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全ての神々を敵にして

 賢者の石の在処を教える約束をさせられて、オフィエルの住居を後にしたオクは、フルを捜すべく、居城に戻った。


『もしかしたら、かえって きて いるかも。』


 しかし、矢張り、フルの姿はなかった。


『はぎとちゃんは……しらない だろうな。』


 ハギトは、常に自分と一緒に居てくれる、(しもべ)が出来たのが嬉しいのか、嬉々として、紅葉と翔綺を連れ回していた。


『はぎとちゃんか……。』


 ハギトの事を考えると、頭を抱えたくなった。東京異世界化作戦も、神器がケストスだけでは、どうにも心許なかった。性格が弱過ぎるのだ。


『もっと、ちょくせつてきに、あいてに こうげきを しかける ぶきも、あったほうが いいかな……。』


 ハギトの超音波も、ビルスキルニル フェオを纏ったプリ様には、全く通用しなかった。


「びるすきるにる……。」


 その威容を思い出して、オクは、ニヤリと笑った。空蝉山での顛末は、オクも、昴の目を通して、見ていた。ビルスキルニル フェオ誕生の瞬間も。


 トール神は、プリ様が「シシク」の能力(ちから)に目覚めぬよう、強力な神器を三つも与えた。そして、イシュタル神も、同じ目的で、プリ様を、三つの神器を使いこなせるよう、鍛えた。


『だが、あの ふたりとて、みっつの しんきを とうごう(統合)し、あたらしい しんきを うみだすなど、そうぞう(想像)も していなかった はず。』


 イシュタル神は「神器の力を引き出せれば、シシクにはならない。」と言った。だが、彼女は見逃していたのだ。


 ビルスキルニル フェオを創り出せたのは、プリ様の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事を。


『ふぇお といって(言って)いるからには、もっと しんか(進化)させる つもり なんでしょうね。』


 つまり、ビルスキルニルが進化する程、プリ様は「シシク」として、完成されていくのだ。


『ざんねんね、いしゅたる。あのこは ちゃくちゃくと、ししく(シシク)の のうりょくを かいか(開花)させて いって いるのよ。』


 ファレグに勝った、新宿御苑での戦いの時のレベルまで戻るのは、時間の問題だろう。


「あっーは、ははは。ざまあみろよ、いしゅたる。」


 イシュタルの名を、口にして、オクは考え込んだ。


「いしゅたる かあ……。」


「ハギト」は、金星を支配する天使。金星神であるイシュタルの神器なら使える筈だ。


した(シタ)みとぅむ(ミトゥム)まーきんぐ(マーキング)は してある けど……。」


 神の宝物庫から、神器を盗み出した時、シタとミトゥムも持ち出そうとし、所有者を変更させる魔術は施しておいた。しかし、この神器を取り上げれば、イシュタルの逆鱗に触れるのは、間違いなかった。


