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あんがい かてるかもって おもうのよ?

 惚れ惚れとした顔で、自ら作り上げたクラウドフォートレスを見上げるオフィエル。得意満面だ。眠たくて半開きだった目も、しっかり開いていた。


「おく、どうよ? いまの わたしの さいこうけっさく じゃん。」


 そう言って、隣のオクを眺めると……。エルフみたいな姿形の、見知らぬ美しい女性が。


「だだだ、だれ じゃん? おまえ。おくは どこ いった じゃん?」

「今更気付いたの? 私はオクよ。いつもとは、違う身体を、使っているの。」

「ちがう からだ……。」


 キラン、と輝くオフィエルの目。


「つまり、つくりものの からだ、って さいぼーぐ。ぶんかい させる じゃーん!」

「違うから。サイボーグじゃないから。」


 ややや、やばい。分解への楽しみで、目がキラキラしてるぅぅぅ。ただでさえ、非常事態なのに、ピンチがお団子状態になってしまうオク。


「待ちなさい、オフィエルさん。分解しては、なりませんよ。」


 突然、中空で声がして、灰色の髪をした女が、スゥッーと、湧き出てきた。


「ど、どっから あらわれた じゃん? あやし すぎる って ゆうれい?」

「私はトキ。オク様の側近だ。以後、お見知りおきを。」

「トキ。何をしていたの? この空間の守護は、貴女の仕事でしょ?」


 現れたトキに、オクは食って掛かった。トキは、動じる風も無く、クラウドフォートレスを見詰めていた。


「結界で、空間と空間を、結ばれた様ですね……。」

「どういう事? あの技は、到着地点に、予め、結界を張っておかなければ、使えない筈でしょ?」


 結界と結界を結ぶ技は、ワープとは違う。ミランダなり、藤裏葉なりの、結界が張ってある場所にしか、行けないのだ。その代わり、条件さえ満たされていれば、どんな強固な防御の中にも入って行ける、チート級の技だ。


『…………。むっ、そうか。レヴィアタンか……。彼奴の身体に、結界が貼り付けてあったのか。』


 迂闊としか言い様がなかった。専門的に、魔物や悪魔を相手にしている御三家の、トップの家柄の子供なのだ。最高峰のガードが、施されていて、当たり前だ。


「オク様、レヴィアタンは何処です? まだ、寝室ですか?」

「あの子なら、これからって時に、クラウドフォートレスが突っ込んで来て、飛び出して行ったわよ。」


 頰を膨らますオクが、ちょっぴり可愛い。


「ふむ……。では、事態の収拾に向かいます。オフィエルさん、オク様は生身ですから、分解なんかしないように……。」


 トキは、それだけ言い残すと、再び、空間に消えて行った。


「トキの言った事、分かった? オフィエルちゃん。」


 オクが、そう言いながら、オフィエルを見ると、彼女は、つまらなそうに、クラウドフォートレスを見ていた。


「どうしたの?」

「れーるがん うたない じゃん。どれだけの はかいりょく(破壊力)が あるか みたいって、よっきゅう(欲求)。」

「何言ってるの!? 撃たれたら困るでしょ。」


 この技術バカめ〜。と、オクが思っていると……。


「オクゥゥゥ! 覚悟ぉぉぉ!!」


 と叫びながら、頭上に降って来る人影が……。


「うおっ?! イシュタル?」


 ポ・カマムの身体を使ってはいたが、中身がイシュタルである事を、瞬時に見抜くオク。


「いしゅたる? うつせみやま(空蝉山)かいてき(会敵)したって かんじ?」


 オフィエルも、空蝉山で苦戦した、苦い記憶が蘇っていた。


「あらあら、お揃いね。」


 そこにリリスも現れて、オクとオフィエルを見ながら言った。


「リ、リリスちゃん!」


 この身体の時に、リリスちゃんに会えるなんて、ラッキー。オクの心は、状況も鑑みず踊った。


「リリスちゃん、私、欲求不満なのよ。エッチな事しよ。」


 ……………………。その場が、一瞬で、凍り付いた。


「あああ、貴女、何考えているの? 本拠地に攻め込まれているのよ?」


 全身を襲う悪寒に耐えながら、気丈にも言い返すリリス。


「そうじゃ。この痴れ者め。お主の相手は、この妾じゃ。」

「貴女とは、エッチな事は、しないわよ、イシュタル。アンタなんかの相手をしていたら、身がもたないもの。」

「そんな話じゃないわい!」


 ブンッと、殴りかかるイシュタル。その拳を、オクは、軽やかに避けた。


「どうしたの? ご自慢の『シタとミトゥム』は、使わないの?」

「くっ! このヤロ、自分で盗んだクセに。」


 激情家のイシュタルを挑発し、その攻撃を、躱しやすい単調なモノにするオクだったが……。


「ふん。まあ、良いわい。妾は、お主の大好きな、あの娘を頂いたからな。」

「なっ……。」


 何を言い出すの? と、怒鳴りそうになったリリスだったが、オクを怒らせ、平常心を失わせる企みであるのは、理解していた。イシュタルが、盛んに、ウィンクで同意を求めているし……。


