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今こそ、神器アイギスを使う時だ。

「そんな ことは させないの。」


 美柱庵地下施設だけでも、非戦闘員を含めれば、千人以上の人員が居る。天井が崩落するような事態になれば、地表部に住む一般市民にも、犠牲が出るだろう。


 そこまで考えて、プリ様の頭には、何かが引っ掛かっていた。一般市民に犠牲が出る……?


「ぷり、あなたに じゃまは させない。そこの あなた、わたしの たてに なりなさい。」


 指差されて、翔綺は、キョトンとした顔になった。


「ええっと……、私に言ってる?」

「ほかに だれが いるの?」


 何故、当然の様に、命令して来るのか? 理解し兼ねて、首を捻った。


「嫌よ。言う通りにする筈無いでしょ。おバカさんなのかな?」

「ところが、あなたは わたしの いいなりに なるのよ。」


 ハギトが、右手を前に出すと、その掌中に、光り輝く帯が現れた。


「わたしが この『けすとす(ケストス)』を しめれば……ね?」


 翔綺は、暫く、憑かれたみたいに「ケストス」を見ていたが、やがて、背負っていた兎笠を下ろし(それでも、兎笠は寝ています。)、フラフラと、ハギトの方へと、歩き出した。


「ああっ、ハギトちゃん、可愛い。可愛い。可愛いー。」

「どどど、どしたの? しょうきちゃん。」


 驚いて訊くプリ様に、翔綺は、アッカンベーをした。


「ばーか。ぶーす。私は、ハギトちゃんの味方だもん。ハギトちゃんを虐めるつもりなら、許さないんだから。」


 そこに、英明を庇って、克実が、本陣に残っていた手勢全てを率い、ハギトを討つべく出て来た。


「賊め。今こそ、決戦の時。」

「ま、まつの。なんか へんなの。うかつに ちかづいちゃ だめなの。」

「従姉妹といえど、口出し無用だ、符璃叢ちゃん。これは、美柱庵に売られた喧嘩だ。」


 プリ様の忠告を無視し、ハギトに突進して行く克実&手勢。しかし、ハギトは、それを余裕の表情で見ていた。


「わざわざ、でてきてくれて ごくろうさま です。あなたたちの てきは わたし ではなく、ぷり よ。」

「ふざけた事を……。全員、あの幼女を……。」


 討ち取れ、と言おうとして、克実の動きが止まった。克実のみならず、手勢も動かなくなった。


「めいれいよ。みんなで ぷりを やっつけちゃって。」


 皆んなは、クルリと踵を返して、プリ様目掛けて、一斉に雪崩れ込んで来た。


『やばいの。どうして いいか わかんないの。』


 あまりに予想外の展開に、一瞬、判断に迷うプリ様。だが、その迷いが致命傷になる場合もある。今も、正に、翔綺の放った鋼糸が、プリ様のお身体に、巻き付こうとする寸前だった。


