オクの奴ぅぅぅ。
「プリちゃまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜。」
霧ヶ峰より戻った藤裏葉は、真っ直ぐに阿多護山の神王院家屋敷に向かい、プリ様に、ヒシッと、抱き付いた。目には、薄っすら、涙を浮かべている。まるで、何年も会ってなかったかの様な、大騒ぎだ。
「プリちゃま、記憶を取り戻して来ました。いつでも、AT THE BACK OF THE NORTH WINDに、攻め込めますよ。」
「でかしたの、うらば。ほめて つかわすの。」
プリ様に、頭を撫で撫でされて、至福の表情を見せる藤裏葉。その彼女を、昴とリリスは、嫉妬の炎を燃え上がらせながら、見ていた。
「あれ? 今日は、和君は?」
一頻り、プリ様の抱き心地を堪能し終えると、藤裏葉は、辺りを見回して、訊いて来た。
「和臣さんは、ヘーパイストス神を手伝って、昨日から、ウルリクムミ製ヘルメットを作成してます。」
「おおっ。いよいよ、本格的に、反撃の手段が整ってますね。」
昴の説明に、藤裏葉は、顔を輝かせた。彼女といい、リリスといい、美柱庵家所属の面々は、特に「反撃」という意識が強かった。本拠地を、良い様に荒らされたので、捲土重来の想いがあるのだろう。
そこで、具体的に、計画を練ろうと、プリ様+昴と、リリス、藤裏葉は、作戦会議に入った。ここは、神王院地下施設のブリーフィングルーム、御三家共有のサーバーから、先日のハギト襲来時の映像資料の解析も出来るのだ。
「りりす。これ、なに してゆの?」
リリスとフルの戦闘を見ながら、プリ様が、不思議そうに呟いた。その、自分に向けられた瞳の、あまりの愛くるしさに、我慢出来なくなったリリスは、ガバッとプリ様に抱き付き、頬擦りをし……。
「しょうきに もどゆの〜。りりす。」
「ハッ!? ご、ごめんなさいプリちゃん。つ、つい……。」
謝りつつも、プリ様から離れないリリス。昴と藤裏葉は、悋気に塗れて、身悶えしていた。
「これは、確か、トキが割って入った時ね……。」
のだが、トキが映っていないのだ。彼女が居ないので、リリスとフルが、何も無い空間に、言葉を投げかけている様にしか見えない。
「『トキ』……か……。」
藤裏葉も呟き、思い出した前世の記憶を、皆に披露した。
「あいつ……、何者なの?」
言いながら、リリスは、昴を見た。
「昴ちゃん、トキって……。」
昴に、トキの事を、詳しく聞きたいのだが、誘拐されている間の記憶を突くのは、昴にとって、良くない気もし、口籠った。
「トキさんは、良い人ですよ。トキさんのお陰で、私は、あの過酷な、オークション会場競売品控え室で、生きていられたようなものです。」
昴が、そう言って、もんの凄い良い顔で微笑むと、更に何も言えなくなった。
「きっと、レヴィアたんも、トキさんが、大人しくなるよう、躾けてくれます。」
続いて言った昴の言葉に、藤裏葉が反応した。
「レヴィアたん(アにアクセント)? 可愛い。誰です? それ。」
「そ、そうです。レヴィアたん(アにアクセント)です。」
「れゔぃあたん(アにアクセント)なの。さすが、うらば。わかってゆの。」
藤裏葉の発言に、我が意を得たとばかりに、頷き合うプリ様と昴。二人はリリスを、ジトッと、見た。
『えっ? 私? 私が間違っているの? だって、悪魔レヴィアタン(レにアクセント)でしょ?』
狼狽えるリリスを他所に、何故か、結束を強めていく三人。
「こまって いたの。れゔぃあたん(レにアクセント) とか いうこが いて。」
「あっ〜。それは、困るよね。プリちゃま。」
「まったくです。レヴィアたん(アにアクセント)を、何だと思っているのか……。」
わわわ、私の事だぁぁぁ。私が、プリちゃんを、困らせているぅぅぅ。
パニック状態になったリリスは、物憂げに溜息を吐くプリ様に、泣きながら抱き付いた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。プリちゃーん。レヴィアたん(アにアクセント)。レヴィアたん(アにアクセント)ですぅ。許して、お願いぃぃぃ。」
