表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
248/303

ピカレスク プリ様

 起きた兎笠は、クシクシと目を擦り、ぼんやりと辺りを見回した。そして、その目にハギトが映ると、ちょっと嬉しげに口元を緩め、プリ様の肩から降りようと、身体を揺すった。


 兎笠の覚醒に気付いたプリ様が、そっと地面に下ろして上げると、彼女は、トコトコと、ハギトの方に寄って行った。獲物が、もう一匹。などと思っていたハギトは、兎笠の顔を見て、動揺した。


 もんの凄く良い笑顔で、近寄って来ているのだ。『そう言えば、私達、お友達になったんだった。』と、思い出したハギトは、ケストスの力を使うのを躊躇った。


 兎笠ちゃんも敵になってしまう。そう慌てていたプリ様も、ハギトの躊躇を感じ、様子見をする事にした。兎笠ちゃんなら、敵に回っても、そんなに問題ないか。などという、失礼な考察も働いていた。


 そうこうしている内に、兎笠は、ハギトの正面にまで、やって来た。それから、下げていたポシェットの中の、砂時計を取り出して、ニコッと微笑み掛けた。


 あの子、いつも砂時計を持ち歩いているの? という、翔綺の疑問を他所に、兎笠は、ハギトの前に、ペタンと座り込むと、砂時計をひっくり返した。


 そんな事をしている場合ではない。ハギトは、一瞬、自分を律したが、落ちて行く砂の、魅惑の動きに抗し切れず、同じくペタンと座り込み、兎笠と額をくっ付けながら、砂時計を見守り始めた。


「あ、あの〜。ハギトちゃん? プリさん、ぶっ殺さなくて良いの?」

「そうそう、氷漬けにしてやるよ。」


 リリスと紅葉から、大変物騒な申し込みがあっても、二人は、真剣な顔で、砂の動きを見つめ続けた。しかし、やがて、最後の一粒が落ち切り、漸く事態が進展する、と皆は思った。が……。


 兎笠に勧められたハギトが、砂時計をひっくり返し、第二ラウンドが始まってしまったのだ。更に、第三ラウンド、第四ラウンド、第五ラウンド…………。


 永遠に続くのではないか。その場に居る全員の脳裏に、戦慄が走った。二人は、一向に飽きる事無く、砂の落ちるのを眺めているが、それに付き合わされる周りの人間は、拷問にも等しい、苦痛の時間を過ごしていた。


 ただ一人、昴だけは、二人と同じ感性を持っているのか、ほえっーと、砂時計を見ていたが、それ以外の人間は、ほとんど同じ内容のアニメを、八週間見させられ続けるのと、同様の焦燥感を感じていた。


 だが、このインターバルは、追い詰められて、思考がショートしていた、プリ様にとっては良かった。ハギトが、美柱庵地下施設を破壊し尽くす、と言った時に感じた「引っ掛かり」の正体に気付いたからだ。


『ちょっと ひきょうな ()が すゆの。でも……。』


 思い出した事実を使って、ハギトを、美柱庵地下施設から、追い出すのは可能だろう。だけれども、プリ様の幼女的倫理感が、それをするのを良しとしなかった。


『どうしよう……。でも、そんけい(尊敬) すゆ くぃんとぅす(クィントゥス)ふぁびうす(ファビウス)まくしむす(マクシムス) なら……。』


 ローマの盾、クィントゥス・ファビウス・マクシムスなら、こんな時、どうするだろうか。味方を次々と寝返らせてしまう、ある意味最強のケストスに対して、乾坤一擲の有効打が有るなら、使用するのに、二の足を踏んだりはしないのではないか。