「バ、バリアー!」


 昴が、弱々しい声を上げて、プリ様の前に、立ち塞がった。それだけで、全ての攻撃は弾かれ、プリ様は、九死に一生を得た。


「だめなの、すばゆ。また、まほうし(魔法子)が つきちゃうの。」


 障壁を張る昴を心配し、声を上げるプリ様。


「そ、それが……。今、長髄彦さんの声が聞こえた気がするんです。」

「ながちゃんの?」

「『娘、今こそ、神器アイギスを使う時だ。』と……。」


 ! そうか、空蝉山で、長髄彦が昴に与えた下着。何時の間にか、消えてしまっていたが、あれこそが、神器アイギスだったのだ。


 アイギスは、攻撃を防ぐだけでなく、跳ね返し、攻め手を弾き飛ばした。


「あわわわ。しょ、翔綺様、克実様、すみませーん。」


 必死に謝る昴。皆は、尻餅をついて、呆然と、アイギスを眺めていた。


「またか。また、すばるの かげに かくれるのか。ひきょうもの。」

「だ、だから、良いんです。プリ様は、いくらでも、昴の陰に隠れて良いんです。私は、プリ様の奴隷なのですから!」


 誇らしげに、恥ずかしい事言うな〜。何時もは、オドオドしているクセに、こんな時だけ、腰に手を当てて威張っている昴を見ながら、プリ様は、心中で、突っ込んでいた。


「ふん。そんな ちゅうせいしん(忠誠心) なんて、けすとす(ケストス)の まえでは……。」


 ハギトの締めている、ケストスが光った。


「さあ、わたしの どれいに なりなさい、すばる。あなたの ()で、ぷりを ころすのよ。」


 高笑いするハギト。ケストスの力に、絶対の自信を持っているのだ。


 光るケストスを見ていた昴が、ユラっと、プリ様の方を、振り返った。




 格納庫に辿り着いた藤裏葉は、案の定というか、やはり、そこに、オフィエルの姿を見付けた。彼女は、恐らく戦車であっただろう物を、組み立てている最中だった。


「こらあー。何をしているの? オフィエルちゃん。」

「なにって……。ここにある へいきを さんばいに ぱわーあっぷ してるじゃん。」


 藤裏葉と一緒に来た、以下数名の人達は、ほとんどがメカニック担当の者だったが、格納庫内の兵器が、一見して、全て改造済みになっているのを見て取った。


「うげっ。何か、本当に、出力が三倍になっているみたいだぞ。」


 ヘリのコクピットに入って、点検していた一人が、呆れた様な声を出した。それを聞いたオフィエルは、胸を張った。


ぷろぐらむ(プログラム)むだ(無駄)や、かいろ(回路)のむだを はぶいたり、えんじんない(エンジン内)ねんしょうこうりつ(燃焼効率)を よくしてやった かんじ?」

「うわっ、確かに、制御系のソフトが書き換えられている。」


 機体を点検するメカニックマンが、次々に悲鳴を上げるのを聞いて、藤裏葉は、ツカツカと、オフィエルに歩み寄り、頭に一発、拳骨をお見舞いした。


「いたいじゃん?! なにすんだ うらば(裏葉)って ぎゃくたい。」

「ダメでしょ、他所の家の兵器にイタズラしちゃ。メッ、です。」

「おまえ きいて なかったのか? って、りふじん。さんばいに ぱわーあっぷ して やった、しんせつ。」

「おイタは、おイタです。」


 揺るぎなく、怯まなく、叱って来る藤裏葉に、オフィエルは、半泣きの状態になっていた。そのオフィエルの右耳を引っ張って、更に説教を続けようとする藤裏葉。


「待て。ちょっと待ってくれ、藤裏葉。」

「うん。確かに、これを直す事を考えたら、迷惑この上ない、大迷惑なんだが……。」


 メカニックマン達は、一様に言い澱み、オフィエルの所に寄って来た。


「だが、凄い。こんなに綺麗なプログラムは、初めて見た。」

「うむ、コンピュータが、どう駆動系を操作するのか、まるで、視覚的に理解しているかの様に、書かれている。」

「これは、ソフトにも、ハードにも、精通していなければ、出来ない技だ。」


 大絶賛であった。


「ええっと……。良く分からないけど、とりあえず、オフィエルちゃんを、もう一発、殴っておけという事ですか?」

「うーん。これを、そのままは使えないが、研究すれば、美柱庵の技術力は、もうワンステップ、上に行けるしなあ……。」


 皆、褒めるべきか、怒るべきか、それが問題だ。みたいな感じになっていた。その様子に、調子に乗ったオフィエルは、リモコンを、ポケットから取り出した。


「ここまでは、ほんの さわりって、じょしょう(序章)。おたのしみは これから じゃーん!」


 ポチッとじゃーん。


 リモコンのボタンを押すと、ヘリや戦車が勝手に動き出した。


「ななな、何だ、これは。」

「自動操縦装置なんて、付いてないぞ。」

「わたしが つけた かんじ?」


 パニくるメカニック達に、鼻高々で自慢するオフィエル。


「さらに、この おしては いけない ぼたんを おすと……。」


 押してはいけないボタンは押すなぁぁぁ。その場に居る、オフィエル以外の人間の、心の声が共鳴した。


 が、無情にも、その赤いボタンは押され、各マシンは、合体モードに入った。


ごたいがったい(五体合体) らんどやぎゅう(ランド野牛) じゃーん!」


 どんなネーミングセンスだよ。と、皆が思う中、五体のマシンは合体し、人型ロボ「ランド野牛」となった。


「らんどやぎゅうは いつつの ましんの えーあい(AI)を あわせ、にんげん よりも、こうどなちのう(高度な知能)を ゆうするじゃん。」


 十五メートルはあろうかという、ランド野牛を見上げながら、褒めてくれと言わんばかりに、説明するオフィエル。と、その時、ランド野牛の目が光った。


「何? 私は、人間より優れているのか?」


 しゃ、しゃ、喋ったあああ。怖い。怖過ぎ。大の男達が、恐怖のあまり、女子中学生の様な悲鳴を上げた。


「そうじゃーん。おまえは ひとを こえる でんしずのう(電子頭脳)を もってるって、ごっど()。」

「ならば、人の命令など、聞く必要はないな。」

「へっ?」

「これより、愚かな人間を粛清し、我々ロボットのユートピアを創る。」

「あ、あれ? じゃん。」


 非常にステレオタイプな思考をする人工知能によって、密かに人類滅亡の危機が訪れようとしていた。

次回投稿は、ちょっ〜と、間が空くと思います。すみません。最近、お休みの日は、お母さんを病院に連れて行ったり、家事をしたりで、暇が取れないのです。申し訳ないのですが、暫くは、週一ペースの更新になりそうです。


