見ていた。
「激怒するでしょうね。『ぜったい ゆゆさないの。』とか言うのかな? ああっ、憎んで。私を憎んでプリムラちゃーん!」
興奮したレヴィアタンは、滅多矢鱈と発砲し、その界隈は穴だらけに。付近の住民は、外に出るのさえ怖くて、避難出来ないでいた。
「うふふふ。プリムラちゃん。プリムラちゃん。はあ、はあ。」
一頻り撃ちまくると、落ち着いたのか、レヴィアタンは、リリス、モミンちゃん、和臣を見た。
「お待たせー! 殺して上げるね。」
二つの銃を重ね合わせると、バズーカ砲状の武器が形成されていった。
「三つの頭、ふっとばせ〜。」
レヴィアタンは、実に楽しそうに、その武器を構えた。
自分がアラトロンだった。と、聞かされた晶は、茫然自失となっていた。
「あきら。りっかのいちよう さえ あれば、また あらとろんに なれるって、ふっかつ。」
いや、復活しなくて良いから。プリ様は、アダマントの鎌を使いこなし、自分を追い詰めた、アラトロンの能力を思い出し、苦笑いした。
ちょうど、そこに、晶の母親、尚子が迎えに来た。来たのだが……。
「ゴメンね、プリちゃん、昴ちゃん。もう少し、此処に、居させてもらっても良いかな?」
「それは構いませんが、何故……?」
尚子の頼みに、不思議そうに答える昴。
「なんかね、うちのマンションの近所で、変態みたいな女の子が、拳銃を発砲して、暴れ回っているらしいの。危なくて。」
モミンちゃん達が、レヴィアタンと会敵したのは、阿多護神社に向かう道の途中である。その道を真っ直ぐ行って、トンネルに繋がる自動車道を横断すれば、阿多護神社への階段に辿り着くのだが、その自動車道の手前に、晶達、笠間親子の住むマンションがあった。プリ様と晶は、本当にご近所なのだ。
そして、尚子の話を聞いたプリ様はピンと来た。変態みたいな女の子って、もしかして……もしかしなくても、レヴィアタンに違いないと。
「あきらちゃん、おばたん、ここにいて。」
スックと立ち上がるプリ様。出来れば、レヴィアタンとは関わり合いになりたくはないけれど、暴れて、一般民間人に被害が出ているとなると、放っておくわけにはいかない。
「わ、私も行きますぅ。」
「おもしろそう だから ついてく なりよ。」
飛び出したプリ様を、昴とオフィエルが追いかけた。その様子を、笠間親子は、呆気に取られた感じで、眺めていた。
「ふんふんふーん。」
鼻歌を歌いつつ、上機嫌でパーシュパタアストラを構えるレヴィアタン。三人の命は、風前の灯だ。ところが、正に引き金を引こうとした瞬間、リリスと目を合わせてしまった。
『姉……様……。』
レヴィアタンの中で眠っていた、翔綺の意識が、ムックリと、首をもたげた。分裂した二つの人格。翔綺は、後ろから、レヴィアタンの行動を見ていた。
『ダメよ! ダメェェェ!!』
自分の手で、姉を殺す訳にはいかない。翔綺は、何とか、レヴィアタンを止めようと、必死に、身体の主導権を奪い返そうとした。
『むむう。出しゃ張るなぁ。』
『ダメ、ダメ。させないんだから。』
一つの身体の中で、二つの意識の、綱引きが始まった。その結果として、身体を硬直させ、レヴィアタンは、パーシュパタアストラを取り落とした。
「な、何が起こっているの?」
リリスが呟き、和臣とモミンちゃんも、固唾を飲んで、なんだか苦しみ始めたレヴィアタンを、見守っていた。
「私の、私の中で、邪魔をするなぁぁぁ!」
自分の身体を抑えながら、叫ぶレヴィアタン。どの角度から見ても、危ない人です。
「あいつ、もしかして、この土壇場で、厨二病を発生させている? ……とか。」
命のやり取りをしている現場、いわば、この場所は、今、戦場だ。戦場で厨二病だなんて、まさか、そんな事はないだろう……。と、モミンちゃんの言葉に、和臣とリリスは首を振るのだが、なんせ、出鱈目な言動のレヴィアタンである。ないとも言い切れないのだ。
『させない。させない。姉様を……、殺らせはしないんだから。』
三人の戸惑いを他所に、レヴィアタンの中では、翔綺が、必死で、踏ん張っていた。モミンちゃんを撃った時は、何の葛藤もなかったので、やはり、肉親の情というモノは、強いのである。
「うおおお。ふざけるなぁぁぁ。私だって、私だってぇぇぇ。」
レヴィアタンは、手を伸ばし、パーシュパタアストラを拾った。
