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プリ様を甘やかす為に存在している女

 二千年をかけて生み出した子、昴は、身体に先天的な欠陥を有していた。彼女の心臓は、十歳までの時を刻むのが、やっという状態だった。


 事此処に至って、私は計画の変更を迫られた。私は「シシク」を、昴に産んでもらうつもりだったのだ。昴に宿すエロイーズの魂の核は、私の魂を分霊して作ったモノであり、もう一人の私と言っても、差し支えなかった。


 つまり「シシク」の肉体を、魔王が受肉するという条件は満たされるのだ。それなのに……。


 昴の肉体は、出産適齢期まで、耐えられそうもない。


 昴を失うのは、二重に、計画の破綻を意味していた。彼女には「シシク」の鞘としての役目もあるのだ。


 失敗だった。何もかも失敗だった。昴誕生とともに、魔王としての活動に戻るべく、雛菊の身体を、産褥で死亡する様に設定していたのも裏目に出た。


 昴の産声を聞きながら、私は必死で頭を回転させていた。




 ☆☆☆☆☆☆☆




「プリ様〜! お可哀想に。酷い事を言われましたね。おー、よしよし。大丈夫です。昴がついてますよ。」


 ハギトの言葉にショックを受けるプリ様を、昴は頬ずりし倒し、愛撫しまくりだった。そして、それを眺めるオフィエルとハギトは、ドン引きしていた。


「お、おまえ、てぃーぴぃーおー(TPO)を かんがえろ じゃん。おにんぎょう。」

「そんなの関係ないですぅ。プリ様が、お可哀想なんですぅ。昴は抱き締めてあげるんですぅ。」


 オフィエルに言い返しつつも、頬ずりは止めない。精神的動揺で茫然自失状態のプリ様は、されるがままだ。


「あまやかし すぎよ。」

「良いんですぅ。昴は、プリ様を甘やかす為に、存在しているんですぅ。」


 ハギトの非難にも、全く悪びれずに言い返す始末である。


「それに、ハギトちゃんは間違っています。」

「な、なにが……。」

「玲ちゃんは……、ファレグちゃんは、自らプリ様に『六花の一葉』を託したんです。恐らく、死を覚悟して……。」

「うそよ。しにたがる にんげん なんて いないもん。」


 ハギトは唇をワナワナと震わせて言い返し、その剣幕に、昴は、ちょっと、怯えた。しかし、プリ様の為に、怖々とだが、反論した。


「ファ、ファレグちゃんは、きっと、誰も殺したくなかったんです。だから、人の居ない新宿御苑を異世界化した。だけど、美柱庵の英明さんが、紛れ込んでいたから……。」


 なるほど、英明とかいう奴を助ける為に、ファレグは死ぬと分かっていて「六花の一葉」を放棄したのか……。

 昴の説明に、オフィエルは納得した。


 が、ハギトは、全く、納得していなかった。それどころか、新たな標的を見付けてしまったらしい。


「びびび、びちゅうあん? そいつの せいで、ふぁれぐちゃんは しんだの?」

「はぎと、おちつけって、へいじょうしん。どう きいても じこ(事故) じゃん。だれも うらめない じゃん。」

「やだ、やだ。そんなの おかしいもん。ふぁれぐちゃんは かえって くるって いったもん。ふぁれぐちゃんは うそ つかないもん。」


 ハギトは、頭を掻き毟り、小さな身体を激しく揺らした。


「ぷりぃ! すばるの かげに かくれて いないで、なんとか いいなさいよ!」


 言われたプリ様は、昴の手を振りほどき、無表情でハギトに近付いた。


「な、なに? おこったの?」

「…………。」

「なによ。わたしの ほうが うんと おこって いるんだから。」

「…………。」


 プリ様は、無言でハギトの肩に手を置いた。そして、絞り出す様に、一言……。


「ごめんなの、はぎと。」

「なに? なにそれ?」

「…………。」

「みとめたって こと? じぶんが ふぁれぐちゃんを ころしたって。」

「…………、ごめんなの。」

「ふ、ふざけないで。あやまられても ふぁれぐちゃんは……。」


 その時、オフィエルが、ハギトをプリ様から引き剥がした。


「もう、じゅうぶん って かんじ。かえるじゃん、はぎと。」

「はなして、おふぃえるちゃん。まだ、まだ、いってやりたい ことが……。」

「これいじょう ぷりを せめるのは、わたしが ゆるさない!」


 怒気を含んだオフィエルの声に、ハギトは、ビクッとし、目に涙を、いっぱいに、浮かせた。


「わ、わたしが わるいの?」

「そうは いってない じゃん。」

「なによぉ。みんなして ぷりの みかたして……。」