「はんせい した? りりす。」
「しました。反省したからぁぁぁ。」
泣き噦るリリスの背中を、三人は、優しく撫でて上げた。
「誰にでも、間違いはあるんですぅ。」
「そうですよ、リリス様。」
「ありがとう。ありがとう。昴ちゃん。裏葉さん。」
何となく、良い感じに、間違った方向に、まとまっていってしまう、女の子四人。紅葉の不在は、深刻な影響を、パーティに投げかけていた。
そこに、ドアが、バタンと開いて、ポ・カマム(中の人、ヘーパイストス神)と、照彦、そして、和臣が入って来た。
「出来たぞ、お前等。完成だ。」
学校も休み、昼夜問わず作業をしていたせいか、和臣も、幾分、テンションが上がっているようである。入室するなり、出来上がったヘルメットを掲げて、プリ様達に示した。ヘーパイストス神も、満足そうに、ヘルメットを撫で回していた。
「くくくっ。お前達、安心しろ。あの淫乱女のケストスなぞ、このヘルメットの前には、雑巾も一緒だ。」
一体、過去に何があったんだろう、と思わせる程、ヘーパイストス神は、アプロディーテー神への憎悪を、剥き出しにしていた。
「あの方は、前にアプロディーテー神と夫婦だったのですが、浮気されちゃったんです。」
皆んなの疑問を読み取った照彦が、小声で説明をした。
「では、俺は帰るぞ。お前達、健闘を祈る。必ずや……。」
そこで、ヘーパイストス神は、ニヤリと笑った。
「あの外道のケストスを、コケにしてやってくれ。」
うーん、怨念が感じられる……。と、プリ様達が思っていたら、ポ・カマムの膝が、カクンと折れて、跪いた。
「ポッカマちゃーん。」
ここぞとばかりに、崩れ落ちそうな、ポ・カマムの身体を抱き止める、可愛いモノ大好きの藤裏葉。
「へーぱいすとすしん、かえった みたい なの。」
「う〜ん。私も、ちょっと、お話ししてみたかったな。」
プリ様の呟きに、リリスが、知的好奇心を、示していたら……。
「おおっ、娘。今日は居るのか?!」
と、目を覚ましたポ・カマムが声を上げ、藤裏葉の腕の中から、スルリと抜けると、素早くリリスに抱き付いて、押し倒した。
「ちょっ、ちょっと、ポッカマちゃん?」
「妾じゃ、妾。今日こそは、契りを結ぼうぞ。」
「へっ? 何? ひゃん! 何で胸を触るの?」
状況が理解出来てないリリスは、良いように、ポ・カマムに身体を弄られ、皆も、呆気に取られて、それを見ていた。
「入れ替わりに、イシュタル神が、憑依したんじゃないんですか?」
照彦が、ボソッと、言った。
「貴女、イシュタル?」
「そうじゃ。妾じゃと、言っておるだろ。さあさあさあ、服を脱げ。愛の営みを始めるぞ。」
そう言って、プリ様達の方を睨んだ。
「お主等も、席を外せい。不粋な奴等じゃ。妾と、この娘は、これから恥ずかしい事を、いっぱい、しまくるのじゃぞ。」
「恥ずかしい事なんか……。」
リリスは、ポ・カマム(中の人、イシュタル神)の身体を持ち上げて、ロメロ・スペシャルを、お見舞いした。
「する訳ないでしょ! この変態!!」
軽く変態扱い……。
「痛、痛たたたたた。止めい。止めんか、娘。」
完璧に決められた、ロメロ・スペシャルの威力に、悶え、苦しむイシュタル神。プリ様は、そんな彼女に、トコトコと、近付いた。
「なにしに きたの? かみさま。」
「痛っ。痛た。わ、妾は、この娘と、エッチな事をする為に……。」
違う。絶対に違う。そんな目的で、わざわざ、来る筈がない。リリスの肉体に目が眩んで、当初の目的を忘れてやがる。と、その場に居る、全員が思った。
「昨日来た時、何か、物凄く怒ってませんでしたか? オクを、ぶっ殺す。とか、言ってたんですぅ。」
「ぶっ殺す。」などという、物騒な言葉も、とびきり美少女の昴が口にすると、可愛く思えるから不思議である。
だが、それを聞いて、イシュタル神は、ハッと、顔色を変えた。
「そうじゃった。オクの奴。オクの奴ぅぅぅ!」
「なにが あったの?」
首を傾げるプリ様に、イシュタル神は叫んだ。
「オクめ! 我が宝、シタとミトゥムを盗みやがったのだ!!」
なんですと?! プリ様パーティ(-紅葉)に、戦慄が走った。