表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/303

このツンデレめ

「改造、終わりましたよ。」


 と言って、珍しく扉から、オクの部屋へ入って来たトキは、エッチな身体と格好をした、女の子を差し出した。


 歳の頃は十七、八。胸元の大きく開いた、ノースリーブの黒いボンテージ服を着ていた。股間も、結構なハイレグだ。申し訳程度に、腰回りにスカート状のフリルが付いていた。


 しかし、何より異様な事に、彼女の両腕は、拘束衣の様な物で、ギッチリと固定されていた。両足首も、鎖の付いた拘束具で繋がれていて、小股でしか歩けなくなっていた。


「ええっと……。」


 何だっけ? 何の話だっけ? と、オクは首を捻った。


「イヤですわ。お忘れになったんですか? 私に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そうだったけ?! そういえば、そんな指示を出した気がする。オクは、改めて、変わり果てた翔綺の姿を見た。


「ずいぶんと、いたいたしい ようすね。」

「やはり、心が壊れましたので……。戦闘をする時以外は、キッチリ縛り上げておかないと……。」

きゅうさい(九歳) とは おもえない わね。」

「ええ。もう、大人の身体です。」


 大人になったというより、丸で別人よね……。烏の濡れ羽色だった、綺麗な黒髪が、銀髪になっているのを見て、オクは思った。


「まあ、これは これで わるく ないけど……。」


 サラサラの銀髪を、指で梳いてやると「うっ。」と、レヴィアタンが声を上げた。


 オクは、この間の翔綺を、思い出していた。御三家の子に相応しい気高さと、子供らしい一面を合わせ持つ、愛らしい子だった……。


 ええっ?! 私、あの翔綺ちゃんを、ここまでしろって、命令したかな……。オクは、頭をグルグルと、働かせた。


「では、連れて行きますね。」


 オクが考え込んでいると、トキは、そう言って、レヴィアタンに付けられた、鉄製の首輪の鎖を引いて、出て行った。




 神王院家、地下屋敷のリビングで、料理長の長田さんが作ってくれたモンブランを食べながら、和臣は、溜息を吐いていた。あの衝撃の美柱庵家襲撃事件から、五日が経っていた。


「どしたの? かずおみ。」

「ん〜、いや……。紅葉の家に行った時の事を、思い出してしまってな……。」


 プリ様に聞かれて、和臣は、重い口を開いた。


「お母様、どんな御様子でした?」


 紅茶のお代わりを淹れながら、昴も訊いて来た。


 あんなに、取り乱すとは思わなかった……。というのが、和臣の率直な感想だった。両親の、紅葉に対する無関心さは知っていたので、淡々と応対されるのではないかと、変な心配も、していたのだ。