 そこまで考えて、プリ様は「んっ?」と思った。クィントゥス・ファビウス・マクシムスって、誰だっけ? と。


 ともあれ、プリ様は決断した。


『まもゆ っていうのは、きれいごと じゃないの。どよ()かぶゆ(被る)の。その どよみず(泥水)を すすゆの。』


 ちょっと、大袈裟じゃないの? と思われるかもしれないが、自ら卑怯の誹りを受けにいくのは、幼児には一大決心なのである。


 などと、プリ様がお考えになっている間に、兎笠が十回目のラウンドを始めようとし、ハギトの僕となった人達も、ウンザリ、という局面を迎えていた。


「ちょっと まったなの、とりゅうちゃん。」


 そこに、プリ様の「ちょっと待った」コール。皆は救われた様に、胸を撫で下ろした。


「ぷりちゃん、じゃましないで。」


 ハギトは口を尖らせ、兎笠は、キョトンと、プリ様を眺めた。


「はぎと、いま、すぐに でていくの。さもないと……。」

「さもないと?」


 自分は、絶対的優位に立っていると確信しているので、ぶっちゃけ、ハギトは、プリ様に対して舐め切った態度を取っていた。


「じぶんの たちば、わかってる? あなたは もはや、わたしに かられる(狩られる) のを まつ、こじか なのよ。」


 フフン。という鼻息が聞こえてきそうな程の、ドヤ顔である。それでも、プリ様は、全く怯まず、右手を上に突き出した。


ぐらびてぃぶれっど(グラビティブレッド)で こうげき すゆの。かえらないなら。」


 まるで見当違いな方向に、腕を伸ばしているプリ様を見て、ハギトは笑った。


「どこを? なにを こうげき するの?」

「この ちかしせつの うえに あゆの。はぎとの おうちが。」


 衝撃の事実に、ハギトは、明らかに、動揺した。


「う、うそ……。」

「あっー……。プリさんの言っている事は、本当よ。」


 リリスが『ハギトちゃん、何て可愛らしいの。』という、トロンとした目で、彼女を見詰めながら言った。


「ひきょうもの! なんて、ひきょう なの。わたしの おうちの したに きちを つくる なんて。」


 いや、どう考えても、基地の方が先でしょ。と、皆んな思ったが、何せ魅了されているので、そんな無茶な言い分も、可愛く思えるのだ。


「ひきょう……。はぎとは どうなの?」

「わ、わたし?」

しんき(神器)で、ひとを あやつゆ(操る)。これは ひきょう じゃないの?」

「!」

「れいは……。ふぁれぐは のぞんだの? ひとの こころを じゆうに すゆなんて。」

「ふぁ、ふぁれぐちゃんは……。」

「ふぁれぐの いきかたを ひてい してゆの! いまの はぎとは。」


 何だか良く分からないけど、そう言われると、自分が悪い行いをしているのではないかと、ハギトは狼狽えた。元々、気の弱い性質なので、心理的揺さ振りに弱いのだ。


「さあ、はぎと。みとめゆの(認めるの)。じぶんの あく()を。そして、ごめんなさい すゆの。」

「えっ、えと……。」

「さあ、さあ、さあ!」


 畳み掛けられて、すでにハギトは半泣きだ。その様子を、物陰から見ている人物が居た。オクだ。


『ななな、なんて、もろいこ(脆い子) なの。ぜったいてき ゆういに たちながら、あんな いいがかりに どうよう するなんて。』


 オクは溜息を吐いた。


『そもそも、ぷりちゃんが、はぎとちゃんの じっかを こうげき したり できるわけ ないじゃない。』


 それにしても……。と、オクはプリ様を見詰めた。


ぶらふ(ブラフ)を かまし、こころの きんこう(均衡)を みだして から、せいしんこうげき(精神攻撃)を するなんて……。』


 いつの間に、そんな戦術を覚えたの?


 オクは、興味深げに、プリ様を観察した。


 攻撃出来ないのなら、相手の攻撃力を封じれば良い。そんな考え方は、それこそ、ファレグの遣り方ではないか。


『まさか……。ふぁれぐちゃんの りっかのいちよう(六花の一葉)が、ぷりちゃんの せいしんに えいきょうを?』


 むう? 考え込むオク。


『いや。いまは、それどころ では ないわ。』


 このままでは、異世界化をする事なしに、ハギトは負けてしまう。それでは、オクとしては困るのだ。そんな生温さでは、シシクの刀身は、鍛えられない。


 介入するか? と考えていたら、先程、格納庫から逃れて来た、オフィエル謹製のAIを搭載した、兵員輸送ヘリに出くわした。




 一方、プリ様達の元へ、駆け付けようとしている者達は、他にも居た。和臣と藤裏葉だ。


「プリちゃま〜。待ってて下さい。すぐに、私のオッパイに、埋もれさせて上げますからねー。」


 そんな場合ではないだろう。和臣は、そう思ったが、同時に、プリ様が、少し羨ましくもあった。


 兎にも角にも、役者は、全て、一箇所に集合しようとしていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