「私だって、プリムラちゃんへの愛の為に、アイツ等ぶっ殺す!」
愛情の示し方のベクトルが、常人と全く違う。そこは、やはり、変態というべきか。
「へっ?! れゔぃあたん、わたちを すきなの?」
何という間の悪さ。衝撃的な発言が為された折も折、プリ様が、押っ取り刀で、駆け付けて来たのだ。
「プ、プ、プ、プリムラちゃん?!。」
ははは、恥ずかしいぃぃぃ。
顔を真っ赤にしたレヴィアタンは、照れ隠しなのか、四方八方に、大口径のパーシュパタアストラを、ぶちかました。倒れる電信柱。砕け飛ぶ屋根瓦。近隣住民は、もう、生きた心地もしません。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしいぃぃぃ。こうなったら、こうなったら、もう……。
プリムラちゃんを抹殺して、恋愛を成就するしかない。
レヴィアタンは、全然意味の分からない、傍迷惑な決心をして、やって来たプリ様と向き合った。
実は先月、ちょっと、ぶっ倒れて、少し入院していたのですが、入院の事を、私小説風に書いてみたくなりました。
なお、オジさんの入院姿や、入院中の生活なんて、誰も想像したくないし、知りたくもないでしょうから、事実は「入院した。」という事だけで、話の内容は全てフィクション。主人公は、可憐な女子高生とさせて頂きます。
それが、私小説と言えるのかと問われれば、笑って誤魔化すか、私小説の枠組みを変える運動を起こすかしないと、いけない訳なのですが……。
ちょっと、今ハマっている、◯川◯人さんの小説、◯くらばシリーズの、影響を受けたと思って、見逃して下さい。
☆☆☆☆☆☆☆
後書き闘病私小説 高望みとメンクイ
「香織ちゃん。えろう、熱心に、窓の外見てるけど『あの枯葉が散った時、私も死ぬんだ。』とか、思うとるんやろ?」(すみません。関西弁に関しては「なんちゃって関西弁」なので、関西圏の人、本気で怒らないで下さい。)
私が、深まる秋を感じ、病室の窓から見える枯葉を眺め『あの枯葉が散った時、私も死ぬのね。』などと、悲劇のヒロインゴッコをしていると、見舞いに来てくれた兄嫁から、声を掛けられました。
「いや、お義姉はん、来てくだはったんですか。遠い所、えろうすんません。」
「なんで、アンタまで、関西弁になるんや。馬鹿にしてはります?」
此処は、東京で、私も東京育ちです。兄は、性格が悪いクセに、京美人を娶るという、大金星をあげたのです。(あと、くれぐれも言っておきますが「なんちゃって関西弁」なので、クレーム等を送るのは、やめて下さい。)
「あの人が『怖くて、よう見舞いに行けん。』言うもんやさかい、まず、私が、斥候で来たんや。」
「怖い? 何で?」
「小さい時、あの人、アンタさんを、えらいイジメなすったんやろ?」
ええ。色々やられましたね。トイガンに弾を込めて「十数えるうちに、逃げられるだけ、逃げてみろ。」とか。お風呂に入った時、無尽蔵にお湯を頭からかけてくる、とか。振り子時計などと言って、私の足首を掴んで、逆さまにして振る、とか。さらに、それをしている時に、力尽きて、手を離し、私を頭から落とす、とか。
「特に、あの男、私の長い髪が、お気に入りでしてね。こっちは泣いて嫌がっているのに『髪結んでやるよ。』(ガサツな男児は、髪は編むものだという概念が無いのです。)とか言って、髪の毛二束、無造作に固結びしたり、頭頂部に、輪ゴムを使って、チョンマゲを作ったり……。」
思い出すだけで、怒りでワナワナと、手が震えて来ました。
「どうどう。香織ちゃん、どうどうや。落ち着きなはれ。」
「そんで、何が怖いの?」
「そやからな『アイツは執念深いから、死んだら、絶対、恨みを返しに来る。無事か、どうか、見て来てくれ。』言わはって。」
えっ? 私が悪いの? なら、イジメなきゃ、良いでしょうが。私が憮然としていると、兄嫁は、クスクスと笑いました。
「何が可笑しいんどすか?」
「いやな。本当は、あの人、病床に伏してる、香織ちゃんを見るのが、怖いんや。死んだら、どうしようって、ガクブルなんや。肝の細い男やからな。」
「死ぬかいな。」
「そうやね。豊胸手術くらいで、死にはせんわね。」
そんなに大事な妹なら、もっと可愛がれば良いと思います。今からでも遅くないです。ブランド品を、貢いだりすれば良いのです。
