アイアンヨージョ
「ふみつぶして あげる。ぷりちゃん!」
ジャイアントヨージョの、巨大な足が迫る。後ろに跳んで逃れたプリ様に、シタとミトゥムの、追撃の衝撃波が、飛んで来た。
「プリ様ー!」
タイミング的に、ジャストミートされた様に見え、昴が悲鳴を上げた。だが、その恐ろしい威力の衝撃波を、プリ様は片手で弾いた。弾かれた衝撃波は、地面に当たり、クレーター状の大穴が出来た。
「なかなか やるね、ぷりちゃん。」
「はぎと、これいじょう ていこう するなら、ぷりぷりきゅーてぃじゃんけんさんだーたいふーんを、おみまい すゆの。」
忘れている方も、いらっしゃるかも、しれないので、もう一度説明しよう。「プリプリキューティジャンケンサンダータイフーン」とは、シリーズ七作目「笑って、笑顔で、プリプリキューティ」のメンバー、プリプリジャンケンが、パワーアップして会得した大技である。
ちなみに、プリプリジャンケンは、あざといくらいに、可愛らしいので、大きなお友達から、絶大な人気があるのだ。国営放送の人気投票では、堂々、五位に輝く程である。
何はともあれ、そのプリ様の台詞を聞いたハギトは、かなりの動揺を見せた。
「なんですって? じゃんけんさんだーたいふーんを……?!」
いや、それ、プリが、勝手に、言っているだけだから。マジに驚いているハギトに、和臣は、心中で、突っ込んでいた。
そして、右拳を、天に突き出すプリ様。
「ぐー!」
と叫ぶと、空から稲妻が降って来た。
「ちょき!!」
降り続ける稲妻が、プリ様の右拳に帯電し、火花が走り……。
「ぱー!!!」
で、拳を開いて、右腕をジャイアントヨージョに向かって、突き出した。すると、凄まじい電流が迸った。
「うっぎゃああああああ。」
ジャイアントヨージョを構成する大半の魔物は、黒焦げになって、地面に転がった。
「ハギトちゃん!」
投げ出されて、尻餅を着いているハギトに駆け寄る、ハーピーと狼男。
「どどど、どうしよう。どうしよう。どうしよう。」
「落ち着いて、ハギトちゃん。また、魔物を呼べば良いわ。」
「よんでも、しゅんさつ されちゃうよ。じゃんけんさんだーたいふーん なんだよ。」
幼女達の間では、ジャンケンサンダータイフーンと言えば「喰らった敵は、必ずやられる。」という、絶大な評価があった。
「大丈夫。『死を招く声』を使うから。」
「しをまねくこえ?」
ハーピーの呼び寄せる魔物は、通常、自分より格下に限られる。しかし「死を招く声」を使用すれば、命と引き換えに、格上の強い魔物を招集出来るのだ。
「ははは、はーぴー しんじゃうの?」
動揺するハギトに、微笑みかけるハーピー。
「なら、俺も『最期の遠吠え』を、使うかな……。」
狼男が呟いた。「最期の遠吠え」とは、狼男が、遠方の眷属達を呼ぶ、やはり、己の死と引き換えの技なのだ。
「いやだ。いやだよぉ。ふたりが いなくなる なんて。」
泣くハギトの頭を、狼男が撫でた。
「どうしても、叶えたい願いが、あるんだろう?」
「私達の命は、ハギトちゃんの為に、使うモノなの。」
ハーピーも、優しく頰を摩った。
そして、二人は、耳を塞ぎたくなる程の、声を上げた。死を賭した、最期の絶叫。
「はーぴー! おおかみおとこ!」
ハギトが叫ぶのと、時を同じくして、二人は膝を折り、崩れ落ちた。
「何が、始まろうと、しているの?」
誰にともなく言う、リリス。辺りは、物音一つしなくなり、嵐の前の静けさを感じさせた。
「おいおい。そうそうたるメンツが、揃っているぞ。」
静寂を破り、土煙を上げ、群れを成してやって来た魔物達を見て、呆れたみたいな口調で、和臣が言った。ミノタウロス、オルトロス、ケルベロス等々。日本の妖怪、牛鬼などの姿も見えた。狼男の、眷属らしき、魔物の姿も在る。
「かわさき から ここまで きたの。つよい やつ、いっぱい いたの。」
プリ様が、ポツンと、和臣に答えた。
魔軍移動要塞は、人口密集地を縫って、長距離移動をして来ただけに、その沿道には、格闘家や、スポーツ選手も、大勢居たのだろう。それら猛者が、全て魔物となって、この足立区の空き地に結集しようとしているのだ。
ハーピーと狼男の死骸の前に、蹲っていたハギトは、スックと立ち上がり、涙を拭った。
「みんな、がったいよ。ぐれーとじゃいあんとよーじょ!」
眩く輝く、ケストス。集まった強者魔物達は、次々と組み上がっていき、ジャイアントヨージョよりも、一回り大きい、グレートジャイアントヨージョとなった。ヤアッと飛び上がり、その頭の上に立つハギト。
