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悲しみは雪の結晶となって……

「不思議ですぅ。確かに胸にゲキリンを刺したのに。」


 昴は自分の胸を撫で回した。ゲキリンは彼女の覚悟を試したのだな、とプリ様は思った。


「いじわゆ なの。」


 ゲキリンに言ったら、手の中でカチャカチャ音を立てて振動した。まるで笑っているようだった。一頻り鳴った後、ゲキリンは消えた。


「あらー、終わったみたいね?」


 そのタイミングで、リリス達三人が飛んで来た。彼等は、部屋の入り口にいる、プリ様達に近付いた。


「おねえしゃん!」

「天莉凜翠よ。リリスって、呼んでね。」

「いいす?」

「リ・リ・ス。」

「いいす!」

「あらぁ、可愛いわ、プリちゃん。」


 リリスはプリ様のホッペを両手で摩って上げた。プリ様も嬉しげに声を上げていた。


「プ、プリ様ぁ。ホッペなら昴がいくらでもお摩りいたしますよ。」

「あらあら、昴ちゃんったら。嫉妬に駆られて……。」

「か、駆られてないもん。」

「んー? じゃあ、抱き付いちゃおうかなー?」

「ダメです。ダメですぅ。」


 昴は慌ててプリ様を取り上げた。ギュッと抱き締めたまま、リリスを睨んでいる。その様子に、彼女はフッと溜息を吐いた。


「生まれ変わっても、相変わらずなのね。」


 えっ、何を言ったの? と聞き返そうとした時、部屋の中でアラトロンが起き上がった。


「どうしたでしゅ?! わたちは まだ いきてるでしゅよ。」


 彼女はもう立っているのが、やっとという有様だった。プリ様の最後の一撃で、完全に戦闘能力を失っている。


「あいつが生きている限り、このダンジョンはなくならないのね?」


 紅葉が聞くと、プリ様は頷いた。


「なら、仕方ないわね。」


 リリスは「ゴールデンソード。」と呟くと、黄金の剣をその手に持ち、一歩前に出た。


「おい、マジかよ?!」


 和臣が怒気を含んだ声で叫び、彼女の肩を掴んだ。


「他にどうしようがあるのかしら? 放っておけば、銀座線の軌道敷設内に居た人達は皆死ぬのよ。」

「そうでしゅ。わたちを ころさない かぎり いれかわった ひとたちは もどってこないでしゅよ。」


 アラトロンは挑発するように、顎を突き出して喚いた。

 リリスは剣を構えた。それを制止する和臣の腕の力も緩んだ。昴も紅葉も息を飲んで見守っている。


「いいかげん にすゆの!」


 突然、プリ様が怒鳴った。昴の腕から逃れると、一直線にアラトロンに向かって行った。


「とどめを さすが いいでしゅ。おまえの ともだちの ねずみを ころした、にくい てきの わたちに。」

「うるさいの!」


 パンッ、プリ様の平手がアラトロンの左頬を打った。


こえ(これ)は ねずみさんたちの ぶんなの。」


 パシンッ、と今度は右頬を打った。アラトロンは堪え切れず、後ろに倒れた。


「こえは まきこまえた みんなのぶん。」


 プリ様はしゃがみ込み、襟口を掴んで、彼女の上半身を起こした。


「いたいでちゅか?」

「いたいに きまってるでしゅ!」

「みんなは もっと いたかったの。もっと、もっと、いたかったの!」


 アラトロンは目を逸らした。唇を噛み、目には涙が溢れていた。


「わたちだって……。」

「なんでちゅか。」

「わたちだって いたかったんでしゅ。むねが はりさけそうだったんでしゅー。」


 号泣しながら訴えるアラトロンに、プリ様は「うん……。」と頷いた。


「だかや、こえは ぷいから あやとよんに……。」


 プリ様は短いお手手をいっぱいに伸ばし、アラトロンを包み込むように抱いた。


「ぷいが だいてあげゆ。もう、おとうさまに だいてもやえない あやとよんを……。」

「うわぁぁぁん、うわっ、うおおぉぉぉんんん。」

「にくんでも いたいだけなの。やつあたい(八当たり)しても くゆしい(苦しい)だけなの。わかって、あやとよん。」

「あああっ、ああぁぁぁーん。あんあんあん。」


 いつの間にか、皆が二人を囲んでいた。それにも気付かず、アラトロンはただ泣き続けた。

 リリスの手には、もう剣は握られていなかった。



「ぷり、みぎの こぶしを だすでしゅ。」


 一頻り泣いた後、アラトロンが言った。プリ様が言われた通りにすると、彼女は自分も右手で拳を作り、プリ様の手の甲に、自分の甲を当てた。


