わたしたち、おともだち でしょう?
謎の変態女に、がっちりホールドされてしまったモミンちゃん。
「お前、何者?」
「うふふふ。プリムラちゃんから聞いているでしょ?」
「プリから……?」
なんにも聞いてない。
「嘘よ。プリムラちゃんは、私に対する注意喚起を、仲間達に促している筈よ。『あいつは やばいの。やばすぎ なの。』とか。」
まあ、色んな意味で、この女はヤバイとは思うけど……。どれだけ首を捻っても、やっぱり、聞いた覚えのないモミンちゃん。
「幼女神聖同盟の戦闘奴隷。レヴィアタンよ。ねっ、思い出した? 聞いてるでしょ?」
「…………? いえ、全く。」
「嘘。嘘よ。『いかにも へんたい そうなの。ちかずくと へんたいが うつゆの。』とか、プリムラちゃんは、夢中で、私の噂をしてなきゃ、ダメなのに。」
して欲しいのか、そんな噂。それにしても、プリの物真似上手いな、コイツ。と考えながらも、レヴィアタンの、落胆ぶりに、少々、気の毒に思うモミンちゃん。
「ねえ、プリムラちゃん、私の事、何とも思ってないのかな。」
「はいぃぃぃ?」
いきなりの恋愛相談。あまりの支離滅裂さに、モミンちゃんは、本気で、レヴィアタンが怖くなっていた。
「だって、普通、気になる子が居たら、仲間とかに相談するものじゃない?」
「そ、そっスねぇ……。それは人それぞれというか……。」
当たり障りの無い返事をしながら、さりげなく逃れようとするモミンちゃんだったが、レヴィアタンは、華奢な割に馬鹿力で、ビクともしないのだ。
「まだまだ、気の引き方が足りないのかな。どうすれば、もっと、私を見てくれるかな?」
いや、多分、プリは、コイツについて、考えるのも嫌なのではないだろうか。何と無く、プリ様の気持ちが分かるモミンちゃん、十六歳。(紅葉は十月生まれ。この時点で、作中では十一月になっているので、十六歳になってます。)
「例えばさあ、例えばだけど……。」
「はあ?」
「プリムラちゃんの仲間の頭を、柘榴みたいに割って、目の前に放り投げて上げれば、もう、プリムラちゃんは、私の事しか、考えられなくなるんじゃないかな?」
なんて、物騒なやり方を、思い付く女だ。仲間の頭を割るなんて……。そこまで、考えた時、モミンちゃんの背筋を、冷たいモノが走った。
「じゃあ、早速、試してみるね。紅葉ちゃん、ワレー。」
何処から取り出したのか、レヴィアタンは、銃をモミンちゃんの頭に突き付けていた。否、銃ではない。神器パーシュパタアストラだ。
こんなところで死ねるもんかー! モミンちゃんは、素早く、レヴィアタンの鳩尾に、当身を食らわした。
「はうんっ!」
思わず声を上げる、レヴィアタン。細い身体がビクンとしなり、モミンちゃんのコメカミに当てられていた、銃口が逸れた。発射された弾は、モミンちゃんの頭ではなく、傍らにあった電信柱を砕いた。
「きっさま〜。」
「おっ? 何? 怒ったの。」
レヴィアタンが、怒気を見せたので、モミンちゃんは少し安心した。怒るなんて、実に分かりやすい、人間的な反応だ。
「きさま……。なんという、なんと……。」
「あははっ。怒ったの? もっと、怒りなさいよ。」
「なんて、痛くて、気持ちの良い……。」
「はい?」
「ああん。痛くされるのも、それはそれで、良いわ。もっとして。もっと、痛くして〜。」
もっと、もっと、と言いながら、パーシュパタアストラを連射するレヴィアタン。それほど威力は籠めてないみたいだが、アスファルトの道路は抉れ、民家の瓦屋根が跳んだ。
本当に面倒くさい。モミンちゃんは、早々に、ケリを着けてしまおうと思った。ブレスレットをロッドに変えて……。
「凍える月の地表。」
レヴィアタンの周囲半径三メートルの範囲内が、絶対零度となって凍り付き、一瞬、レヴィアタンの動きが止まった。
「へえ……。ちょっと、驚いた。」
レヴィアタンは、何事も無かったかの如く、絶対零度になっている圏内から、歩み出た。