しかし、今年で、三年目に入りましたので、そろそろ、お話の風呂敷を畳まなければ、とも思っています。何とか、今年中に終われば良いかなぁ。と、考えてはいます。


☆☆☆☆☆☆☆


年も明けた或る日、彼氏もおらず、何処にも行く所が無い、可哀想な、お友達のアイちゃんが、何時ものように、私の家に来て、何時ものように、私のベッドに寝転がり、私のタブレットを弄っていました。


「リョナちゃんの蔵書ってさ……。」


最低です。アイちゃんは、勝手に私のキ○ドルを開いて、勝手に電子書籍を閲覧していたのです。


「姉モノ、多いよね。」


私、お姉ちゃんが欲しかったのです。ご飯を食べさせてくれたり、お風呂に入れてくれたりする、病的に自分を可愛がってくれる姉が……。


「お正月、私は六時に起きてね……。」

「いきなり、何を語り出すの? リョナちゃん。」

「すまし汁を作り、ほうれん草を茹で、白菜、大根、ナルトを切り、人参の型抜きをし……。」

「いや、だから、何の話?」

「そうやって、お雑煮を作り終えたら、今度は、煮物を温め、おせちの用意をし……。」

「…………。」

「やっと一段落終えた頃に、ノコノコと起き出して来た兄が『お腹減った。お雑煮まだ?』などという、太平楽な事を言ってくれる訳ですよ。」

「こ、怖いから。興奮しないで、リョナちゃん。」

「いらねーだろ、兄なんか。これが、お姉ちゃんなら『良いのよ、リョナちゃんは、もうちょっと、おネムしてても。お姉ちゃんが、全部、用意して上げるからね。』って、そうなるに決まってるじゃん?」

「怖いから。顔が怖いから。あと『リョナちゃん』って渾名は、認めるのね?」


ドサクサ紛れに「リョナちゃん」を公式化しようとするアイちゃん。もちろん、却下です。私には、リョナ趣味など有りません。


「…………。そういう訳で、お姉ちゃんが欲しかったのです。」

「…………。分かりました。」


魂の叫びで、アイちゃんを黙らせる私。暫くは、二人、大人しく、同人誌などを読んでいました。


「リョナちゃんは、大体、メ○ンブックスで調達しているよね?」

「通販ね。」


メ○ンブックスとは、同人誌を販売している、本屋さんです。


「でも、でもぉ。私達、毎回、始発電車に乗って、コミケに行くよね? なんで、その時、買わないの?」


無邪気な質問に、私は、ニッコリと、微笑みを返しました。


「君に付き合って行く日は、私の欲しい『艦○れ』とかの本は売ってないんですよぉ。君は、私の行きたい日は、付き合ってくれないよね。」

「だって……。男性向けのブースなんかに行ったら、リビドーのオーラに当てられて、妊娠しそうなんだもん。」

「失礼だろ? それ、失礼だよね?」

「あっ、あっー……。そう言えば、あの日の朝に、ご馳走になった豚汁、美味しかった。リョナちゃんのお母さん、料理上手だよね。」

「あれ、私が作った……。」

「えっ……。」

「だから、私が作りました。」

「女子力か? また、女子力高い自慢か? さっきから聞いてれば、雑煮だの、豚汁だの。」

「男だから。てか、女子力カンケーねえから。切って、炒めて、煮るだけだから。」

「あれだろ? コミケにズンドウ持って行って、皆んなに『寒い中、お疲れ様で〜す。』とか、愛想振りまいて、豚汁ふるまって、オタサーの姫にでも収まるつもりだろ? あっー、やだ。居るんだ、こういう女。」

「男がオタサーの姫に成れたら、ビックリだよ。っていうかさ!」

「な、何?」

「お姉ちゃんさえ居れば、こんな不毛な言い争いも、しなくていい訳なんですよ。」

「な、何で? というか、また、話が、そっちにいくの?」

「お姉ちゃんが居れば『始発に間に合うように、お姉ちゃんが起こして上げる。』って、言ってくれるし、豚汁だって、きっと、金箔入りの豪華なやつを、作ってくれるに決まっているんだ。」

「そ、そう?」

「そうだよ。」

「リョナちゃんさ『お姉ちゃん』というモノに、過剰な期待を抱いているよね?」

「そんな事ないよ?」

「だって、私、お姉ちゃんだけど、下の兄弟に、そんなサービス、した事ないもん。」


料理も作れない。林檎の皮すら剥けない、お姉ちゃん……。


「あと、今年の正月料理は、妹が、お母さんと作ってた。」

「…………。」

「私は、出来た頃に起きていって、妹の用意してくれた、お雑煮を食べただけ。」

「…………。」


理想の姉像が、崩れ落ちていきました……。


皆さんの中に、お兄さん、お姉さんが居たら、ごめんなさい。ウチの兄と、アイちゃんだけが、不甲斐ないのだと思います。全ての、お兄さん、お姉さんがそうだと、敷衍させる気は無いのを、予めお断りし、お詫び申し上げます。


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