 ハギトは、泣きながら、出て行ってしまった。


「わるかった じゃん、ぷり。きょうは わたしも かえるって かんじ。」

「きに しなくて いいの。はぎとを たのむの。」


 オフィエルは、ちょっと頷き、ハギトを追って行った。


「プリ様ぁ……。」


 寂しげなプリ様を、後ろから抱き締める昴。


「すばゆ、だいじょぶ なの……。」


 プリ様は、胸元に有る昴の腕に、ソッと、触った。




 ☆☆☆☆☆☆☆




 そういえば、光極天の一族に、着床した者が居た。


 不意に、私は思い出した。(雛菊)の兄の嫁だ。まだ魂の宿る前の受精卵に、私の魂を……。


 いや、それはダメだ。そんな事をすれば、私の魔王としての活動が、著しく制限される。


 それに、神の魂を、受容出来る(肉体)でなければ、使える能力も、自ずと限られる……。


 苦渋の決断だった。私は、精霊を殺された時から心を閉ざし、眠ったままになっていた和魂(にぎたま)を、将来、胡蝶蘭となる受精卵に、宿らせたのだ。


 三位一体が基本である「神」。だけど、これで、私という神は、きれいに三つ、バラバラになってしまった。




 ☆☆☆☆☆☆☆




 リリスが目を覚ますと、もう、部屋の中には、夕陽が射し込んでいた。オクに膝枕をしてやっているうちに、自分も眠ってしまったらしい。彼女は、まだ、寝ていた。


『今までのは、夢?』


 光極天雛菊らしき人物の視点で、夢を見ていた。


『寝ているオクの思考が、私の中に流れ込んで来たのね……。』


 ともあれ、これで、胡蝶蘭の事情は分かった。それにしても……。


『一つ分、質問徳しちゃった。』


 小躍りしたい気分だった。計らずしも、オクから、代償無しに、情報を引き出せたのだ。浮かれていたら、暫くして、オクも目を覚ました。


「んんっ……。おはよ、りりすちゃん。なんだか、ごきげんね。」

「あ、あらあら。そんな事ないわ。」

「ねちゃって ごめんね。にぎたま……こちょうらん(胡蝶蘭)ちゃんの はなし だったわね。」

「あっ、それは、もう良いの。」


 リリスに、そう言われて、オクは訝しげな顔をした。


「どうして、いきなり、きょうみが なくなったの?」

「えっ、いや……。チャンスは限られている訳だし、厳選した質問をしようと思って。」

「べつに かぎられて ないわ。わたしと なんかいでも きす すればいいのよ。」


 胡散臭げに、目を覗き込んで来るオクから、リリスは視線を逸らした。


「そ、それよりも、ファレグ。彼女は、実は、元光極天四天王、湖島玲だったのじゃない?」

「べつに それくらいは ほうしゅう(報酬)なしで こたえてあげるわ。そうよ。」

「えっ。無報酬で良いの?」

「あんまり、ほうしゅう、ほうしゅう、いってたら、りりすちゃん しゃべらなくなって、かいわ(会話)が はずまないでしょ?」


 トップシークレットに近い情報だけが、キス(報酬)の対象なのか……。オクも色々考えているのだな、とリリスは感心した。


「じゃあ、こちょうらん(胡蝶蘭)ちゃんの はなしね。」

「だから、それは良いって。」

「なんで きいて くれないの? わたしの じゅうだいな ひみつ なのに。」


 聞いて欲しいのか……。複雑な人だわ。と、改めて思うリリス。


「分かりました。聞いて上げるから、その代わり、質問する権利を、あと三つ増やしてね。」

「…………。わ、わかったわ。」


 これは、案外、労せずして、知りたい事を、全部引き出せるかも。


 さっきの夢と同じ内容の話を、嬉々として語り始めたオクを見ながら、リリスは、密かに、ほくそ笑んでいた。



最近、ちょっと、衝撃的な出来事がありました。私が、母に、柿を剥いて上げていた時の事です。たまたま、居合わせた兄が「お前、柿なんか剥けるのか。凄いな。」と言ったのです。言われた私は、頭の中「?」状態でした。


「いやいや。林檎が剥ければ、柿だって剥けるよね?」

「えっ? 俺、林檎も剥けないよ。」


…………。何かがオカシイ、と思いました。そもそも、私は、小学生の頃、母から「もう、林檎くらい自分で剥けるようになろうね。」と言われて、林檎の剥き方を習ったのです。同じ親で、同性で、同じ環境で育って、何故、私だけ……。


そういえば、子供の頃、家の手伝いも、兄はノータッチでした。私はしないと叱られたのですが……。思い起こすと、色々納得のいかない、秋の夕暮れなのでした。

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