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狂乱のハギト

「むつらぼしー!! これ、だれ? よにんめの まじょっこ ぷりぷりきゅーてぃ なの?」

「そうよ。前にも言ったけど、一ヶ月後に公開予定の、劇場版魔女っ子プリプリキューティに出て来る、プリプリキラルンよ。」


 何、この状況。


 放課後、神王院家を訪ねたリリス、和臣、紅葉は、六連星のスマホに映る写真に、狂喜乱舞するプリ様を見た。


「でも、これ、映画公開までは、秘密なんじゃないですか? お姉様、どうやって、この写真を入手したのです?」

「昴ちゃん。私くらい、年季の入ったプリプリキューティファンともなると、色々なコネクションが有るのよ。」


 自慢出来るのか、それ? 三人は、疑問に思いながらも、プリ様達の座る、リビングのテーブルに同席した。


「アンタ、相変わらず、プリキューオタクなのね……。」

「何、その言い方。このプリプリキラルンの画像は、ガキ共には評判良いのよ。この間だって、オフィエルに見せてやったら、喜んで……。」


 紅葉に言い返していた六連星は、そこで、ハッと、口を押さえた。


「オフィエル……?! 六連星、貴女、オフィエルと会っているの?」


 訊きながら、リリスは思い返していた。前に、クラウドフォートレスを動かすのに、六連星が、藤裏葉の結界の力を必要だと言って来た時の事を。あの時、微かに違和感を感じていたのだ。


