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死者は、ただ、忘却の彼方で眠るだけ。

 ヘリのローターの回転音を聞きながら、眼下に広がる広大な空き地を見て、プリ様は、目標が近い事を悟った。胡蝶蘭のミサイル攻撃によって、魔軍移動要塞も、着実に同じ地点へと誘導されつつあった。プリ様は、その要塞内で、ミサイルに怯えている、ハギトを想った。


 思い起こせば、シタとミトゥムの攻撃を、すんなり食らってしまったのも、プリ様の呼吸を読んだ、絶妙のタイミングで繰り出されたからであろう。伯母(あさがお)の評する、戦闘の天才ハギト。戦いを忌避し、怖がる性格に覆い隠されていた、彼女の実力の一端を垣間見た気がし、プリ様は、身が引き締まる思いをしていた。


「お嬢様、もうすぐ、魔軍移動要塞の真上です。」

「わかったの。かゆめんさん(カルメンさん)、じゅうぶんに こうど(高度)を とってなの。」


 地上が異世界化される範囲を考えれば、五百メートルも離れていれば、問題なさそうだが、念の為に、二千メートル上空に滞空していた。


「お嬢様、もう少し、近寄りましょうか?」

「だいじょぶ なの。ぷり とべゆ(飛べる)の。」


 飛べると分かっていても、幼子を二千メートルの高さから、落下させるのは、心理的抵抗がある。カルメンさんは、心配そうに、眉を寄せた。


「ぷりが こうか(降下) ちたら、ぜんそくりょくで りだつ(離脱) すゆの。」

「…………。了解しました。お嬢様、ご武運を。」


 カルメンさんに指示を与えた後、頭に付けているヘッドセットで、胡蝶蘭に連絡した。


「これから いくの。てはず(手筈) どおりに おねがい しまちゅ。」

「任せて、プリちゃん。」


 後顧の憂い無し。ヘッドセットを外したプリ様は、全く躊躇わずに、兵員輸送ヘリのカーゴから飛び降りた。


「き〜もち いいの〜!」


 暫く、メギンギョルズの羽を使わずに、自由落下を楽しむプリ様。しかし、明らかに空気が異世界のモノになった時、ミョルニル、メギンギョルズ、ヤールングレイプルを装備した、パーフェクトプリ様と成った。




 プリ様異世界突入とともに、四方八方から、ミサイルが飛んで来た。慌てまくる、ハギト。


「みみみ、みさいるの こない ところにぃぃぃ。」

「ダメよ、ハギトちゃん。周り中から、飛んで来ている。」


 ハーピーの言葉に、ハギトは色を失った。


「どうすれば いいの? どうすれば、いいの〜!?」

「此処は、東京。完全なる異世界化をすれば、良いんじゃねえか?」


 何となく、それが敵の狙いだとは分かっていたが、狼男は、口にしてしまった。


「そそそ、そっか。いせかいか(異世界化)を、かんせい させれば、みさいる(ミサイル)ばくふう(爆風)も はいって こなくなる。」


 ミサイルの恐怖の所為で、もはや、プリ様との決着など、頭から飛んでいるハギトである。右腕を天に突き上げ「で・あんじぇりす。きりえ・えれいそん。」と、唱えた。


 次の瞬間、異世界の固定化が始まった。魔軍移動要塞の半径十キロ四方を囲む、強固な結界が張られ、雨霰と降っていたミサイルは、全て遮られ、爆発した。


「ふぃぃぃ。やったあ。みさいる、こなくなったよ。」


 安堵の表情で、艦橋の窓から、外を見回したハギトの視界に、ミョルニルを振り被って降下して来る、プリ様のお姿が映った。


「ひいいい。ぷり……ちゃん。」

「みょ〜ゆ〜に〜ゆぅぅぅ。」


 一閃。ミョルニルに、ぶっ叩かれた艦橋は、床だけを残して、全て砕け散ってしまった。吹きっさらしの中、呆然とするハギト、ハーピー、狼男。


「はぎとぉぉぉ。もう、やめゆのぉぉぉ。」


 メギンギョルズの羽を羽ばたかせ、上空からハギトに迫るプリ様である。今にも、あの持っているハンマーで、頭を叩き割られるのではないかと、ハギトは、怖さに目を見開いていた。


