盟主オク、恐怖の本気!
ああっ、悔しがりながらも、怯えるリリスちゃんの表情、そそるわぁ。
湯船の一角に、リリスを追い詰めたオクは、興奮で鼻血が出そうになっていた。
「なんだかんだで、いままで、さいご まで いったことが ないから、ゆだん してたんでしょ、りりすちゃん。」
オクは、厳密に言えば、転生ではない。しかし、身体がちっこいと、転生時に十八歳未満お断りの記憶が消える、高機能神様ブロック(第三十八部分参照)の適用を受けてしまうのだ。
だから、オクは、今まで、リリスとエッチな行いをしたいと思いながら、遣り方がイマイチ分からず、手をこまねいていた。
「でも、そんなもの……。」
オクの身体の周囲に、オーラが棚引いた。そして、彼女は隠し持っていた、大きなクリスタルのヘッドが付いたペンダントを取り出した。
「な、何? それは。」
「これは、この ほしで わたしが さいしょに てに いれた にくたい……。」
プリ様から聞いていた。オクは、二千年前、ネアンデルタール人の肉体に、魂を宿らせていたと……。
「でも、その身体は、饒速日命との戦いで傷付き、使い物にならなくなったんじゃ……。」
「なおしたのよ。くりすたるの かたちに して、にせんねん かけて。」
オクの身体が輝き、昴と同じ顔の肉体は、クリスタルとなった。その代わりに、湯煙りの中から現れた姿は……。
この世の物とは思えないくらい、美しい容姿の人物が立っていた。昴の容貌でも、現生人類としては、世界一と言っていい美しさだが、目の前に居るオクは、お話の中のエルフを思わせる、人間離れした麗しさを持っていた。
オクは暫く、使ってなかった機械の具合を確かめるように、腕を動かしたり、足踏みをしたりしていた。
「ふっふっふっ。突き出たオッパイ。括れた腰。美しい。ああ、私は美しい。」
自分で言うか……。リリスはドン引きしていた。
しかし、確かに、見惚れてしまう美しさだ。恐らく十八歳くらいの肉体だろうが、透き通る様な真っ白な肌に、燃える炎を思わせる真っ赤な髪の毛、そしてトルコ石みたいな瞳、身体の、どのパーツをとっても、心に焼き付けられる、強烈な印象があった。
「切り札を使ってしまったけど、良いの。リリスちゃんとエッチな事が出来るなら。」
「は、はい? 切り札? その為に、切り札を切ったというの?」
「この身体は、強大な力が使える代償として、神々に所在をつかまれやすいの。まあ、どうせもう、此処に居るのはバレちゃったし、リリスちゃんを頂けるなら良いわ。」
ほ、本気だ。全てを賭けて来ている……。
リリスの背筋を悪寒が走るとともに、コイツ馬鹿だろう、という考えも、頭を巡っていた。
「くっくっくっ。リリスちゃん、人格が変わる程の、快楽を味あわせてあげる。今日から、貴女は、私の虜。私無しでは、生きられない身体になるのよ。」
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。これはヤバ過ぎる。リリスは、やにわに翼を出し、飛んで逃げようとした。が……。
オクに、ギロッと睨まれただけで、翼は引っ込み、身体は硬直して、動けなくなった。オクが神威を発動させたのだが、今までのとは、桁違いだ。
「これでも、本来の力の、千分の一も出してないのよ。」
オクは、微笑みを絶やさずに、話し掛けて来るが、圧倒的な力を持つ捕食者を前にした草食動物さながらに、リリスは竦んで、身動ぐことすら、不可能なのだ。恐怖に目を見開くリリスに、オクが、ジリジリと、近寄って来た。
「いっ……や。」
「ふふふ。柔らか〜い。」
「はひいぃぃぃ。」
ただ、腕を、掴まれただけなのに、それだけで、発狂する程の快感が全身を走り、悲鳴にも似た嬌声が漏れた。