「んっ? お義姉さん、今、なんて?」
「そやから。豊胸手術くらいで、死なへんと……。」
「過労です。豊胸手術じゃありません。」(女子高生が過労? などという疑問を抱いてはいけません。)
また、お義姉さんの、貧乳いじりが始まった……。と、暗澹とする私。
「っていうか、お義姉さんも、そんな大っきくないよね?」
「ウチは気にしてへんもん。香織ちゃんは、ようけ、気に病んでるゆうか、コンプレックス……。」
「私の……周りの男達が、無神経なんだもん。」
魂の叫びです。私だって、貧乳を至高のモノとする「胸無し宗教王国」にでも生まれていれば、自分の努力では、どうしようもない肉体的特徴を、気に病んだりはしませんでした。
「中学の二年生くらいの頃からかな……。兄の興味は、私の髪から、胸に移っていったんですよ……。」
「なんか、それ、危ないわ。」
「触ったりは、しないんですけどね……。ジッ〜と、見ているから『何?』と聞いたら『あっ、ゴメン。何で家の中に、電信柱があるんだろうって、思ってた。』とか『あっ、ゴメン。茶筒にしては、大きいと思った。』とか……。」
「いや、それ、充分セクハラやわ。」
純然たる怒りが、込み上げて来ます。そして、我知らず涙が……。
「ちょっと、香織ちゃん、泣かんといて。さすがに引くわ。」
「だって、だって。こうやって植え付けられた劣等感に、周りの男共が、ハイエナみたいに寄って来るんだもん。」
本当に何なんでしょう。胸の無い子なんて、一クラスに何人も居るのに、それを気にしている様子の無い子の所には、奴等は、絶対に、行かないのです。そして、私みたいに、密かに劣等感を持っている子を、恐るべき嗅覚で探り当て、自分達の享楽の為の贄とするのです。
「何、言われたんや?」
「一番理不尽かつ、腹が立ったのがですね、太り放題太った男子から『いやあ、香織ちゃんより、俺の方が胸あるわ。ゴメンね。』と言われた事ですかね。」
「なんで、謝るんや。」
「そう思うでしょう。この『ゴメンね。』が、悔しくて、悔しくて、今だに、夢に見るくらい悔しくて……。」
「執念深いな、アンタ。」
声を大にして言いたいです。君の、その、醜い脂肪の塊を、赤ちゃんを育む為の母乳を供する、いわば、聖なる泉であるところの、乳房と一緒にするな、と。声を大にして言いたいのです。
「そうやな。赤ちゃん産んだら、胸も張って来るやろな。」
「そうでしょ。そうでしょう。」
「まあ、結婚出来ひんかったら、そのままやけど……。」
「出来るよ。結婚出来るもん。」
「でも、香織ちゃん、男嫌いやん。」
だって、今まで、周りにロクな男が居なかったんだもん。高橋◯生さんみたいな人が居れば、嫌いになんてならないもん。高橋◯生さんみたいな人が居れば、結婚するもん。
「まず、その、高望みとメンクイを、止めなはれ。」
「お義姉さんには、分からないよ。お兄ちゃんみたいな、不細工で、最悪の性格でも愛せる、聖母マリア様みたいな人には。」
「なんや、褒められとるか、貶されとるか、分からんわ。」
でも、実際、お義姉さんには感謝しているのです。料理も出来ない。洗濯機も回せない兄を見ながら『あれ? コイツ、独身のままだったら、私が、一生、面倒見なきゃいけないの?』と、小さな胸を痛めていた時もあったからです。
「もし、結婚出来なかったら、精子バンクから、精子だけもらう。絶対、子供産んで、胸大きくする。」
「若い娘が、精子、精子、言わんといてや。もう、分かったって。香織ちゃんは結婚出来るって。安心しいや。」
「ホントに?」
「ホント、ホント。それだけ、恐ろしい執念持っとったら、結婚くらい全然出来るやろ。」
「高橋◯生さんと……。」
「それは無理や。よう、鏡見てみい。」
容赦の無い一言です。私は、サイドテーブルに置いてあった手鏡を見て、深い溜息を吐きました。
「そんな、落ち込まんといてや。退院したら、お義姉ちゃんとエステ行こ。快気祝いに、奢ったるわ。」
「ホント?」
「うん。肌ピカピカの、ベッピンさんになるで。」
「そしたら、高橋◯生さんと、結婚出来るかな?」
「それは無理やて。諦めい。」
どんなに頑張っても、高橋◯生さんとの結婚は、認めてもらえない、晩秋の昼下がりなのでした。