「さすがに あいつ(イシュタル)を かんぜんに てきに まわすのは やっかいだわ。」


 などと、オクが呟いていると……。


「何を躊躇う必要があるのです?」


 と声がし、オクの眼前の空間から、トキが現れた。


「いや、だって、いしゅたるよ? あの せんとうきょう(戦闘狂)と ことを かまえると なると……。」

「覚悟が、足りないのでは、ありませんか?」


 オクの言葉を遮り、トキが発言した。


「貴女は、全ての神々を敵にして、ハルマゲドンを為さる、おつもりなのでしょう?」

「むっ…………。」

「たかが、イシュタル一人を恐れて、どうするのです?」


 トキは深い溜息を吐いた。


「刀が三振り揃えば、誰も貴女を止められません。そして、それは、もう、目前なのです。」

「でもね、あの しんじゅう(ポ・カマム)を つかえば、たんじかん(短時間)と いえど、やつ(イシュタル)は この せかいに かいにゅう(介入) できるのよ?」

「安心なさい。シシク様が打ち上がるまで、貴女には、誰にも、指一本触れさせません。その為の兵器も、用意しておきます。」


 兵器? 何を造っているんだ? こいつ。オクは、少しだけ、訝しげに、眉を顰めた。


「わかったわ。した(シタ)と、みとぅむ(ミトゥム)を、はぎとちゃんに わたして あげる。」

「それでこそ、オク様です。」


 トキは、満足気に頷き、その姿を薄めていき、やがて、空間に消えそうになった……が。


「そうそう。順番が飛んでしまいますが、フルさんの『六花の一葉』シシク様に渡してしまって、よろしいですか?」


 突如、また、姿をハッキリとさせ、そう訊いて来た。


「ふるちゃんの? なぜ?」

「オフィエルさんまで行けば、シシク様は、完全に覚醒されるでしょう。フルさんの番は、不要になったのですわ。」

「! ふるちゃんを どこかに つれていったの?! あのこを どうするつもり?」

「彼女も望んでいるのですよ。貴女を護る、分厚い盾と成る事を……。」


 そこまで告げると、今度こそ、トキは消えた。滅多に笑わない彼女だが、その消えた虚空には、酷薄な笑みが漂っているように、感じられた。




「お、お久しぶりです。お姉様。」


 恐る恐る、という具合に、朝顔に声を掛ける照彦。


「おとうたま、おばたま(伯母様)を しってゆの?」

「プリちゃん、伯母さんというのは、両親の兄弟の事だよ。伯母さんは、お父様の、お姉さんなんだ。」

「おねえたん……。」


 プリ様は、今一つ、合点がいかないらしく、可愛らしく小首を傾げた。


「ぜんぜん、にてないの。おばたまは つよそう なの。おとうたまは……。」


 弱そうなの、と言いかけて、慌てて、口を塞ぐプリ様。齢三歳にして、父親に気を遣う健気さに、リリス、和臣、藤裏葉は涙し、昴は意味もなく抱き付いていた。


「お久しぶり……ねえ。」


 ややあって、朝顔が、言葉を発した。


「私を避けて、翔綺の所へは、コソコソと通っていたみたいだけど……。」

「お、叔父様。やはり、翔綺さんを狙って……。」


 朝顔が言うと、リリスが非難の声を上げた。


「ちちち、違いますよ。僕は、翔綺に……。」

「何ですか? 言えないんですか? やっぱり、アリスコンプレックス……。」

「違いますって。天莉凜翠、翔綺は、君と仲良くなりたくて、僕に、君の事を、色々訊いて来ていたんです。」

「私と?」

「そうですよ。君が、いつまでも、よそよそしく『翔綺さん』なんて呼ぶから……。」


 そう言われて、リリスは考え込んでしまった。その遣り取りを見ていたプリ様は、何故か、感心していた。


「おとうたま、うまいの。りりすを せめる(責める) かたちに したの。ぜっぽう(舌鋒)ゆゆんだ(緩んだ)の。」

「違いますよ、プリちゃん? ホントの事ですよ。お父様は、話を誤魔化した訳ではないですよ?」

「うんうん、わかってゆの。そういう ことに しておくの。」


 プリちゃーん! お父様を信じてぇぇぇ。という、照彦の絶叫を無視して、プリ様は、朝顔の方を向いた。


「その しょうきちゃん(翔綺ちゃん)の いばしょ。どうやって わかゆの?」

「美柱庵家の子供は、誘拐されても、すぐに居場所を特定出来るように、特別な施術が為されているのです。」


 これは、十年前、昴が行方不明になった時、美柱庵家の当時の当主が、同様の事件が起こった際に、速やかに対処出来るよう、開発した術だ。


 という説明を受けると、昴は、鼻高々と胸を張った。


「つまりは、私のお陰なのです。」


 ああ……うん……。皆んなは、逆らうのも面倒臭く、曖昧に頷いた。その反応に不満を持った昴は、抱き付いていたプリ様に、泣きついた。


「プリ様〜! 私のお陰ですよね?」

「えっ?! う、うん。そうなの。すばゆ えらいの。」

「えへへへ。じゃあ、じゃあ、プリ様。頭、撫で撫でして下さーい。」

「はい、なでなで なの。」


 齢三歳にして、困った子の面倒も、ちゃんと見て上げられるプリ様の偉さに、照彦、和臣は感心した。リリスと、藤裏葉は、頭を撫でてもらえる昴が羨ましく、次は私が撫でてもらおうという、困った決心をしていた。


 その後ろで、一向に話が進まないのに苛立った朝顔が、般若の形相を呈していようなどとは、この時のプリ様達は、知る由もなかったのであった。

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