「こないで……。」


 無意識のうちに、両手に、シタとミトゥムを……。


「こーなーいーでぇぇぇ!」


 シタとミトゥムから、同時に衝撃波が出た。と、プリ様は感知した。なので、両方一度に受け止めようと、ミョルニルを構えた。だが、衝撃波を受け止めた時、プリ様は、ゾッとした。実際には、二発の衝撃波は、微妙な時間差をつけて、撃たれていたのだ。最初のは防いだが、次弾は、吸い込まれるみたいに、プリ様の腹部へ。


 咄嗟に障壁を張ったが、受け切れずに、弾き飛ばされた。その体勢を崩した状態で、三発目と四発目の衝撃波が、襲い掛かって来た。


びゆすきゆにゆ(ビルスキルニル) うゆ(ウル)!」


 避けようがなかったので、全身を覆う鎧を着た。しかし、それでも、シタとミトゥムの凄まじい攻撃は防ぎ切れず、ビルスキルニル ウルを凹まされたプリ様は、下に落下して行った。


「はあ、はあ、はあ。あっ〜、こわかったぁぁぁ。」


 プリ様が消えると、ハギトは安堵して、へたり込んだ。


「ハギトちゃん。此処は、もう、ダメよ。他所に移りましょ。」


 ハーピーに促され、ハギト達一行は、第二艦橋へと、居を移した。




 一方、墜落したプリ様は、魔軍移動要塞の、移動用大車輪を動かす、基部の機械室に横たわっていた。


 紅葉と和臣が暴れ回った所為で、要塞内は、かなり破損していた。今、プリ様の居る機械室も、大車輪に繋がるシャフトは折れ、灯も消えて、真っ暗であった。遅かれ、早かれ、魔軍移動要塞は、動けなくなっていただろう。プリ様の思惑通りに、此処まで誘導出来たのは、幸運だったと言えた。


 暗闇の中、瓦礫に横たわるプリ様は、先程のハギトとの戦闘を思い返し『なんだ? あいつ。』と、思っていた。


 きゃーきゃーきゃーきゃー、泣いたり喚いたりしながら、攻める事すらさせず、巧みな時間差攻撃で、此方を撃退したのだ。恐らく、その全てを、無意識にやってのけている、というのが凄過ぎた。御三家に生まれていれば、必ず十本槍や四天王、八部衆などのエースに選ばれていただろう。


「でも、はぎとは そんな もの のぞんで ないの。」


 そう呟いて、仰向けに寝転がったまま、一つ溜息を吐いた。


 ハギトの望む世界。それは、秋穂ちゃんが居て、ファレグ()が居て、皆んな元気で、楽しく笑い合っている世界。


 もう、望みようもない世界……。


「はぎと、だめなの。しんだ ひとは かえってこないの。」


 涙を流しながら、プリ様は虚空に叫んだ。死者は、ただ、忘却の彼方で眠るだけ。生き残った人間には、今を生きる義務がある。それが、どんなに辛くとも……。


 止める。ハギトを止める。何としても、止める。不屈の闘志が、プリ様のお身体を、起き上がらせた。


「んんっ〜? 匂いがする。プリの匂いがぁ。」


 そこに響く、不吉な声。


『れれれ、れゔぃあたん(レヴィアたん)!?』


 不屈の闘志で起き上がった筈のプリ様は、物音を立てないよう、サササッと、壊れた機械の下に潜り込んだ。とにかく、苦手なのだ。レヴィアタンが。


『ううう。あいつ、いやなの。ほんっとに いやなの。』


 ほとんど戦闘狂で、強敵が大好物ともいえるプリ様だったが、レヴィアタンの、訳の分からなさには、ほとほと、辟易していた。言葉が通じないというか、相手をするのが苦痛なのだ。せっかく燃え上がった、ハギトとの決戦に向けての闘志が、急速に萎んでいった。