「嘘でしょ、リリスちゃん。嘘だと言ってぇぇぇ。」

「…………。本当よ。」

「美味じゃったぞぉ。あの娘は。きめ細やかな肌触り、柔らかい肉、ハープの如き鳴き声。どれを取っても、絶品だった。」


 イシュタルの奴、調子に乗って〜。とは思ったが、ジッと我慢のリリスであった。


 その精神攻撃は(馬鹿馬鹿しい事に)思った以上に、オクにダメージを与えていた。絶望の眼差しで、虚空を見上げているオク。眼前の敵も、目に入っていないみたいであった。その隙を逃すイシュタルではない。


「オクゥゥゥ! もらったぁぁぁ!!」


 危うし、オク。その時……。


「へるめすの しょーてる!」


 オフィエルが両手に持った、双刀のショーテルに斬りかかられ、寸での処で、イシュタルは避けた。


「おく、しっかり するじゃん。おまえも りりすと えっちなこと(エッチな事)を、すれば いいじゃん。」

「貴女、意味分かって言ってるの?」


 オクにハッパを掛けるオフィエルに、すかさず、突っ込みを入れるリリス。


「……そうね。そうよね。イシュタルとの体験なんて、チャラになるくらい、激しい行為をすれば良いのよね。」

「そうじゃん。がんばれって こうい。」

「だから、貴女、意味分かっているの?」


 突っ込んでいる間にも、眼前にオクが迫って来ていて、慌てて後ずさるリリス。


「じゃあ、オフィエルちゃん。イシュタルの馬鹿は、任せたわ。」

「まかせろ じゃん。」


 逃げるリリスを追って、その場には、オフィエルとイシュタルだけになった。


「邪魔をするな、童。空蝉山で、妾に、手も足も出なかったのを、忘れたか?」

「くっくっくっ。ここは うつせみやま とは ちがう じゃーん。それに しょーてる(ショーテル)も あるじゃーん。あんがい ()てるかもって おもうのよ?」

「抜かしたな。妾は、子供とて、逆らう奴には、容赦せんぞ。」


 ジリジリと睨み合う、オフィエルとイシュタル。一触即発であった。




 リリス達が戦闘に入った頃、プリ様と昴は、オクの居城に侵入していた。


「つくりが にてゆ(似てる)の。ぜんせの まおうじょう(魔王城)と。」


 呟くプリ様に、頰をスリスリする昴……。


きんちょうかん(緊張感)が たりないの! すばゆ。」

「してますぅ。緊張してますぅ。だからこそ、プリ様にスリスリして、心を落ち着けているんですぅ。」


 そうなのか? と、納得しそうになるプリ様。


「ははははははっ。そちらから、ノコノコやって来るとはね、プリィ。」


 その時、広い廊下に響き渡る、レヴィアタンの声。


れゔぃあたん(レヴィアたん)?!」

「ふっふっふっ。プリィ……。」


 言いながら、プリ様を見て、首を傾げるレヴィアタン。


「ふん……。プリ?! 符璃叢ちゃん??」


 その様子に、プリ様と昴は、グッと、身構えた。


『ほほほ、ほっさ(発作)が はじまるぅぅぅ。』


 案の定、レヴィアタンは、頭を掻きむしって、喚き始めた。


「ひぃいぃぃいいいぃ。プリ? 符璃叢? 殺したのに。死んだ筈なのに。」


 呟き始めたレヴィアタンに、ちょっと、たじろぐプリ様。


『うえええ。こいつ、もう、やなの。わけ わかんな すぎゆの。めんど くさいの〜。』


 プリ様は、明らかに、レヴィアタンに、苦手意識を持っていた。だが、そんなもの(苦手意識)は、戦いにおいては、不利にしか働かない。


 その時、突然、レヴィアタンの動きが止まった。彼女の黄金の瞳が、ギラッと、光を放った。


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