「おまえに りっか(六花)いちよう(一葉)を たくしゅ。こごえた われわれの こころの かたちでしゅ。」


 凍えた心、六花。


 プリ様は頷くと、手を合わせた。アラトロンの悲しみを受け取るのだと思った。


「きさまとは どこかの こうえんの すなばで あいたかったでしゅ。」


 そう言うと、アラトロンは崩れ落ちた。六花の一葉は、もうプリ様の甲に移っていた。


「あやとよん!」

「大丈夫よ、プリちゃん。気を失っているだけ。」


 彼女を抱え起こしていたリリスが言った。

 それを聞いたプリ様はホッと一息吐いた。それから、右手を天高く突き出した。


『もう、おわいなの。ぜんぶ もとに もどして。』


 プリ様は念じた。


『すばゆを もとに もどしてあげて。』


 大好きな昴を……。




「うわ、何じゃこりゃ。」


 地下鉄銀座線運転手、牧原祐三さん(二十七歳)は動揺しまくりだった。次の銀座駅への到着予定時刻を、遅れているなんてものじゃないくらい、遅れていたからだ。しかも、それは自分の列車だけでなく、全線において、麻痺状態のように停滞していたみたいだ。


「ご、合コン、間に合わねえよー。」


 悲痛な心の叫びであった。




 外の世界では、もう何時間もパニック状態が続いていた。誰も、銀座線の軌道敷設内に入れなくなっていたのだ。

 改札を通りホームへの階段を降りようとすると、見えない壁にぶつかって押し戻された。ホームが見えているのに、そこには決して行き着けない状態だった。


 しかも、ホーム内はまるで時が止まっているかの如く何も動いてない。という話がネット上に流れ、原因追求や家族の安否を尋ねる声に、官憲も対応に追われた。

 だが、官憲とて、何もわからないのは同じだった。


 それが、いきなり全ての機能が回復したのだ。当然、皆はその間に何があったのかを聞き出そうとしたが、誰も何も覚えてはなかった。




 プリ様達は幻の新橋駅から外に出る扉を開けた。出てすぐは場所の検討がつかなかったが、少し歩くと、見知った新橋の地下通路にでた。


「はい、状況終了しました。神王院符璃叢と光極天昴、両名の身柄も保護しています。」


 出るやいなや、リリスはスマホで何処かに連絡を始めた。


「おい、病院の手配も頼むぜ。」


 アラトロンを背負っている和臣が言った。リリスは頷くと、電話の相手に救急車の出動も要請していた。


「あー、腹減った。せっかく前世仲間が集ったんだから、これからメシでも一緒しない?」


 紅葉が提案すると、プリ様が「ごはん、ごはん。」とはしゃいだ。


「何食いたい? プリ。」

「あのねえ。ぷいねえ。いんであんすぱ。」

「インディアンスパ?」


 紅葉は和臣に視線で問うたが、彼も、知らない、と手を振った。


「インディアンスパゲティーはプリ様の大好物の一つで、スパゲティーの麺にカレーをかけたものです。」


 メイド服を着た、信じられない程の美少女が、紅葉に返答した。


 解けば恐らく背中まで届くであろう長い漆黒の髪を、邪魔にならないよう頭の上でまとめているが、その色艶の美しさは隠しようがなかった。

 花の(かんばせ)は、透き通るほど白い肌に、アーモンドの形をした、ちょっとつり気味の目と、高い鼻がアクセントを添え、とどめに、桜色をした可憐な唇が、完璧な美の調和を作り出している。

 更に、少女らしい華奢な身体つきは、未完成故の美しさを想起させ、露出の少ない服装でありながら、その包んでいる肢体の素晴らしさを感じさせた。


 美とは何かと問われれば、彼女を指差せば事足りる。そんな存在が、遠慮がちにプリ様の後ろに立っていた。


「あの……、どなた様?」


 さすがの紅葉も気圧された様子で話し掛けた。


「何を言っているんですか。私ですよ。昴ですぅ。」

「昴? 嘘でしょ。本当に昴?」


 エロイーズも確かに美しかった。昴とは傾向が違うが、前世の世界では一番と言っても過言ではなかった。ただし、長年連んでいたので、見慣れてはいた。それが現世の世界に戻ってみれば、また目も覚めるような美少女。正直、息を飲むような美しさだ。


 美少女は生まれ変わっても美少女。


 紅葉は言いようのない理不尽さに打ち拉がれた。







昴ちゃんオリジナルフォームの描写、苦労しました。

周りに美少女が居ないんです。

美少女に囲まれて生活したい。

そう思う今日この頃です。

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