表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
250/303

無茶苦茶自惚れてない?

 血塗れのリリスの右足を見て、プリ様、和臣、藤裏葉は、血の気が引く思いをしていた。昴などは、自分が怪我をした訳でもないのに、アワアワと、卒倒しそうなくらい、取り乱していた。


「お、お前、それ、痛くないのか?」


 恐る恐る、訊ねる和臣に、リリスは、ニッと、笑い返した。


「賢者の石から滲み出る『命の水』が、私の体内を循環しているから……。」


 藤裏葉が、濡れたハンカチで、リリスの右足の甲を拭ってやると……。


「なおってゆの!」


 驚きの声を上げる、プリ様一同。


「ねっ? 私には、もう、紅葉ちゃんのヒーリングは必要ないの。」


 紅葉のヒーリングが必要ない……。


 なんて、羨ましいんだ。と、皆は思ってしまった。


「…………。紅葉の奴、無事かな。」


 ポツンと呟く和臣の頭を、プリ様は「よしよし。」と、撫でてお上げになった。


「だいじょぶなの。はぎとは じぶんの しもべ()として つれてったの。いきなり ころしたり しないの。」

(しもべ)……か。それが信じられん。あんな、我儘で、自己中で、天上天下唯我独尊の奴が、ハギトに従ったりするのか?」


 和臣の言を、否定出来ずに、ウーンと、唸り込んでしまう、プリ様、昴、藤裏葉。


「ケストスの恐ろしさを、侮らない方が良い。」


 そこに、真面目な顔で、リリスが口を挟んだ。


「魅了された途端、本当に、ハギトの事しか、考えられなくなるの。私が、わ、私が、プリちゃんに、攻撃を仕掛けるだなんて……。」


 リリスは、見詰めていた自分の両手を、プルプルと、震わせた。


「ごめんね、ごめんねー、プリちゃん。お姉ちゃんの事、嫌いにならないでぇぇぇ。」


 そう言って、抱き付き、泣きながら、プリ様のお胸に、頭を、グリグリと、押し付けるリリス。それを見ていた克実及び、美柱庵家戦闘員達は、ドン引きしていた。兎笠は、壊れた配管から垂れてくる、水滴を眺めていて、見てなかった。


「ちょっ、ちょっと、リリス様。皆んな見てますよ。ドン引きですよ。」

「だって、だあああっでぇ。プリちゃんに、プリちゃんに、ぎらわれ(嫌われ)ぢゃううう。」


 藤裏葉に耳打ちされても、一向に泣き止まないリリス。困った子だな。と、プリ様も、リリスの頭を、撫で撫でしながら、思っていた。


「兎笠! 兎笠は無事ですか?」


 そこに、漸くやって来た、朝顔の声が聞こえて来た。


「おかあさま!」


 兎笠は、トテトテと、駆け寄った。彼女の姿を視認した朝顔は、安堵した溜息を洩らし、抱き上げた。


「あんなに厳しいお袋さんでも、幼い末娘には、甘いんだな。」


 朝顔の一連の行動を見ていた和臣は、そう言って、リリスに微笑みかけた。が、リリスは、その朝顔の行動に、言い知れぬ違和感を覚えていた。


 この場合、彼女が、一番に心配すべきは、当主代行である英明の安否である筈だ。それによって、この(いくさ)の勝敗、及び、戦後処理と、これからの方針が決まる。


 それなのに、朝顔は、そんなもの、そっちのけで、兎笠の無事を確認しにいった。普通の母親であれば、当たり前の行動であるが、この国の平和と安寧の為であれば、我が子を捨て駒にするのも厭わないのが、朝顔なのだ。絶対におかしい。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 などと、一瞬思ったのだが……。おかあさま、おかあさま、と甘えて来る兎笠に、優しく頬擦りをしてやっている朝顔を見ていると、穿ち過ぎかと、考え直した。あの鬼の母も、やっぱり人の子。末っ子は、格別に可愛いのだろう。


