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AT THE BACK OF THE NORTH WIND強襲

 クラウドフォートレスが攻めて来る少し前、ハギトは、オクの居城内にある自分の部屋で、貰ったシタとミトゥムを、持て余していた。


「なにこれ? こんなの かわいくない。」


 ベッドに座る、紅葉の膝の上で、二つの戦鎚を弄るハギト。それを見た紅葉は、驚愕していた。


『シシシ、シタとミトゥム……。何で、ハギトちゃんが、持っているの?』


 彼女も、また、空蝉山で、その恐るべき力を、目にしていた。


「ハギトちゃん、それ、凄い武器だよ。一振りで、その辺の建物なんて、木っ端微塵だよ。」


 紅葉の説明に、ハギトの顔が、青ざめた。


「ななな、なに それ? こわ〜い。」


 彼女が怯えると、シタとミトゥムは、その姿を消した。


「ほっ。きえた……。」

「神器だからね、呼べば出て来るよ。」

「よ、よばないもん。」


 強力な武器に対して「怖い。」しか、感想を持たないハギト。つくづく、戦闘向きでないのである。反応が、まるっきり、プリ様と真逆だ。


「でも、シタとミトゥムが有れば、プリと戦う時に、有利だよ。」


 プリと戦う時……。ハギトは、やらねばならない、東京異世界化作戦を思い出し、溜息を吐いた。


「もみじちゃん、いせかいか(異世界化) された せかい って、どうなるの?」

「うーん、そうね? ファンタジーの世界みたいになるよ。その場に居合わせた人間は、皆んな魔物になるし……。」

「ま、まもの? こわいぃぃぃ。」

「大丈夫。大丈夫。魔物達は、その世界の主人である、ハギトちゃんには、決して危害を加えないから。それどころか、何でも言う事、聞いてくれるようになるよ。」


 そうなんだ。それなら、私でも、何とかなるかなぁ。と、依存心の強いハギトは、少しホッとした。


 ハギトとて、ヤル気はあるのだ。秋穂ちゃんと再開するという望みとともに、もしかしたら、ファレグちゃんとも、もう一度会えるかも。という、仄かな願いを持っていた。それを、叶える為の、東京異世界化計画なのだ。


 うん、怖いけど、頑張ってみよう。と、思った矢先、物凄い衝撃を感じて、ハギトは跳び上がった。




 今回のクラウドフォートレスは、雲で偽装する必要がないので、クラウドと言いつつ、船体は剥き出しだった。一見して、一番似ている物はタンカーだ。


 艦橋が船尾に有り、フラットな甲板が舳先まで続いている。ベトール使用時は、その甲板上に、出入り口や、監視部屋などが点在していたが、今回は、巨大な回転式砲塔が、三基備え付けられていた。


「おおおっ! ほんとに きたの。AT THE BACK OF THE NORTH WINDなの。」


 艦橋から、辺りを見回したプリ様が、感嘆の声を上げた。薄ピンク色の空、どう見ても、異次元の風景だった。


「翔綺さんの身体に貼り付けてある、昔、裏葉さんが作った小型結界と、さっき発生させた結界を、結び合わせて、此処に来た訳だから、この辺に居る筈ね。」


 確認しながら、リリスは、藤裏葉の結界師としての能力(ちから)に、驚いていた。川崎の造船所のドックにあったクラウドフォートレスを、一瞬で此処まで運んだのだ。正に、前世のミランダと、寸分違わぬ実力を、示してみせたといえよう。