「必ず、連れ戻します。」と言ったら、ぶっ叩かれた。「無責任な約束しないで。」と、襟首を掴まれた。


 そんなに大事な娘なら、何故、放置していたのか。と、言い返しそうになったが、その気配を察した、父の宗一郎に止められた。


「可愛いなら、日頃から、愛情を注いでやれば、良かったんだ。紅葉(あいつ)が、どれだけ、それに飢えていたか……。」


 母親の楓の前で言えなかった愚痴を、プリ様の前で、つい、零してしまう和臣。プリ様は、ちっちゃなお手手を伸ばして「よちよち。」と、彼の頭を撫でて上げた。


「かずおみ〜。きづかない ことも あゆの。うしなって はじめて わかゆの。その ひとを どんなに すき だったか……。」

「プリ……、お前……。」


 玲を失ったプリ様。その辛い体験は、プリ様の、他人に対する、寛容さの間口を、広げていた。


『ちょっと待て。プリって、もしかして、俺より、人生経験や、人間感情に対する考察が、上なんじゃ……。』


 三歳幼女に、人の心の動きの機微を教えられ、諌められ、和臣は、暫し、自己嫌悪に陥った。


「あの日から、リリス様も、裏葉ちゃんも、全然来ないんですぅ。私は、プリ様を独り占め出来て、良いんですけど……。」


 と言いつつ、膝に乗っけているプリ様を、ギュッ〜と、背中から抱き締める昴。


 リリスは、事後処理に、忙殺されていた。学校にも来ていないので、例によって、渚ちゃんが、寂しがっていた。


「裏葉さんは、長野の山奥に、行くと言っていたな。記憶を司る術士が居るとかで……。」


 裏葉ちゃんとは、マメに、連絡を取っているんだ、ふーん。という目で、昴は、和臣を、チロッと見た。


 そこに、突如、リビングのドアを乱暴に開け、六連星主従が入室して来た。ビクッと、身体を硬くする昴。


「居たわね、ガキ。アンタに、耳寄りな話を、持って来てやったのよ。感謝しなさい、このガキ。」

「むつらぼし、こえが おっきいの。すばゆが こわがってゆの。」


 まくし立てる六連星に、プリ様は、冷静に対応した。


「耳寄りな話ってなんだ?」


 和臣が聞き返すと、六連星は、ニッと、笑った。


「クラウドフォートレスの、復元が終わったのよ。これを……。」

「紅葉ちゃんや、翔綺ちゃんを助けるのに、敵地に乗り込むんだろ? なら、移動要塞で突っ込んで、決着まで着けたら、良いんじゃないか、っつー話よ。」


 途中で、乱橋に割り込まれて、六連星、ご立腹。


「何で、アンタが言うのよ。私が、御三家評議委員会に、掛け合ったっていうのに……。」


 言ってから、ハッと、口を押さえた。


「むつらぼし……。」

「な、何よ、ガキ。」

「ありがと なの。」

「はあああ? 何、礼を、言っちゃって、くれちゃってるの? べ、別に、アンタの為なんかじゃ、ないんだからね。御三家筆頭として、子分の美柱庵家への、狼藉の落とし前を、着けさせなきゃいけないだけなんだからね。」


 顔を真っ赤にして、がなり散らす六連星を『このツンデレめ。』と、皆んなは、生温かい目で見ていた。昴だけは、六連星の熱い友情に、感動していた。


「じゃ、じゃあ、裏葉が戻り次第、攻め込むわよ。隊長は、私がやるから。」

「えっ、お前、一緒に来る気なの?」

「むつらぼし、それは……。」


 なんだか、物凄く、面倒な事態が起こりそうだ。ハプニングの予感に、プリ様と和臣は、頭を抱えた。




 その藤裏葉は、大型のオフロードバイクで、ビーナスラインを、ひた走っていた。記憶を司る術士は、霧ヶ峰の奥深くに居るのだ。


『私は、前世、妖精だった……。』


 彼女には、前世の記憶は、人間になってからの期間しかない。だから、結界と結界を結ぶ技も、前世で、生まれつき持っていたモノなのだろう、と思っていた。


 しかし、出立前に、リリスが、オクから聞いた話を、藤裏葉にも聞かせたのだ。もしかしたら、妖精だった頃まで、遡らなければ、記憶が戻らないかもと、危惧したからだ。


『オクちゃん……。前世の世界の、魔王から授けられた能力。』


 敵の尖兵として、トールのパーティに、潜りこまされていた。こんな屈辱的な過去は、いくら脳天気な彼女でも……。


『ああっ。魔王に、コマとして、物みたいに扱われていたなんて。前世の私、境遇良過ぎる。』


 …………。あまり、気にしてないようだ。


 バイクは、高速を降り、更に、一般道から、獣道に近い未舗装路に、突っ込んで行った。整備されてない道を疾走する反動は凄まじく、その震動に、藤裏葉も……。


『ああっ。ああっ。骨髄まで浸透するショック。ああん、キツい。良過ぎるぅぅぅ。』


 …………。あまり、こたえてないようである。


 そして、バイクは、山中の古びた屋敷前で止まった。所々、崩れかけてはいるが、立派な漆喰の塀で囲まれいた。


 バイクを降りて、一歩踏み出す藤裏葉。その時、足元の罠が作動し、あっという間に、木の枝に、逆さ吊りにされてしまった。


「ほっほっほっ。引っ掛かりよったな。」


 木の門が、ギィィッと、音を立てて開いた。中から出てくる、背中の曲がった翁。その目が、ギラッと、光った。


 藤裏葉、ピーンチ。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