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こんど あうときは てき でちゅ……。

「さあ。さあ、さあ、さあ。どうすゆの? はぎと。」

「えっ……。えと……、ご、ごめんなさ……。」


 謝りそうになったハギトの前に、彼女を庇うみたいに、兎笠が、両手を広げ、立ちはだかった。そして、ウルウルとした目で、プリ様を、ジッと、見詰めた。


「とりゅうちゃん。どくの。」


 プリ様のお言葉に、兎笠は、大粒の涙を零しながら、フルフルと、首を振った。


 これは厄介だ。と、プリ様は思った。兎笠は、ケストスの能力(ちから)で、魅了されている訳ではない。純粋に、心から、お友達のハギトを、助けようとしているのだ。


 そういう人間の「意志の力」というものを、プリ様は、幼いながらも、決して軽視したりしていなかった。


 その時、突然、ズシン、ズシンと、大質量の物体が移動して来る音が、近付いて来た。見ると、大型ヘリに脚が生えた、奇妙なメカが接近して来ていた。どうやら、テールローターの部分が、変型して、脚になっているらしい。


「へっ、へんけいよぼ(変型ロボ) なの!」

「何喜んでいるんですかぁ。プリ様ぁ。」


 歓声を上げるプリ様に、突っ込む昴。多分、あれは、絶対に敵だ。


「はぎとちゃん、てったいよー!」


 ヘリの兵員輸送カーゴから、オクが叫びながら、飛び降りて来た。その姿を見て、不快感を露わにするリリス。


「おくさま〜!」


 追い詰められていたハギトは、頼りになるオクを見付けて安心したのか、泣きながら、彼女に抱き付いて行った。お陰で、兎笠の介入により、膠着していた局面が打開され、プリ様は、ちょっと、安堵した。


 泣き付いて来たハギトの頭を、オクは優しく撫でてやった。


「おお、よしよし。なかない、なかない。さあ、かえるわよ。」

「…………。でも、しもべたち(僕達)が……。」


 ハギトの腰に、ケストスが巻かれているのを見たオクは『さっそく なんにんか みりょう したのね。』と察し、辺りをグルリと見回した。


『りりすちゃんが いるじゃない。やったぁぁぁ。かえったら、わけて もらお。もらったら、せいどれい(性奴隷)に しよ。』


 ろくな事を考えてなかった。危うし、リリス。


『あとは……。』


 美柱庵の戦闘員や、克実を見て、顔を顰めるオク。男ばかりね、と溜息を吐いた。


「ぜんいんは むりよ。あのこと、あのこと、あのこに しなさい。」


 リリス、紅葉、翔綺と、女の子だけを指差した。


「いっぱい つれてっても、めんどう みきれない でしょ。」


 捨て犬扱いである。


「しかたない……。あなたたち きなさい。」


 ハギトに命じられて、三人は、フラフラと、歩き始めた。


『いぃぃぃやったぁぁぁ! りりすちゃん、りりすちゃんが てに はいる。くふふふふふ。おかしまくって あげる。まいばん、まいばん。ああああああ、たのしみ すぎるぅぅぅ。』


 狂喜乱舞である。危うし過ぎるリリス。


 そんなオクの思考を破って、ドスン、という鈍い音がした。見ると、リリスが、自分の右足の甲を、天沼矛で、地面に縫い付けていた。


「ななな、なにを しているの? りりすちゃん。」

「た、例えハギトちゃんの命令でも……。」


 リリスの両の目が、ギラリと光った。


「貴女の居るAT THE BACK OF THE NORTH WINDに行くのは、絶対に嫌。」


 えっ……、ええ〜?! ケストスの力は、神をも魅了する能力(ちから)で、使用者の命令には、何人たりとも、逆らえない筈なのに……。魂まで支配する愉悦よりも、私への嫌悪の方が、大きいって言うの? 私、どれだけ、リリスちゃんに嫌われているの……。


 オクは、リリスの激しい拒絶反応に、心の底から落胆した。


「しょうがない。ふたり だけ つれていこう。」

「えっ? りりすちゃんを あきらめ ちゃうの? はぎとちゃん。」

「だって、てこでも うごかないもん、あれ。」


 そうとう痛いと思われるのだが、リリスは、右足の甲に突き刺さった矛を、抜こうとはしなかった。天沼矛にしがみ付き、ヘリに向かって行こうとする身体を、鬼の形相で、押さえ付けていた。


