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ジャイアントヨージョ

 大きくなったと思った腕は、良く見直すと、いつものプリ様の可愛らしい御手手に戻っていた。


『いや、でも、今、確かに……。』


 皆が、そう思って、プリ様を凝視する中、ハギトだけは、焦りを感じていた。放てば、必ず当たる。ハギトは、自分の攻撃を、そう認識していた。これは、思い上がっている訳ではなく、普通の人間が、足を交互に動かせば、歩行出来るという事実を、疑わないのと同じだった。逆に言えば、足を交互に動かしても、歩行出来なければ、誰もが、吃驚するだろう。今の、ハギトの心理状態が、それだった。


「やあああああ!」


 自らのコンディションを、確認するかの如く、ハギトは、続け様に、シタとミトゥムの衝撃波を放った。それは、シタの衝撃波を、ミトゥムの衝撃波で後押しするという、威力倍増の放ち方だった。


『うける? かわす?』


 受ければ、吹き飛ばされる。躱しても、次弾を撃つ用意はある。ハギトは、プリ様の出方を、窺った。


きょだいなゆ(巨大なる) ちから!」


 まただ。今度は、プリ様の両腕が、大きくなった様に見えた。


びるすきるにる(ビルスキルニル) そーん(ソーン)の ちからを はつどう(発動) させると、ぷりちゃんの おもいえがく(思い描く) いめーじが しかくか(視覚化) されるのね。でも……。』


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ハギトは、衝撃波のスピードを、ワザと遅くしていた。それは、プリ様が、衝撃波を抑えている間に、背後に回り込む為……。


「なに? なの。」


 巨大なる力で、衝撃波を受けた一瞬、ハギトの姿が消えた。次の瞬間、プリ様は、背中に、シタとミトゥムの攻撃を受けて、弾き飛ばされた。




「おい、プリが押されているぞ。」


 攻め寄せる魔物達を焼き尽くしながら、和臣は、リリスに話し掛けた。とても、信じられないという口調だった。


お母様(朝顔)の手足を、斬り飛ばしたのよ。並みの戦闘センスの持ち主ではない。と、私は思っていた。」


 何時ものハギトは、怖がりで、寂しがりで、泣き虫の様子が強く、戦闘の天才などという印象は、微塵も感じられない。だが、戦歴だけを、冷静に俯瞰すれば、彼女の、途轍もない実力の片鱗が、浮かび上がって来るのだ。