「あっ、ゆ、許して……。」
「何言ってるの。この上もない、気持ち良さそうな声を、上げておいて。」
オクの言う通りだった。心は、どんなに否定しても、身体が吸い寄せられるみたいに、与えられる快楽を求めるのだ。
このまま、最後までいってしまったら、本当にオクの性奴隷にされてしまうだろう。リリスの頭は、恐怖で満たされた。
そんなリリスの様子を楽しみ、嘲り笑いながら、オクは、指先に軽く力を入れた。それだけで、リリスの全身に、悦楽の電流が流れた。
「あうっ、ううう。」
「もう、終わりよ。リリスちゃんは、私の欲望を満たす、甘美なる器となるのよ。」
「くっ、ううう。」
何とか逃れようと、リリスが身体を捻った、その時……。
胸の谷間に隠れていた、照彦から贈られたペンダントが露出した。
『そういえば、何となく外さずに、風呂場まで着けて来ていたわ……。』
リリスが、そんな事を思っていると、いきなり、オクが苦しみ始めた。
「うわあああ。何? 何、これは。この凄まじい力の放出。」
オクは、二、三歩退いた。手を伸ばすが、リリスに近寄れないみたいだ。
「こ、これ?」
リリスは、手に取って、何気無くオクに近付けた。
「ど、どこで、そんな物を手に入れたの? リリスちゃん……。」
オクは、恨めしげに、ペンダントを睨め付けた。
「近寄れない。触れない。卑怯よ、リリスちゃん。そんな物を装備して来るなんて。」
貴女に「卑怯」とか、言われたくないなー。と、リリスは冷めた目で、オクを見ていた。
「負ーけーるもんかー!」
オクは、なおも近寄ろうと、リリスへと歩を進めた。しかし、直前で、バリアにでも当たったかの如く弾かれ、派手に火花が散って、広い浴槽の反対側に飛ばされた。
「くっそー。せっかく、切り札まで晒したのに……。」
湯船に尻餅をついたまま、足をバタバタさせて、悔しがるオク。しかし、やがて、諦めた表情で、立ち上がった。
オクの身体が、再び輝いた。そして、また元の昴と同じ顔の、幼女に戻っていった。
「しかた ないわ。この すがたで、りりすちゃんに せなかを ながして もらう だけで、がまん する。」
「勝手な事言わないで。私は、これで、帰ります。」
リリスは、素っ気なく言い、湯船から上がった。
「ままま、まって。いっしょに、ひとばん、とまって くれる やくそく でしょ。」
「約束? 約束なんて、破る時の、相手の絶望した顔を、楽しむ為にするんでしょ?」
「なに いってるの? どんな りんりかん しているの? りりすちゃん。」
貴女に、倫理観云々も、言われたくないわ。と、リリスは思っていた。
ともあれ、オクを無視して、部屋へ入ろうとした。すると……。
「まって、まって。ごめんなさい。あやまるから。ひたい じめんに こすりつける からぁ。」
電光の様に、オクはリリスの前に走り込み、実際に土下座した。
「いかないで、りりすちゃん。まが さした だけなの。きょう、りりすちゃんに そいねして もらうの、ほんとうに たのしみに していたの。だから、おねがい。ねっ? ねっ?」
今度は、泣き落としか。多才な人だなあ。と、感心するリリス。
「おねがいよぉ。こんな ひろい へやで、ひとりね なんて わびしくて さびしくて みじめだわ。」
終いには、リリスの足元にしがみ付いて、掻き口説く始末。
「分かりました。じゃあ、一緒に眠るだけね。朝一で帰るから。」
「ほ、ほんとに? ちょっと、くらいなら、さわってもいい?」
「帰ります。」
「うそうそ。うそ です からあ。」
その夜、熟睡するリリスの横で、オクは、手を出そうにも出せず、悶々としながら、一晩中、寝返りをうっていた。
その頃のプリ様。昴と藤裏葉と一緒に、前世話に、絶賛花を咲かせ中。