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幼女神聖同盟

「わたしは『ようじょしんせいどうめい』をたばねる『ななだいてんし』のひとり、なは『あらとろん』。」


 四人が見上げるのを見計らって、一気に名乗りを上げた。


「誰も聞いてないわよ?」

「おまえたちが きかないのが わるいんでしゅ。」


 紅葉の突っ込みに、マジ切れした。


「あのー『幼女神聖同盟』って、貴女あと三年もすれば『少女』とか『女児』になってしまうと思うのですが、そしたら引退ですか?」

「おろかな こむすめめ! これから せつめいするから よくきくのでしゅ。」

「ひぃぃ、ごめんなさい。怒らないで。」


 勇気を振り絞って質問したのに、怒鳴り付けられたので、昴はすっかり萎縮して、プリ様の影に隠れてしまった。


「すばゆを いぢめちゃ だめなの。」

「おーっほほほ。ぐみんどもは たたいて しつけるのでしゅ。」


 何か、こいつ凄えやな奴だな、と和臣は思った。紅葉は他人を見下ろして話す奴が、元々だいっ嫌いなので、ぶちのめしたくてウズウズしていた。


「で、アラトロンちゃん。自分は歳を取らないとかいうつもりじゃないでしょうね?」

「そのとおりでしゅ。われわれ ようじょしんせいどうめいは そのために けっせいされたのでしゅ。」


 その時、紅葉との会話に気を取られていたアラトロンの眼前に、ジャンプして来たプリ様が現れた。彼女は慌てて、両手でプリ様を押し戻した。プリ様は空中で三回転し、今度は綺麗に着地した。


「はあ、はあ。あーっ、びっくりしたのでしゅ。うわっ、こんどはなんでしゅか。」


 アラトロン目掛けて、紅葉が石を投げていた。


「あぶないのでしゅ! いしを なげるなでしゅ。」

「おーっほほほ。私達は戦っているのではなくて?」

「これじゃ、はなしが できないのでしゅ。」


 なおも石を投げ続けようとする紅葉を、和臣が制した。


「待て、ちょっと話を聞いてやろう。」

「まったく、こうせんてきな やつらでしゅ。」


 アラトロンは手櫛で髪を整え、呼吸を落ち着かせた。


「アラトロンとか言っているけど、どう見ても日本人のガキよね。本名は新井トン子とか、そんな名前じゃないの?」

「そんな なまえの わけないでしゅ!」

「あっ、本名あるんだ?」


 紅葉の挑発に乗って、名乗りそうになったが、グッと堪えた。


「なまえなど こうまいな りそうのために すてたでしゅ。」

「だから高邁な理想って何だよ。聞いてやってんだから、さっさと答えろ。」


 話が一向に進まないので、和臣は直球で聞いた。


「われわれは いせかいの ふぃーるどを しょうかんするのでしゅ。とうきょうぜんぶを いせかいと するのでしゅ。」


 中々に大きく出たな、と四人は思った。


「そこでは ようじょは せいちょう しないでしゅ。ようじょの ようじょによる ようじょのための しはいが じつげんするのでしゅ。」


 此処が保育園なら、幼児の戯言と聞き流せるだろう。しかし、現実に銀座線の軌道敷設内は前世の異世界に(おそらくアラトロンの力で)なっているのだ。


「えーと、あのぅ、その世界では成人女性はどうなるんですか?」

「ようじょに もどる。」

「男はどうなるんだ?」

「おとこ……?」


 アラトロンの眉がつり上がった。


「おとこ! あんな かとうな どうぶつは みなごろしでしゅ!」


 女で良かった。プリ様、昴、紅葉は胸を撫で下ろした。


「もっとも、おんなでも ようじょしんせいどうめい こうせいいん いがいは、かちく あつかいでしゅ。」


 こいつ、やっぱり、ぶっ潰す。プリ様と紅葉は決意した。昴は怯えていた。


「しかし、この ふぃーるどに えいきょう されない、おまえたち ごにんは きけんようそでしゅ。いかしては おけないでしゅ。」


 五人……?