「ぐあああっ、なのぉ。」


 衝撃波の痛みに、七転八倒のプリ様。


「とどめ!」


 シタとミトゥムを、連打するハギト。これだけの数の衝撃波が当たれば、さしものビルスキルニル ソーンとて、無事では済まない。


 しかし、その時、藤裏葉の結界から飛び出した昴が、タラリアの速度を全開にし、プリ様に近寄った。


「はわわわ。神器アイギスゥゥゥ。」


 タラリアの速さに、ついていけず、上半身を泳がせながら、アイギスを出す昴。そのアイギスは、プリ様への攻撃を、全て吸い取るみたいに、その身に受けた。


「プリ様、プリ様ぁ。」


 蹲りながらも、何とか立ち上がろうとするプリ様に、昴は取り縋った。その光景を見て、苛立ちを募らせるハギト。


「ぷりちゃん、また なの? また、すばるちゃんの かげに かくれるの?!」

「止めて。もう、止めて、ハギトちゃん。ファレグちゃんの仕返しと言うなら、もう十分ですぅ。」

「じゅうぶんな もんか! ころして(殺して) やる。」

「そんな事しても、ファレグちゃんが、喜ぶ筈ないですぅ。」


 昴の叫びに、ハギトは、虚を突かれた表情をした。


「すばゆ、どくの。」


 ユラっと、立ち上がるプリ様。


「でも、プリ様。でもぉ……。」

「だいじょぶ なの。ぷりは まけないの。れい() との やくそく なの。」

「やくそく……? やくそく(約束)って なに? ふぁれぐ(ファレグ)ちゃんと なにを やくそく したって いうの?」


 プリ様は、ギンッと、ハギトを見据えた。


「ひとびとを まもゆ こと なの。おのれの せいぎを つらぬく こと なの!」

「なっ…………。」

「はぎと、なんどでも いってやゆの(言ってやるの)。おまえの しみったれた ちから では、ぷり(プリ)には、かてない(勝てない)の!」

「ふっ……、ふざけないでぇぇぇ!」


 再び連打される、シタとミトゥム。プリ様は、昴を押し退けると、矢面に立った。衝撃波は、変化球の様に、様々にコースを変え、プリ様の周り、三百六十度から襲い掛かった。


びゆすきゆにゆ(ビルスキルニル) そーん(ソーン)きょだいなゆ(巨大なる力) ちから!!」


 瞬間、プリ様の五頭身のお身体が、そのまま、ブワッと、膨張して見えた。衝撃波は、その膨らんだ、お身体に、ことごとく、跳ね返された。


「うそ……。うそよ。」


 息を切らし、髪を振り乱して、シタとミトゥムを連打するハギト。しかし、ビルスキルニル ソーンの能力の前では、もはや、通用しなかった。


りっかのいちよう(六花の一葉)を わたすの、はぎと。」

「やだ……。やだっ。」

「わたすの。そうしないと、とりゅう(兎笠)ちゃんも……。」

「かった つもり? それで かった つもり なの? ぷりちゃん。」


 兎笠ちゃんも……。と、言い掛けたプリ様のお言葉が、心の奥底に引っ掛かるハギト。しかし、激昂している彼女は、その言葉を、激情で、押し流してしまった。


「まものたち、わたしに ちからを かして。」


 腰に締めたケストスを、ハギトは輝かせた。すると、ハーピーの呼び寄せた魔物達、というか、ハーピー自身と、狼男も、組体操をする要領で、組み上がり、二十メートルは、あろうかという、一つの巨大な魔物になった。


 ポンッと、飛び上がり、その頭の上に、乗っかるハギト。


「ふみつぶし ちゃって。」


 巨大魔物の足が上がった。照彦(in ポッカマちゃん)は、翔綺を背負ったまま、和臣は紅葉を背負い、あとの者は、それぞれ、その場を逃げ出した。


「外に出るのよ。あんな怪物が暴れ回ったら、この要塞だって、もたないわ。」

「ぴっ、ぴっけぇ!」


 リリスの指示に、ピッケちゃんが答えた。翼を大きく広げ、爪を伸ばして、照彦(in ポッカマちゃん)+翔綺&和臣+紅葉&昴を、足一本づつに引っ掛けた。そして、崩れ行く要塞の破片を避けながら、外に飛び出した。


「ナイス! ピッケちゃん。」


 照彦(in ポッカマちゃん)は、そう言いながら、下を見た。其処は、異世界魔国領の、中生代を思わせる、シダの平原が広がっていた。


 その平原の一角を陣取っていた、魔軍移動要塞は崩れ落ち、中から、巨大魔物が現れた。その姿形は、遠目で見ると、幼女に見えた。巨大幼女、ジャイアントヨージョだ。プリ様は、そんな魔物の足下を、チョコマカと走り回り、果敢に攻撃を仕掛けていた。


びゆすきゆにゆ(ビルスキルニル) そーん(ソーン)!」


 ビルスキルニル ソーンから、無数の針が飛び、魔物の左腕を形成する、ゴブリン達を刺し殺した。だが、すぐに、呼び寄せられた、他のゴブリンや、オークがやって来て、再び、左腕が製成された。


「きりが ないの。」

「あっははは。ぷりちゃん、かんねん なさい。」


 勝ち誇るハギト。


「地獄の火炎!」

「突きぃぃぃ!」


 和臣が、右脚の膝から下を、焼き尽くし、リリスが、左脚の膝から下を、天沼矛の突きで吹き飛ばしても、あっという間に、再生してしまった。


「ちょっと待て。もしかして、今迄の七大天使で、コイツが一番手強いんじゃ……。」


 和臣は、非常に、理不尽なモノを感じていた。普段のハギトを、何度となく目にしているだけに、納得がいかなかった。


「かずおみ〜! れい()の ほうが つよかったの。」

「ああ、うん、そうか……。」


 すかさず、プリ様から訂正が入るが、そんな情報を、今貰ったところで、何の役にも立たなかった。


「さあ、そろそろ、おわりよ。」


 ハギトが、ポイッと、シタとミトゥムを、中空に投げると、ジャイアントヨージョのサイズになって、その両手に収まった。


「何だ、あれ。嘘だろ。」


 元々、神器に、大きさはなく、使用者のサイズに合わせてくれるのだとしたら、十分にあり得る。ビルスキルニルだって、プリ様のお身体に、ジャストフィットしているのだ。

 和臣の呟きを聞きながら、リリスは、そう考えていた。


 グワォンッ! と、凄まじい音を轟かせて、衝撃波が放たれた。射線上に居た、照彦(inポッカマちゃん)達は、モロに喰らいそうになったが、ピッケちゃんの背中に居た藤裏葉が、全力死ぬ気で結界を張り、何とか凌いだ。


 だが、その後ろにあった魔軍移動要塞は、直撃を受けた。すでに、ボロボロであった要塞だが、砂の城の様に、ゆっくりと、崩れ落ちていった。


まよい(迷い)は きえた。わたしは、いせかい(異世界)を こてい させて、じぶんの ねがい(願い)を はたす!」


 ハギトの宣言を聞いた、プリ様もまた、決意を秘めた目で、彼女を見上げた。

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