 オクは、深い、深い、溜息を吐いた。


「わかったわ。いこうか、はぎとちゃん。」


 紅葉と翔綺が、搭乗したのを見届けたオクは、そう促したが、ハギトは、未だ、一点を凝視していた。兎笠だ。


「いっしよに くる……?」


 ハギトの申し出に、悲しげな表情で、首を振る兎笠。さっきは思わず庇ってしまったが、ハギトが敵である事実は、兎笠にも分かっていた。美柱庵の子として、平和を乱す怨敵とは、絶対に馴れ合えない事も……。


 兎笠は、近寄って、手に持っていた砂時計を、ハギトに渡した。


「くれるの?」


 コクコクと頷く兎笠。それから、その小ちゃな口を開いた。


「でも、こんど あうときは……。」

「あうときは?」

てき() でちゅ……。」


 涙をボロボロ落としながら、絞り出す様に、兎笠は「敵」と言った。ハギトも辛そうに唇を噛み、背を向けて、ヘリに乗り込んだ。


「よ〜し。にげるわよ、はぎとちゃん。」


 言いながら、オクは『あれっ。ふるちゃんは どうしたの かしら?』と気付いたが、置いて行っても、彼女なら、問題無く帰還するだろうと、思い直した。


「ところで、おくさま。どこから にげだすの?」


 ハギトの質問に、唸るオク。美柱庵家地下施設は、今一つ、構造が分からないのだ。


「あそこの角を、右に折れれば、駐車場があるの。そこの換気口は広いから、そこから飛び立てると思うよ。」


 困っている二人に、翔綺がアドバイスした。


『このこは たしか、びちゅうあんけの じじょ。りりすちゃんの いもうとか……。』


 当主の娘の言なら信用出来る。ヘリは、翔綺のアドバイスに従って、うまうまと、逃げおおせたのであった。




 ヘリと入れ替わりに、和臣と藤裏葉が現着した。


「おそかったの、かずおみ……。」


 無念そうなプリ様のお言葉に、和臣は違和感を覚えた。敵は、ハギトは、追い出したんじゃないのか?


「むっ? そういえば、紅葉はどうした? まだ、リリスのお母さんの所か?」

「紅葉さんは……。」


 昴も歯切れが悪い。言いようのない不安が、和臣の胸中に広がった。


「おい、紅葉はどうした? まさか……。」

「もみじは つれて いかれたの。はぎとに……。」


 その時、和臣は、周りの異変に気が付いた。事態は、一応の終了をみたというのに、美柱庵の連中が、リリスでさえ、報告や指示に動こうとせず、ヘリの去った方角を眺めているのだ。そして、


「あああっ、ハギトちゃん。可愛い、可愛い、可愛い〜。」

「ハギトちゃん、会いたいよ。ハーギトちゃーん!」


 などと、口々に叫んでいた。


「ど、どうしたんです? これ。おーい、リリス様。正気ですかぁ?」


 藤裏葉が、さかんに目の前で手を振っても、リリスは、反応しようともせず、ひたすら、ハギトを恋しがっていた。


「何があったんだ? プリ。」

「みんな、けすとすに みりょう されたの。」

「ケストス?! あの、美の女神、アプロディーテーの神器か。」


 和臣も、藤裏葉も、前世の記憶で知っていた。遍く全てを魅了する、アプロディーテーの帯の恐ろしさを。


「くっそぉぉぉ。俺は、やっぱり行く。ハギトちゃんの元へ。」


 克実が叫ぶと、全員が「おおっ!」と、腕を突き上げた。一人、リリスだけは、オクへの嫌悪感との狭間で、煩悶していた。


「いけない。けっかいを はゆの、うらば!」

「はい。プリちゃま。」


 周り中に結界が張られ、何処にも行けない状態になった。それなのに、皆んなは、身体も砕けよ、とばかりに、見えない壁に突進して行く。


「どうすれば いいの? しゅうしゅう(収拾)が つかないの。」


 さすがのプリ様も、打つ手が無い。そのプリ様の後ろで、不意に、昴が手を打った。


「はーい、皆さーん。落ち着いて下さーい! 目を覚ましてぇぇぇ。」


 響き渡る手の音。その瞬間、皆は、ピタッと、動きを止めた。


「いいい、痛ったーい。どうして? どうして、私は、こんな事したの?」


 数秒後、リリスが悲鳴を上げた。他の人達も、夢から覚めた感じで、頰を抓っている者までいた。


「ふむ。皆んな、魅了が解けたようだね。」


 顎に右手を当てながら、照彦が言った。


『おとうたま、えらそう なの。じぶんも、みりょう されてたのに。』


 プリ様は、先程、照彦に退路を断たれた恨みを思い出し、彼をジトッと見ていた。








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