 大質量の要塞を浮かすのに、地表と要塞底面に幾重にも結界を張り、その反発力で浮力を得るのだと言っていた。だが、そんなアイディアを、一体何処から得たのだろうと……。


「答えなさい。クラウドフォートレスの建造に、オフィエルを携わらせているの?」

「な、何よ。アマリちゃんには関係無いでしょ。」


 六連星は、フイと横を向き、プリ様を見た。


「それよりも、ガキ。アンタの書いたお札、難し過ぎて、光極天家でも、最高峰の札師にしか書けないのよ。アンタも協力しなさい。」


 クソッ、コイツ、韜晦する気か……。ギラリと光るリリスの瞳。


「和臣ちゃん、紅葉ちゃん、六連星を取り押さえなさい。オフィエルの事を、吐かせるのよ。」


 命令すんなよ……。と思いながらも、二人は、一斉に、六連星に飛びかかった。


「な、何? 狼藉は止めなさい。私を誰だと思っているの?」

「紅葉ちゃん、オッパイ揉んでも良いから、六連星を大人しくさせるのよ。」


 えっ、良いの? 紅葉の顔が、喜色に染まった。恐怖の尋問の始まりであった。




 学校から帰って、自室に入った翔綺は、床にペタンと座り込んでいる兎笠を見付けた。


「何してるの? あの子。」


 翔綺は、すでに帰っていた同室の克実に、小声で耳打ちした。


「さっきから、ずっ〜と、やっている。多分、面白いんだと思う。」


 克実も、困惑した表情で応じた。


 兎笠は、三分計の砂時計を、ひっくり返した。そして、砂の落ちる様を、無心に見ている。砂が落ち切ると、一瞬、パッと顔を輝かせ、再び、ひっくり返し……。


「ずっ〜と、やっているの?」

「俺が帰ってから三十分間、ずっ〜と、やっている。恐らく、帰る前から……。」


 まあ、楽しいなら良いか……。二人は、妹の娯楽を邪魔せぬよう、静かに机に向かった。


 その兄妹達がいる、美柱庵地下屋敷に、コッソリ忍び込んだ者達がいた。ハギトとフルである。


『ふーん。すこし ぞうちく(増築) したみたいね。』


 フルは、久々に来た美柱庵の屋敷を見て、そんな事を思っていた。


「じゃあ、いきましょうか? はぎとちゃん。」


 そう言って、振り返ると、ハギトは忽然と消えていた。




『おもしろ〜い。』


 兎笠の眺めている砂時計を、ハギトも、また、熱心に見詰めていた。


 最後の一粒が落ちるのを見届けた兎笠が、ひっくり返そうとして手を伸ばした時、隣に座るハギトを視認した。

 同好の士は、目を見れば分かるものである。二人は、ニッコリ、笑い合った。


 兎笠は、ハギトに、砂時計を逆にするよう、促した。


「いいの?」


 兎笠は、うんうんと、頷いた。ではお言葉に甘えて、と、砂時計を逆さにした。再び流れ出すガラスの中の砂。


「おもしろいね〜。」


 ハギトの呟きを、コクコクと首肯する兎笠。砂の動きは、余程、二人の琴線に触れるらしく、それ以後は、一言も発せず、食い入る様に見ていた。


 一方、翔綺と克実は、背を向けていて、ハギトの存在には気付いてなかった。


「翔綺、克実。兎笠を見なかった?」


 そこに、朝顔が入って来た。姿の見えない兎笠を、捜しに来たのだ。


「兎笠なら、其処に……。」


 振り返った姉と兄は、兎笠と並んで、砂時計を凝視する幼女を見付けた。


『誰?』


 姉弟は首を捻った。


「兎笠のお友達?」


 言いながら、腰を浮かせた翔綺の目の前を、母の朝顔が、駆け抜け、アッと言う間に、兎笠の身柄を確保した。


「認識が甘いわ、翔綺。この美柱庵地下施設には、御三家関係者以外は、何人たりとも、一般人は立ち入れない。それでも、此処に居るという事は、この子は敵よ。」

「そんな……。こんな小さな子が……。」

「見掛けの幼さに騙されないで!」


 その朝顔の剣幕に、泡を食って逃げ出すハギト。朝顔は、着ていた着物の袂からスマホを出し、地下施設の中央コントロールセンターに連絡した。


 地下施設全館に鳴り響くサイレン。訓練の行き届いている職員達は、すぐに持ち場へと走った。


 英明も、非常呼集の音を聞き、自室から出た。父、実明の不在時、次期当主である彼は、本陣となる当主の間に、赴かなければならない。


「坊ちゃん、お供します。」


 美柱庵十本槍の一人、風間至誠が、ロイヤルガードを引き連れてやって来た。


「坊ちゃんは止めろ。」

「ははっ。では、若。」


 戦国時代じゃないんだぞ。と思ったが、元々、時代劇愛好家の彼としては、悪い気はしなかった。


「賊は何奴?」

「兎笠様くらいの幼女という事で、恐らく、例の『幼女神聖同盟』かと……。」

「ふん。新宿御苑で暴れた痴れ者の仲間か。迷惑な馬鹿……。」


 英明の言葉は「なにそれ!」というハギトの叫びで、遮られた。


「何処だ?」


 周囲を見回すロイヤルガード達。すると、天井から、木の葉の様に、幼女が落ちて着た。


「ふぁれぐちゃんは、あなたを たすける ために、しんだんでしょ?」

「ファレグ? あんな奴になど、助けられた覚えは無い。」

「なにそれ? なにそれー!!」


 突然、凄まじい超音波が発せられ、ハギトの至近距離にいた、ロイヤルガード三人が吹き飛ばされた。


「若、逃げて下さい。此処は、私供が引き受けます。」

「しっ、しかし……。」

「天莉凜翠様を呼び戻して下さい。こいつ、強い……。」


 言っている間にも、ハギトに飛びかかった二人が、超音波で、身体を壁に叩き付けられていた。


「早く逃げて!」

「す、すまん。風間……。」


 走り去る英明を見届けた風間至誠が振り返ると、残っているのは、自分一人であった。


『なんて奴だ。ロイヤルガード九人を瞬殺か……。』


 彼は、背負っていた皮袋から、三節棍を取り出した。


『敵わぬまでも、せめて時間稼ぎを……。』


 決死の覚悟で構える彼を、小さなハギトは、下から睨め付けた。


「どいて。あの ひであきの やつを ころさなきゃ いけないの。」

「若には指一本触れさせん。」

「ど・い・てー!!」


 放たれる必殺の超音波。しかし、風間至誠は、防御結界を張りつつ、三節棍を、ハギトへと飛ばした。


「うあああああ!」


 目前に迫った三節棍に、驚いたハギトが、悲鳴を上げた。それだけで、鋼鉄製の三節棍が、粉々にひび割れた。


「ば、化け物か?!」

「どいてって、いってるのー。」


 超音波の威力に、防御結界ごと弾き飛ばされる風間至誠。それでも、起き上がり、次の手を考えていると……。


 頭の上で、ミシッという、嫌な音がした。


『まさか……。』


 その、まさかであった。特殊合金の骨組みで作った天井が、崩落して来たのだ。風間至誠含む、ロイヤルガードは、全員が下敷きになり、戦闘不能となった。


「ひであきぃぃぃ。どこぉ……。」


 瓦礫の山を乗り越え、ハギトは幽鬼の如く、通路を進んだ。


「やはり、只の幼女では、なかったようね。」


 そのハギトの行く先に、朝顔が立ち塞がった。


「美柱庵の本拠地。これ以上、荒れさせはしないわ。」


 ハギトと朝顔の視線が交差し、火花を散らした。





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