「さすがは幼女神聖同盟ね。このニール君を数に入れるとは、御見逸れしたわ。」

「いぬころ なんか もののかず ではない でしゅ!」

「何お。ニール君はね、前世では立派な女性だったのよ。」

「ぜんせ とか。でんぱちゃん でしゅか、おまえは。」


 紅葉とアラトロンの会話を聞いていて「おや?」と他の三人は思った。アラトロンは前世など信じていないみたいだ。それでは、彼女の召喚したこの世界は、偶然我々の前世の世界だったのか? そしてそこに偶然この四人(ニール君含むで五人?)が集ったのか? えらい偶然のオンパレードだな。何か腑に落ちない話だった。


「ごにんめは そとから はいって きたんでしゅ。その いぬ じゃないでしゅ。」

「五人目……って、誰よ?」

「もうすぐ しんでいく おまえたちには かんけいない でしゅ。」


 アラトロンがパチンと指を鳴らすと、プリ様達の立っている地面が盛り上がり始めた。


「ははは。もうすぐ たいむおーばー でしゅ。あと さんじゅっぷんも ねばれば、この ぎんざせんないは いせかい として こていするのでしゅ!」


 とんでもない事、サラッと言った。

 プリ様がもう一度ジャンプしようとすると、それを阻むように土の中から巨大な狼が現れた。


はてぃ(ハティ)でしゅ。そいつに おまえたちが くいころされるのを ここで みていてやるでしゅ。」


 全長五メートル、高さ三メートルはある。狼としてはデタラメな大きさだ。


「おまえたちも さっきの ねずみども みたいに、ここまで のぼってこられれば、じきじきに しまつして やってもいいでしゅよ。」


 それを聞いて、プリ様の目の色が変わった。


「おまえが やったのでちゅか!?」

「あら、おともだち だったのでしゅか? ざんねんでしゅね。」


 激情に駆られてプリ様がジャンプすると、アラトロンは今度は大鎌を持って待ち構えていた。

 あれは、やばい。

 本能的に察知したプリ様は、思っ切り身体を反らし、彼女から遠去かると、下に降りた。そこでは、紅葉がハティに追い回されていた。


「何で、こいつ、私ばかりを狙っているのー。」

「ハティって、月を食べようとしてる怪物だろ。月神アルテミスの加護を受けているお前は、美味しそうな餌に見えるんじゃないか?」


 ふざけんなー、と言いながら逃げ廻っている紅葉をよそに、和臣はプリ様に向き直った。


「プリ、もう時間がない。此処は俺達に任せて、お前はアラトロンを倒せ。」


 プリ様は神妙に頷いた。しかし、もうジャンプは危ない。手詰まりだった。


「あらぁ、何かお困りかしら?」


 暗闇から、いきなり女の声がした。見ると、中学生と思われる女の子が此方に近付いていた。制服がファショナブルなブレザーだ。何処かのお嬢様学校に通っているらしい。


「あそこに いきたいの。あいつが じゃまするの。」

「あらあらー。あの子、悪い子なのね。」

「わるいの。せかいせいふくを たくらんでいるの。」


 いやプリ様、さっき東京って言ってましたよ。

 昴は突っ込んだ方がいいのかしらと悩んだが、女の子が自分の方をジッと見ているのに気付いた。


「な、何ですか?」

「いや、貴女……。」


 彼女は言いにくそうに、口籠った。


「あの、失礼なんだけど、その服装……。痴女か、何かなのかしら?」


 ズバッと言われた。やっぱり客観的に見るとそうなんだ。

 昴は、恥ずかしくて、その場にしゃがみ込んで身体を隠した。


「アイラのバカ。バカ、バカ、バカ!」


 真っ赤な顔で、逃げ廻っている紅葉を罵倒した。紅葉は息を切らしながら「あんた、覚えてなさいよ。」と凄んだ。


「ごめんなさい。察するところ、あの意地悪そうな人に無理矢理着せられたのかしら?」

「そうなんです。そうなんです。痴女じゃないんです。被害者なんですぅ。」

「そうなの……。ごめんなさいね。さあ、立って。貴女の身体、大変お綺麗よ。」


 なんて、良い人……。昴は彼女に手を引かれて立ち上がった。


「さてと、あそこまで行きたいのね。」

「いけゆの?」

「行けるわよ。だって、お姉さんは空がとべるもの。」


 それを聞いて、プリ様は目を輝かせた。昴は「あ、なんか変な人かも。」と評価を一変させた。


「お疑い?」


 女の子は昴に微笑みかけた。


「じゃあ、私の手を握って。」


 プリ様は勇んで右手を取り、昴はオズオズと左手を握った。


「それじゃあ、行くわよ。」


 次の瞬間、三人の身体がフワリと浮き上がった。





ついに姿を現した幼女神聖同盟。

プリ様は銀座線の軌道敷設内を救えるのか。

唐突に登場した女子中学生は敵か味方か?

ていうか、幼女神聖同盟の支配が始まったら、男は皆殺しだ。

頑張れ、プリ様。

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