「何なのよ、アンタ。なんで、平気なの?」
「んー、教えて上げても良いけど、女の子の秘密だしなあ。」
イラッ。
身体をクネクネさせながら、意味ありげに上目遣いをする……。モミンちゃんが、最高に苛つく、女の子の仕草だ。
「なら、聞かないわ。『月面を穿つ隕石』!」
間髪入れずの第二攻撃。しかし、その攻撃も、レヴィアタンの身体をすり抜けるみたいに、全く効果が無かった。
『嘘ぉぉぉ。』
焦るモミンちゃんを、薄笑いで見ながら、レヴィアタンは、パーシュパタアストラの引き金を引いた。
「じゃあ、今度こそ。成仏してね、紅葉ちゃん。」
銃口を飛び出した弾は、八つに分かれ、モミンちゃんの頭を、四方八方から襲った。
『冷凍庫に入れておいたハー◯ンダ◯ツ、食べておくんだった。』
人生最期だというのに、結構、下らない事を考えているモミンちゃんであった。
『うええ、もんぶらん?!』
プリ様家のオヤツは、いつも美味しくて、晶も楽しみにしているのだが、今日出されたケーキはモンブラン。元々、そんなに好きではない、お菓子なのだ。
モンブランは、とにかく、色が地味だ。苺のケーキや、フルーツケーキの、見た目の派手派手さも、晶にとって、ケーキ選びの重要な指標の一つであった。なので、色んな種類のケーキがある中から、モンブランを選ぶ事は、まず無かった。
「どうした、あきら? いらないなら くってやるって、しんせつ。」
「しんせつ じゃないでしょ。じぶんが たべたい だけでしょ。」
伸びてきたオフィエルの魔の手を払いのけ、晶は、一口、パクッといった。
「おおお、おいしいぃぃぃ。」
神王院家料理長、長田さんの作るスイーツは、一味も二味も違っていた。晶のモンブラン観を、百八十度変えるほどに……。
「そっか、そっか。」
夢中でパクつく晶を、プリ様は、目を細めて見ていた。非常に和やかな雰囲気である。
「ああっ、おいしかった。あらとろんは まんぞく である。」
食べ終えた晶の第一声に、オフィエルが食い付いた。そして、プリ様が止めようとするのも間に合わず、ペロッと言ってしまった。
「おっ、おもいだしたのか あきらって、かくせい。」
「おもいだした?」
ギロッと、プリ様を見る晶。
「ぷりちゃん、どういうこと? なにか、かくしてる?」
オフィエルから情報を引き出す為の、晶の高度な駆け引きであった。窮地に追い込まれるプリ様。
「ぷりちゃん、わたしたち、おともだち でしょ?」
胸の前で手を組んで、瞳をウルウルさせながら、晶は聞いて来た。
「あきらは わたしや はぎとの なかま だったって かんじ?」
テメエ、何言っちゃってくれちゃってるの? 激しく睨み付けても、オフィエルは素知らぬ顔だ。
「ぷり、ゆうじょうに うそは なしじゃん。」
「…………。わかったの。ぜんぶ はなすの。」
「ぷりちゃん……。」
プリ様、オフィエル、晶の間に、いい感じの空気感が生まれた。
「でも、とりあえず、おふぃえゆ には、もう『わらって、えがおで、ぷりぷりきゅーてぃ 』の でぃすくは みせないの。」
「ななな、なんでぇ? いま、いいかんじ だったなりよ?」
パニクるオフィエルは、放っておいて、プリ様は晶に、その出会いと、彼女の忘れている過去について語り始めた。
全てを聞き終えた晶は、呆然としていた。
「ぎ、ぎんざせんの じけんを わたしが おこした……。」
梅雨の時期に発生した銀座線軌道敷設内一時的消失事件は、半年近く経った今でも、不思議な事件として、国中で騒がれていた。そんな大事件が、自分の仕業だったとは……。
「そそそ、それじゃあ、わたし、じぶん から なのっていたの? あらとろん って。」
「晶ちゃん、私達全員の前で、名乗りを上げていましたよ。私は『幼女神聖同盟』を束ねる『七大天使』の一人、名は『アラトロン』って。」
晶の質問に、ペラペラと答える昴。
『うぎゃあああ。かんべんしてぇぇぇ。』
と、晶は頭を抱え、悶絶し、のたうちまわるのであった。