「さてっと……。」


 呟いて、和臣は、プリ様の方に向き直った。


「俺は、紅葉を助けに行って来る。当面は別行動だ、リーダー。」

「おちつくの、かずおみ。どこに いゆか、わかんないの。」

「そうね……。敵の拠点、AT THE BACK OF THE NORTH WINDは、恐らく異空間。突入する方法は……。」


 プリ様が、六花の一葉を、全て揃える事。リリスは、改めて、それを口にした。


「そんなの、待ってられないだろ。紅葉(あいつ)は、俺から離れたら、二日と精神の安定を保てないぞ。」


 うわ〜。と、プリ様達は引いた。『何か、無茶苦茶自惚れてない?』プリ様、昴、藤裏葉、リリスの、女子四人は、冷ややかな目で、和臣を見た。


「残念ながら、和臣ちゃん。今の紅葉ちゃんは、ハギトという、女神にも等しい存在を得ているので、精神状態は安定している筈よ。残念ながらね。」

「いや、別に残念ではないぞ。」


 大袈裟に、頭を振りながら解説するリリスに、面食らった様子で、和臣は言い返した。


「あわてなくて いいの。とうきょういせかいか(東京異世界化)さくせん(作戦)。つぎは はぎとの ばんなの。ちかいうち かならず あらわれゆの。もみじと しょうきちゃんを したがえて。」

「翔綺? あの子も、連れて行かれたのですか?」


 その時、プリ様パーティの話を聞いていた朝顔が、口を挟んだ。


「すみません、お母様。私が付いていながら、むざむざと、翔綺さんを……。」

「そんな事は構いません。私も、無様に手足を切り取られていたのですから。それよりも、翔綺が居るのなら、AT THE BACK OF THE NORTH WINDとやらの、場所が分かるかもしれないわ。」


 何ですと!? 朝顔の発言に、プリ様達は、顔を見合わせた。




 ところで、噂のAT THE BACK OF THE NORTH WINDでは、居城に戻ったオクが、ホッと一息吐いていた。


『そうだ、ふるちゃんを しかっとかなくちゃ。むだんで びちゅうあんけ(美柱庵家)に せめこむ なんて、しょうきのさた(正気の沙汰) じゃないわ。』


 そう思い立ち、淹れていた紅茶を飲み終えると、城内にあるフルの部屋に向かった。


 が、居ない。


『おかしいわ? どこに いったのかしら?』


 可愛らしく、小首を傾げるオク。中身や性格はともかく、仕草や容姿は、本当に愛らしい、幼女のそれなのだ。


 オクはテレポートし、オフィエルが根城にしている、理系専門学校の校舎に跳んだ。此処は、たまにフラッとやって来るファレグも使っていて、彼女の生前は、二人のシェア状態になっていた。


「おふぃえるちゃーん。ふるちゃん しらない……。」


 オフィエルの気配がある、大教室に入ったオクは、黒板だけでは足りずに、床の上にまで、ビッシリと、白墨で書き込まれた数式に、息を呑んだ。


「な、なんなの? これは。」

「あっー、おく。そこ ふむなって、むしんけい。」

「この すうしき……。あなた、まさか、けんじゃのいし(賢者の石)を つくり だそうと しているの?」

「あれは べんり じゃん。」


 そういえば、前に作った「対プリ用強化スーツ」にも、部品として組み込んでいたっけ……。オクは、一人、頷いた。


「でも ふしぎ じゃん。けいさん すれば、けいさん するほど、()()()()() ()()() ()()()()()()()()()()()。」


 それは、当然だ。賢者の石は三個とも、オクが、この世界に持ち込んだのだ。プリ様がトールだった、前世の世界から。


「そこで……じゃん?」

「な、なに?」


 チロッと、流し目で自分を見るオフィエルに、不吉なモノを、オクは感じ取った。


「さいごの ひとつ、よこしな。もっているんだろ、けんじゃのいし。」


 ふふふ、普通に喋らないでぇぇぇ。それだけで、怖いから。オクは、奥歯を、カチカチと、鳴らした。


「ももも、もってません。」

「おくぅ、おまえ わたしに かり(借り)が あるよねぇ?」


 借り? そう言えば、洗脳して愛人にしていた罪を、借りにしてもらってたっけ……。


「ぐぬぬぬ。」


 オクは観念した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