埋められない孤独
プリ様、リリス。
ハギト、ハーピー、狼男。
プリ様パーティと、ハギト軍団は、二対三で対峙していた。和臣と紅葉が、何故、参戦していないのかというと……。
「和臣ぃぃぃ。プリったら、酷いの。お尻痛〜い。」
「ああっ、よしよし。」
「ママも、私を要らない子扱いで、寂しかったの〜。」
「はいはい。」
紅葉が、甘えん坊モードになってしまい、戦闘不能状態だったのだ。
「りりす、はーぴーと おおかみおとこは たのむの。」
「瞬殺だけど……。」
屠龍に比べたら、雑魚中の雑魚だしな。と、リリスは失礼な事を考えていた。
「…………。ころさないで ほしいの。」
無理な頼みをしているのは、承知なので、歯切れが悪かった。だが、プリ様にしてみれば、ハギトの目の前で、彼女の仲間を奪う行為は、どうしても出来なかった。
「ごめんなの、りりすぅ。」
プ、プリちゃんが、プリちゃんが、私を頼っている。リリス、もう、辛抱堪らん状態。普段見せない、上目遣いで、縋るような表情を見ているうちに、プツンと、何かが切れた。
「ああっ、プリちゃん。可愛いー! 可愛いー! 可愛いぃぃぃ!! 大丈夫。お姉ちゃんに全部任せて。んっ〜。頬擦りして上げちゃう。」
敵前でリリス大暴走。頬擦りするわ、耳朶を甘噛みするわ。やりたい放題。ハギト軍団、ドン引き。
「こらぁー。何やっているんですかぁ。真面目にやって下さい。リリス様ぁ。」
「そうです。そんなの、職権乱用だもん。」
昴と藤裏葉からは、大ブーイング。その様子を、翔綺が、ぼんやりと見ていた。
『ああっ、姉様、本当に、プリムラちゃんを可愛がっているんだな……。』
でも……。と、翔綺は思った。さっき、目覚めた時、一番に聞いたリリスの叫び声。
「兎笠を、翔綺を、危ない目に合わせてぇぇぇ!」
確かに、自分を「翔綺」と、呼び捨てにしていた。
『姉様、私と兎笠を、ちゃんと、妹だと思ってくれてたんだ。心配してくれて……。』
感無量で、出そうな涙を、必死に堪えた。
翔綺には、ここ数日の記憶がなかった。最後に覚えているのは、大人の身体になったオクに、押し倒されたところぐらいまでだ。
『きっと、私、あの変態に、いやらしい事されちゃったんだ。だから、ショックで、記憶がないんだ……。』
敵に捕まり、辱めを受けた。悔しさと、悲しさで、歯軋りをする翔綺。
『許さない。絶対、許さないんだから。』
凛々しく矛を構え直している姉を見ながら、翔綺は、とうとう、涙を落としてしまった。
「はぎと、もう、やめよ。おうちに かえゆの。」
床にへたり込んで、後退りするしか出来ないハギトに、プリ様は、ゆっくり、近付いて行った。
「いやあああ。こないで。たすけて。だれか、たすけてー。」
必死の叫びに、ハーピーと狼男も、何とか助けに行こうとして、行けない。強力な、リリスに立ち塞がれて、突破出来ないのだ。
「こわがらなくて いいの。ぷりは、はぎとを いじめたり しないの。」
「てきよ! あなたは てきよぉぉぉ。」
怯え狂うハギトに、近付こうとするプリ様。そのプリ様の肩を、いつの間に来たのか、紅葉が、ソッと、抑えていた。
「もみじ……?!」
「私が話す。アンタは、下がってて。」
スイッと、前に出た紅葉は、今まで見せた事もない、優しい笑顔で、ハギトに歩み寄った。
「私なら良いでしょ? ハギトちゃん。」
「もみじ……。」
安心して、手を差し出すハギトを、ソッと、抱いてやった。
「ハギトちゃん。六花の一葉、プリに渡して上げて。」
「…………。」
「代わりに、私達が、ハギトちゃんの側に居て上げるから。寂しくないよ?」
ハギトの孤独が、紅葉には、痛い程分かった。その失ったモノの大きさも。
和臣を失いそうだったから、自分も荒れ狂った。暖かい場所を失くしそうだったから、必死で縋り付いて、足掻いた。
「本当は、知っているんでしょ? 秋穂ちゃんは、もう、何処にも居ないって。」
「!」