『はやく、どっか いっちゃって なの。』


 暗闇で、息を殺すプリ様。しかし、レヴィアタンは、かなり正確に、プリ様に近寄って来ていた。


「ふむ……。プリの反応有り。破壊、破壊!」


 プリ様の隠れている、目と鼻の先で「破壊! 破壊!」と言いながら、腕を振り回すレヴィアタン。よく見ると、その手には、拳銃の様な物が握られていて……。


 突然、プリ様の目の前が、眩く光り、轟音を発して、大車輪のシャフトが粉々になった。レヴィアタンが撃ったのだ。


「破壊! 破壊!」


 と言いながら、辺り構わず撃ちまくるレヴィアタン。壁が崩れ落ち、計器類が吹き飛んだ。


『むちゃくちゃ なの〜。あいつ、むちゃくちゃ なのぉ。』


 プリ様の心中を、現在占めているのは、恐怖ではなかった。ただもう、ひたすら面倒臭い。早く、何処かに行ってくれ。というのが、偽らざるプリ様の本心だった。


「…………。居ないか……。」


 何故か寂しそうに呟き、機械室を出て行くレヴィアタン。暫く、様子を伺ってから、プリ様は機械の下から出て来た。


「やっと いなく なったの。」


 しかし、あの拳銃。また、厄介そうな武器を調達して来たものだ。


 やれやれと、肩を竦めるプリ様の背後で、地獄の底から響いて来る様な声がした。


「プリムラちゃん、見〜付けた。」


 行ったと見せかけて、隠れていた、レヴィアタンであった。

後書き私小説 江戸時代の幼女


前回までのお話。

お友達のアイちゃんに「所蔵している女の子フィギュアが、全て小学生キャラ。」と、指摘された私は、しどろもどろに、言い訳を繰り返すのでした。




「っていうか、ちょっと待って。」


アイちゃんの言葉に『お前は、嘘松ツイッターか。』と、心中で毒づく私。


「カー◯キャプターさ◯ら、二人いるじゃん。」


気付いたか、クソ。馬鹿のクセに、鋭い奴め。


「何考えてんの? 半額だからって、二つ買ったら、結局、払うお金は同じじゃない。ていうか、一つを保存用にするとかじゃなくて、両方飾るなんて……。」

「ち、違うんです。聞いて下さい。それ、違う商品なんです。もう一つは、グッ◯マという会社から出た、さ◯らちゃんなのです。それも、ア◯ゾンで、半額くらいになってた時があって……。」

「だからって、二つとも買う? どんだけ、さ◯らちゃん……、というか、女子小学生が好きなのよ。」


良いじゃないか、二次元の中だけなんだし。アニメとか観ていて、ヒロインが小学生だと、なんか、得した気分になるでしょ? 誰でも、そうでしょ? 男なら、そうでしょ?


「コッチのキャラも……、良く知らないけど、小学生でしょ?」


良く知らないけど、小学生……。言い返してやりたい。凹ませてやりたい。でも、悔しいけど、そのキャラも小学生なのです。


このままだと、家中のフィギュアを、総点検されかねません。何とか話を逸らさねば、と思っていたら、アイちゃんは、ベッドに腰を下ろして、私のタブレットを弄り始めました。