「とにかく、オクの居場所に、辿り着いたのじゃな? なら、妾は、行かせてもらうぞ。」

「まつの。こじん こうどうは だめなの、かみさま。」


 出て行こうとするイシュタルを、プリ様が止めた。


「なんじゃシシク? よもや、妾が心配などとは、ぬかすまいな? オクなどに、遅れは取らぬぞ。」

「かみさま、いま、こぐまたん(ポ・カマム)の からだ なの。したとみとぅむ(シタとミトゥム)も ないの。」

「うぐぐぐ。」


 鋭い指摘に、ぐうの音も出ないイシュタル神。


「りりす、かみさまと いったげて。」

「ええっ〜?! 嫌よ。プリちゃん、お姉ちゃんがエッチな事されても良いの?」

「りりす なら、かみさま、はなれないと おもうの。たのむの。」


 物凄く嫌だけど、プリ様の言う事は、一理あった。それに、イシュタルが無理をして、ポ・カマムの身に、もしもの事があってはならない。絶対に、お目付役は、必要だった。


「よおし、決まりだ。娘、すぐ行くぞ。今、行くぞ。早く、二人切りになるのじゃ。」

「エッチな事を、しに行くんじゃないのよ? 分かってる?」

「分かっておるわ。さあ、行くぞ。」


 本当に分かっているのかな〜? という疑問を残しながらも、イシュタルとリリスは、船外に飛び出て行った。


「よし なの。ぷりと かずおみも おそとに いくの。むつらぼし、ゆす(留守)を たのむの。」

「命令すんな、ガキ。船長は私よ。」

「プリちゃま〜、私は?」


 六連星の返事に被せて、藤裏葉が訊いて来た。


「うらばも ゆすばん(留守番) なの。ぴっけちゃんと まって いゆの。」


 ちなみに、ピッケちゃんは、乗船を許されたが、照彦は、さりげなく、メンバーから外され、クラウドフォートレスには乗っていない。


 これで、留守番組が、六連星、乱橋、藤裏葉、ピッケちゃん。出撃組が、プリ様、和臣、リリス、イシュタル……。


「じゃあ、いくの!」


 勇んで出掛けようとするプリ様。何故か、その下半身は重く、ズリズリと……。


「プリ様、プリ様、プリ様ぁぁぁ。置いてっちゃヤですぅ。行くんですぅ。昴も、プリ様と行くんですぅぅぅ。」

「…………。」


 腰にしがみ付く昴に、トホホな状態のプリ様である。


「すばゆぅ、あぶないの。てきの ほんきょち なの。なにが あゆか わかんないの。」

「だったら、尚更ですぅ。そんな、危ない所に、お小さいプリ様を、一人で行かせるなんて、出来ません。」


 …………。結局、折れるプリ様。泣く子と、昴には、敵わないのだ。


 そして、いざ、甲板に出ると、激しい揺れが、浮遊するクラウドフォートレスを襲い、その後、地面から隆起して来た氷の塊に、ガッチリ固定されてしまった。


「もみじ なの!」

「雲隠島の時と、同じ手を使うか。だが……。」


 和臣は、アシナブレスレットを魔法の杖に変え、一振りすると、巨大な炎を放った。炎は氷を一瞬で溶かし、クラウドフォートレスは、その隙に、さらに上空へと、舞い上がった。


「いまの うちなの。いくの。」

「いや、紅葉は、もう、船内に潜り込んでいる様な気がする。俺は、此処に残る。」

「わかったの。もみじを たのむの。」


 そう言うと、プリ様は、メギンギョルズの羽を広げ、小ちゃなお手手で、昴をお姫様抱っこすると、オクの居城目掛けて、飛んで行った。




「氷は溶かされたけど、紅葉ちゃんとハギトちゃんは、クラウドフォートレスに潜入したみたいね……。」


 方法は不明だが、敵に攻め込まれた、という判断をしたオクは、素早く七大天使に非常呼集を掛けた。


『紅葉ちゃんが、こっち側に居てくれて良かった……。』


 フルは不在。レヴィアタンは勝手気儘。オフィエルは、まだ、来ない。残ったハギトは、震えているだけ。此方の手勢だけでは、戦闘員は、皆無だったのだ。


「なんじゃん? おく。なんの よびだし じゃん?」


 そこに、漸く、オフィエルが、やって来た。


「オオオ、オフィエルちゃん! あれ、見てよ。」


 昨日も、遅くまで機械いじりをしていたのか、眠い目を擦りながら、オフィエルは、上空を見上げた。


「おおっ! くらうどふぉーとれす じゃん。うごいてる じゃん。とんでる じゃん。って、かんげき。」

「何を感激しているのよ。あれに、攻め込まれているのよ、私達。」


 最近、よく出掛けていると思っていたが、御三家の奴等に、クラウドフォートレスを造ってやっていたとは……。オクは、頭を抱えていた。


れーるがん(レールガン)は? さんれんかいてんしき(三連回転式)ほうとう(砲塔)れーるがん(レールガン)を さんき、かんぱんに せっち したじゃん。」


 レールガン? あの砲塔、そんなヤバイ代物だったのか。オクの背筋を、冷たい汗が流れ落ちた。


あれが(レールガン) いっせいに ひを ふけば、この あたり いちめん、かいじんに きす(灰燼に帰す)と おもうのよ。」


 何、楽しそうに語ってんだ。オクは、オフィエルの額に、思いっ切り頭突きをかましてやりたい衝動を、我慢していた。



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