「死んだ人には会えない。秋穂ちゃんにも、ファレグにも……。」
「…………。なんで、そんな こと いうの?」
「ハギト……。」
「なんで、そんな こと いうのー!!」
感情を爆発させたハギトは、シタとミトゥムを出すと、紅葉に向けた。
「もみじぃぃぃ!」
弾き飛ばされ、床に転がる紅葉。
「もみじ! もみじぃ。」
「大丈夫だよ、プリ。あの子、本気で撃ってない……。」
助け起こすプリ様に、苦しい息をしながら、告げる紅葉。
「ハギトを、助けて上げて。あの子は、私と一緒なの。埋められない孤独を抱えて、もがいて……。」
「わかったから。だまゆの もみじ。」
「んっ……。」
気絶した紅葉を床に置くと、プリ様は、スックと、立ち上がった。
「びゆすきゆにゆ そーん!」
最強の鎧を纏い、キッと、ハギトを見るプリ様。
「ふ、ふんっ。やっぱり、わたしを やっつけるんじゃない。」
いくら、ハギトが、戦闘の天才と雖も、圧倒的な力で押し切れば、問題あるまい。そう思って、最初から全力で行く気だったのに……。
『したを もって いない?!』
気付くと、ハギトは、左手のミトゥムしか、握っていなかった。
真上!
察知したプリ様が、降って来たシタを避けた。その避けたシタに、ミトゥムの衝撃波を浴びせるハギト。シタは方向を変え、避けた筈のプリ様の腹部に、モロに、当たった。
『したと みとぅむを こんな ふうに つかうなんて……。』
プリ様は、吹っ飛ばされながら、舌を巻いていた。そのプリ様に、シタを回収したハギトが、駆け寄って来た。
『まずいの。この たいせい だと、よけらんないの。』
ビルスキルニルに、羽を生やし、上昇した。その行動に、ハギトは、一瞬、虚を突かれた表情をしたが……。
ハギトは、両手に持った、シタとミトゥムを、床に叩きつけた。当然、床は砕け散ったが、その反動で、プリ様よりも高く飛び上がった。
「なに?! なの。」
「こんな、おくない なら、とべる めりっとも すくない!」
ハギトは、飛んでいるプリ様の背中に跨り、太鼓のバチを叩く要領で、シタとミトゥムを連打した。ビルスキルニル ソーンが、いくら頑強でも、直接、神器の力を撃ち込まれれば、かなりのダメージだ。
「くっ、むぅぅぅ。」
苦痛に顔を顰めながら、グルンと一回転して、ハギトを振り落とすプリ様。ハギトは、綺麗に着地したが、降りて来たプリ様は、息も絶え絶えだった。
「どうしたの ぷりちゃん。わたしを やっつけるんじゃ なかったの?」
震える声で、叫ぶハギト。彼女も必死なのだ。
「そんなんじゃ、わたしは とめられない!」
シタとミトゥムから、衝撃波が、発せられた。ヨロヨロのプリ様は、立て続けに二発食らって、その場に崩れ落ちた。
「プリ!」
心配して、声を発する和臣も、プリ様に近寄れないでいた。ハーピーが呼び寄せる魔物の大群が、第二艦橋に押し寄せていたからだ。藤裏葉は、結界を張って、昴と照彦(in ポッカマちゃん)、翔綺、紅葉を守っていた。
「プリちゃん、ハーピー倒すわよ?」
状況を見ていたリリスが、意を決して、進言した。魔物を呼び寄せるハーピーを倒せば、和臣の戦力を、ハギト対策に割ける。
「だめなの!」
立ち上がったプリ様は、毅然とした表情で、吠えた。
「はぎと、まえにも いったの。そんな しみったれた ちからで、ぷりは たおせないの。」
「そんな ぼろぼろで、よく いう!」
シタとミトゥムから、特大級の衝撃波が発せられ、プリ様に襲い掛かった。
「びゆすきゆにゆ そーん!」
高らかに叫ぶプリ様。その時、皆んなは、信じられないモノを見た。
衝撃波を受け止めようと、プリ様の伸ばした腕が、どう見ても、プリ様のお身体より、何倍も大きく見えたのだ。
「な、なんなの……。」
呆然とするハギト。衝撃波は、巨大な右腕に、掻き消されてしまった。
「きょだいなる ちから。びゆすきゆにゆ そーん!」
プリ様の瞳が、燃えていた。