グレートジャイアントヨージョの威容に、少し、たじろいでいたプリ様は、気を取直して、右拳を、再び、天に突き上げた。
「ぷりぷりきゅーてぃじゃんけんさんだーたいふーん!」
グー、チョキ、パー。先程よりも、威力を増した電撃が、襲い掛かったが、それを、避けもせず受け止める、グレートジャイアントヨージョ。
「いたくも かゆくも ない。」
「なに?! なの。」
「もう、そんな こどもだましは つうよう しないわ。」
グレートジャイアントヨージョが、シタとミトゥムを振るった。超特大の衝撃波を、モロに浴びて、吹っ飛ぶプリ様。
「プリちゃんを援護よ。」
「分かっている。」
攻撃しようとする、リリスと和臣を躱し、その巨体が、宙に舞った。
「しょうげきは、みだれうち。」
頭上から降って来る衝撃波の雨。避ける事も出来ず、リリスと和臣は、滅多打ちにされた。地響きを立てて、降り立ったグレートジャイアントヨージョは、そんな二人を、両足の爪先で、押さえ付けた。
「まずは この ふたりを ふみつぶすわ。」
「や、やめゆの。はぎと……。」
「えらそうな こと いって。あなたは なにひとつ まもれないのよ、ぷりちゃん。」
グッと、爪先に力が加わり、和臣とリリスが呻いた。ヨロヨロの、ボロボロで、倒れていたプリ様が、それを見て、ユラッと、立ち上がった。
「やめろぉぉぉ! はぎとぉぉぉ!!」
轟く叫び。それに呼応して、巨大化する、ビルスキルニル ソーン。
「照彦様。ビルスキルニル ソーンが……。」
「うん……。まるで、巨大ロボの様ですね。」
耳を引っ張って、話し掛けて来る藤裏葉に、答える照彦。彼等の眼前で、プリ様のお身体から剥がれた、ビルスキルニル ソーンは、巨大幼女型ロボへと、変化した。
「とうっ!」
プリ様が飛ぶと、巨大ビルスキルニル ソーンの胸部にある、四角いクリスタル状のパーツから光が発せられ、彼女を、その体内へと吸収していった。
「な、なんなの? それは……。」
「びゆすきゆにゆ そーん、きょだいなる ちから。あいあんよーじょ。」
ハギトに向けて、敢然と名乗りを上げる、アイアンヨージョ。その右腕が、スッと、上がった。
「い、いっぽ でも ちかづいたら ふたりを つぶすわ。」
「とんでく ぱーんち!」
脅すハギトを無視し、叫ぶプリ様。それと同時に、アイアンヨージョの右前腕部が、ミサイルが如く、飛び出した。「飛んでくパンチ」は、グレートジャイアントヨージョの胸部に命中し、その巨体は、仰向けに、ひっくり返った。その機を逃さず、遁走するリリスと和臣。
「くっ、まずい。おきあがって。」
濛々たる土煙の中、グレートジャイアントヨージョは、追撃に備えて、即座に立ち上がった。が、それを待っていたかの様に、回し蹴りを喰らわすアイアンヨージョ。
「ちょ、ちょうしに のって……。」
グレートジャイアントヨージョは、よろめきながらも、シタを振って、衝撃波を発生させた。
「あいあん……ばりあー!」
アイアンヨージョは、両手を突き出し、衝撃波を真っ向から受け止めた。そして、微動だにしない。
「これなら どう?」
体勢を立て直した、グレートジャイアントヨージョは、全力で、シタとミトゥムを振った。
「あいあん……しょっく うぇーぶ!」
対して、アイアンヨージョは、両手を掌底の打ち方で、突き出した。アイアンショックウェーブ……。早い話、これも衝撃波だ。
二つの衝撃波は、二つの巨大幼女の中間で、ぶつかり合っていたが、アイアンショックウェーブが競り勝ち、グレートジャイアントヨージョは、吹っ飛ばされた。
「あいあん……にーどる!」
すかさず、針を飛ばすプリ様。一メートル程もある、巨大な針が、ブスブスと刺さり、悲鳴を上げるグレートジャイアントヨージョ。
「なに? なに? なんなのぉぉぉ。」
ハギトもまた、パニクッていた。彼女の動揺を他所に、両手を、グルングルンと、回し始めるアイアンヨージョ。
「ななな、なにを するき?」
「えんしんりょく……とんでく ぱーんち!」
先程とは、比べ物にならない威力の「とんでく ぱんち」が、発射された。しかも、両手分だ。
「離さないでぇぇぇ。」
組体操の様に結合していた魔物達が、潰され、吹き飛ばされ、手を離していく。
グレートジャイアントヨージョは、バラバラに解け、散っていった。