やれやれ、フィギュアへの興味を失くしたか。ホッと、一息吐く私。その時「やっぱり……。」と、呟くアイちゃん。


「バ◯ダイの予約記録の中に、新たな小学生プリ◯ュアのフィギュアがあった。」

「ちょっと待って。何で、私の予約記録が見れるの?」

「……。机の引き出しの中に、IDとパスをメモった紙があったから……。」

「何で、他人の引き出し漁っているのぉぉぉ?」


プライバシーって、知ってる? と言いながら、肩を揺すってやりたい衝動に駆られます。


「こないだ貰ったって、後書き私小説に書いてた、エッチなフィギュアが見たくて漁った。でも、無かった。何処にあるの?」

「あれは……、その……、フィクションだよ。結末を面白くしようと思って……。」

「何それ。嘘松じゃん。うーそーまつ〜。」


危ない処でした。エッチなフィギュアは、鍵付きの書庫に隠していたのです。見られたら、ドン引かれたうえ、罰として、冷蔵庫のプリンを没収されるのは必至でした。


「小学生がどうのこうのより、ギミックとかに興味があるんだよね。ほら、このキュ◯ミュー◯の造形の細かさ。」

「太腿丸出しなのが良いんでしょ?」

「ちちち、違うって。この間も、仕事で、江戸時代のお人形を、触る機会があってね。やっぱり、作りが細かいんだよね。現代のフィギュアと、通じるモノがあるよね。」


昔のお人形を触りながら『江戸時代の幼女が宝物にしていたお人形か……。きっと、肌身離さず、夜寝る時も……。』などと、感慨に耽っていた事は、口が裂けても言えません。


「江戸時代のお人形……?! リョナちゃんって、どんな仕事しているの?」


えっ……。


「し、知らないの? 私の仕事。言ったよね?」

「文房具屋さんじゃなかったっけ?」

「文房具屋さんは、部長の彼女に手を出して、閑職に追いやられたから辞めたの。言わなかったっけ?」

「ああっ。その話、嘘だと思ってた。でも、上司の彼女に、手を出しちゃダメでしょ。」


だって、妻子持ちの部長に、彼女がいるなんて、思わなかったんだもん。


「まあ、どうでも良いか。」


いきなり、タブレットを持って、ベッドに寝転んでしまうアイちゃん。


「あ、あれ? 聞かなくて良いの? 私の職業。」

「うん、別に興味無い。」


と、友達って……。


「そう言えばさ。今期アニメ何観てるの? 面白いのある?」


私の悲嘆を他所に、唐突に聞いて来るアイちゃん。


「うーん、それが……。」


一つ、ヒロインがナイスロリ、と言いたくなるキャラデザのアニメがあったんですけど……。


「年齢が二十六歳と聞いて、急激に冷めました。」

「そ、そうなんだ。」

「どう見ても小学校高学年の女の子が、剣を振り回す、大好物の設定だと思ったんだけど……。」

「ふ、ふーん。他のアニメは?」

「十歳の女の子が出るSFアニメが……。」

「よ、良かったじゃない〜。」

「登場人物が多くて、あまり出番がないんです。」

「ふ、ふーん……。」


ていうか、もう、女子小学生しか出ないアニメを、作ってよ。毎期、必ず一本は作るように、法令化してよ、日本政府。


「でも、私とリョナちゃんの観てるアニメって、全然被らないね。」


そりゃそうでしょ。私は、男の子がバンド組んだり、戦国武将がホモだったりする話には、全く、まっ〜たく、興味ありませんもん。


「そういえば、八月は、コ◯ケだね。また、一緒に行こうね。」


思い付いた様に、口にするアイちゃん。それに、曖昧に笑い返す私。


本当は一緒に行きたくないのです。女性向け同人の島に並ばされるのは、恥辱プレイ以外の、なにものでもないのです。それに、時々、売り子の人が、ハッとした目で、私を見るのです。多分『おおお、男ぉ。何で? どうして? ひやかし? もしかして、ストーカー?』などと、恐怖を与えていたりするのです。ごめんなさい。本当にごめんなさい。アイちゃんは性格が悪くて、友達がいないんです。手分けして買う時は、私を動員するしかないんです。決して、私は、邪な気持ちで、同人誌を買っているわけではありません。


「まさか『嫌。』とは、言わないよねぇ?」

「めめめ、滅相もない。」


私の心中を読み取ったかの如く、恫喝して来るアイちゃん。


「じゃあさ、ワ◯フェスにも付き合ってよ。今回、買いたいガレキが……。」

「えっ、嫌だ。興味無いし、暑い。」


私の申し出を、秒で却下します。


「どうせ、女子小学生のフィギュア目当てなんでしょ?」

「ち、違うよ。」

「じゃあ、何のフィギュア? 言ってみなさいよ。」

「プ、プリ◯マイ◯ヤ……。」

「それから?」

「三◯星カ◯ーズ……。」

「あとは?」

「私◯天使◯舞い降りた……。」

「全部、女子小学生じゃん。」


だって、欲しいんだもん。真っ白なレジン製小学生キャラを、私色に染め上げたいんだもん。


再び、タブレットを弄り始めたアイちゃんの背中に、密かにアッカンベーをする、初夏の夕暮れなのでした。

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